八話
拝殿が震えるほどに響き渡る太鼓の音。
時に力強く雄大に、時に優しく軽やかに。
そして終局には激しい乱打が胸の奥にまで響き渡った。
まるで何かが体に入り込み、力を託してくれたかのようだ。
孝弘の太鼓はすっかり二人を魅了していた。
奏楽を終え、少し息を切らし気味の孝弘に、光一は興奮気味に話しかけた。
「やっぱり親父はすごいな。最後の乱打なんて胸にまで響いてきたよ。ああいう時って何を思って打ってるんだ。」
光一の父親を見直した的な瞳に、孝弘は満足げだ。
「どうだ、お父さんの太鼓の達人っぷりは。最後の乱打だろう、そりゃあもう、魂こめてるからね。刻むぜ波紋のビィィィィィト、て感じに。」
光一は絶句した。
「ごめん、ゆかりさん。うちの親父は中二病患ってるから。」
キョトンとした顔でゆかりは尋ねる。
「中二病なんだ。どの位の症状なの。東京モノレールくらいとか。」
光一の方がキョトンとした。
東京モノレールって中二病なのか。
駅の名前に天王洲アイルとか(二重に失礼)天空橋とか、鉄道むすめとか(東京モノレールだけではない)、HKT起用するとか、まあ中二病というより萌え仕様なだけですね。(重ね重ね失礼)
「子供がシャボン玉してると、近づくな、シャボン玉が割れたら何かを奪われるぞとか言ったりするくらいかな。」
ゆかりはあからさまにムッとした。
「どうしてそこはシィィィザァァァ、じゃないの。」
ああお前もか、二部縛りか。
「わかったことは、太鼓だけでも十分に魅力的だけど、さらにこれでダメ押しよ。」
そう言って取り出したのは、青を基調とした、レース満載のドレスだった。
「どう、ウミウシを基にデザインしてみたの。太鼓に合わせてウミウシ姫が踊る。これで集客間違いなしよ。」
確かにこんなヒラヒラしたウミウシがいるなあ。
それにしても自作するとは、ゆかりさんの女子力は意外にも高いな。
これを着て踊るゆかりさんか、早く見たいな。
頭の中は、ゆかりのダンスでいっぱいになる光一であった。
「じゃあ着替えましょうか。」
「え、ここで。」
ゆかりさんって、なんて大胆なんだ。
「でも親父もいるから。」
「別に見られて恥ずかしいものでもないでしょう。」
ゆかりさんって、なんて大胆なんだ。
しかしそれは光一の妄想でしかなかった。
「ほら、光一君、早く着替えて。」
「え、これってオレが着るの。」
「そうよ、太鼓の達人と踊る男の娘。完璧じゃない。」
戸惑う光一、ノリノリのゆかり。
孝弘も当然のように、ゆかり側である。
「方向性、間違ってないよね。」
「間違ってない、これぞ王道よ。」