巻き込まれ少女、暗躍す。3,暗雲来襲
ジュラルドは個人的に、劣化版ユナフォードなイメージで書いてます。
一気に書き上げたので、誤字脱字ありましたら、そっと教えてください。
相変わらずのご都合主義ですが、それが売りなので(笑)
感想、コメントいただけると嬉しいです。
3,暗雲来襲
「いやぁ、ここはまるで天国のようだ」
美しい娼婦達を侍らせ、そう嘘臭いぐらい上機嫌に言うのは、ジュラルドだ。
――そして、ここは、アウラが主人をしている高級娼館の一室だった。
ノウル達が遠征へ向かってから一週間、星は何事もなく過ごしていたが、星の知らない所で事態は動き出していた。
遠征組を見送ってから三日後、アウラが主人をしている娼館へ、ある意味予想通りなお客様が現れる。
「これは紹介状。よろしくね?」
一見さんお断り。その断り文句を言わせない為、別の顧客からの紹介状を片手に現れたのは、あのジュラルドだ。
「……少々お待ちを」
入り口で受付をしている男性は、完璧な笑顔を浮かべて頭を下げると、手紙を手に奥へと入る。
すぐにジュラルド来襲は、アウラへと伝えられ、形の良い胸を反らせたアウラは好戦的な笑みで指示を出す。
今空いている娘を全てジュラルドへつけなさい、と。
そして、娼館の一室で冒頭の光景が毎日繰り広げられ事となる。
「まあ、ジュラルド様ったら、お上手だわ」
「今日は、誰を選んでくださるのかしら?」
「今日は、わたしじゃ駄目ですか?」
「あ、ずるいわ。あたしをお選びになって!」
うふふふ、と色とりどりのドレスを纏った娼婦達がじゃれる様を、ジュラルドは目を細めて眺めている。まるで、観察するように。
「……ねぇ、この娼館の一番は誰かな?」
ジュラルドがそう問いかけた瞬間、来た、とばかりに娼婦達に緊張が走る。
それを艶やかな笑みで押し隠し、娼婦達は揃って一人の人物を示して見せる。
「お得意様の数でしたら、あたくしですわ」
おっとり、と微笑みながら、示された人物が、いやらしくならない程度の仕草で、ジュラルドへ寄り添う。
「……君が? 名前は?」
「はい。あたくしは、アンナですわ」
そう名乗り、ふわふわと笑うアンナは、美しい金色の髪に、深緑の瞳の美女だ。派手過ぎないドレスに包まれた体は、細身ながら、出る所はしっかりと出ている。
「確かに美しいね」
「うふふ、ありがとうございます」
「でも、実は僕、この間一目惚れしてしまった女性がいて……。ここの女性で、一番上だと聞いたんだけど……」
そう言ってシュンとした表情を作るジュラルドに、娼婦達は母性本能を擽られ……る事はなく、素早く視線を交わし合う。
代表して口を開くのはアンナだ。
「あら、間違いなく、ここの一番はあたくしですわ。別の娼館とお間違えでは?」
まさに自信満々な答えをアンナは淀みなく口にする。実際、アンナはここの娼館の一番なのだ。自信満々なのも当然だ。
「本当に、一番上?」
「ええ、一番ですわ」
ジュラルドが誰を求めてるか知っている為、アンナを含め娼婦達は、微妙に勘違いしたフリをして答えをはぐらかす。
毎日のように現れるジュラルドが会いたがる『一番上』は、娼婦の一番ではなく、この娼館の主人的な意味の一番だと知りながら。
ジュラルドから、はっきりとした言葉を引き出す為、娼婦達は物分かりが悪いフリをし、今日も笑顔であしらい続ける。
騙す事に関して、娼婦達はジュラルドへ引けをとらない。結束し、今日も上手くジュラルドをはぐらかす。
少しでも、アウラとジュラルドが会うのを遅らせる為に。どうせ、あと何日かすれば、ジュラルドははっきりとアウラの名前を持ち出し、面会を望むだろう。
ノウルさえ遠征から帰って来ていれば、ノウルの愛妾であるアウラは、ノウルの存在を盾にジュラルドを拒める。
その日を少しでも近くにする為、娼婦達は心を一つにし、笑顔を装備してジュラルドと向き合っていた。
さらに数日後、ジュラルドの口から、ついに……。
「僕が一目惚れした女性なんだけど、アウラ、って名前で、ここの女主人らしいんだけど……」
直球勝負な言葉が出る。
あら、とか、そうでしたの、などと驚いて見せながら、娼婦達は、顔を見合わせる。
