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巻き込まれ少女、活動中。5,未知との遭遇 1

感想で意見をいただきましたが、私は私らしく行きたいと思います。タグにも書いてありますので、苦手だな、という方は回避をお願いします。

私は、主人公愛され派なので、よろしくお願いいたします。

これは、かなり緩いファンタジーのつもりなので、真面目な突っ込みを頂くと、ちょっと困ります。お目こぼしいただけると、幸いです。

誤字、脱字は、こっそり教えてください。

長々と前書きで失礼しました。


2月4日修正しました。

5,未知との遭遇




 ――謁見の間。

「あの、アル様、ヴィア様、お土産です」

 淑女の礼を披露してから、緊張した面持ちの星が差し出したのは、森の中で作っていた、あの白い花冠だ。

「ありがとう。珍しい花だね」

「ありがとうございます、魔術の気配もしますね」

 国王夫妻は、嬉しそうな様子でそれぞれ星から花冠を受け取り、礼を口にしながら、しげしげと眺めている。

「それは、雨の竜さんの影響で咲いた花、みたいです。魔術の気配は、私がレイチェルさんに習って、枯れないように、魔術を使ったからです」

 国王夫妻の反応を確かめるようチラチラと窺いつつ、星はつっかえつっかえお土産の説明をする。

「せっかくだから、部屋に飾らせてもらおうか」

「そうですね」

 ふふ、と笑顔を交わした国王夫妻は、侍女へ持っていた花冠を渡す。

 侍女が消えると、ユナフォードとシウォーグ、それと赤みがかった金髪の美女が、謁見の間へ入ってくる。

 ちなみに、星の背後には彫像のようにノウルが無言で立っている。

「レノーラ、参りました」

 王子であるユナフォードとシウォーグは、国王夫妻の隣へ、赤みがかった金髪を持つ、レノーラと名乗った美女は、優雅な淑女の礼を披露して、星の隣へ立つ。

「よく来てくれた、レノーラ。セイ、自己紹介をしなさい」

 アルファンに呼ばれ、固まっていた星は慌てた様子で、レノーラへぎこちなく一礼する。レノーラへ感じる既視感が、余計星の動きを固くさせる。それでも、星はゆっくりと口を開いた。

「あの、私は、星・柊と申します」

「わたしはレノーラと申します。あなたは、巻き込まれの方で間違いないですか?」

「はい、そうです」

 眼鏡をかけ、何処か研究者を思わせる雰囲気のレノーラから問われ、星はコクリと頷くと、物言いたげな瞳をレノーラへと向ける。

「では、証拠を。住んでいた国は?」

「え、日本、ですけど……」

「では、文字はカンジですね。この紙に、フルネームをカンジでお願いします」

「え、あ、はい。これで、ひいらぎ、せい、です」

 唐突な展開だが、レノーラの真っ直ぐな視線に射止められ、星は戸惑う暇もなくレノーラの指示へ従っていく。差し出された紙の上では、淀みなく『柊星』という文字が書かれている。

「……合っているようですね。では、このカンジの意味を説明できますか?」

「意味、なら、柊は木の種類で、名前は、ほし、と読んで、空に輝く、あの星です。……あの、今さら、このやり取りをする意味はあるの……ですか?」

 一文字ずつ自らの名前を説明した星は、出てきてしまった素の口調を押し込め、黒目がちの瞳でレノーラを窺う。星の足元では、ラビが苛立たしげな様子で、ダンダンと地面を踏み鳴らしている。

