巻き込まれ少女、活動中。5,未知との遭遇 3
やっと、未知と遭遇出来ました。
誤字、脱字ありましたら、そっと教えてください。
感想、評価、よろしくお願いいたします。
「じゃあ、私とリリアは、ここで花を摘んで、果物探してるから」
「ああ、俺達は適当に狩ってくるな……ウサギ以外で」
森へと辿り着いた一行は、女子組と男組へと別れ、それぞれの分担を確認してから、作業へ移る。
ウサギ以外で、と告げるロイドの目は、何故か怯えたように泳ぎまくっている。
その目がチラチラと窺うのは、星の胸に可愛らしく甘えているラビの姿だ。
「ロイド兄ちゃん、ウサギは何でダメなんだよ?」
「ラディ、大人には色々あるんだよ。ほら、行こう?」
無邪気に尋ねるラディを、ユトはゆったりと微笑んで制し、弓矢を確認してから森の奥へと進んでいく。その際、ラディを連れていく事も忘れない。
「……じゃあ、行ってくるぜ。何かあったら、大声で叫んでくれ。すぐに駆けつけるからな」
「うん、ロイドさんも気をつけて。ラディとユトも、気をつけてね?」
「お兄ちゃん、無茶しないでね!」
並んでロイドから頭を撫でられた星とリリアは、仲良く手を振って、ロイド達を見送る。
ロイドは心配そうだったが、実際、こちらには銀獅子とラビがいるので、戦力的には全く不安はなく、星とリリアは、仲良く花を摘んでいく。
持ってきた籠が花で溢れ返るまで、あまり時間はかからず、せっかくだから、と星はレイチェルに習った保存の為の魔術を披露する。
「セイお姉ちゃん、すごい!」
「まだこれだけしか出来ないけど、いつかは、自分の身ぐらい守れるようになりたいなって、習ってるの」
リリアの素直な賛辞に、星は苦笑じみた表情を浮かべて呟き、瞳を伏せて手の中で、花をクルクルと弄ぶ。
「セイお姉ちゃんには、ノウル様がいるから、大丈夫だよ!」
王子様を夢見る少女らしく、リリアは茶色の目をキラキラと輝かせて熱弁する。
「うーん、今はそうだけど……。それに、いくらノウルでも、瞬間移動は出来ないからね」
リリアの頭を優しく撫でながら、星はここではない何処かを見つめるよう、視線を中空へさ迷わせる。
「ノウル様だったら、空飛んで、セイお姉ちゃんを助けに来るもん!」
このまま、何処かへ行ってしまいそうな星の雰囲気に、リリアは声を上擦らせながら、細い腕を星の体へ巻き付かせる。
「……うん、ノウルなら、やれそうだね」
リリアの言葉を、シパシパと瞬きを繰り返していた星は、やがて、ふにゃ、と気の抜けた笑みを浮かべ、笑い混じりで同意する。
「ノウル様は、さいきょーなんだから、大丈夫だよ、セイお姉ちゃん!」
「そうだった。ノウルはこの国最強の魔術師だもんね」
不安そうなリリアを抱き締めて安心させると、星はごめんね、と柔らかく付け足す。
「お花は十分かな。今度は果物探そうか。ラビ、お手伝い頼める?」
星の依頼に、ラビは任せとけ、と言わんばかりの表情を浮かべて胸を反らせると、跨がっている獅子の鬣を引っ張り、一つの方向を指して見せる。
「ラビ、あっちなんだね」
「行こ、セイお姉ちゃん!」
仲良く手を繋いだ星とリリアは、ラビが示した方向へと並んで歩き出す。
花が満載された籠は、ラビがいなくなった獅子の背中に、乗せられている。
