巻き込まれ少女、活動中。幕間,成長する少女
サブタイトルは、悩む王子(笑)
タグにエセシリアスとか入れようか悩み中です。
星は成長しようと足掻いています。妖精の姫との出会いが、どう星へ変化を与えるか……。
誤字、脱字ありましたら、よろしくお願いいたします。
感想いただけると嬉しいです。
幕間,成長する少女。
星がシルヴィーアとレノーラ、二人から学ぶようになってから、少し経った頃――。
ちょうど、星がノウルと書斎で話していた次の日、星をダンス教師に預けたレノーラは、
「また来たのですか?」
そんな言葉と共に呆れた表情で、甥にあたるユナフォードを城内にある自室へ迎えていた。
「……私は、セイがここに来るようになってから、初めて来たと思いますが、姉上」
「いつも通り、姉様で構わないです。――あと、わたしは馬鹿では無いのです。影に気付かないとでも?」
「敵いませんね、レノーラ姉様には。……控えていろ」
貼りつけたような笑顔で誤魔化そうとするユナフォードを一刀両断し、レノーラはシルヴィーアと似た面へ冷ややかな笑みを浮かべて見せる。
肩を竦めたユナフォードは、ヒラと手を振り、影を下がらせる。
「セイは、今何を習ってるのですか?」
ノウルが敵わない女傑は、ユナフォードでも敵わないらしく、口調は丁寧で、緊張感がある。
「本人に訊けば良いでしょう?」
「……最近、避けられてます。レノーラ姉様の入れ知恵では?」
珍しくキラキラとしたオーラを減らしている甥からの恨み言のような言葉に、レノーラは訝しげな表情を浮かべる。
「わたしは、そんな事は言わないです。確かに他人の目がある所では、やたらとあなた達をくっつけさせないようにしなさい、ぐらいは言いましたが……」
「くっつけさせる……、まあ、そう言われても仕方はないですが……」
「やはり、ユナフォードは確信犯ですか。セイの立場は微妙なのですから、自重して欲しいものですね」
「シウォーグは無自覚ですし、ノウルに至っては本能的ですらありますからね」
「分かっているのでしたら、止める側に回って欲しいものですが……」
「すみません、久々と言うか、初めてだったからかも知れません。誰かへ触れて、この腕へと閉じ込めたいと、思ってしまうなんて……」
「……次からは気をつけて行動しなさい」
シュンとした表情で、素直な内心を吐露され、レノーラは手のかかる、と言わんばかりの表情を浮かべ、やんわりと釘を刺す。
大切な姉の息子であるユナフォードは、レノーラにとって年の離れた弟のようなものだ。実際、異母兄弟は、レノーラを叔母ではなく、姉と呼んで慕っている。
「……話は戻りますが、レノーラ姉様は、本当にセイへは私に話したような事を伝えては?」
「セイには、最低限のマナーや、城の中での振る舞い方しか教えてません。それで、もしセイがあなたやシウォーグを避けるのでしたら、それは何か思う事があっての事でしょう」
レノーラは、星へ他にも教えている――歴史や、聖獣に関して、ましてや基礎的な魔術の事など口にせず、静かな口調で答える。
「……レノーラ姉様に、腹芸では勝てそうもありませんね」
「あら、あなたには負けますよ?」
うふふ、と可愛らしく口元を覆いながら笑みを含んだ声で返してくるレノーラに、ユナフォードは降参とばかりに手を挙げる。
「師に勝つには、私はまだ力不足のようです」
「人聞きが悪いです、ユナフォード。まあ、自分の非を認めた事は、評価しましょう。……そう言えば、愛し子の方は、サマンサがついているだけあって、マナーも対応も完璧なようですね」
悪戯っぽく笑うユナフォードに、レノーラはわざとらしい口調で告げると、立ち上がりながら、唐突な話題転換をはかる。
「ええ、彼女は突っ込む必要がない程、完璧に『世界の愛し子』をしていますね」
