巻き込まれ少女、暗躍す。幕間,迫る気配
ここで、留守番組と遠征組の話に別れます。
ジュラルドの名前をナチュラルに間違えそうです。
と言うことで、誤字脱字ありましたら、そっと教えてください。
感想、コメント、嬉しいです。
幕間,迫る気配
「セイ、何処へ行くの?」
いつもより多い人混みの中、星が緊張した面持ちでラビを抱いて歩いていると、静かだが通る声に呼び止められる。
ゆっくりと瞬きをした星が声の主を探すと、そこには買い出し途中らしいプラチナブロンドに灰色の目をした儚い系の絶世の美少女がいた。
「ピア……、おはよう。ノウル達の見送りだよ」
星は少女――ピアを認めると、表情の変化が薄い顔に安堵を滲ませ、嬉しそうな様子を隠さず、挨拶を返す。
星の腕の中では、ラビが凛々しい顔をし、タシッと右手を挙げて見せている。
そんなラビの挨拶に答えながら、ピアは無表情のまま、納得したように頷く。
「あんなのでも、この国の筆頭魔術師だったわね」
「あんなの……」
「ごめんなさい、間違ったわ。あのド変態でも、だったわ」
「……まさかの悪化?」
ポンポンと飛び出す悪口に、星は黒目がちの瞳を見張り、呆然と呟いているが、ラビは満足げな様子で鼻を鳴らしている。
「セイ、変なコトをされたら、すぐに言うのよ?」
「大丈夫だよ。ノウルはモテるから、私なんかにそんな気になったりしないよ」
「…………ラビ、あなたが最後の砦よ? あのド変態が、セイに如何わしい事をしようとしたら、股間を蹴り飛ばしなさい」
無自覚な星に、ピアは表情に諦めを滲ませると、星の腕の中で寛ぐラビへと言葉をかける。完全に、ラビが人語を理解していると判断した上での言葉だ。
「え? ピア? ラビも頷かないで……」
一人戸惑う星を他所に、すっかりと戦友と化した一人と一匹は、拳と前足を打ち合わせている。
そこへ――。
「セイちゃん、待たせたわね」
色っぽい女性の声が聞こえ、星は戸惑いを忘れて、頬を緩ませて振り返る。
「アウラさん、皆さん、おはようございます」
「おはよう、セイちゃん」
星が振り返った先にいたのは、焦げ茶色の豊かな髪に青い瞳の艶めいた美女と、その背後に控える派手な格好をした複数の女性達。
アウラと呼ばれたのが、高級娼館の女主人をしている、世間ではノウルの愛妾とされている泣き黒子が艶っぽい美女だ。
そのアウラの後ろで星へ挨拶を返すのが、アウラの娼館で働いている女性達だ。
高級娼館なだけあって、女性達は種類は違えど美女ばかりで。
周囲の男達の目は、完全に釘付けになっている。
アウラを筆頭に、星を妹のように可愛がっている娼婦達は、あっという間に自分達を壁にして、星を周囲の目から隠してしまう。
「……娼婦?」
星といた為、一緒に壁の内側へと入れられたピアは、周囲の女性達を見渡し、ポツリと呟く。そこには、少しの驚きが滲むだけで、嫌悪や侮蔑などの、他の感情の色は全く無い。
「そうだよ。皆、優しくて綺麗な人ばかりでしょ?」
我が事のように自慢げに頷いて答える星に、アウラを始め周囲の娼婦達からは、温かな眼差しが注がれている。
「そうね。……セイ、私も見送り付き合っても良いかしら?」
そんな光景を目にし、微かに無表情を崩したピアは、柔らかい声音で同意を示すと、少し悩んだ後にささやかな願いを口にする。
「うん、もちろん。……でも、買い出しの途中じゃないの?」
「大丈夫よ。特に急ぐ物ではないから」
