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巻き込まれ少女、活動中。6,妖精姫 3

誤字、脱字ありましたら、そっと教えてください。

感想、評価、いただけると嬉しいです。

【先日は、ご挨拶出来ず、申し訳ありません。私は『世界の愛し子』様と同じ世界から参りました、星と申します】

 ユナフォードとティルファーナの顔合わせが終わった次の日、星はティルファーナへ与えられた部屋を訪れ、先の台詞と共にぎこちない礼を披露していた。

 もちろん、星は世話役として訪れた為、詩織と比べるとかなり地味な服装をしている。地味といっても、貢ぎ癖があるノウルのおかげで、かなり高級な地味だったりするが、ティルファーナに気付かれる事はなく、とりあえず、そこそこ好感度を上げる事には成功していた。

 髪へと飾られたピンクの花飾りだけは、少しだけ華美さを演出していたが、ティルファーナの気に障る程ではなかったらしい。

 そのティルファーナはというと、流暢に妖精言語を操り、かつ見覚えのある星の登場に、キラキラと喜色で瞳を輝かせ、

【あら、あなたは見覚えがあるわ! 森にいたわよね?】

と、弾んだ声を上げて、そのままクルクルと星の周囲を飛び回る。

【はい。この度、姫様の世話役を仰せつかり、ました。よろしく、お願いいたします】

 ティルファーナを目で追いながら、傍目には堂々と受け答えしているように見える星だったが、良く見ると膝が震えているのが分かる。言葉も吃りそうで。それを支えるよう、ラビがヒシッと抱き着いている。

【セイね。まあ覚えてあげるわ】

【ありがとう、ございます。何か、不自由、ありますか?】

【不自由? あるに決まってるわ! 暇なのよ! ずっとここに閉じ込められてるのよ?】

【申し訳、ありません。そちらの国へ、使者は出してありますので、今しばらく、お待ちください】

 プンプンという擬音が聞こえそうな怒り方をするティルファーナに、星は言葉通り申し訳なさをよく語る瞳へ浮かべて頭を下げる。

【別にセイが悪い訳じゃないから、そこは謝らなくて良いわ。それより、ワタシ外を散歩したいわ!】

 星の変化に目敏く気づいたティルファーナは、勢い良く首を振ってから、再び星の周りを飛び回って訴える。

【城の庭ぐらいでしたら、許可はもらってあります。今、護衛の騎士を呼びますね】

【セイ、早く!】

【はい】

 ティルファーナは待ちきれないと、羽を揺らしながら頷いた星を急かす。

「アラン君、お願いします」

 星は僅かに目を細めて笑みめいた表情を作ると、入り口の扉へと向けて声をかける。張り上げる事もなく、普通の声量で。

 それで聞こえるの? と小さく呟いたティルファーナは、星の横顔と扉を交互に見やるが、それは杞憂だったらしい。

 間髪入れず扉が叩かれ、ご用は? と言葉にしなくとも分かる表情を浮かべた赤毛の騎士が入って来る。例えるなら、尻尾を振りまくる大型犬だ。

【姫様、彼はこの国に仕える騎士、アランです。姫様の護衛をさせていただきます】

「アラン君、姫様にご挨拶をお願い、します」

 星はアランの隣に立つと、妖精言語、マナーシュの公用語と順番に紡ぎ、アランを上目遣い気味で促す。

「はい! アラン・ポーリーです! よろしくお願いいたします!」

 星から促され、アランはブンブンと尻尾を振り出しそうな表情で、ティルファーナへ自己紹介をする。が、星から向けられたのは困ったような視線。

「……アラン君、自己紹介教えませんでしたっけ?」

「あ、忘れました」

 叱られた犬のような情けない表情を浮かべてポツリと洩らすアランは、シュンとして星を窺う。

「じゃあ、私に続いて言ってください」

「はい!」

【私は王国騎士が一人】

【わたくしは、おうこくきしがひとり】

【アラン・ポーリーと申します】

【アラン・ポーリーともうしマス】

【よろしくお願いいたします】

【よろしくおねがいいたしマス】

 どうです、誉めて誉めて? と無言で訴えているアランへ小さく笑んで頷いてから、星はティルファーナへと、先程より滑らかな一礼をする。隣ではアランが、背筋を正して美しい騎士の礼を披露している。

