10:感情ダダ漏れ装置
最後はほとんど無抵抗だったピッピロウを倒し終え、なんとも言えない気分になる。
レアモンスターだってのに、最後は倒し甲斐の無い奴だった。
が、それはそれ、これはこれ。
ドロップの回収だけはわくわくする。しかも『レアモンスター最速討伐者』の称号があるからな。きっと今度こそっ!
「よし、ドロップの回収だ」
『はい。良い物が出るといいですね』
「あたぼーよ。称号効果に期待大だ」
タブレットをかざしドロップアイテムが回収され、同時にピッピロウの体が光の粒子となってデータの藻屑になる。
「アイテムアイテムっと――、よっしゃー!」
『おめでとうございます?』
きたきたきたぁぁぁ。
首を傾げて見せる受付嬢に、俺は満面の笑みでドヤ顔を作った。
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【アイテム名】ブラックフェザーカッター ☆
【装備レベル】14
【効果】ピッピロウの羽根が柄に埋め込まれた一品。
攻撃力+89 攻撃速度+10 『斬撃』系攻撃にダメージ補正
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「レア武器ゲット! 装備レベルが14か……」
ピッピロウのお陰でレベルは13だ。残り1をさっさと上げてしまおう。
ついでなんで割れた卵にも、ドロップアイテムが無いかと思ってタブレットをかざしてみる。
『ピッピロウの卵の殻』という素材を2個ゲット。ピッピロウからも『黒い風切り羽根』という素材を15枚ほどゲットしてある。
何に使うのかはまだ解らないが、大事に取っておこう。
「そういや受付嬢、お前の『スティール』で盗んだものは何だ?」
『はい、ワタクシが盗んだものは『グランドフェザー・マインゴーシュ』です。星が二つ付いた、ミドルレアでございます』
「はい?」
『ワタクシが盗んだものは『グランドフェザー・マインゴーシュ』です。星が二つ付いた、ミドルレアでございます。ちなみに通常ドロップでは『フェザー・ブーツ』というレア靴も獲得いたしました』
「はい?」
『ワタクシが盗んだものは『グランドフェザー・マインゴーシュ』です。星が二つ付いた、ミドルレアでございます。ちなみに通常ドロップでは『フェザー・ブーツ』というレア靴も獲得いたしました』
なんで称号持ちの俺よりレア運がでけーんだよっ!
もしかしてNPCだからか?
NPCだから自由にドロップ率弄れて、自由に盗むアイテムも決められるとかじゃねーだろうな?
疑いの目で受付嬢をじっと見つめる。
が、悲しいかな――
――甲斐闘よ。相手に感情を読まれるな。相手に自分の感情が読まれてしまえば、お前の次の攻撃も見透かされるぞ。表情を表に出すな。無心になれ。――
なんて死んだ糞じじいに、洗脳に近い状態で刷り込まれてきたもんだから……無表情がデフォになってしまっている。
鉄仮面なんて受付嬢の事を言っておきながらなんだが、実は俺も鉄仮面だったっていうね。
『あの……カイト様?』
ずるい。卑怯だ。NPCだからって良い物ばっか手に入れやがって。
そう思いながら受付嬢を見る。
伝われ。伝われ。
俺の感情!
『カイト様、ご機嫌斜めでしょうか?』
「は?」
つ、伝わった!?
「な、なんでそう思うんだ? なんか顔に出てるか?」
『いえ。表情はいつもとあまり変わりありませんが、尻尾が――』
「尻尾?」
尻尾を見ようと振り返るが、特に変わった様子もない。
首をかしげながら受付嬢を見る。
『意識して尻尾をご覧になった場合、その意識は平常心に近い状態になります。ですから、尻尾の動きは止まってしまわれるのでしょう』
「は? じ、じゃー、さっきまでは動いていたのか?」
『はい。今も小刻みに震えております。緊張――でしょうか?』
っぐ。
平常心だから動かない。なら動いている時は平常心ではない。
そう思ったら緊張というか、羞恥心というか、そういうのを感じたのは確かだ。
「も、もしかして、ずっと俺の尻尾は動いていたのか」
『はい。キャラクター作成中にも動いておられました。ポーションの製薬に失敗した時などは、まるで棒のようにピンと伸び、毛が逆立って――』
「あー、あー、いいっ。教えてくれなくていい! うあぁー、感情ダダ漏れじゃねーか」
『はい。ケモミ族は感情によって耳や尻尾が動く仕様になっております。それが女性ユーザー様には受けがよかったようで』
俺はそんなの嫌だぁぁぁっ!
