巻き込まれ少女、活動中。6,妖精姫 5
パニックな方々です。
ボケてんじゃねぇか、ぐらいな事をやってますが、実は私の実体験です。似たような事をしでかしました。ので、突っ込みはやんわりとお願いします(笑)
誤字、脱字、ありましたらよろしくお願いします。
次の回を書く為の助走回でした。
憂さ晴らし。
キースの表現していた通り、それはまさに憂さ晴らしだった。
相手もかなりの手練れのようだが、キレたキースの実力はそれを簡単に上回っていた。
実際、星を傷つけたのは、今キースが憂さ晴らしの相手にしている男なので、ある意味正当な報復なのだが、色々飛んでいるキースには関係なく。
何度か斬り結び、拮抗すらさせず、男を地面へと崩れ落としたキースは、ほぼ同時に相手を斬り伏せたアランを確認し、自分は倒れている星へと駆け寄る。
「セイちゃん!」
地面へ膝をついたキースは、血が付くのも厭わず、意識のない星を抱き起こす。
くてり、と力無くキースへ寄り掛かる姿は、元々小柄な事もあり、かなり弱々しい。
「……早く治療を」
キースはポケットからハンカチを取り出し、星の傷口を縛り応急処置をすると、軽々と抱き上げる。
緊急事態発生に、人払いへ駆り出されていた騎士や兵士が集まり、キースが抱えた星の姿を見ると、顔色を変える。
「ど、どうしたんだ、セイさんが、どうして!?」
「あの男達がやったのか!?」
「姫様は無事なのか?」
「誰か、王宮侍医を!」
「それより、ノウル様へ連絡だ! レイチェル様なら、治療も出来る!」
「とりあえず、あの男達をどうにかしないと! 一人は生きているぞ!」
まさに戦々恐々。
少しだけ冷静さがあった兵士が、生存していた襲撃者を縄で捕らえ、別の兵士は死体を片付ける。
そんな中、アランはというと、無表情で、星を抱えたキースの隣で立ち尽くしていた。
「アラン、ヘコむのは後だ。セイちゃんを、中へ運ぶぞ?」
アランへそう一声かけてから、キースは城内へ向かって歩き出す。すると、
「こっちに部屋を用意させた!」
「レイチェル様もすぐ来られるそうだ! ここは任せて早く行け!」
「セイさんを頼んだぞ!」
あちこちから声がかけられ、星を抱いたキースを送り出す。
アランは魂が抜けてしまったような状態のまま、反射的に星だけを目で追ってふらふらとついていく。
連携は完璧なようで、星を連れたキースは、ある意味天敵である『世界の愛し子』や彼女派の貴族へ会う事なく、用意された部屋へと辿り着く。
「アラン、扉を開けろ!」
「あ、ああ」
キースに怒鳴られ、アランは弾かれたような表情で動き出し、慌てて扉を開ける。
「そこへ寝かせるぞ」
そう言いながら、キースが示すのは、部屋の中心に鎮座するソファ。
そこへ、意識を失ったままの星が寝かされ、キースは傍らに膝をつく。
「セイさん……」
クーンクーン、と情けなく鼻を鳴らしそうなアランは、落ち着きなく辺りをうろついている。
「落ち着け、アラン」
そうアランへ言い聞かせるキースは、自らへ言い聞かせているようでもあった。
そこへ――。
「セイ!」
「セイちゃん!」
連絡を受けたらしいノウルとその部下であるレイチェルが、ノックも無しに飛び込んでくる。
キースは名残惜しそうに、握っていた星の手を離すと、ノウルとレイチェルへ場所を譲る。
「セイ、しっかりしろ!」
キースが退いた場所へ膝をついたノウルは、苦し気に言葉を吐き出すと、ギリギリと音がしそうな程を歯を食い縛る。そうでもしないと、正気ではいられなかったのだ。
「隊長、セイちゃんを抱えてください! その方が、セイちゃんは落ち着くと思います」
レイチェルは膝をついたまま動けないノウルへキビキビと指示を出し、ソファへと座らせ、星を後ろから抱えさせる。
「セイちゃん、すぐ治しますからね」
頑張って、と優しく語りかけ、レイチェルはキースの巻いたハンカチを外し、星の傷口へと手を翳す。
「予想以上に深いです〜。でも、傷口は綺麗で良かったです〜」
「治せるか?」
傷口を検分するレイチェルに、ノウルは不安を隠せない声音で問う。