ホームグラウンドとも言える森の中の為、ラビは生き生きとした様子で、ピョンピョンと跳ねて二人を先導していく。
「ラビには森が似合うね」
「うん! 似合う!」
星とリリアの会話が聞こえたのか、ラビはチラリと振り返り、小さくドヤ顔を浮かべると、二人の歩調に合わせる為か、てぽてぽと二足歩行へ移行する。
数分程歩いて辿り着いたのは、綺麗な水が流れる川辺で、周囲の茂みには、真っ赤な木苺がたわわに実っている。少し離れた木には、小振りなブドウが生り、どちらも甘い匂いをさせている。
ここは穴場らしく、森の動物達の気配はするが、最近、人間が踏み入った気配はない。
「うわぁ、たくさん生ってるよ、セイお姉ちゃん!」
「うん、そうだね。必要な分だけ、分けてもらおっか?」
「全部、採っちゃだめなの?」
たくさんの果実に興奮していたリリアは、星の提案を聞くと、シュンとした様子で首を傾げている。
「私達が全部採っちゃったら、森の動物達が困るから駄目だよ。採るのは、必要な分だけ」
そんなリリアを見ながら、星は小さく首を振り、柔らかく微笑んで、優しく言い含める。
「そっか、そうだね……ちょっとだけ、分けてください!」
「リリアは良い子だね。……私にも、分けてくださいな!」
素直で聞き分けの良いリリアは、星の言葉に大きく頷くと、周囲の森へと向けて可愛らしく声を張り上げる。
それを見て柔らかく黒目がちの瞳を細めて呟いた星も、リリアをならい、控えめだがしっかりと声を出す。
その後、顔を見合わせて笑った二人は、早速、熟れた木苺へと手を伸ばしていく。
「しっかり熟してるね」
「あまーい、匂いがするよ?」
「ちょっとだけ、味見しちゃおっか?」
「うん! んー、あまずっぱい〜」
「ん、本当だ。甘酸っぱくて美味しい」
「セイお姉ちゃん、ジャム作って!」
「そうだね、作ろうか」
「わーい、楽しみ!」
小鳥の鳴き声と、水が流れる音だけする静かな森に、二人分の無邪気な声が響いていく。
そんな二人を、傍らで花籠を背に乗せた獅子と、いつの間にかブドウを食べているラビが、微笑ましげに見守っていた。
小一時間経過し、用意してきた袋を木苺とブドウでいっぱいにした星とリリアは、帰り支度を始めていた。
まだまだ陽は高いが、夜が近づけば近づく程、危険な動物と遭遇してしまう可能性は高まるからだ。
「じゃあ……え?」
行こう、と言いかけた星は、川の向こうでガサガサと揺れた茂みに、大きく肩を揺らす。
「お兄ちゃん達かな?」
不安そうな表情を浮かべて小声で呟くリリアを、守るように星が抱き締める。
やがて、ガサガサと茂みを掻き分けて現れたのは、白い麻袋を背負った、体格の良い一人の男性だ。見た目で判断するなら、善人には見えない。
「……っ、こんな所にガキか?!」
いきなり怒鳴りつけられ、星とリリアは、寄り添ったまま、恐怖で震えてしまう。
「おいっ! 大人は一緒なのか!」
星は震えながらも、リリアを背後に庇い、ゆっくりと首を横に振る。
「……とりあえずは大丈夫か。こんなガキ二人なら、問題はないぜ」
男性の視界には、星達から少し離れた位置にいる獅子は見えていないらしい。見えていたなら、対応は変わっただろう。
一人でブツブツと呟く男性から目を離せず、星は瞬きせず、男性の動きを見つめている。
その時だった。
【何話してるのよーっ! ワタシを離しなさーい!