嬉しそうな様子で頷いた星から心配そうに問われ、ピアは抱えていた荷物を示し、僅かに口の端を上げて応じる。そのまま、躊躇いを見せる星の手を握り、ピアは大通りの方へと歩き出す。
「うふふ、可愛らしいわ」
手を繋いで移動を始めた二人を囲み、そう言って艶やかに笑うアウラと、追随して笑い声を上げる娼婦達も、ゆっくりと移動していく。
徐々に周囲の人混みの密度は上がっていくが、娼婦達の艶やかさに気圧されたのか、星と星を囲む集団の周りには、少しだけ空間が出来ている。
「もうそろそろかな」
「そうね」
その中心では、黒髪の少女とプラチナブロンドの少女が、顔を寄せ合って、お互い無表情ながら、楽しそうな様子を見せていて。
そんな二人を、周りの艶やかな美女達が優しい眼差しで見守っている。
周囲の熱狂を他所に、ほのぼのとした空気を醸し出す集団だったが、その空気を掻き消すように、歓声が大きくなってくる。
「あ、ユナ様発見」
「相変わらずの人気ね」
「……あれ? シウォーグさん凹んでる?」
「私にはいつも通りの不機嫌顔にしか見えないけど……」
歓声が凄まじいので、星もピアも周囲を気にせず、会話を続けている。
「ユナフォード殿下は麗しいけど、自分より美人の男は嫌」
「そうよね」
「シウォーグ殿下は?」
「あー、好きになったら一途そうよね」
「「「確かに」」」
「騎士様はどう? 団長のゴードン様なんて、渋くて素敵よ?」
「駄目よ、ゴードン様は、可愛らしい奥方様に夢中なの」
「あ、キース様はどうかしら?」
「んー、あの方は、最近どなたかに一途な想いを捧げているらしいわよ?」
「あの子、アラン様はどう? 年下の男の子も可愛いわ」
「あら、それこそ、私達の可愛い妹分にぞっこんよ?」
「そうだったわね」
密やかな会話と、クスクスと交わされる笑い声。
娼婦達は、周りの男達を軽く誘惑して牽制しながら、恒例となったイイ男鑑賞に余念がない。
歓声に紛れてしまう為、不穏な内容の会話は周りに聞こえる事はなく、アウラは色気溢れる笑みを溢しながら、無言で星の頭を撫でている。
その時、一際女性達から甲高い歓声が上がり、ビクッと肩を揺らした星は、繋いだままのピアの手を握り締める。
「あら、ユナフォード殿下より歓声を浴びてるわね」
うふふ、と笑い声混じりでアウラが見やる先には、面倒臭そうに馬へ跨がっているノウルの姿がある。
背後には、五人の部下がそれぞれ馬に跨がって付き従っている。
「ノウル、みんな、いってらっしゃい」
星は小声で呼び掛けると、ピアと繋いでいた手を離し、控えめに小さく手を振る。
「地獄耳ね」
ポツリと呟くピアが示す通り、星の呼び掛け直後、面倒臭そうだったノウルの表情は一変し、神秘的な紫色の瞳はキラキラと輝き出す。
ノウルは人混みの中から瞬時に星を見つけ出すと、蕩けるような笑顔で、ひら、と手を振り返す。
おかげで、あちこちで悲鳴が上がり、何人もの女性が倒れていく。
「……本当に見た目だけは最高よね」
バタバタと女性が倒れる音を聞きながら、ピアは呆れを存分に滲ませて、吐息と共に吐き捨てる。
「ノウル様、どういう目をしてるのかしらね」
星を自らの胸元で隠すようにしながら、アウラは苦笑いを浮かべて、凶器と化しているイケメンを流し目で見やる。
「ノウル、気をつけて……」
アウラの胸元へ頬を寄せたまま、星は胸の前で手を組み、小声で祈る。
そんな中、ノウルの視線で気付いたらしく、ユナフォードとシウォーグ、それとアランとキースも、星を見つけると、それぞれ控えめな合図を送る。
「ユナ様、シウォーグさん、アラン君、キースさん、皆も気をつけて……」