「突っ込み所がなくて、残念みたいな言い方ですよ?」
「残念……と言うより、不思議ですかね」
ユナフォードは言葉を濁すと、顎に手を宛てて言葉を探す様子を見せながら、ポツリと呟く。
「不思議ですか? わたしは直接会ってはいませんが、貴族の評価は良いですよ? 騎士や兵士は、何処か遠巻きで見ているような雰囲気ですが……」
珍しくユナフォードが言い淀む様子を見ると、レノーラは怪訝そうな表情で、自らが耳にした愛し子像を口にする。
「騎士や兵士には、セイの方が顔馴染みでしょうから。あとは、侍女達も妹が出来たようだ、と可愛がっているようで」
「想像が出来ますね。で、不思議とは?」
はぐらかすばかりでハッキリと答えないユナフォードを、レノーラは真っ直ぐ見つめて、直球で問いかける。
「出来が良くて困る、というのもおかしいのですが、愛し子は崇め奉られる事に慣れ過ぎている気がして、違和感が拭えない感じが……」
そんなレノーラに、ユナフォードは困ったような表情を浮かべると、常の自信に溢れた台詞とは違う、若干の迷いを滲ませた台詞を口にする。それは、幼い頃から、教え導いてくれたレノーラしかいない、その状況でなければ出ない台詞だった。
「セイは、そんな所を堂々としていて、憧れているらしいですが……」
「堂々としている。確かにそうですね……」
「それに、計算高いと言う話ですね。つまり、頭の回転が早いんでしょう」
「まあ、良く言えば、ですが。……見た目は完璧な聖女ですし、私がセイ贔屓な為、粗が気になるのかも知れません」
「セイの方も、マナーの授業中など、二言目には『シオリさんなら』と口にする事が多いです。セイも、吃りさえしなければ、貴族の子女といっても差し支えないのですが」
「吃るのが、可愛いんですよ。私の名前を発音出来ない所とか、庇護欲を……」
「それは、本人に言わない方が良いでしょう。確実に怒られますよ? しばらく無視されてしまうかも知れませんね」
「気をつけます。しかし、セイと比べれば比べる程、愛し子は出来が良過ぎる。まるで、もともと王族だったように」
「そして、劣って見えてしまうセイは、嘲りを受けてしまう。ですが、わたしと姉様の授業を受けたからには、セイを嘲る貴族は減るでしょう」
「だと良いですが。……で、結局、セイは今何を?」
「今はパートナーをつけて、ダンスレッスン中ですから、わたしは、そろそろ戻ります。――あなたは、この機会に、少しでも、愛し子を知ってみたら良いのです。あなたの大好きなセイの憧れ、ですよ?」
スタスタと歩き出し、会話を終了させたレノーラは、扉が閉まる直前、忠告めいた言葉を残し、そのまま振り返る事無く去っていく。
「レノーラ姉様には敵わないな、相変わらず、痛い所を……。愛し子を知れば、聖獣との相性の悪さも、解消されると思うか?」
部屋に残されたユナフォードは、苦笑混じりで呟いてから、首を傾げて影へと向かい、問いかける。
「……さあ。少なくとも、セイさんが、怯える理由は分かるのでは?」
「そう言えば、レノーラ姉様にも、話してはいないみたいだね。愛し子と会う事に怯える理由を……」
なら知る価値はあるか、と冷えた声音で呟くと、ユナフォードはゆっくりと立ち上がり、部屋を後にしようとする。と、不意に動きを止め、影を振り返る。
「セイのダンスはどうだった? 転んだり、相手の足を踏んだりは? パートナーは、レノーラ姉様の事だから、きちんと愛し子派ではない相手を選んでいるだろうね?」
先程の冷えた声音を忘れる程の、熱のこもった言葉を吐き出し続けるユナフォードに、影がゆら、と揺れる。
最近星に会えないせいか鬱憤が溜まっているらしい上司に呆れ……ている訳では無さそうだが、影からは答えはなく、冷え冷えとした空気が漂ってくる。