ワタシを誰だと思ってるの!?】
男性の背負った麻袋が動き出し、そこから不思議な言葉が聞こえてくる。
竜言語とは違うが、竜言語を聞いた時と同じように耳へと届く言葉。まるで、小鳥の鳴き声を思わせる響きの言葉に、星は首を傾げる。
「煩い! 何言ってんだかわかんねぇんだよ!」
やはり、あの言葉らしきものは麻袋の中から聞こえたらしい。男性が怒鳴りつけると、麻袋はピタリと動かなくなる。
「……セイお姉ちゃん、あの人、小鳥さんでも捕まえたのかな?」
「……離しなさい、とか、喋ってなかった?」
「小鳥さんの鳴き声しかしなかったよ?」
「そっか」
小声でリリアと会話し、星は目前の男性を、悪人だと確信する。
異世界へ来る際に貰った特殊能力を、星はノウルから説明されていた。
どんな言語でも、自分に理解出来るよう翻訳。かつ、その言語で書き記す事も可能にする完全翻訳。
『世界の愛し子』である詩織と比べたら地味な能力だが、本好きな自分にはピッタリだと星は思っていた。
最近、雨の竜である時雨との出会いで、聞いたり喋ったりする事も可能だと判明していたが……。
「あれは、多分、妖精言語だよね……」
聞こえてきたのは、明らかに無理矢理捕まり、連れ去られようとしている妖精らしき叫び声。
リリアと男性には聞き取れていない事も含め、星は麻袋の中身が妖精言語を使う少女であると、ほぼ確信していた。
あとは、このままあの男性を見逃すか、どうにかして麻袋の中身を保護するか、の二択だが、戦う力のない星には前者しか選べない。しかも、今はリリアも一緒なのだ。下手を打てば、リリアにも危害が及ぶかも知れない。
せめて、ラビに追跡してもらおう、と男性が背中を向けた瞬間、星はラビを振り返るが、そこには獅子しかいない。
「ラビ?」
きょとんとして星が呟くのと、立ち去ろうとしていた男性の隣の木に、飛来した矢が突き刺さるのは同時だった。
「っ、誰だ!?」
「悪人に名乗る名はねぇよ」
大袈裟なまでに驚く男性の行く手を遮っていたのは、弓を構えて、不敵に笑うロイドだ。その足元では、いつの間にか姿を消していたラビが、くふくふ、笑っている。
「ったく、何かあったら叫べって言っただろ?」
「ロイドさん……」
叫んだら多分何かされてました、と突っ込める筈もなく、星はリリアを抱き締めて安堵から脱力している。
「で、こいつは何したんだ?」
「人拐い……じゃなくて、妖精拐いだよ、その人」
知らないのに射ったの? と思いつつ、星は見た目に反して小心者だったらしい男性を指差して説明する。
ラビが足元で笑っているのを見る限り、ラビがロイドを呼んで来たのだろう。
「へぇ、まあ、悪人に決定だな。ユト、縄持って来い」
ロイドは、弓を剣へと持ち替え、ガタガタと震えている男性から、麻袋をソッと奪い取ると、縄を持って来たユトへと預ける。自分は、そのまま手早く男性を縛り上げた。
「だ、だから、俺はこんなこと止めようって、言ったんだ。妖精に手を出して、恨まれたりしたら……」
地面を見つめてブツブツと呟いている男性をユトへ任せ、ロイドはズボンの裾を捲り上げると、ザバザバと川を渡って、最短距離で星とリリアの元へとやって来る。
「セイ、リリア、怪我は? 怖かったか?」
「大丈夫、怪我もないよ」
「あたしも、セイお姉ちゃんがいたから大丈夫、怖くなかったよ」
ねー? と気丈にも顔を見合わせて笑い合う星とリリアに、ロイドは、ガバッと勢い良く腕を広げ、二人まとめて抱き締める。
「……無事で良かった」
ロイドの万感の思いを込めた囁きに、星とリリアは一瞬視線を交わすと、揃ってロイドを抱き締め返した。
残されたユトの元には、ラディが現れ、ブツブツと呟き続ける男性を気色悪そうに見やっているが、
「ロイド兄ちゃん、袋が何か言ってんだけど……」
その男性を見張っているユトから麻袋を受け取ったラディは、怖々といった様子でロイドへ訴える。
