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巻き込まれ少女、活動中。6,妖精姫 2

ユナ様のターン。

病みそうですが、病みません。通常運行なだけです。

誤字、脱字ありましたら、そっと教えていただけると助かります。

感想、評価、いただけると嬉しいです。

「ありがとう、助かったよ、セイ」

 部屋から出て、廊下を歩きながら、ユナフォードが柔らかい声音で語りかけるのは、通信用魔具の向こうにいる相手だ。

「大丈夫、無事に終わったよ。すまないが、明日から姫の相手を頼んでいいかな?」

 話しかけながら、ユナフォードの思考は、前日の邂逅へと遡る。




「ノウル、席を外してもらおう。出来れば、姉様も」

 やんわりと、だが有無を言わせぬ口調でユナフォードは告げ、部屋には星とユナフォード、それと星へしがみついたラビが残される。

 ユナフォードは、レノーラが座っていた椅子へと腰かけ、真正面から星と向かい合う。しばし、両者無言のまま、時間が流れていく。

「あの、殿下……」

 無言で見つめあう事に耐えられず、星はラビを抱き締めて、おずおずと話しかける。

「っ、殿下……殿下か。セイにそう呼ばれると――」

 星の言葉を聞いた瞬間、弾かれたように肩を揺らしたユナフォードは、何らかの激情を押し殺し、複雑な色合いを湛えた瞳を星へと向ける。

「とても、イライラするよ」

「あ、申し訳、ございません」

 ユナフォードから、そんな冷たい言葉を向けられた事のなかった星は、目を見張って反射的な謝罪を口にする。それは、以前の星の言葉ではなく、シルヴィーアとレノーラから教え込まれたものだ。

