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巻き込まれ少女、暗躍す。5,波乱の幕開け 2

誤字、脱字ありましたら、そっと教えてください。

感想、コメント、いただけると嬉しいです。

「いいっす、いいっす、どうせ俺なんか……」



「……何故、ケビンは凹んでるんだ?」

 無事に眠らせて記憶を見た魔物を処理し、用意された天幕に集まった魔術師部隊。

 いつも通りな光景の中で、天幕の隅でブツブツ言いながらのの字を書いているケビンに、ノウルは訝しげな様子でシオンへ問いかけていた。

「いつもの、だよ」

「またですか〜」

「まったく、ケビンは少し口数を減らせば、もっと評価されるってのにね」

「ケビン、お前の良さは俺達が良くわかってるからな。ほら、元気出せ」

「ああ。誰が馬鹿にしようが、俺はお前を評価してるぞ?」

 部下達のやり取りで何があったかを察し、ノウルは立ち上がって、天幕の隅でキノコを生やしそうな部下へと近寄り、ポンポンとその肩を叩いて励ます。

「た、たいちょー! 俺、たいちょーに一生ついてくっす!」

 その途端、目を潤ませたケビンは、ガバッとノウルの腰にしがみついて、力強く宣言する。

「いや、一生はいらないぞ?」

「ガーン……っす。でも、そんな所も尊敬っす!」

「復活したなら何よりだ。話を戻すぞ? シオン、調査報告の続きを頼む」

 ケビンを腰からぶら下げたまま、ノウルは呆れた表情を浮かべているシオンへ水を向ける。

「……はい。まず、洞窟内はかなり広いですが、枝分かれする箇所は一ヶ所です」

「なら、部隊を二つに分けて探れば良さそうだな」

「……召喚の術式も、チラリとですが、確認出来ました。やはり、帝国のもののようです」

「それは実物を見て、しっかりと確認すべきだな」

「それと、一番奥、嫌な感じが……」

 多分と前置きし、シオンはいつもの自信満々な表情を忘れたように、何かいます、と不安を隠せずに呟く。

「お前がそこまで不安になるなんて、珍しいな。分かった、気をつけよう」

 ノウルは力強く頷いて答え、自らよりかなり低い位置にあるシオンの頭を、ポンポンと軽く叩く。

「もう、シオンは心配し過ぎっす! たいちょーと俺達が揃ってて、倒せない相手はいないっすよ!」

 先程までキノコを生やしていたのが嘘のように、元気ハツラツにそう明るい声を発したケビンは、シオンの頭を抱え込み、強引に肩を組む。

「だいじょーぶ、俺達もいるっす!」

 そのまま、ドンッと自らの胸を叩いて見せると、ケビンは満面の笑顔でシオンの顔を覗き込み、自信満々に告げる。

 シオンが思わず視線を巡らすと、そこではレイチェルを始め、同僚である三人が力強く頷いて同意を示していて……。

「…………馬鹿のくせに」

 やっと吐き出された毒舌には、いつものような響きはなく、素直ではないシオンなりの感謝だと全員が理解している為、それぞれが声を出さないようにしながら、柔らかく笑う。

「突っ込んで、死んだりしないでよね?」

 ふん、と顔を反らして、いつも通りな対応をし始めたシオンに、シオン以外の全員が安堵の視線を交わし合っている。

 どんなに才能があり、強かに見えたとしても、シオンは星と一・二歳しか変わらない少年なのだ。不安を感じない訳がない。

 穏やかな空気が満ちる天幕の中――。

 最終的には、

「調子に乗らないでくれる?」

「……いつものシオンっす」

 絶対零度の視線を向けられたケビンが本気で凹む、いつも通りの光景が広がっていた。

 シオンの報告を受け、ノウルは再びユナフォードの天幕にいた。

 今回は、シウォーグ、騎士団長であるゴードンも揃っている。

「洞窟の中は比較的広く、枝分かれしている道は一ヶ所だ」

 ノウルの報告に、椅子に座っているユナフォードは、組んだ手に顎を乗せながら、シウォーグをチラリと見やる。

「部隊を三班に分けるべきかな」

「そうだな。中に入る二班と、外を警戒、出て来た魔物を掃討する一班で、計三班って、とこか」

 ユナフォードの視線を受け、シウォーグがそう提案すると、全員無言で頷いて同意を示す。

「俺達は中に入らせてもらう」

「では、もう一班を私が……」

「団長は外で兄上を守ってくれ。中に入るもう一班はおれが率いる」

 真っ先に名乗りを上げるのはノウルだ。

 続くのは騎士団長であるゴードンだが、それをシウォーグが制し、突入班に名乗りを上げる。

「おや、シウォーグは私を守ってくれるかと思っていたよ?」

 悪戯っぽく片眉を上げ、そう軽い口調でユナフォードが言うと、シウォーグは苦笑して肩を竦める。

「兄上の方が強いだろ。それに兄上には影もついているしな。――何より、予備が頑張るべきだろ」

 ボソリと付け足された一言に、ユナフォードは仕方がない子だと言わんばかりの表情を浮かべるが、何も言わずに半分しか血の繋がらない弟の肩を叩く。

「――頼んだよ。私のたった一人の弟」

 『たった一人の弟』……ユナフォードは、数秒悩んでから、その言葉を万感の想いを込めて囁く。

 一瞬、虚をつかれた表情をしたシウォーグは、すぐに気を取り直して不敵に笑うと、力強く頷いて見せる。

「ああ、ノウルの野郎には負けないぜ」

「その意気だ。さあ、とりあえず今日のところは、ゆっくり休もう。全ては明日からだ」