「あ、妖精さん、出してあげないと……!」
ラディの言葉に、妖精の存在を思い出した星は、慌てた様子で、抱き締め返していたロイドの背をペチペチと叩く。
「ラディ、そのまま持ってろ。俺が出す」
素早く反応したロイドは、星とリリアを両腕に抱えて立ち上がり、再びザバザバと川を渡る。
星とリリアを、ブツブツ言っている男性から離れた場所へ下ろし、ロイドはラディから麻袋を受け取る。
「セイ、誰か騎士か兵士に連絡取れるか?」
「うん、騎士なら連絡取れるよ。この人を回収してもらうんだね」
麻袋を慎重に運びながら、ロイドは星を見ずにそう声をかける。
ロイドの言葉に、星はコクリと頷いて答えると、即座に通信用魔具へ手をかけ、信頼の置ける騎士である、赤毛のワンコな騎士へと連絡を取る。
「ああ、頼むな。……じゃあ、開けるぞ?」
通信用魔具で話している星の姿を横目に、ロイドは麻袋の口を塞いでいた紐を一気に解く。
すると、勢い良く飛び出してきたのは――。
【よくもやってくれたわね! ワタシを誰だと思ってるの!?】
星の想像した通り、妖精の少女だった。
緑の髪に、金色の瞳。キラキラと輝く透明な羽根で、宙へと浮かんでいる。
麻袋の大きさから想像は出来ていたが、妖精は身長三十センチ程で、まるで精巧な人形を思わせた。
「……綺麗」
「可愛いね、セイお姉ちゃん!」
通信用魔具で話していた事も忘れ、ポツリと呟く星に、リリアが力一杯同意する。
「あー、セイ、騎士に妖精の保護も頼めるか?」
言葉は分からないが、怒り狂っているらしい妖精の少女をチラチラと見ながら、ロイドは面倒臭さを隠せず、苦笑混じりで言う。いくら面倒見が良くても、さすがに妖精までは扱いきれないらしい。
「うん、頼んでみる。――アラン君、あの、犯人の他に、妖精さんが一緒にいて、保護を頼みたいんだけど……。そう、妖精さん。お人形みたいな子」
通信用魔具の向こうにいる騎士へと呼びかけながら、星は妖精の少女をチラチラと窺う。
言葉は通じていないが、妖精の少女は、ラディとリリア兄妹と仲良くなったらしい。
リリアは、先程採ったばかりの木苺を妖精の少女へと差し出している。
その様子を微笑ましく見つめ、星は戸惑っているアランの方へと意識を戻そうとするが……。
【もっと丁重に扱いなさい! ワタシは妖精族の姫、ティルファーナよ! あなた達みたいな、普通の人間とは違うのよ!】
聞き流せない内容を聞き取り、星は油が切れた機械のような動きになりながら、未だに戸惑っているアランへ、更なる爆弾にしかならない言葉を、力無く伝える。
「えーと、妖精さんは、妖精族の姫らしいので、どうにか、王族の方々に連絡お願いします」
驚きからか、通話相手は息を呑んだ音を最後に、無言になってしまう。
星はため息を吐き、喚き続けている妖精族の姫を名乗る少女を、黒目がちの瞳で見つめる。
【姫様、迎えを呼びましたので、お静まりください。あまりお騒ぎになりますと、危険な獣や、この男性の仲間も集まってしまいます】
とりあえず、落ち着かせようと、星はゆっくりとした口調を心掛けて話しかける。シルヴィーアとレノーラとの勉強により、星もこれぐらいなら、どもらず口に出せるようになっていた。
【あら、あなた人間のクセに、ワタシ達の言葉が話せるのね。気に入ったわ】
【ありがとうございます。私は、星、と申します】
【セイ、ね。覚えといてあげても良いわ】
ツンと顔を反らし、絵に描いたような偉ぶり方をする妖精族の姫に、星は僅かに口の端を上げて、淑女の礼を返す。
【光栄です】
表情は何とか微笑んでいたが、内心で星はため息を吐いていた。
そんな星の内心を知る由もなく、妖精族の姫は無邪気な様子で、リリアが差し出す木苺を、美味しそうに頬張っていた。
天真爛漫なワガママ姫の登場でした。
これで、章を変えます。幕間を入れるか悩んでます。詩織さん、全く出番がなかったので、話題がない……。