「治します!」
力強く即答したレイチェルは、グッと唇を引き結び、精神集中を始める。
レイチェルの邪魔をしないよう気を付けながら、ノウルは乱れてしまった星の髪を優しく梳く。
「……犯人は何処だ?」
ぶち殺す、という副音声が付きそうなノウルの呟きに、部屋の温度が数度下がる。星を見つめる紫の瞳とは、かなりの温度差だ。
「二人はアランが始末して、一人は兵士が捕縛した筈です」
そう答えるのは、ソファの傍らに真っ直ぐ立つキースだ。
「ちっ、逃げ出したなら、覚悟しやがれ」
舌打ちをして低く唸るように吐き捨て、ノウルは痛みのせいか星の額へ浮いた汗を拭う。
「おれがついていながら……」
キースの隣で、アランが消え入りそうな声を洩らし、グッと唇を噛み締めている。
キースは何も言わず、無言でアランの肩を叩き、苦しげな表情を浮かべている星を見つめている。
「……変です、この傷」
そんな張り詰めた空気の中、治療を施していたレイチェルが訝しげに呟く。
「どうした、レイチェル。お前の魔術なら、この程度の傷、すぐに……」
「治らないんです! いつもなら、もう塞がる筈なのに……」
ノウルの問いに、レイチェルは焦燥の隠せない顔で、髪を振り乱しながら、首を横に振る。
「どうして?」
レイチェルの落とした呟きに答えられる者はなく、部屋には一瞬の沈黙が満ちる。そこへ、豪快な扉の開閉音と共に、新たな人物が部屋へと飛び込んで来る。
「セイは何処です?」
【セイ、ワタシが来たからには大丈夫よ!】
「……ぼくをおいてったね」
上から、レノーラ、ティルファーナ、しれっと混じったラビだ。
ティルファーナを肩に乗せたレノーラは、ツカツカと星が横たわるソファへ歩み寄り、すぐに深々とため息を吐く。
「あなたは馬鹿ですか、ノウル・ティーラ! セイの傷口を見て、何も感じなかったのですか!?」
「……傷口?」
レノーラの叱責に、ノウルはゆっくりと瞬きをすると、星の苦しげな顔から視線を外し、傷口へと目をやる。やがて、その目が見張られる。
「俺とした事が……っ」
「やっと気付きましたか。これが、セイを傷つけたナイフです」
クッと悔しそうな表情を浮かべ、低く唸るノウルにレノーラは、ナイフを差し出す。それは、事後処理をしていた兵士が見つけ、シウォーグへと届けられ、たまたま目にしたレノーラの手に渡った物だ。
「……当たりだな。最悪だが」
レノーラからナイフを受け取ったノウルは、一瞥しただけで、胸糞が悪いとばかりに吐き捨てる。
「た、隊長、どういう事ですか〜?」
とりあえずの応急処置をしながら、レイチェルはすがるような眼差しをノウルへ向け、動揺を隠せない声音で訊ねる。傍らで見ているアランとキースも、不安を隠せていない。
「……ある種の暗殺者が使う薬だ。傷口から侵入した薬は、標的の動きを麻痺させ、傷口が塞がる事を阻害する。この傷口は、薬を解毒するまで、魔術でも塞がらない」
「ノウル様なら! ノウル様なら、作れますよね?」
「ああ――だが材料が足りない」
冷静さを取り戻したノウルは、アランへ答えながら、すまない、と小さく謝って星の傷口へと触れ、血液を凍らせ、止血をする。
「これで、しばらくは大丈夫な筈だ」
「言ってください〜、すぐ探しに行きます〜」
「おれ達も行きます!」
星をソファへ下ろして、そう言ったノウルは、スッと立ち上がる。
そこへ、レイチェルとアランがそう声をかける。
ティルファーナは、レノーラからの片言通訳と、自ら必死な聞き取りをし、内容を理解したのか、大きく頷いている。ティルファーナも捜索に参加するつもりらしい。
「ああ、必要な物は水晶ウサギの水晶と、妖精の涙だ。妖精の涙は、確か街外れの店で取り扱っていた筈だ。水晶は今から取りに行けば……」
「……落ち着きなさい、ノウル。それと他三人も」
早口で言葉を重ね、ノウルは早速行動しようとするが、心底呆れた表情を浮かべたレノーラに止められる。
ノウルと一緒に動こうとしていた三人も、ピタリと動きを止め、レノーラを窺う。
「わたしも解毒薬の材料は知らなかったですが……」
