121:レベリング2日目①
「ここが『砂漠の遺跡ダンジョン』。通称ピラミッドダンジョンっす」
もっすんの案内でやって来たのは、砂漠に入って割りとすぐの場所にあった三角形の形をした建造物だ。
見た目的には5、6階建てのビル相当の高さで、通称通り、ピラミッドにしか見えない。最初から『ピラミッドダンジョン』って名前にすりゃよかったのにと思う。
「今夜はここでレベリングか。ダンジョンだし、周回コースか?」
ダンジョン内のモンスターは、フィールドのそれに比べると経験値が多い。まぁその分強さのほうも比例してくるが。
纏まっている分、フィールドで歩き回って探すよりも効率は良くなる。
ただ周回ダンジョンだとモンスターのリポップが無い。一度倒せば再復活してこないので、ボスを倒してダンジョンを脱出したら、再びダンジョンに入りなおすというのを繰り返すのだ。
ま、慣れれば単調な作業ゲーなんだけどな。
「いや、ここは周回ダンジョンじゃ無いっすよ」
「え?」
「ここはMMOエリアのダンジョンなのデース。なので中は他のプレイヤーとの共用ダンジョンになってマス」
「はぁー、そっちのパターンなのか」
フィールド同様に、他のプレイヤーと同じエリア扱いになっているダンジョンもある。
ただ獲物の取り合いだとか横殴りの問題とかで、そういうダンジョン仕様を持つネトゲは少なくなってるけどな。
炭鉱ダンジョンの上層階みたいなもんか。
「炭鉱みたいにモンスターが少ないなんてオチは?」
「ないない。大丈夫っす。寧ろその逆で、近くに他のパーティーが居ても、MH化するぐらい、沸きまくるっすよ」
「おぉ、それは楽しみだな」
MHかぁー。倒されたモンスターがランダムな位置でリポップし、たまたま近い場所でリポップしまくった結果出来上がる、モンスターがうじゃうじゃした場所。
周回ダンジョンじゃモンスターの配置も全部固定なうえに、巡回ルートも決まってるからMHなんか出来ないんだよな。
くぅー、楽しみだぜ!
「アオイも頑張るお!」
「アオイちゃんも戦闘デスか? NPCもパーティーに入れるデスかね?」
『可能で、だと思います。クエストによっては演出用スタ、NPCをパーティーに加える必要のある内容もあるようですし。掲示板情報です』
掲示板情報ってのは嘘だな。元々知ってる情報だろう。だがNPCをパーティーに加えられるってのは、優良な情報だ。
「けど、どうやってパーティーに加えるっすかね?」
「アオイもパーティーに入るおー!」
アオイがそう叫ぶと、突然俺たちのパーティーにアオイが加わった。
パーティーリーダーはもっすんだが、どうも加入要請を出した訳ではなさそうだ。アオイの意思表示だけなのか。
「アオイちゃんは、なんかサブメンバー扱いみたいっすね。簡易パーティー欄のメンバー列から、ちょこっとだけずれた所に名前が出てるっすから」
「そうだな。レベルは……『???』ってなんだ? えーっと、HPは……っぶほ」
「oh……HP77777、MP77777……なんてラッキーガールですか」
いや、そういう問題じゃないだろ?
7万超えって、どんだけだよっ!
「アオイちゃんにヒールはいらなさそうね……バフスキル掛けられるのかしら?」
そう言ったのは、クィントともっすんが是非にと誘ったヒーラーの美樹だ。青い髪を団子上にして、一部を細い三つ編みで垂らした中華風の髪型にしている。女子って凄いな、あんなのどうやんだ?
金色の目が夜だと光って見える、エルフの美少女キャラメイクなんだが、エリュテイアと違ってこちらは物静かな雰囲気の、エルフが非常に似合う女子だ。
レベルは俺と同じ43で、純支援タイプのプリースト。
ダンジョンに入ると、中は床も壁も天井も、全て石造りとやっぱりピラミッドとしか思えない構造だ。実際のピラミッドなんか入った事ないが。
通路は広くも無く狭くも無く、二人が両手を広げて並んでも十分な幅があった。天井高は3メートルぐらいか。
「ここ、外から見た大きさより、実際は広いっすよ」
「知り合いが最上階まで行ったって聞きました。ここ、8階まであるそうですよ」
美樹の話が本当なら、もっすんの言葉も納得できる。要は冒険者支援ギルドみたいなもんだろう。見た目と中身が伴ってないんだ。
こういう所はゲーム仕様なんだよなぁ。
入り口でまず美樹&クィントによるバフスキルが施される。美樹は防御・身体能力強化系スキルを、クィントは攻撃・速度強化系スキルをそれぞれ掛けていく。
まぁこのパーティー構成だと、VIT補正を入れたところでそこまで効果は無いんだが。とはいえ、俺と受付嬢はVIT40超えだからなぁ。無駄すぎるプチVITなんだよな。
ということで、隊列はこうなる。
先頭&タンク役は俺。回避もできるしプチVITだから……。その後ろに受付嬢、もっすん、美樹、最後尾はクィントだ。後ろから敵に接近されても、クィントなら対処&自己回復も可能だからだ。
「もっすんさんは銀の矢を使っているのですか?」
「銀っす。聖杯スキルは要らないっすよ」
「じゃあ、私はカイトさんと――」
「受付嬢さんにはオレが聖杯しマスデス」
「ではお願いして、カイトさんの聖杯管理しますね」
「ok」
そう言って美樹が俺に『ホーリー・ウェポン』を掛けた。直後に移動速度を上昇させるバフスキルを掛けてまわる。
さっき入り口で同じスキルを使っていたってのに、効果が切れる前にまた?
