巻き込まれ少女、暗躍す。5,波乱の幕開け 1
遠征組です。しばらくはこちらで、合間に星がいるかもしれません。
あちらは、ある意味ほのぼの。こちらは殺伐してます。
誤字、脱字ありましたら、よろしくお願いします。
5,波乱の幕開け
王都を出立して三日目。深い山の中を、ユナフォードが率いる遠征軍は進んでいた。
やっと馬車が通れる程の山道に、箱形の馬車は森の前で引き返させ、食料などの最低限な荷物を乗せた荷馬車が、ガタゴトと山道を進む。
しかし、足の遅いそれは、格好の的になる為……。
「キース! 右だ!」
「分かってるよ、と!」
アランの警告に軽く応じるキースは、馬に跨がったまま、襲ってきたゴブリンを斬り捨てる。
「キリがないね、これは……」
疲れた様子の愛馬の首を撫で、返り血に濡れたキースは自らの疲れも隠さず小声で愚痴を吐く。
「もうすぐ野営をする場所まで辿り着く。それまで耐えてくれ」
そんなキースと並んで馬を歩かせ、そう力強い声をかけてきたのは、騎士団長であるゴードンだ。
しっかりと装備を固めたゴードンの腰には、特徴的なカエルのお守りと猫の形をしたお守りが揺れている。
「そうだぞ、キース。少しでも早く任務を終わらせて、セイさんのところに帰るんだ」
ある意味揺るぎないアランは、緑の瞳をキラキラと輝かせ、血に汚れた剣をブンと振って、血糊を飛ばす。
そんなアランに、ほとんどの騎士や兵士は力強く頷いて同意するが、一部の騎士は軽蔑の眼差しをアランへ向けている。
軽蔑の眼差しを向けてくるのは、貴族の次男坊や三男坊で、愛し子派の騎士達だ。
同じ貴族でありながら、愛し子派でないアランは、貴族出身の騎士からは、異端として見られる事が多い。
本人は、全く意に介していないが。
愛し子派の騎士達が、揃って詩織特製お守りを懐に忍ばせている中、揺るがないアランは、しっかりと星特製のお守りを忍ばせている。本当は、ゴードンのように腰に着けたいのだが、目立ち過ぎるので、首から下げて服の下に隠してあった。
数時間後、多少の怪我人は出たが、脱落者を出す事なく遠征軍一行は、事前調査で安全を確認し、拠点となる野営地に辿り着く。
城を出立してから、三日後の夕方だった。
早速、天幕の準備がなされ、夜に備えて火が焚かれる。
少し離れた場所に、飲み水に適した綺麗な沢がある為、水の心配もない。
用意された天幕の奥で、ノウルを傍らに控えさせたユナフォードは、先発させていた影の報告を受けていた。
「……周辺には、明らかにこの辺りに生息していない魔物が多数見られます」
「やはり、そうか……。途中の襲撃にも見慣れない魔物が見られたからね」
「これは、自然発生ではなさそうだな。目星はついてるのか?」
「……はい。魔術の気配を感じる洞窟を見つけました」
「魔術、か……。ノウル、考えられるとしたら?」
「まあ、あるとしたら、なかなか特殊なものだが、召喚魔術だろう」
星と詩織をこの異世界に招いた召喚という術。この場合、喚び出されているのは、この森を徘徊する多数の魔物だ。
「召喚か。セイが出て来るなら、大歓迎だけど……」
「セイの召喚は、『世界の愛し子』の召喚の巻き込まれだからな。魔物の召喚とは根本が違う」
「そうなんだ。まあ、こんな危険な場所、セイを喚びたくはないよ」
「確かにな。セイを喚ぶとしたら、全ての危険を打ち払ってからだ」
金と銀の主従は、軽口を叩き合いながら、それぞれ星から贈られたカエルのお守りを握り締めている。
「……ちなみに、私は黒猫をいただきました」
