128:デスペナで始まってデスペナで終わる。
《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》
《YES / NO》
ふ……ふふふのふ。
これで何回目だ? えーっと、手持ちの月光水は残り五本。だが蘇生魔法を貰って復活した回数もあるし……五回以上死んでんな!
あぁあ。獲得経験値バーもゼロ%になってら。レベルダウンしないだけましか。
転がっていられる制限時間ギリギリまで寝ておく。その間に鋼がヘイトを稼いでくれるだろう。たぶん無駄な努力になるだろうが。
そしてギリギリの時間で月光水を飲んで復活!
急いで後方に下がり、ポーションを飲んでココットの回復魔法やら支援魔法やらを受ける。
「ちょっと、なんで死にまくってるのよっ。なんで鋼さんからヘイト奪ってるの!?」
「知るかよっ。奴が勝手に俺に向ってくるんだからよっ」
エリュテイアの抗議は尤もでもあり、的外れでもある。
別に俺はコボルトキングにヘイトスキルなんて使ってやしない。アサシンにそんなスキルは無い。
ただ奴が俺の姿を認識すると、途端にこっちに向って攻撃をして来るだけだ。全力で。
どんなに鋼がヘイトを溜めまくっていても、一瞬で俺にヘイトが移りやがる。
なんでかって? そんな事、俺が知りたいぐらいだ。
『カイト様、コボルトキングが――』
「またかよっ!?」
全身を真っ赤に燃え上がらせ、コボルトキングがタックルの体勢で突進してきやがった。
必死に躱すが、逃げた方向にまた突進してくる。
ランダム攻撃じゃねえのかよ。きっちり的を絞ってくるって、どんな罰ゲームだよっ。
「カイト! 鋼の後ろに回りこめっ」
「儂がお前の盾になってやる。常に儂の後ろにおれっ」
教授とおっさんからの指示で、おっさんの背後に回りこむ。
ドゴォーンというすげぇ音がして、鋼のおっさんの二枚盾がコボルトキングの突進を止めた。
「まったく。何故儂のヘイトスキルが効かないのであるか」
「俺が知りたいぐらいだ。火力だって抑えてんだぜ?」
おっさんの、あまり大きくも無い背中に隠れてヘイトリセットの為に姿を隠す。するとコボルトキングの熱い視線は鋼のおっさんに移る。これでヘイト移動完了。
おっさんの背後でハイディングを解除して姿を現すと、コボルトキングの熱すぎる視線は俺に移る。
どうすりゃいいんだよ!
「コボルトキングさん、大事な尻尾を切られて随分怒っているんですねぇ」
なーんて声が後ろの方から聞こえてきた。
いやいや、過去のヘイトを未だに引きずってるなんて有り得ないだろ?
な?
と近くにいる連中に同意を求めるが――
「どうだろうな。実際、戦闘がリセットされているなら傷だって回復するものだろう。だがあのコボルトキングは――」
「元々二本あったはずの尻尾が、一本は半分以下の短さになってるしねぇ」
「倒すまで、奴のヘイトは、カイトのもの。イト、繋がりだし」
いやいやみかんさん。イトつながりとか関係無いし。
つかそれなんの怨みシステムだよ。
これじゃあ俺のせいで攻略できないだろ。
「とにかく、カイトは鋼の後ろをキープ。ヒットアンドアウェイで。ヤバいときは『クローキング』で逃げろ」
「わ、解った」
教授の指示で俺は鋼のおっさんに張りつく事になった。
おっさん越しに俺を攻撃してくるコボルトキング。その物理攻撃はおっさんが二枚盾で防いでくれる。俺も咄嗟の時には回避して避けるが、直ぐにおっさんの背後に戻るようにした。
なんだろうな……まるで王子様に守られてるお姫様みたいな構図なんですけど。ただ王子様役のほうが圧倒的に小さく、お姫様な俺が圧倒的にでかい。
だが、この作戦が功を奏したのかなんとかデスペナを食らう事無く十分以上立っていたれた。