「……どうした? 答えろ?」
表情を消した美しい面から短く吐き出されるのは、抗う事を許されない、絶対の命令。だが、影から返って来たのは……。
「……セイさんが、言わない事を、私が言う訳にはいきません」
「マオ、そこは素直に、愛し子派では無かったです、だけで良いですわ」
「……では、それで」
「セイ様は、転んだりはされてましたけど、お怪我はないですわ! 失礼いたします!」
一度も影から姿を現す事無く、騒がしく影の中から声だけが答え、気配は完全に消えてしまう。
「……つまり、パートナーは愛し子派ではないが、セイが隠したくなるような害を与える人物? レノーラ姉様の選んだ相手が? とりあえず、レノーラ姉様に相手の名前を聞き出さないといけないかな」
ニコリ、とゾッとする程の美しい笑顔を口元へ漂わせて呟くと、ユナフォードはゆっくりとした足取りで歩き出す。
「セイが避けている理由も、もしかして同じかな?」
だとしたら……。
自らの内側へと呟きを落とし、ユナフォードは沈黙した影へとチラリと一瞥をくれる。
「マオ、良い部下を育てたものだね」
独り言のようなユナフォードの呟きに、その背後ではゆら、と影の中で琥珀の光が、応えるよう揺れている。
「……と言うか、最初からジーンに報告させればバレなかったと思わないのかな?」
さすが一国の王子だけあり、すぐに平常心を取り戻したユナフォードは、苦笑混じりで影へと問いかける。
「…………確かに」
ああ、と言わんばかりの間の後、短い、だが実感のこもった呟きが影から洩れ、追いかけるように女性の笑い声が聞こえる。それは、すぐ聞こえなくなり、ユナフォードの笑いを誘う。
「君達も、すっかり人間臭くなったものだね」
ふふ、と一人笑いながら、ユナフォードは変化をもたらしたであろう少女を想い出し、視線を中空へさ迷わせる。
「良い変化なのか、悪い変化なのか……」
ここにシルヴィーアかレノーラがいたら突っ込むであろう。
『影が変わったと言うのなら、それはあなたが変わったからです』と。
幸か不幸か、ユナフォードの呟きを聞く者は誰もいず、ただ一定のリズムを刻む足音が、冷たい石の床に響いていた。
●
レノーラから星のダンスパートナーを聞き出そうと画策していたユナフォードは、勢い良く自室の扉を叩く音に、たまたま遊びに来ていたシウォーグへと目配せする
その間も、扉は叩かれ続け、そろそろ打ち破られそうな勢いだ。
「誰だ?」
兄を庇うように一歩前へと踏み出したシウォーグが、低く誰何の声を上げる。
『騎士団長ゴードンでございます! 火急、お知らせしたい事がございます!』
「……入りなさい」
扉越しでも分かる切羽詰まった声に、ユナフォードは悩む様子もなく入室の許可を出す。
間髪を置かず、部屋へと入ってきたゴードンは、イケメン寄りではあるが強面な顔を、焦燥で染めている。その背後には、ゴードンと同じく焦った顔を隠せていないアランが控えている。
「お寛ぎのところ、申し訳ございません」
「前置きはいらない。一体どうした?」
恐縮するゴードンに、シウォーグは真剣な表情で先を促す。
「アラン、お前から話せ」
「はい! 先程、誘拐犯を捕まえたので、連行するのを手伝って欲しいとの連絡をいただいたのですが、その被害者に問題が……」
ゴードンから振られたアランは、ビシッと背筋を伸ばしてハキハキと答えるが、被害者の部分で言葉を探すように視線をさ迷わせる。
「被害者にどんな問題があるんだよ?」
「あ、はい。連絡をくださった方によると、被害者は妖精族の姫だと名乗っているらしいです」
「それは、またとんでもない騒動の種が落ちていたものだね」
「はい。私では判断がつかない為、殿下へお伺いをたてようと参りました」
