表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

四話

初めは小さな招き猫だった。

若い二人はお金もなく、結婚式も挙げられなかった。

女の両親は嘆いた。

でも女は言った。

「私は幸せです。」

せめてもと、二人で行った近場の温泉宿。

土産物屋で売られていた招き猫を記念に買った。

それからすぐに子供ができた。

「ほら、幸せを招いてくれた。」

親子三人での慎ましやかな暮らし、それだけで十分だった。

とある旅行先で買った小さな福狸と宝くじ。

十万円が当たっていた。

男は大きな招き猫を買ってきた。

「あんな小さなモノでこの御利益だ。大きなモノならどうなるんだ。」

それから一週間後のことだ、男は交通事故で亡くなった。

女は発狂した。

「何が招き猫だ、不幸を招くなんて。これから子供と二人でどう暮らせというの。」

それからすぐに富は招かれた。

事故による補償金に加え、男には長年掛けていた多額の生命保険があった。

それこそ一生分ともいえる金額が一度に舞い込んできた。

生活は一変した。

考える限りの贅沢を尽くした。

そしてお金は尽きていった。

「招き猫よ、招き猫があれば・・・。」

女は招き猫を買った。

ありとあらゆる縁起物を買った。

よくわからない古い坪も買った。

よくわからない掛け軸も買った。

よくわからないお祓いも受けた。

それでも富は招かれることはなかった。

女はパートを始めた。

そこで稼いだなけなしの金も、よくわからないものに変わっていった。

その女こそ、ゆかりの母親である。


ゆかりが物心ついたときには、すでに貧しかった。

ゆかりが高校まで進学できたのは、祖父母の援助があったからだ。

「いつもいつも、よくわからないものにお金を使ってしまって、病気としか思えない。」

「まあでも心の拠り所ってのは必要なものだから。」

光一は想像以上にヘヴィな話に戸惑っていた。

「僕に協力できることなんてあるのかな。」

「もちろん。」

ゆかりはニヤリと笑っている。

「その為の罠・・・いやトラップ・・・じゃなくて、まあいろいろね。」

光一は気が付いた。

罠だったんだ。

「それでどうしたらいいの。」

ゆかりは自信満々に答える。

「それはね、本当に御利益のある神社の神主さんから、縁起物にお金を使わないよう説得してほしいの。」

「そんなので治るのかな。」

「大丈夫、娘の私が言うんだから。」

あさはかな気はするものの、可能性はあるかもしれない。

だが、一番の問題は、『本当に御利益のある神社』という点だ。

「うちは潰れそうな神社だけど良いのかな。」

ゆかりは途端に眉をひそめた。

「だから私たちの手で『本当に御利益のある神社』に変えるのよ。」

戸惑う光一をよそに、ゆかりは笑顔に戻っていた。

「嫌とは言わせないから。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