戸惑うその姿は、演技とは思えない程、自然だ。
実際、娼婦達は戸惑っていた。ここまで直球で来るか、と。
しかし、名前と女主人という肩書きまで出されてしまえば、もうはぐらかす事は不可能で。
「アウラ姐様なら、一目惚れされても当然ですわ」
うふふ、と笑いながら、代表するように答えるのは、一番の古株でもあるアンナだ。
アンナはふんわりと微笑みながら、ゆっくりと首を振る。
「でも、アウラ姐様は駄目ですわ」
「どうして? ここの娼館の主人は、娼婦でもあると聞いたけど……」
無邪気な仕草で首を傾げて問うジュラルドに、今度口を開くのは、一番年下の娼婦だ。
「だって、お姐様は、ノウル様のものですから!」
辛うじて少女から女へと変わったぐらいの年齢の娼婦は、ジュラルドへ対抗するよう天真爛漫に返す。
「ノウル、ね。筆頭魔術師だよね」
「はい! とーっても、お美しくて、とーっても、お強いですわ!」
裏の滲みまくる呟きを洩らすジュラルドに、年若い娼婦は天真爛漫に応じる。
周囲の先輩娼婦達は、微笑みながら頷き、天真爛漫な言葉に真実味を足している。
「二人きりで、話すぐらいなら、大丈夫だよね?」
意味ありげに微笑んで、有無を言わせぬ雰囲気で問うジュラルドに、選手交代と、前へ出たのはアンナだ。
「それは、アウラ姐様へ確認しないと答えられませんわ」
アンナは、ふんわりとした微笑で、ジュラルドの問いへの即答をやんわりと拒んで見せる。
「じゃあ、今すぐ確認してもらえるかな?」
昏い色を秘めた瞳を細め、笑みを作るジュラルドに、天真爛漫な様子を見せていた娼婦は、思わず先輩娼婦の背中へと身を隠す。
「……それは、必要ないわ」
「アウラ姐様!」「お姐様!」
多少の呼び方の差はあるが、娼婦達の口から異口同音で、その名前が飛び出す。
慌てふためく娼婦達へ、艶やかに笑いかけて安心させながら、アウラはゆっくりとジュラルドの前へ進み出る。
「あたしに何のご用でしょうか?」
「僕は、二人きりで、話したいと言ったんだけど……」
「まあ、熱烈な告白ね。――大丈夫よ、部屋へ戻りなさい」
アウラは、わざとらしく肩を竦めて悪戯っぽく言うと、心配そうに見てくる娼婦達を部屋へと帰らせ、ジュラルドの望む通り二人きりになる。
「これで、あなたのお望み通りよ? ご用件は何かしら?」
「娼婦に望む事なんて、一つだけだろう?」
二人きりになった途端、アウラとの距離を詰めたジュラルドは、熱っぽく囁きながら、アウラの手を取る。
「そう。なら、お断りだわ。あたしは、ノウル様の愛人で、客を選ぶ自由をもらっているの」
冷えきったジュラルドの瞳を見つめ返し、アウラは迷い無く強い口調でジュラルドを拒む。
「……じゃあ、ノウルが抱かれろと言ったら、誰にでも抱かれる?」
笑顔の仮面を崩さず、ジュラルドはさらに問いかける。握った手は離さずに。
「まず仮定がありえないわ。ノウル様は、そんな男ではないわ」
「でも、君ほどの美女なら、王族だとしても、その気になるんじゃないか?」
「あなたのように、かしら?」
ジュラルドの質問の意図がわからず、アウラはあえて相手の怒りを誘うような切り返しをする。
「そうだね。君ほど魅力的な女性は、なかなかいないよ」
だが、ジュラルドも一筋縄でいくような相手ではなく、ニッコリと人好きのする笑顔で返されてしまう。
「あら、ありがとう。でも、あたしはあなたの相手は嫌よ?」
「どうして? 僕の何がユナフォードに劣ると?」
笑顔は変わらないが、ギリ、と握られた手に込められた力と、怨嗟の滲む声音から、アウラはジュラルドが自分へ向ける執着の根幹へと思い至る。
アウラが思い起こすのは、あの遠征に出る一行を見送った日……。
いつも隙の無いユナフォードが見せてしまった、一瞬の表情。アウラが抱き締めていた星へと送られた、愛しげな眼差し。あれを、勘違いされたのだ。
アウラは昏い眼差しを向けて笑うジュラルドを見ながら、艶めいた笑みを返しつつ、対応を悩む。
とりあえず、すぐに考えつくのは、このまま拒み続け、頃合いを見て抱かれて、興味を失わせるか、ユナフォードとの関係は無いとはっきり告げるか、二つに一つだ。