【え、ええ、早速、頼むわね】

 目の前で繰り広げられた飼い主と犬を思わせるやり取りに固まっていたティルファーナは、慌てて胸を反らせて偉ぶり、アランへ指を突きつける。

「アラン君、姫様と庭へ散歩したいので、護衛をお願いします。人払いの方も頼みますね」

「は、はい」

 何かを頼まれれば、常に即答をするアランにしては珍しく言い淀み、物言いたげな視線をチラチラと向けられ、星は小首を傾げている。

 だが、アランは何も口にする事なく、扉へと向かい、扉の外で見張る先輩騎士へと人払いを頼む。

「セイさんが、いつもみたいに喋ってくれないです……」

 その際、ポツリと洩らしたアランに、先輩騎士からは苦笑と勢い良く背中を叩くという、豪快な慰めが返ってくる。

「あれは、あれで可愛らしいじゃないか。微笑ましくて」

 年の離れた妹を見るような眼差しを扉へと向けた先輩騎士に、アランは力無くコクリと頷く。

「セイさんは、セイさんで頑張ってるんだ。お前がそれを否定するような事をするな」

「……わかってます。人払いの方、頼みました」

「おう、行ってこい」

 肩を落とす後輩を見送り、先輩騎士はクックッと喉奥で笑い声を洩らす。

「セイさんも罪作りだ」

 星が騎士や兵士と馴染んでいるという話は本当だったらしく、先輩騎士が呼んだ騎士も、その後に来た兵士も、星とアランのやり取りを聞き、微笑ましい事を聞いたとばかりに笑う。