「っへへ。いいのか? 本当にいいのか?」
『はい。先ほどのような戦闘スタイルを取らせて頂くためには、ワタクシが盾役を務める必要があります。ダメージヘイトを取らなければなりませんから、『グランドフェザー・マインゴーシュ』はワタクシに使わせて頂きたいのですが』
「あ、そうだな。うん、まぁそういう事なら攻撃力の高い武器はお前が持つべきだな」
受付嬢の厚意(?)によって、レア防具の『フェザー・ブーツ』を譲って貰える事になった。
ミドルレア級の武器は魅力的だし羨ましいが、ヘイト管理という事なら仕方ない。
まぁ俺の持つレア武器だって、同レベルのノーマル武器と比べりゃ優秀過ぎるぐらいだろうしな。
せっかく手に入れた武器の試し斬りをしたくてしょうがない。採取は後回しにするか。
崖を降りてそこいらのモンスターを何匹か倒すと、呆気なくレベルアップ。
にんまりして新しい武器と靴にチェンジ。
『ブラックフェザー・カッター』は持ち手の部分が真っ黒で、刃の部分も薄いグレーといった感じだ。
うん。盗賊っぽくていい。
先端部分が僅かに湾曲した形は、逆手持ちが好きな俺に都合の良い形をしている。
斬る事に特化した武器で、突きとは相性が悪いだろうけど。
『フェザー・ブーツ』は膝下丈で、つま先と履き口の折り返し部分が黒いだけで、あとは白だ。
効果は敏捷+4、回避率+10、防御+35だ。転職支給品の靴が防御+17だったのを考えれば、まさにレアに相応しい効果だな。
「おっしゃー! 獲物はよこいっ」
『はよこい』
!?
い、今なんつった?
受付嬢を見たが、いつもの鉄仮面だ。
空耳……か?
『カイト様。怯えておられますか? それとも驚いていらっしゃるのですか?』
「はい?」
『尻尾の毛が、ぶわっと逆立っております』
「……気のせいだ」
『いえ、気のせいではありません。本来はこのような事の為に使う機能ではないのですが――はい、どうぞ』
そう言って彼女は自身のタブレットを俺に見せた。
そこに映っていたのは、紛れもなく尻尾をぶわっとさせた俺の動画映像……。
「ちょ、おい! 盗撮じゃねーか、止めろよ、恥ずかしいだろっ」
『不正行為を働く者に対し、証拠を示すための機能なのですが……カイト様がご自身の尻尾の様子をご覧になれるようにと』
「見せなくていい。マジ、勘弁してくれっ」
あまりにも見事に膨らむ尻尾を見せつけられて、流石の俺も顔を真っ赤にするしかない。
こんなの人前に晒せないぞ。
どうすんだこの尻尾……。
再び森に入り奥を目指す。
流石にレア武器だ。現れるモンスターをバッタバッタと蹴散らせ、気分爽快だぜ。
火力が上がったことで、一匹を倒す時間も短くなり効率が良くなった。
30分足らずでレベルも14から15にアップ。
その頃になると森の端までやってきたのか、木々の向こう側に平原が現れた。
それにしても、プレイヤーの姿をまったく見ないな。
「なぁ、他のプレイヤーってまだ転職も済んでない奴等ばっかりなのか?」
横を歩く受付嬢に尋ねる。
まさか俺は猛スピードでレベリングしてしまっているんじゃなかろうか。他のプレイヤーとレベルが合わないと、ぼっち脱却作戦もやや失敗してしまうからな。
やや間があって受付嬢が答えてくれる。
『カイト様のようにオープン開始直後からログインされている方は、凡そ4500名ほどいらっしゃいます。
その後ログインサーバーの入場制限を掛けましたが、現在は解消されております。続々とログインされている方は増えておりますので、皆様のレベルはまちまちですが』
「あー、まぁそうだよな。リアルの1時間がこっちじゃ6時間相当だし、それだけでも結構な差ができちまうよな」
『はい。しかし連続接続時間に上限が設けられておりますし、更に1日のログイン総時間もオンラインゲーム規定でございますから』
リアル時間4時間。つまりゲーム内24時間以上の連続プレイは出来ない。
そして1日の総プレイ時間は8時間で、ゲーム内の2日相当の時間しかプレイ出来ない規約になっている。
このゲームに限ったことじゃなく、VRゲームは全てこの規定が適用されていた。
脳に与える負担を考慮してってことだが……
「正直、規定とか糞食らえだ。もっとプレイできるようになりゃいいのにな」
とは思うが、フリーターの身としてはそうも言っていられない。逆にこの規定のお陰で、ニートプレイヤーにも遅れを取る事無く遊べるんだしな。
社会人や学生、俺みたいなフリーターにとっては有り難い規定かもしれない。
『カイト様にそう言って頂けるようでしたら、マザーもきっとお喜びになります』
「へ? そ、そうか?」
『はい。プレイ時間の延長を望まれるということは、それだけお楽しみ頂けているという事ですし』
ま、まぁ……大抵のゲームは、オープン開始時ってのは楽しいもんだ。
ぼっちでもな……。
けど、今の俺はぼっちなんだろうか?