「……お願いだから、今までみたいに、話してくれないか?」

 怯えた様子の星の手を取ったユナフォードは、いつもの自信満々な様子はなく、懇願じみた囁きを洩らす。

「お戯れを……。私は、殿下にそのような事をおっしゃっていただけるような立場では……」

「ねぇ、誰がセイにそんな事を吹き込むのかな? 教えて欲しいな?」

 視線を外して俯き答える星へ、ユナフォードはグッと顔を寄せて、問いかける。

「吹き込まれてなど、おりません。私の意志です」

「へぇ、じゃあ、私の事を避けるのも、セイの意志なのかな?」

「避けてなどいません。……もともと、私のような者と、殿下の間に交流があった事が、不思議だったんです」

 すがるようにラビを抱き締めた星は、艶やかな黒髪を揺らし、大きく首を横に振る。

 その様に目を惹かれながら、ユナフォードは星の艶やかな黒髪を撫でて、宥めようとする。

「そうだね。セイは巻き込まれて、ここにいるんだから。別に、二三個不思議が増えても問題ないよ」

「……とんでもない暴論で来ましたね」

「セイの手を離さないで済むなら、どんな無様な言い訳でもするよ。……ここには、私とセイしか、いや、あとラビしかいないからね」

 星の体から緊張が抜け、態度が和らいだのを感じたユナフォードは、悪戯っぽく、しかし熱を秘めた声で囁き、畳み掛ける。

「お願いだ。セイに殿下と呼ばれると、寂しくて仕方無い。セイは、私の願いを叶えてくれるよね?」

 自分の容姿をしっかりと理解し、利用する事に慣れているユナフォードは、未だに躊躇いを見せる星の顔を下から覗き込み、上目遣いで甘く囁く。

「その言い方は、ずるいです。……第三者の目がない時、でしたら」

 美しい青の瞳に射られ、星は黒目がちの瞳を細めて苦笑し、敗北宣言をする。

「あ、もちろん、口調もだからね?」

「え!? せっかく、殿下の為に頑張った……なんでも、ないです」

 さらに出された条件に、星は思わず口を滑らしてしまい、慌てた様子で口元を手で覆うが、出てしまった言葉が戻る訳ではない。

 ユナフォードにも、バッチリ聞こえてしまったらしく、青の瞳が不機嫌そうに眇られる。

「私の為? それより、また殿下と呼んだね? 次、呼んだら、罰を与えるから」

「は、はい、わかりました、殿下……あっ、今のは、無しで!」

「だーめ。じゃあ、罰を与えないとね」

 先程までの不機嫌さが幻に思える程、ニコニコと楽しげな笑みを溢し、キュッと目を閉じた星の額へ軽く口付ける。

「え?」

 何が起きたかわからず、きょとんとしている星の様子に、ユナフォードの笑みは深くなる。

「で、何が私の為なのかな?」

「……えーと、言わなくちゃ駄目?」

 一度流されたと思った質問が戻って来た為、言い淀む星は不機嫌そうなラビの後頭部へ顔を埋めて、上目遣いでユナフォードを窺う。

「可愛い顔をしても駄目だよ? さあ、私に教えて?」

「あの、呆れないでね?」

「うん、呆れないよ」

 ユナフォードは優しく微笑んで、星の頭を撫でながら頷く。

「私が、で……ユナ様に釣り合いたい……じゃ、不遜だけど、ユナ様が嫌な事を言われたりするの、嫌だから。私が、無知な振る舞いすれば、ユナ様は何を考えてるんだ、って、貴族の方には言われちゃうでしょ? だから、せめて最低限なマナーとか、しっかりと身につけたいなぁ、って」