不思議ですね、と口内で呟くと、レノーラは剣呑な視線を送ってくるノウルへ、ソファで寝かされている星を指差す。正確には、その周囲を不安げに跳ねているラビを。そして、次は自らの肩を。
「……揃いませんか? 材料」
レノーラが示した事実に、走り出す気満々だったノウルと三人は、あ、と短く声を上げ、数秒固まる。
ティルファーナは理解出来なかったらしく、レノーラの肩上で首を傾げている。
「……とりあえず、水晶をくれるか?」
思い出したように動き出したノウルは、膝をついてラビへと声をかけ、手を差し出す。
ノウルを見つめ返すラビは、男前な表情で自らの水晶をもぎ取り、ノウルの差し出した手の上へ置く。
これで、あと必要な物は、妖精の涙だけ。
【セイたすける、あなた、なみだ、くれ】
水晶を握り締めたノウルは、レノーラの前へと移動し、片言で、だが真摯にティルファーナへ訴える。
【ワタシの涙? それでセイが助かるなら、いくらでもあげるわよ!】
【……ありがとう】
何とか聞き取ったティルファーナの返答に、ノウルは感謝の言葉を返し、採取の為の容器をティルファーナへ渡す。
【セイは、ワタシのせいで怪我したのよ。ワタシがもっと上手く逃げてたなら、ワタシがルビーの言う事聞いてたなら……】
セイは傷つかなかったのに……、ティルファーナは誰にも聞き取れない早口でそう洩らし、小さな拳を握り締めると、流れ出した涙を容器へ入れる。
「ハヤク、タスケル、シテ!」
「ああ! これさえあれば、解毒薬はすぐ出来る。レイチェル、手伝いを頼むぞ。レノーラ様は、セイの傍に」
「はい、了解です〜」
「もちろんです。わたしはここに姫と残ります。あなたはあなたのすべき事を……」
「アランとキースは、護衛を頼むぞ? 水晶ウサギもここに残れ」
「はい、わかりました!」
「……了解です」
一部不服そうな人間はいたが、全員がノウルの指示に従い、動き出す。
全ては一人の少女を助ける為に……。
――一時間後、星の傍には、話を聞きつけたシルヴィーアが訪れ、レノーラと二人で意識を失ったままの星の看病をしていた。
「ノウルはまだですか?」
「姉様、焦っても仕方ないです。信じましょう」
そんな姉妹の声も届く事なく、星はピクリとも動かない。ノウルの魔術により一時的に出血は止まっていたが、その顔色は悪く、表情は苦し気だ。
傍に控えているアランとキースは、ギュッと拳を握り締め、堪えている。
ティルファーナは、星の頭の横に座り、ずっと小声で何かを話しかけている。 ラビは湯タンポよろしく、ひっしと張りついて、星へ暖を分けていた。
全員がノウルの到着を待つ中、やっとノウルが現れる。
星が綺麗に結んだ銀髪は解け、かなり乱れてしまっていたが、ノウルは意に介せず、星の傍へ半ば転げるような勢いで辿り着く。その右手には、青い色をした液体が入った小瓶。
「セイ、起こすぞ」
意識のない星へと一声かけてから、ノウルは星の上体を背後から抱え起こし、小瓶の中身を、薄く開いた唇へ寄せる。
「少しで良い、飲んでくれ……」
ノウルの必死な訴えが届いたのか、星は意識のないまま、口内の液体をコクリと喉を鳴らして嚥下する。
「これですぐ効果がある筈だ」
ハンカチで甲斐甲斐しく星の口元を拭いていたアランは、喜色を隠さず、星の手を握り締めている。もはや、尻尾がないのが、嘘のようだ。
「……じゃあ、早速治します〜」
傷口の変化を見守っていたレイチェルは、ノウルをチラリと見やってから、精神統一を始める。
今度は、きちんと魔術は効果を示し、凍らされていた傷口は、僅かな痕跡だけ残し、塞がっていく。
その様子に、集まっていた一同から、安堵のため息が洩れる。
これでもう大丈夫。
誰もがそう思っていた。
しかし――。
「どうして、目を覚まさないんだ!?」
手負いの獣のようなノウルの叫びが、一人の少女が眠る部屋に響き渡る。
だが、ベッドに寝かされた少女はピクリともせず……。
目覚める事はなかった。
少しエセシリアスが続きますが、基本はゆるゆるファンタジーです!
ハッピーエンド大好きです。




