最終話
孝弘の太鼓に合わせて踊る女装した光一。
これがたちまち大好評・・・となるはずもなく。
光一は学校で『男の娘』という不名誉な称号を手に入れただけだった。
しかしゆかりは上機嫌だ。
動画サイトにアップしたところ、なかなか好評とのことだ。
絶対アフィリエイトか何かやってるな、光一は完全にダシにされたようだった。
「光一君、新しいドレスできたよ。今度の週末もお願いね。」
ゆかりの笑顔には勝てない光一であった。
楽しみのようで不安でもある週末がやってきた。
神社にもまばらに客足が出てきて、特におみくじが売れている。
それもゆかりのアイデアのおかげであった。
「凶の数を増やすといいよ。」
それだけだったのだが、以外にも凶を見たことすらない人が多く、
凶を引き当てたいと足を運ぶ人もいた。
さらには凶を引いた人は、ほとんどが引き直す為、売り上げは倍増するのであった。
他にも百均で買った鳥の餌を小分けにして、ハトの餌として販売していたが、
ハトに餌をあげることは迷惑行為だとして近所からクレームがついた。
「利益率が高いのに。」
ゆかりはすこぶる残念そうだった。
さて、ゆかりが取り出した新しいドレスは赤を基調にしたレース満載のフリフリで、
女性でもためらいそうな逸品だった。
光一はそれに何のためらいもなく着替える。
「すっごく似合ってる。思った通りよ。」
ゆかりは少し興奮気味だ。
「お前、ある意味すげえなぁ。」
孝弘は感心したように見ている。
「いいから早く始めろよ。」
孝弘は、光一に急かされて、バチを握ると勢いよく振るった。
胸の奥にまで響き渡る太鼓の音。
心を突き動かすとはこのことか。
まばらながらの見物客。
その中に、熱心に見つめる女性がいた。
パッと見は若く見えるものの、目の小じわや乾燥肌が年齢を物語っている。
だがその熱視線に光一も魅入られていた。
どこかゆかりと似た雰囲気ながら、大人の魅力を感じてしまう。
ゆかりの上位互換といったところだろうか。
光一の鼓動は高まり、赤いドレスに見合った情熱的な舞を踊った。
そして太鼓の音が止んだとき、光一と女性は見つめあっていた。
「唐突でごめんなさい。でも、私は貴方と出会うために生まれたのかもしれない。」
「僕も今そう思っていました。」
この突然の出来事に、一番驚いていたのはゆかりだった。
「な、ナニ言ってるの、お母さん。」
そう、この女性はゆかりの母親だった。
いつの間にか、ゆかりの母は光一と手を握り合っている。
「光一くんとは親子ほど年の差があるのよ。」
「あら、愛があれば年の差なんてねぇ、光一くん。」
光一も頷いている。
「それとも光一くんは、ゆかりの彼氏だとでも言うのかしら。」
ゆかりは声に詰まっていた。
「う・・・そうだ、光一くんのお父さんからも何か言ってください。」
孝弘に目線をやると、なにやらニヤニヤとしていた。
「まあ、本人が良いなら何も言うことは無いね。それよりも、こうなったらゆかりちゃんが、おじさんと付き合うってパターンが良いんじゃないか。」
そう言い終わるか終わらないかのタイミングで、後ろから貴子に殴り倒されていた。
「ゆかり、私分かったの。今まで変な宗教やオカルトグッズに手を出して、ゆかりに迷惑かけてきたけど、私が本当に欲しかったのは愛だったのよ。」
「え・・・っと、親子愛とかじゃダメなのかな。」
ゆかりの母は首を振った。
「真実の愛じゃなきゃダメなの。」
いい歳して『真実の愛』だと、と思ったが、事態が悪化しそうなので飲み込んだ。
「ゆかりさん、これでゆかりさんもお母さんも救われたね。すべて丸く収まったよ。」
絶対違う、間違っている。
ゆかりは受け入れることができない。
「こんなくだらない終わり方なんて認めないから。」
光一はゆかりを見つめる。
「そう、終わりじゃない、これからが始まりなんだ。」
「始まられても困るんだけど。」
まさか、まさかこのまま始まったりしたら、光一がお父さんになるかもしれない。
「そんなの嫌だ、始まらないで、全部終わりで良いから。」
そんなゆかりの悲痛の声で、この物語は全部終わりです。
ありがとうございました。