 ユナ様と一緒にいたいと思うから、と恥ずかしそうに付け加えると、星は居住まいを正した。

「まぁ、結局は自分の為かな……っ?!」

「すまないが、しばらくこのままで……」

 頬を掻いて照れ臭そうに黒目がちの瞳を泳がせていた星は、突然伸びてきた腕に抱き竦められ、驚いて息を飲む。

「本当に、君は成長しようとしてるんだね」

「……詩織さんと比べたら、まだまだだけど、私なりに頑張るよ?」

「そうだね。向こうは、出来が良過ぎる。セイは、セイのままで良いからね」

「と言うか、詩織さんみたいになれって言われても、無理だから」

「そうかな? 先程までの振る舞いは、なかなか堂々としていたよ」

「本当? ユナ様にそう言ってもらえると嬉しいなぁ」

 ユナフォードへ抱き締められたまま、無邪気な様子で喜びを口にする星に対し……。

「――あまり、早く大人にならないで欲しいな」

 ユナフォードが呟くのは、掠れて届かない、それこそ子供じみた我が儘な願い。

「ユナ様? 聞こえないよ?」

「そろそろ、妖精言語の勉強をしないとね、そう言ったんだよ」

「あ、そうだね。ユナ様、どれぐらい話せるの?」

 きょとんと問い返した星は、ユナフォードの誤魔化しに気付く事なく、早速頭を切り替えてしまう。

 あっという間に消えてしまった甘やかな雰囲気に、ユナフォードは苦笑しつつ、星から少しだけ体を離し、見つめ合う。

【自己紹介と日常会話ぐらいなら、話せるよ。読み書きはほぼ無理だけど】

「うん、完璧な発音だと思うよ。……あれ? ユナ様、私に習う必要あったの?」

 金色の睫毛に縁取られた美しい至高の青を見つめ返しながら、星はコクリと生真面目な様子で頷いてから、今更な疑問を抱き、首を傾げる。

「……まあ、聞き取りには少し自信がないかな?」

「ほぼ完璧って事じゃ? それ……」

「完璧ではないよ。生の妖精言語を聞いた事は、数えるぐらいしかないからね」

【じゃあ、私はとりあえず妖精言語で話してみれば良いんだね?】

【あー……すまない、もう一度、ゆっくりと頼めるかな?】

 星の口から出た妖精言語が理解出来なかったらしく、ユナフォードは乱雑な仕草で金糸のような髪を掻き上げながら、問い返す。

【私は、妖精言語で、話してみるね?】

【……ああ、お願いするよ】

 こんなやり取りを数度繰り返し、出た結論は――。

【意外と聞き取れないものだね】

【姫様は、かなり早口だったから、さらに難しいかも】

【……セイみたいに、ゆっくり喋ってくれ、と頼む訳にはいかないからね】

 さすがのユナフォードも、弱音じみた呟きを洩らし、項垂れて向かい合った星の肩口に額を乗せる。

【詩織さんがいるから、私がついていく訳にも……】

 弱りきったユナフォードの様子に、星は心配そうな色を黒目がちの瞳へ浮かべ、ユナフォードの至近距離からでも鑑賞に耐えうる横顔を見つめる。

【……さすがに、妖精族の姫に対して、二日も三日も王族が挨拶に行かない訳には】

 はぁ、とため息を洩らしたユナフォードの動きで、星の耳を飾る通信用魔具が揺れる。

 擽ったさから、星は小さく肩を揺らすが、その動作でさらに通信用魔具がシャラリと涼やかな音を立てて主張する。

【あ、そうだ! 私が通信用魔具で姫様の言葉を聞いて、ユナ様の耳元で通訳するのはどうかな?】

 その音から星も通信用魔具の存在を思い出し、ユナフォードへ早口で提案する。

【……セイが、何だって?】

 聞き取れなかったユナフォードは、困ったような笑顔を浮かべ、首を傾げて聞き返す。

「えーと、ちょっとずるいけど、私が耳元で通訳して囁くの」

 もどかしくなり、星は通常の言葉へと会話を戻し、自らの通信用魔具へ触れながら、どう? とユナフォードの反応を窺う。

「通信用魔具か。その使い方は新しいな。早速、ノウルに相談してみよう」

 星の言葉に、ユナフォードは表情を明るくすると、大きく頷いて喋りながら、星の耳を飾る通信用魔具へとそっと触れる。星の耳は、伸ばされ始めた髪で隠されている為、通信用魔具もあまり他人の目には触れなくなっていた。

「そう言えば、セイの通信用魔具の石は、セイとノウルの瞳の色なんだね」

「うん、そうだよ。本当は黒だけだったんだけど、ノウルへおねだりしちゃった」

 不意にトーンが変わったユナフォードの台詞を気にする事なく、星はすっかり素へ戻った口調で、無邪気に答える。

「……引き千切りたいなぁ」

 星の無邪気な声を聞きながら、ユナフォードは不穏な呟きを洩らし、表情を消してしまうと、星の耳を飾る通信用魔具を軽く引っ張る。

「え?」

「うん? 何でもないよ?」

 星がきょとんとユナフォードの顔を見た時には、先程の表情は幻かと思えるぐらい、穏やかな笑顔に彩られていた。




「そう言えば、セイのダンスパートナーの事を聞き忘れてたな」

 前日のやり取りを思い出していたユナフォードは、誰にともなくポツリと呟く。

 この件に関しては、影は黙秘を貫くつもりらしく、影からは何の声もしない。

「……特に問題がない相手なんだが」

 影の反応に苦笑しつつ、ユナフォードは自らの通信用魔具へ触れる。

「愛し子派どころか、私寄りの若手貴族とは、さすが姉様の人選はそつがないね」

「……そうですね」

「確かに、肩書きは問題ないですわ」

「おや、久々にこの件に関して喋ってくれたね」

 クスクスとからかうように笑い声を混じらせ、相槌を打ってきた影へと返すが、その後に続いた沈黙に、ユナフォードはスッと笑みを消す。

「セイの私に対する態度に、ダンスパートナーは関係してるのか?」

 いくら成長したいと願っていたとしても、星のユナフォードへの態度はあからさま過ぎた。

 現に、ユナフォード程ではないが、高貴な身分に分類されるノウルへの態度は変わらず、二人の距離感はそのままだ。

「そう言えば、セイは『私が嫌な事を言われたり』と、言ったね。……つまり、セイは私に関して、誰かから嫌な事を言われてる、という事で正解かな」

 影から返ってくるのは、無言だが、確かな動揺を感じさせる空気。

「馬鹿だね、セイは。私なら、簡単にそんな奴らは黙らせられるのに」

「……それを理解しているから、セイさんは成長を願うのでは?」

「殿下も女心がわからない方ですわ」

 ゆらり、と影が揺れて、黒髪を持つ男女がユナフォードの両側へ姿を現す。

「私を愚か者にはさせてくれないらしいね、セイは」

「……ご冗談を」

「いざとなれば、セイ様を切り捨てられるお方ですのに」

 自嘲じみたユナフォードの呟きに、両側からは打てば響く返答が二つ。性別の違いはあれど、良く似た微笑み共に。

「…………そうだね、私はいざとなれば、セイを切り捨てられるだろう」



 ――そして静かに壊れていくんだろう。誰にも気付かれず。



 ユナフォードの口内で呟かれた言葉は、本人の耳にすら届かず、消えていく。

 両側から、いつの間にか姿を消した影達のように……。


ユナ様が星を失ったもしもを語ってますが、みんなそれぞれな反応をすると思います。

一番駄目になるのはノウル。

外側から分からず壊れていくのがユナ。

意外と逞しく思い出と生きていけそうなのが、シウォーグ。なイメージで書いてます。

次話から、星は妖精姫の世話役編です。マイペース更新となりますのが、よろしくお願いいたします。

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