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一話だけど参拝

貧乏神社の跡取り息子、それがこの物語の主人公である。

彼の名前は丸尾光一、現在高校二年生だ。

細身の長身で、目鼻立ちがはっきりしている。

自身曰く「悪いのは性格だけ。」とのこと。

イケメンといえばイケメンだが、やや暑苦しい顔立ちでもある。


彼が暮らす神社(といっても母屋は境内の外である)は丸手為神社といった。

『まるてため』とにごらないのだが、もっぱら『まるでだめ』と呼ばれている。

境内は二百坪ほどで、神社としては大きくない。

高さ五メートルの石造りの鳥居をくぐると、十メートルほどの参道がある。

その先には拝殿があり、青銅の瓦に二十畳の土間がある、それなりの代物である。

しかし築百年を超え、あまり手入れはされておらず、外壁の所所にシロアリが食った跡が見られる。

祭神は丸手為比売(まるてひめ)で、詳細は不明だが、ウミウシの神様だという。

何の御利益があるかもわからず、参拝客もとい参拝者はほとんどいない。


光一の父親である孝弘が宮司を務めているが、普段は化粧品の営業マンである。

国勢調査のときに職業の欄で迷うが、一度も神職と書いたことがない。

漫画やゲームが大好きで、以前にドラクエをプレイしていたら、子供時代の光一から「お父さん、教会でお祈りしていいの。」と聞かれた為に、教会でお祈りをせずに(イベント時は割り切る)クリアしたという強者である。

もちろん僧侶には転職しない。

しかし好きなアニメはエヴァであったりする。

孝弘は、後厄も過ぎた四十五歳だが、光一を同じく長身で三十代前半に見えるため、営業先の奥様方に好評である。

妻の貴子は、そのことが面白くなく、孝弘が仕事の話をすると不機嫌になってしまう。

ちなみに貴子は孝弘より七歳下の三十八歳で、光一を二十一歳の若さで産んでいる。

高校生の時に地元でも有数の大きな神社で巫女のアルバイトをしたときに孝弘と出会っている。

『オレ、こう見えても宮司なんだ。』

そう聞いた貴子の脳内では(イケメン+大神社の宮司)=(玉の輿)という計算が即座にできていた。

後から大神社には応援に来ただけで、貧乏神社の宮司だと知り、『完全な詐欺だ』と言ってはみても、すでに惚れ込んでいたという。

もっとも、大勢の巫女さんたちの中で、ひときわ清楚で可憐な貴子が、今では口うるさいおばさんになってしまい、孝弘も『詐欺だ』とつぶやいてはいるのだが。


そんな貧乏神社ではあるが、幼い頃から親しんだ場所であり愛着もある。

何とか盛り立てたいと思う光一ではあるが、両親は神社のことは考えなくていいと言う。

「全国に神社は八万社あるが、大多数は無人であったり宮司が兼任している社だ。決して珍しいことでも恥ずかしいことでもないんだよ。」

そう言って微笑む孝弘に、なんだか少し寂しさを覚える光一であった。

「そうだ、口コミだ。パワースポットだとか書き込めば、参拝者が来るかもしれない。」

『神社 口コミ』検索・・・

早速スマホで検索をかけてみると、神社の口コミが無数にヒットするではないか。

旅行サイト、婚活サイト、オカルトサイトに神社仏閣サイトなど、神社の口コミ情報はメジロ押しである。

「とりあえず適当だ。」と各地の神社を紹介している口コミサイトに書き込んでみた。

『住宅地の一角にある丸手為神社は、全国でも珍しいウミウシの神様を祀っています。』

ここで手が止まった。

ウミウシの神様って御利益はなんだろう。

誰目線で書けばいいのだろう。

『思い切って一万円を賽銭箱に入れたのですが、なんと願いが叶いました。ここは評判が良いですよ。なんでも願いが叶います。また訪れます。星五つです。』

なんだかぼんやりした内容となった。

光一は、己の文才の無さに呆れるが、良心の呵責によってこうなったんだと納得させていた。

これでは参拝者が来るはずもない。来るわけがない、はずだった。


一週間が過ぎた頃、光一が掃除のために拝殿に行くと、一人の少女が参拝をしていた。

サラサラのロングヘアに切れ長の瞳、凛とした佇まいは、朝の清浄な風とシンクロしていた。

光一はとっさにナギの御神木に身を隠した。

少女が同じクラスの笹野ゆかりだったからだ。

ゆかりは白い封筒のようなものを賽銭箱に入れると、二礼二拍手一礼をして拝殿から立ち去った。

光一はすかさず賽銭箱に近づくと、上から覗き込んでみた。

白い封筒は途中で引っかかり、箱の底まで落ちていない。

光一は、手にした竹箒を箱に突っ込むと、封筒を掬い出した。

封筒の中にはピン札の一万円と便箋が入っていた。

『一万円で何でも願いが叶うと聞きました。神様お願いします。お母さんの病気を治してください。』

光一の手は震えていた。

あんな口コミを信じるなんて。

しかも願い事が重たいなんて。

しかもクラスメイトだなんて。

しかも想いを寄せるゆかりさんだなんて。







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