影である青年がボソリと呟いた言葉は、金と銀の主従には届かず、青年はひっそりと口の端を上げて微笑んでいた。
その頃、シウォーグはというと、兵士達に指示を出し、野営準備を進めていた。
一部、騎士も混じっているが、貴族出身の騎士達は疲れ果て、使い物にならなくなって野営をする広場の端で座り込んでいる。
アランは、まだまだ余裕らしく、兵士達と共にテキパキと動き回っている。
キースは、ゴードンと同僚の騎士と共に、マオがユナフォードへ報告していた洞窟を遠目から探っていた。ちなみに、同僚の騎士といっても、貴族出身の騎士なので、アランと仲が良いキースとは正直仲が悪い。
三人の騎士の他に……。
「うわぁ、わらわら湧いてるっす」
「煩いな、気付かれたらどうするの?」
魔術的な要因があるようだ、という事で、魔術師部隊からケビンとシオンという、犬猿の仲な二人がついてきていた。
「……二人共、少し黙りなさい」
強面寄りなイケメンから、背後に色々見えそうな笑顔で脅され、ケビンとシオンは一瞬黙り、無言で睨み合う。しかし、静寂は数秒で――。
「シオンのせいで怒られたっす」
「は? 馬鹿なケビンのせいでしょ?」
「馬鹿って言った方が馬鹿っす!」
「言っとくけど、馬鹿って言った方が馬鹿とか言い出す方が、かなり馬鹿っぽいし」
「馬鹿って言った方が馬鹿とか言い出す方が馬鹿っぽいって言う奴の方が、馬鹿っす!」
「…………あー、頑張ってるところ悪いけど、その返し、さらに馬鹿の度合い増してるから」
「キーッ!」
「猿みたいだね」
子供じみた言い争い……実際片方は少年だが、ゴードンが再びそれを止めようとした時には遅かった。
二人の争う声に、数匹の魔物が五人の隠れている方に近寄ってくる。
「あー、シオンのせいっす」
「だから、ケビンが馬鹿なせいでしょ」
原因となった二人は、動じる事なく、再びデジャヴを感じるやり取りを始める。
その脇で、ゴードンが剣の柄に手をかけようとするが、
「やめるっす」
「余計な事はしないでくれる?」
と、言い争っていたのが嘘のように息を合わせたケビンとシオンが、それを止めてしまう。
ケビンとシオンの実力を知っているゴードンは、無言で剣へ伸ばした手を止め、身構えようとしていた体から力を抜く。
キースはゴードンにならい、警戒は最低限にし、息を殺すが、視線は油断なく魔物の動向を窺っている。
だが、実際の戦場に出た事が無かった貴族出身の騎士には、近寄ってくる魔物の恐怖は堪えられなかったらしい。
「団長! そんな奴らの言う事を聞くなんて、おかしいです! 団長がやらないなら、私が!」
止める間もなく、恐怖で声を荒げた騎士は、抜剣して飛び出し、近寄って来た魔物へ斬りかかる。
「あっ、駄目っす!」
「……救い様のない馬鹿だね」
ケビンとシオンの警告は届かず、斬りつけられたトカゲ型の魔物は、鮮血を撒き散らしながら、ギシャア、と奇妙な鳴き声を辺りに響かせる。
「や、やったぞ!」
肩で息をし、達成感に酔いしれる騎士だったが、すぐに自分の置かれた状態に気付き、剣を構えたままガタガタと震え出す。
斬り伏せた魔物は死んではおらず、恨みがましく騎士を睨み、他の魔物も血の臭いに惹かれたのか、騎士を囲もうとしていた。
囲まれた同僚を見捨てる訳にはいかず、ゴードンとキースが視線を交わし、動き出そうとする。それをケビンとシオンが制した。
「全く、作戦が台無しっす」
「ケビンはいつも通りにしてただけだよね?」
「いつもより、頑張って馬鹿っぽくしてみたっす!」
「……ごめん、分からなかった」
「謝られると、逆にツラいっすよ……」