「あたし、ユナフォード殿下とお会いした事なんて一度もないわ。だから、あなたと比べようも無いわね」
不自然にならない程度に沈黙してから、アウラが口にするのは、やんわりとユナフォードとの関係がないと匂わせ、かつジュラルドをフォローする台詞だ。
「……そんな筈は」
「あら、ジュラルド様は、ユナフォード殿下の従兄弟でしょう? あなたの方がユナフォード殿下の事を知ってるんじゃないかしら?」
「ユナフォードは……何をさせても完璧な上、冷徹で、王族らしい王族だよ」
「じゃあ、なおさら有り得ないわね。そのような方が、右腕と言える部下の愛人に手を出すかしら?」
「…………ああ、まず有り得ないな」
悪戯っぽく笑いながら、わざとらしくない程度に軽い口調で言葉を重ねるアウラに、ジュラルドは苦く微笑んで相槌を打つと、アウラの手をゆっくりと離す。
「今度こそ、ユナフォードの弱点を見つけたと思ったのになあ」
先程までの暗い狂気が嘘のように、残念そうな呟きを洩らすジュラルドは、無邪気で楽しげですらある。
「うふふ、あたしでは、ノウル様の弱点にすらならないわ」
背筋に走った怖気を無視し、アウラは気丈にも笑顔を作り、艶やかな髪を掻き上げる。
「さすがユナフォードの右腕だね。愛人だろうと、簡単に切り捨てるか」
妙な所で感心したジュラルドは、大きく伸びをしてから、思い出したように自らの喉へ触れる。
「喉乾いたから、何か、飲み物もらえる? あと、女の子にお酌してもらいたいな。あ、あの子、アンナが良いかな」
ジュラルドの切り替えの早さに、アウラは完璧な艶笑で応じると、少々お待ちを、とかしこまった口調で告げ、ジュラルドを置いて部屋を後にする。
「……何か、隠してはいそうだけど、まあ、気に入ったから、しばらくはこのままでいいかな。明らかに、あのぬいぐるみの作り手ではなさそうだし、ね」
あはは、と上機嫌な笑い声を上げながら、一人残されたジュラルドは、手近にあったクッションを抱き締める。
クッションが引き絞られ、中身が出てしまいそうな程、キツく、キツク。
詩織が握り潰した、あのカエルのお守りのように……。
「じゃあね、アンナ」
「まあ、お送りしますわ」
「無理させたしね。僕、一人で大丈夫。またね」
「はい、お待ちしていますわ」
そんなやり取りをして、ジュラルドは一人で娼館の廊下を歩いていた。
ほろ酔いなのか、微妙に足取りが覚束無い。
そんなジュラルドが廊下を曲がった時だった。
ぽふ、という軽い音と共に、艶やかな黒い髪を持つ頭が、ジュラルドの胸元へ衝突して埋まる。
「え?」
「ふ、あ! すみません! 余所見してました!」
思わず素の表情でジュラルドが呟くと、ジュラルドの胸元へ埋まっていた頭がパッと離れ、黒目がちの瞳がジュラルドを見上げ、落ち着き無く謝罪を口にし、走り去ろうとする。
「ちょっと待って?」
その手をすかさずジュラルドが掴み、走り去ろうとした少女を捕まえる。
「はい? 何でしょうか?」
「走ったら危ないよ? またぶつかったらどうするの?」
「あ、そうですね。ご丁寧にありがとうございます」
ジュラルドの冷静な忠告に、怯えを覗かせていた少女は、ゆっくりと黒目がちの瞳を瞬かせてから、警戒を解いた様子で、ペコリと頭を下げて去っていく。
「どういたしまして」
その背中へと軽く声をかけ、ジュラルドは相変わらず覚束無い足取りで玄関へと向かう。が、ふと何かに気付いたのか、その足が止まる。
「……今の子、明らかに娼婦ではなかったけど」
思い起こせば、着ていたドレスも、かなりの高級品だった。
今さらながら、謎の少女に感じた違和感に、ジュラルドは一人で首を捻る。
「まあ、ここにいるって事は関係者だろうし、また会えるかな」
そう結論づけたジュラルドは、ふわふわとした足取りで、再び玄関へと向かって歩き出す。
本人達も気付かないまま、こうして邂逅は行われ……。
周囲曰く、巻き込まれ体質な少女へ、狙い澄ましたように暗雲は迫ろうとしていた。
ここで、次は遠征組へと話を移すか、星と暗雲の再遭遇か、未定です。