奴のHPもじわじわ削れ始める。だが一向に減らないものがあった。お陰で仲間の後衛陣も時々死んでは復活している。
「おい、この雑魚ども、なんで放置してんだよ。紙装甲の後衛がパタパタ死んでんじゃん」
鋼のおっさんに張り付きながら声を上げると、近くにいたみかんが抗議するように冷たい視線を投げてきた。怖い……。
「放置、してない。倒してる。けど、時間かかるし、リポップ、しまくってる」
「リポップ?」
「雑魚どもは属性魔法に耐性を持っておる。それで魔法では倒しきれないようなんじゃ」
「種類、ごとに、属性が、違う。剣、持ってるのは、火属性」
あ、そういやソルトが言ってたな。
コボルトは同一種族の中で、属性が混在してるモンスターだって。
俺は基本的に無属性攻撃がメインな物理戦闘職だから気にしてはないが、それでも取り巻き召喚をするボス攻略では、その取り巻きの属性には気を使わなきゃならない。
有効な属性武器があれば、それを持って行って持ち替えたほうが攻略時間を短縮できる。
コボルトキングからの攻撃されないよう、しばらく『クローキング』で雑魚の観察に徹しよう。
戦線から少しだけ離れ、周囲の様子を伺う。
みかんがコボルトキングを絡めて範囲魔法を炸裂されると、魔法を食らって緑色の数字を表示させているコボルトがいた。
緑は回復を意味する。
みかんが使うのは火属性の魔法。
その攻撃で回復してるコボルトは、剣と盾を装備していた。
他より大目のダメージを食らってたコボルトは、短剣を装備した奴だな。短剣は土属性だろう。
「教授。土属性の魔法はないか?」
『クローキング』で後衛が陣取る場所まで行き、コボルトキングに見つからないよう声を潜めて尋ねた。
コボルトどもの属性を確認する、と付け加えると、教授は解ったとばかり魔法を詠唱しはじめた。
「まずは土だ。『ロックバースト』」
コボルトが群がる足元に魔法陣が現れ、地面が爆発したように石が四散する。
短剣コボルトには緑色のダメージ表示。正確には回復数値が表示される。
やっぱり短剣は土属性だな。ちなみに剣コボルトにはゴミのようなダメージしかいってない。火は土に強いからなぁ。
逆に土攻撃に弱い属性もある。
風だ。
そしてコボルトにも風属性のがいたようだ。弓を持つコボルトのダメージがでかかったし、間違い無いだろう。
「うぉい! コボルトのダメージを回復させてどうするんだよ」
「文句ならカイトに言ってくれ、ナツメ。では次――『サンダーストーム』」
教授は万能タイプのウィズ様だな。その分スキルのレベルが全体的に低くはなるが。
雷の魔法は風属性に分布されている。
弓コボルトのHPはやっぱり回復してるな。
ダメージがでかいのは……棍棒と盾を持ったコボルトか……。
火は土に強く、水に弱い。
土は風に強く、火に弱い。
風は水に強く、土に弱い。
水は火に強く、風に弱い。
つまりこいつら――
「基本の属性が揃ってるじゃねえかっ」
範囲の魔法攻撃なんかしてたら、必ず回復する奴が出てくる。
厄介な奴等だ。
そしてつい叫んだせいでコボルトキングに見つかってしまった。
「馬鹿、ね」
「すまん」
みかんに謝っておいた。
なんせ俺の周囲にいるのは、紙装甲の後衛職ばかりだからな。
なんとも楽しそうに地団駄を踏むコボルトキングの姿が目に入ると同時に――
《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》
《YES / NO》
というメッセージが浮かんだ。
実は作者、レイド戦をしたことがありません!
幾つかのMMOをプレイしてましたが、たまたまレイドの内ゲームばっかりやってまして。
ほとんど想像で書いております。




