さよなら団欒(だんらん)
男はハサミを懐に忍びこませいてた。前を行く、サラリーマン風の男を刺すために。左手の薬指には指輪が光っている。家庭持ちであるというところも、ターゲットにした理由の一つではあった。
サラリーマン風の男がケータイを取り出し立ち止まる。辺りに人はいない。男はハサミを懐から取り出し、無防備なサラリーマン風の男のこめかみに突き刺した。
背後からの一撃に、サラリーマン風の男は何もアクションを起こすことなく、ポテッ、と倒れた。
男は急いでデジカメを構え、さまざまなアングルからサラリーマン風の男の死体を撮り始める。そして撮った写真をその場でチェックし、納得すると、脱兎のごとく駆け出した。
ゴシップ誌に高値で売れる。日本がダメなら、最悪海外のニュースサイトに売ればいい。男の胸は高鳴るばかりだった。
「もしもし? 村田さん? 聞こえてます? とりあえず、来週からお願いします。入社手続きに必要な書類はその時に、、、」
サラリーマン風の男は、村田和義。38歳、既婚。妻と娘の3人家族。勤めていた会社が解散し、先の見えない生活を強いられていた。妻は昼と夜、パートに出かけている。娘には部活を辞めてもらい、アルバイトを始めてもらっていた。進学だけは、諦めさせたくなかった。求人情報誌に掲載された企業に片っ端から履歴書を送り続けた。自分より10も若い連中に囲まれて、面接試験に臨んだ。そして今日、やっと清掃会社から内定が出た。
これから、だった。これから、、、