 星は星なりに、この異世界での居場所を、自ら作り上げようとしているようだった。

 『世界の愛し子』である詩織とは違う異世界人として、受け入れられる為に。




【セイは、異世界人だったのね。確かに、黒髪黒目なんて、珍しいわ!】

 庭へと向かう道すがら、ティルファーナは星の肩に立ち、頭へ手を置きながら話しかけてくる。

【はい、し……愛し子様、と同じ世界の出身です。……私の髪と目、気味が悪いですか?】

 小さな手で髪を引かれ、星は足を止める事なく、伏せ目がちに答える。

【あとで、異世界の話を聞かせなさい! あと、セイの髪も目も、気味悪くなんかないわよ! 髪は艶々だし、目だって真っ黒だけど、星を浮かべたみたいで綺麗だわ】

 星の後ろ向きな発言を聞いた瞬間、ティルファーナは星の肩から飛び立ち、星の顔の前へ留まると、ビシッと指を突きつけ、力強く言い切る。

「そうです! セイさんの髪も目も綺麗です! おれは大好きです!」

 ティルファーナの言葉に、護衛として傍らを歩いていたアランが便乗し、人懐こい笑顔と一緒に、全力で訴える。

【ありがとうございます、姫様】

「ありがとうございます、アラン君も……と言うか、妖精言語わからないですよね?」

 妖精言語、マナーシュ公用語の順番で感謝の言葉を紡いだ星は、ふと気付いた事実に、訝しげな瞳をアランへ向ける。

「え? あの、何となく雰囲気で言いました!」

「勘みたいな感じですか。アラン君らしいです」

 ふ、と息が抜けるような笑い声を洩らして呟くと、星は柔らかい表情でラビを抱え直す。

【姫様の緑の髪も金の瞳も、とても美しいです】

「アラン君の赤毛も、鮮やかで好きです。炎みたいで綺麗」

 ラビの後頭部へ顔を埋めながら、星は照れ臭そうに告げ、黒目がちの瞳を細める。

【ワタシが綺麗だなんて、当たり前じゃない? でも、一応お礼を言っとくわ! ありがとう】

「ありがとうございます! セイさんの為なら、俺の髪、全部あげますから!」

 それぞれの反応、と言うか主にアランの熱血発言に、星は若干表情を引きつらせて頷く。

 そんなアランをチラリと見やってから、ティルファーナは、星の肩へと戻る。

【綺麗な赤毛ね】

【ええ、私もこの世界に来て初めて見ました、あんなに鮮やかで暖かな赤色は】

【……ワタシの傍にいるヤツも、綺麗な赤色なのよ? セイに見せたかったわ】

 星の髪を掴みながら、ティルファーナは遠くを見るかのように、視線を中空へ向けて呟く。

【その方も綺麗な赤毛なんですね】

 独り言じみた呟きに相槌を打ちながら、星は真剣な顔で辺りを窺っているアランを横目で見る。

【違うわ。アイツはね、綺麗な真紅の目をしてるのよ!】

【真紅の目……きっと、宝石みたいなんでしょうね】

【そう、そうなの! それなのに、アイツはセイみたいに言うのよ? 気持ち悪いでしょう、って! 有り得ないわ、このワタシが綺麗って誉めたんだから、それは綺麗なの! だから、セイの髪も目も、綺麗なんだからね!】

【ありがとう、ございます】

 耳元で聞こえる、傲慢なようで温もりが溢れた台詞に星は、ふにゃ、と柔らかい笑みを溢し、ラビを抱き締める。

 そんな星を、言葉は分からないながらも何かを察しているらしく、傍らを歩くアランが幸せそうに見つめている。

 さらに、そんなほのぼのとした一行を、人払いに駆り出された騎士や兵士が、温かい眼差しで見送っていた。




【なかなか立派な庭ね】

【そうですね。こちらに、今が盛りの花が……】

 腰に手を宛てて庭を誉めるティルファーナに、星は自分の事のように嬉しそうな表情で頷き、返す。

 アランは二人から少し離れた位置で、油断無く辺りを警戒している。そこには、先程までの人懐こい犬を思わせる姿はない。例えるなら、ただの犬から、野生の狼へと姿を変えたようだ。

 ピリピリしているアランに、ティルファーナは最初怯えた様子を見せていたが、星の安心しきった様子を見ると、すぐに一緒になって寛いでいた。

【やっぱり、外は良いわね。花の妖精であるワタシを閉じ込めるなんて、有り得ないわ!】

 ふわふわと宙を漂うティルファーナは、花の匂いを吸い込み、拗ねたような口調で声を荒げている。

【姫様はやはり花の妖精なんですね。お名前から、想像はしていましたが。妖精の言葉で、『輝ける花』という意味ですよね】

 傍らでティルファーナを見守っていた星は、拾い上げた情報から、言葉を選んで慎重に相槌を打つ。

【そうよ? セイはなかなか物知りね】

【言葉に関しては『世界』からのギフトなので、私自身の努力ではないんです】

【あら、そうなの? でも、そのおかげで、ワタシと話せるのだから、感謝しなさいね】

 星の苦笑の混じる言葉に、ティルファーナはキョトンとした表情で首を傾げてから、魅力的な笑顔で可愛らしく偉ぶりながら告げる。

【ええ、姫様とお話出来て嬉しいです】

 ティルファーナの愛らしい仕草に、ふふ、と小さく破顔した星は、大きく頷いて弾んだ声で返す。

【もう、せっかく笑うと可愛らしいのだから、もっと笑いなさい、セイ!】

 星の顔の前で羽を動かし、ティルファーナは可愛らしく傲慢な口調で言うと、ビシッと指を突きつける。

【そう、ですか? 姫様は優しいですね】

 ティルファーナの言葉を聞き、星は何処か困ったような表情を浮かべると、そのままスッと表情を消してしまう。

【セイ? そ、そうだ、セイの世界の話を聞かせなさい!】

 明らかに雰囲気を固くした星に、ティルファーナは慌てた様子で、話題の転換を図る。

 それは成功したようで――。

【はい、分かりました。私の世界は魔術が存在しなくて――】

 笑顔こそないが、表情を和らげた星は、今はもう帰れない故郷を思い、花と花の妖精に囲まれて、ゆっくりと語り始める。

 遥か遠くを見つめるよう、視線を中空へ向けながら……。


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