先程までの口喧嘩の延長のような会話をしながら、ケビンとシオンは、身構える様子もなく、孤立した騎士へと歩み寄る。
幸いというか、騎士を囲もうとしている魔物と、今現在洞窟から出て来ている魔物の間に意志疎通はないらしく、増援が来る様子はない。
「結果、ほぼ予定通りっす」
「そうだね。とりあえず、あの死にかけを始末してくれる? 血の臭いは隠せないから」
「りょーかいっ……す!」
緩い会話をしながら、近寄って来た魔術師に、騎士は何事かを言おうとするが、歯の根が合わず、言葉にならない。ただ、口をパクパクと開閉させ、ヒューヒューと息を吐き出す。
その間にケビンは、まるで猫の子でも追い払うように手を振って生み出した炎で魔物を包み込み、あっという間に焼き尽くす。
残るのは、僅かに焦げた下草のみ。血の跡すら残っていない。
「まあ、火加減は上手くなったよね」
「俺は進化する男っす! あとは、任せたっす!」
「そこで調子に乗らなければ、なお良いのにね。……さあ、悪夢の時間だよ」
誉められて、ドヤ顔を披露するケビンに、シオンは嘆息しつつ呟くが、すぐに魔性じみた微笑みを浮かべて、いっそ優しい声音で魔物へ語りかける。
そのまま、シオンはゆっくりと前へ進み、魔物との距離を詰める。
魔物の内訳は、ゴブリンが二匹、巨大な蛇が三匹、それと先程焼き払われたのと同じような大きなトカゲが一匹。
そんな数を相手に手ぶらで近寄るシオン。ガタガタと震えている騎士からは、狂人を見るような眼差しが向けられ、魔物からは殺気溢れる眼差しが――否、向けられる事はなかった。
ガタガタと震えた騎士が、シオンから魔物へ目を戻すと、そこにあったのは地面に倒れて動かない魔物の姿。
「ひ、し、死んでる!?」
「死んではいないから。騒がないでくれる? 向こうに気付かれたら、今までの小芝居、全部無意味だから」
シオンは、腰を抜かして叫ぶ騎士を、冷ややかに睨んですげなく言い放つと、魔物の傍へ膝をつく。
「芝居? あれが?」
引っ掛かりを覚えるシオンの言葉に、キースはゴードンの隣で待機しながら、思わずといった風にポロリと呟く。
「ケビンは、ほぼ素だったけどね」
「ちゃんと演技してたっす!」
「はいはい、静かにしててよね?」
明らかに適当な返事をしたシオンは、うってかわって真剣な表情で倒れ伏せた魔物に手を翳す。
まだ何か言いたげなケビンは、背後から近寄ってきたキースにより物理的に口を塞がれ、モゴモゴと不明瞭な声を洩らすのみだ。
「……あれは、何をしてるんだ?」
ケビンが黙った頃を見計らって手を離したキースは、シオンの様子を窺いながら問いかける。
「ぶはっ……あれは、魔物の記憶を見てるっす。潜入しなくても、ああすれば、安全に洞窟の中を探れるっす。適当に騒いで、近寄ってきた魔物を眠らせて、シオンが記憶を見るのが、今回の作戦っす」
キースの問いに、大きく息を吐いてから、ケビンは我が事のように自慢げに胸を張って、シオンは目眩ましも出来るっす、とイイ笑顔で答える。キースにされた事は、全く気にしていないらしい。
「さすが、筆頭魔術師直属の部下と言う訳か……」
そう感心するキースの脇で、自分が誉められた訳でもないケビンが、ドヤ顔を披露しているが、シオンを見ているキースと、固まったままの騎士を回収しているゴードンの、視界にすら入っていない。
「お、俺もちょっとは活躍したっす……」
ケビンの弱々しく情けない台詞に、応える者はおらず、唯一、精神集中をしているシオンからの、心からの嘲りを含んだ笑顔だけがケビンに返された反応だった。