相変わらずアウラの胸元へ埋まったまま、星は合図を送ってきた相手へ、聞こえる筈もない声を送る。
だが、全員がそれぞれ頷いたり、無邪気に手を振って後頭部を叩かれたりしたりし、明らかに星の声へ反応を返す。
「……地獄耳ばっかりね」
「通信用魔具とかいらないんじゃないかしら」
無表情で呆れるピア。アウラは星を抱き締めて、感心したように呟いているが、突然表情を険しくすると、星を娼婦達の間へ押し込んで隠してしまう。
「アウラさん?」
「セイちゃん、シーッよ?」
戸惑いを隠せない星へ、アウラは色っぽい仕草で唇へ指を宛てて見せながら、宥めるように声をかけ、すぐに大通りを挟んで、反対側の人混みへと視線を向ける。
「あの男……」
アウラの視線を辿ったピアは、無表情を崩し、不審さを隠さず呟く。
「ピアちゃん……だったかしら。あの男、見覚えがあるの?」
「ええ、あるわ。あれは、王弟殿下の息子のジュラルド……様だと思うわ」
アウラの問いに即答したピアは、不自然にならないように相手から視線を外す。
「つまりは、ユナフォード殿下の従兄弟ね。……そんな相手が、何故あたしを見ているのかしら」
粘っこく追ってくるジュラルドの視線に、アウラは戸惑いを隠せない。
「……まあ、目をつけられたのがセイちゃんじゃなくて良かったわ」
あたしならどうとでも出来るもの。と、内心で付け足したアウラは、色っぽい流し目をジュラルドへ向けてから、娼婦達を引き連れて人混みから外れていく。
勿論、娼婦達は内側へ星を隠した状態で、油断無く歩いていく。
ピアの方は、そつなく人混みへと紛れてしまい、ジュラルドの視界から消えている。
「……それにしても、冷たい眼差しね」
未だに背中へ刺さる視線に、アウラは誰にともなく呟いてから、娼婦達の間から心配そうに窺ってくる黒目がちの瞳へ、柔らかい微笑みを返す。
「大丈夫よ、セイちゃん。後で説明するわ」
事情がわからないながらもアウラの言葉を聞くと、星は無言で頷き、しっかりとラビを抱き締めていた。
すぐそこまで、不穏の足音は迫って来ようとしていた。
●
少し時間は遡り――。
「いやぁ、さすがユナフォード、人気者だねぇ」
感心したように呟くのは、フードを被ったジュラルドだ。
その口調は軽いが、眼差しは全く緩んでおらず、冷たくユナフォードを見つめていた。
その姿は明らかに、従兄弟を見送りに来た、という訳ではなさそうで。
「ん?」
颯爽と馬を駆るユナフォードを眺めていたジュラルドだったが、一瞬ユナフォードの視線が愛しげに緩んだ事を見逃さず、その視線を辿る。それは、本当に一瞬で、気付いたのは粗探しをしていたジュラルドぐらいだろう。
「これは、また随分派手な女だ」
ジュラルドの言葉も当然で。ユナフォードの視線の先にいたのは、艶やかな髪と泣き黒子が色っぽい美女だ。
「……調べてみる価値があるか」
ジュラルドがそう呟いていると、
「あんた、アウラを知らんのか?」
と、近くにいた酒臭い赤ら顔の男が話しかけてくる。
「アウラ、というのが、あの女性の名前かな?」
「ああ、そうだ。あれは娼館の女主人で、筆頭魔術師のノウル様の愛妾だ」
「へえ、それはなかなか……」
面白い。そう声無く呟くと、ジュラルドは大きくニィと口の端を上げる。
酔っ払いの男は、ゾクリと寒気を覚え、目の前で笑う相手を見つめるが、もうその相手は男を見る事はなく……。
美しいが、粘っこく冷たい眼差しは、ただただ通りの向こうのアウラへと向けられ続けていた。