俺の疑問を察したのか、美樹が解りやすく説明してくれた。
「『ホーリー・ウェポン』の効果時間より、『ランナー』レベル4の効果時間のほうが30秒ほど短いんです。皆さんにはレベル5の『ランナー』を掛けて、私にはレベル4を。
自分の『ランナー』が切れれば、カイトさんに掛けた聖杯効果が切れる頃合になります。自分の『ランナー』が切れる直前にカイトさんに聖杯を掛けなおして、皆さんへの『ランナー』を掛けなおして、それから自分にもレベル4を掛けなおします。
こうすれば、皆さんのバフを切らせる事無く効果を継続させられますので」
「うへぇ……ヒーラーって、そうやって効果時間の管理してたのか」
ネトゲではヒーラー職だけはやった事がなかったが、糞面倒くさそうだな。自分に掛けるバフスキルのレベルを下げて、効果時間をわざと短くするなんて。
ある種の自己犠牲精神なんだろうか……。
「HAHAHAHA! 大人しく地獄に落ちるのデース!」
相変らず破壊僧は健在だな。まがりなりにも神に仕える職業をチョイスしておいて、地獄に落ちろとか。
プレイヤー間で『ピラミッドダンジョン』なんて言われているのも頷ける。なんせモンスターにミイラが混じっているからだ。
そしてクィントにとって有利な戦場でもある。生息するモンスターの9割がアンデットだからな。
ま、俺も美樹から『ホーリー・ウェポン』貰って武器に聖属性が付与されてるんで、アンデットに対して有利なのは変わらないが。
ダンジョン内をどんどん奥に向って進んで行く。
たまに他のパーティーを見かけると、引き返したり、別の通路に進んだりとなるべく同じルートを通らないようにした。
1階から2階へ、2階から3階へと上って行くと、流石にモンスターのレベルも上がって緊張感のある戦闘が続いた。
「他にもパーティーが来てるが、それ以上にモンスターがわんさかいるから連戦しやすいな」
「そうっすね。最近のネトゲだと、MMOのダンジョンは少ないっすから、こういうのも新鮮でいいっすよね」
確かに。
フィールドはMMOが基本だが、ダンジョンはほぼMOってのが定番になっている。
他のパーティーと獲物が被らないよう気をつけなきゃならないのは面倒だが、そもそも他所のパーティーの近くで戦闘しなきゃいいだけの話だ。
気をつけるのは遠距離職の攻撃だな。ここまで何度か、俺が斬り付けに行こうとしたモンスターを、もっすんではない別の弓職の矢が飛んできた――なんてのはあった。
流石に目の前で別パーティーの矢が飛んできたときには舌打ちしたが、そのパーティーのヒーラーが気まずそうに頭下げてるのを見たら文句も言えない。
この『レッツ』をプレイするまで、ろくにパーティーなんか組んだ事無かったが、パーティーはパーティーなりに気を使うことが多々あるんだな。
そんな事を考えながら、俺も他のパーティーに気をつけつつ連戦をこなして行く。
3時間ほど狩りを続けると、クィントともっさんのレベルが上がった。
俺と受付嬢は流石にまだまだだな。徹夜すれば上がるだろうが、リアルと違ってステータス異常を食らってしまうこっちじゃ、徹夜なんて出来やしない。
そろそろ引き上げるか? という話をしていると、何やらゾロゾロとプレイヤーが移動するのが見えた。
「なんだ? やけに人が増えてないか?」
「そうっすね……あ、もしかして」
「そうですね。そのタイミングかもしれませんね」
「なんだなんだ? なんのタイミングだよ」
もっすんと美樹は解ったようだが、俺はサッパリ意味が解らない。そんな俺の横で、破壊僧がメイスを握り締めにんまりと笑う。
「4階のボスがリポップする時間デース」
皆様、残り半日。
良いお年を。
初詣に行かれる方は事故にお気をつけください。
間違っても新年早々、異世界転生or転移などされませんように。