話し相手は居るし、パーティーを組んでくれもする。
これは、ぼっち脱却……なのか?
『カイト様、獲物です』
「今度は獲物呼ばわりか……」
『はい。ワタクシも学習しております』
学習して言葉遣いが悪くなる……ちょ、それって俺のせいか!?
そのうち『ワタクシ』が『おれ』になったりするんだろうか。
俺っ娘。
一部のマニアックな連中には受けそうではある。俺はその一部には入らない。
俺はどちらかというと、清楚なイメージの方が好きだ。
森を抜けてやってきた平原では、野犬のようなモンスターが徘徊していた。
その一匹が俺たちに向って突進。
モロに突進攻撃を受けた受付嬢のHPバーが一気に減る。
あっちゃー、こいつのレベル21じゃねーか。流石に格上過ぎるか?
『カイト様。ポーションをお願いします』
「はいはい――『ポーション投げっ』」
受付嬢の頭にポーション瓶をヒットさせて俺も突進する。
「うぉぉぉぉぉぉっ」
『うおぉぉぉ――』
「おい止めろっ。女がそんな風に雄叫びあげんなっ」
『はい』
思わずつっこんだが、危うく噴き出しそうになった。
しかし、流石にレベル差が6もあると回避率が下がるな。
ダメージを食らう頻度も多くなった分、受付嬢にポーションを投げつける回数も増える。
お陰で技能はあがるが、ポーションの在庫がどんどん減っていく。
「こいつを倒したら採取に戻ろう。ポーションの在庫が少なくなってきたし」
『はい。では、ワタクシに投げて頂く分の材料は、ワタクシの方で集めましょう』
お、そうしてくれるなら助かる。
余った分は売りに出せば儲けにもなるだろうし。
これで瓶代も容易に稼げるだろう。
さくっとモンスターを倒してから来た道を引き返し、採取ポイントへと向った。
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名前:カイト
レベル:15
職業:盗賊 / 種族:ケモミ族
HP:2350 → 2850
MP:630 → 750
STR:28+15 → 28+21
VIT:17+19 → 17+25
AGI:23+15 → 23+22
DEX:15 → 15+1
INT:5
DVO:5
LUK:10
SP:55
スキルポイント:0
●アクティブスキル●
『石投げ』『足払い』『スティール:LV1』
●パッシブスキル●
『短剣マスタリー:LV5』『ダブルアタック:LV4』
●修得技能●
【格闘:LV15→21】【忍耐:LV19→25】【瞬身:LV15→22】
【薬品投球:LV1→4】
【岩壁登攀:LV3】【ポイント発見:LV4】【採取:LV5】【製薬:LV3】
○技能スキル○
『巴投げ:LV1』『ポーション投げ:LV1→4』『素材加工:LV2』『ポーション作成:LV2』
『電光石火:LV2』
●獲得称号●
【レアモンスター最速討伐者】【最速転職者】【ファースト・クラフター】
【ファースト・アルケミスト】
◆◇◆◇◆◇◆◇
一瞬だけジャンル別日間1位でした(笑
お昼の更新で2位に落ちておりますが、ポイント的には伸びているので嬉しい限りです。
ありがとうございました。