 ユナフォードの締めの言葉に、全員が揃って大きく頷く。

 そんな中、いつの間にか、しれっと黒髪の青年が混じり、無表情で同じく頷いていた。

 遠く離れた山中で、ノウル達が休もうとしている頃、星も自宅で就寝前の準備をしていた。

 風呂上がり、星がベッドの準備をしていると、部屋のドアが開き、ピアが姿を現す。

「お風呂いただいたわ」

「うん。……でも、本当に一番風呂じゃなくて良かった? 遠慮してない?」

 心配そうな様子で問いかけて来る星に、ピアは真顔のまま歩み寄り、風呂上がりで血色の良い星の頬を撫でる。

「ええ、してないわ。だって、その方がセイの気配がして寛げるもの」

「……え?」

「冗談よ?」

 きょとんとする星に、明らかに冗談とは思えない無表情で返したピアは、手にしていたタオルで、濡れている星の髪を拭く。

「駄目よ、風邪をひくわ」

「ありがと」

「セイの髪は綺麗ね。絹みたいな触り心地で、気持ち良いわ」

「そうかな、ありがと。……でも、私はピアの髪の方が綺麗だと思うよ」

「そう? ありがとう。後で私の髪も拭いてくれるかしら」

「もちろん」

 二人揃って表情はほぼ動いていないが、ふわふわとした空気を周囲に振り撒きながら、少女達はお互いの髪を拭いている。

 先に星によって乾かしてもらったラビは、くふくふと笑いながら、星の膝へともたれかかっている。

 穏やかな夜が更けていく中、あたたかく、やわらかい闇が、屋敷を包み、少女達を見守っていた。




 髪を乾かし終わり、星とピアは並んでベッドへ寝転がっている。

 枕元には大きな籠が用意され、銀の大蛇が丸くなって寛いでいる。

 ラビの方はというと、横向きでピアと向き合って横たわる星の背中に、ハシッとしがみついている。

「へぇ、セイにはそんなお姉さんがいたのね」

「うん、とっても仲良しだったの。ピアは、一人っ子? 兄弟とか姉妹とかいるの? いたら、きっと美人だよね」

 枕元の明かりだけのほの暗い部屋の中、星とピアは眠る前の一時、ヒソヒソと声を潜めて語り合っていた。

「兄がいるわ。見た目は、似てる、と良く言われたわ」

「ふふ、ピアに似てるなら、きっとイケメンだね」

「そう、かしら」

「そうだよ」

「セイが言うなら、信じるわ」

「私が言わなくても、ピアのお兄ちゃんなら、イケメンだって」

 うふふ、と密やかな笑い声を交わし合い、コツンと額をぶつけ合った星とピアは……。

「おやすみなさい、セイ」

「お休み、ピア」

 そう囁く声を最後に、ほぼ同時に眠りに落ちる。

 二人分の寝息が響く部屋の中、ゆら、と凝った闇が質量を持ち、伸ばされた手が枕元の明かりを消してしまう。

 手の持ち主は、一瞬だけ星へと手を伸ばしかけ、ん、と呻く声にビクリと震えると、瞬き一つの間に、闇へと溶け込むよう姿を消す。

 残されたのは、あたたかな闇へと包まれた、二人の少女達だけ。




 翌朝、眠りに落ちた時と同じ様に、パチリとほぼ同時に目を開けた星とピアは、お互いを認識して、揃って瞬きを繰り返す。

「おはよ、ピア」

「おはよう、セイ。今日も可愛いわ」

「ありがと。ピアも変わらず美人だよ」

「ありがとう」

 ベッドの上で身を起こした二人は、見つめ合って朝の挨拶を交わし合う。

 そのまま、お互いの寝癖を直して着替え、二人で朝食へと向かう。

「朝ごはん、何にしよっか?」

「セイ……じゃなくて、セイが作る物なら、何でも良いわ」

「んー、じゃあ、和食かな……」

 ピアの言い間違いを気にする事なく、星は首を捻りながら、朝食のメニューを考えつつ、廊下を歩く。

 無言で柔らかい眼差しを星へ向けていたピアは、廊下の角にある机に、ふと目を留める。

 そこには、黒猫のぬいぐるみが置かれ、その前にはまるでお供え物のように、食べ物が乗っていたらしい皿が置かれている。しかし、そこには、食べ物の欠片が残るのみで、本体は残されていない。

「セイ、あのぬいぐるみは何かしら」

 しばらく悩んだ後、結局ピアは直球な質問をして、小首を傾げる。

「あ、あれはね、黒猫さんのお仲間さんに、夜食だよ。寝ないで、頑張ってくれて、ありがとうって」

 ピアの質問に、星は悪戯っぽく黒目がちの瞳を瞬かせて答えると、嬉々とした様子を隠さず、ぬいぐるみの前の皿を回収する。

「……そう言う事ね」

 何かを納得したように呟いたピアは、ラビを捕まえると、ラビが指し示した方向をチラリと見やる。

 途端に、ビクリと廊下の隅の闇が、落ち着きなく揺れる。

「ラビ、駄目だよ?」

 それに気付いた星は、優しくピアの手からラビを受け取ると、顎の辺りを擽りながら、めっ、と小さく叱る。

「今日は、もう少し気を抜いて寝ても大丈夫そうね」

 ラビと戯れる星を横目で窺いながら、ピアは誰に聞かせる風でもなく、一人ポツリと洩らす。

 その言葉が示す通り、ピアは眠っている間に星が奪われる、という事態を避ける為、しっかりと抱き締めて眠っていた。

 ピアの言葉が聞こえたのか、先を行く星を追って歩き出すピアの背へ、



「我らにお任せを」



と、何処からか響いた声が力強く答えていた。


次は、幕間を一つ。

影な方々の頑張りを。

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