シウォーグの言葉へアランが答え、ユナフォードの言葉には重々しくゴードンが応じる。
「私の方から、すぐ陛下へ話を通そう。……しかし、素朴な疑問だけど、本当に妖精族の姫だとしたら、良く会話が成立したね。向こうは妖精言語だろう?」
事情が分かると、ユナフォードの行動は早く、早速部屋を後にしようとするが、ふと抱いた疑問を口にし、ゴードンとアランを振り返る。
ゴードンはガシガシと髪を掻き乱しながら、逆の手でアランの背中を叩いて促す。
「あの……っ、連絡してきたのは、セイさんなんです!」
アランがそう声を発した瞬間、部屋の空気が凍りつく。
一瞬遅れ、ブホッと盛大に咳き込むシウォーグ。
ユナフォードは貼りつけたような笑顔を維持したまま、アランを見つめる。
「へぇ、セイはずいぶん君を頼りにしてるんだね」
「そうでしたら、嬉しいですが……」
ユナフォードの微妙な雰囲気に気付かず、アランは無邪気な様子でニコリと人懐こい笑みを溢して答える。
「……っ、たく、どうやったら、こんなに巻き込まれるんだよ」
やっと咳き込んだ状態から復活したシウォーグは、低く唸るような言葉を洩らし、苛立たしげに金茶の髪をガシガシと掻きむしっている。
「あの方は、根っからの巻き込まれ体質なんでしょうね。……とりあえず、私が向かい、犯人を確保しておきます」
強面な顔で柔らかく苦笑して言うゴードンは、すぐに表情を引き締め、これからの行動を提案する。
「団長、おれ……ではなく、わたしも行きます!」
誰よりも早く反応したのはアランで、ブンブンと尻尾を振らんばかりの表情で力強くゴードンへ訴える。
「あ、ああ、そうだな。アランと、もう二人、兵士から連れて行こう。犯人がまだいる可能性もある」
常なら即答するゴードンだが、何故か一瞬言い淀み、チラリとユナフォードを窺う。
「頼んだよ?」
美しい微笑みと共に、ユナフォードの唇から吐かれる言葉。
アランは大きく頷いて見せてから、少しだけ首を傾げる。
「ユナフォード殿下?」
「何でもないよ。ゴードンも、姫を頼んだよ」
「……はい、心して。無礼のないよう、お連れいたします」
アランの素直な感情を映し出す呼び掛けをサラリと流し、ユナフォードは笑顔で本心を押し隠すと、そのままゴードンとアランを見送る。
「あの子は、成長しようとしてるんだね。甘やかすだけの腕から逃れて……」
二人の背中を見送り、ユナフォードは伏し目がちに呟きながら、飾り棚の方へチラリと視線を向ける。
そこにあるのは、星がお土産にと持ってきた、白い花冠だ。部屋の一番目立つ場所へ飾られている。
「兄上?」
「……もう少し、冷静に切り離せると思っていたんだけどね」
シウォーグの怪訝そうな視線を無視し、ユナフォードは誰にもなく自嘲気味に洩らす。
「私も人の子か……。シウォーグ、私は陛下へ話を通してくるから、レノーラ姉様へ連絡を」
台詞の前半を口内で押し込めると、ユナフォードはすぐに気を取り直し、キラキラとした微笑みと共に、戸惑っている異母弟へとハキハキと指示を出す。
「あの子が成長したいと言うのなら、見守るのが私の役目だろう?」
「……話が見えないんだが」
「私は、あの子に頼られたいんだけどね」
「独り言なんだよな?」
「何を言ってるんだい? さあ、早くレノーラ姉様の所へ頼んだよ?」
「……ああ、行ってくる」
ズレまくった会話を終え、何処か疲れた様子で頷いたシウォーグは、ガシガシと髪を掻きながら、早足で部屋を後にする。
残されたユナフォードは、
「本当に何を言ってるんだろうね」
一人、笑顔で呟いて歩き出す。
「牽制に決まってるじゃないか」
ふふ、と洩らされたユナフォードの楽しげな笑い声を聞いていたのは、背後へ付き従う影のみだった。
次は妖精の姫が暴れます(笑)