「……愛し子が、貴族達の前で、巻き込まれと面識がないと公言してしまったんだよ」

「……え?」

「ついに言ったか」

 苦笑混じりのユナフォードの台詞を聞き、星は目を見張って固まり、ノウルは吐息と共に言葉を吐き出す。

「おかげで叔父上を始め、愛し子派の貴族達が騒いでいてね。タイミング悪く、シウォーグも、初対面ではセイの顔を見ていない事が、神官の方からバレてしまっていたんだ」

「……ああ、だから、私が偽者っていう可能性があるから。詩織さんも面識がないなら、誰も本物の巻き込まれかなんて分からないし……で、合って、ますか?」

「馬鹿ではないようで、何よりです。殿下達が猫可愛がりしているらしいので、ただの小動物かと思っていました」

 レノーラはニッコリと笑うと、星の顎をクイッと持ち上げ、観察するかのような視線を向けながら、一歩間違えば悪口にしかならない感想を洩らす。

「……レノーラ、あまりセイをいじめないでください」

「シルヴィーア姉様、これはいじめではありません。観察結果です」

「きみの背後にいる狭量な男が、いつ怒鳴るか、私達はハラハラしてるんだが……」

「そんな小さい男は、放置しましょう。本人も気にしていないんです」

 国王夫妻からのやんわりとした訴えを、レノーラは一刀両断して、瞬きを忘れている星の瞳を覗き込む。

「……胃が痛くなってきた」

 ボソリと呟くシウォーグの肩を、ユナフォードが無言で優しく叩いている。

「セイ、ヒイラギ、どちらで呼べば良いですか?」

「……あ、セイで、お願いします。あなたは……」

「レノーラと呼んでください、セイ。ちなみに、シルヴィーア姉様の妹です」

「レノーラ、様? そっか、だから見覚えがあるんだ」

 確認のため、レノーラの名前を呼んだ星は、相手の顔を見つめながら、口内で納得の声を洩らす。

「人見知り、と聞いてましたが、きちんとわたしを見ていますね」

 完全に研究対象を見るような目と感想を向けられ、星はゆっくりと黒目がちの瞳を瞬かせる。

「おい……」

「駄目だ、ノウル。これは、セイの為に必要な事だよ」

 不機嫌な低音を洩らしたノウルを、ユナフォードは貼りつけたような笑顔でたしなめる。

「……目を離してしまったら、相手が何を考えてるか、分からなくなりそう、で、目が離せない、です」

「つまり、人見知り故の観察ですね。納得しました」

「あと、年上の女性は、比較的大丈夫、なの……じゃなくて、です。一番、苦手なのは、同年代の女の子、です」

 顎を掴まれたまま、星は喋り難いのか、瞬きを繰り返して、おずおずと答える。

「……同年代となると、愛し子も?」

「実際、元の世界では接点がなかった、です。詩織さんの方からは、たまに話しかけて、くれたけど……です。多分、一人で本を読んでる、私が気になったんだと。詩織さんは、そういう人だから」

「……初めて聞いたな」

「ノウルが聞かなかったからだよ。私が、詩織さんを憧れだった、って言ったら、怖い顔してたし……」

 口を挟んできたノウルへ、星は困ったような表情で答え、顎を捕まれたまま、後ろを見ようとして諦める。

 そこで、レノーラはやっと星の顎から手を離し、板に貼りつけられた紙を差し出す。

「確かに、彼女はそのようなタイプに見えます。……愛し子の名前も、ここへ書いてください。勿論、カンジで」

「はい。――詩織さんは、いつも誰かに囲まれてて、いつも笑顔なんです。いつも、笑顔で……」 喋りながらでも、淀みなく『詩織』と紙の上でペンを滑らせた星は、不意に言葉を途切れさせ、怯えた色を一瞬だけ瞳の中へ浮かべる。その色に気付いたのは、星が字を書く間、しがみついていたラビだけ。

「合ってます。セイは巻き込まれで、確定です。さあ、これからが本題です」

「え? 私の偽者疑惑、ついでぐらいで、大丈夫なの……ですか?」

「レノーラ姉様は身内だから、いつも通りで構わないよ」

「ユナフォード、甘やかすだけが愛ではないです。相手を思うなら、公式の場では、きちんと喋らせなさい」

「ここは、公式の場ではないでしょう」

「それは、甘やかしです。今度、わたしと姉様が色々教えましょう。セイを守る為にも」

「お願い、します。レノーラ様、シルヴィーア様」

 セイにお願いされました、と嬉しそうな様子のシルヴィーアの横では、母と似た面差しを、苦笑で染めたユナフォードがいる。

「……自分で立たせといてなんだけど、セイを表舞台に出すのは止めるべきだったかなと、思ってしまうよ」

「まあ、結局はこうなっただろ。おばう……レノーラ姉様は、兄上でも敵わないからな」

 小声で話し合う異母兄弟だったが、シウォーグの口からある単語が出そうになった瞬間、レノーラとシルヴィーアから鋭い視線が飛び、シウォーグは慌てて言い直し、ガシガシと金茶の髪を掻き乱す。

「あの、レノーラ様、本題は、一体?」

 星は不安げな様子でレノーラを見つめ問うと、よじ登って来たラビをしっかりと抱き締める。

「本題は、呪術に関してです。この国では呪術が禁止されている事は知ってますか」

「レイチェルさんから、少しだけ、聞きました。何代か前の愛し子を、呪術で操ろうとした人間がいたと……」

 もふもふなラビの後頭部へ顔を埋めながら、星は小さく声を震わせて答える。

「だいたい、その通りです。話が早くて助かります。……セイ、雨の竜と会ったそうですね」

 正解した生徒を誉めるような表情を見せたレノーラは、間を空けて表情を改めると、星を真っ直ぐ見つめて問いかける。

「うん……じゃなくて、はい。確かに、雨の竜さんは、呪術で繋がれた、そう言ってました」

 どうしても出てしまう素の口調を言い直し、星はレノーラを見つめ返し、考え込む様子で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ご本人が言われたなら、間違いはないですね。実は、わたしはこの国で唯一、呪術の研究をしています」

「呪術の研究家さん?」

「そうです」

 王妃の関係者が就くには予想外な職業に、きょとんと反芻して問う星。レノーラは、眼鏡を直しながら、力強く肯定する。

 星の腕の中では、ラビが納得したとばかりに頷いている。そんな星の背後では、そろそろ我慢の限界らしく、凶悪な顔をした美貌の魔術師がいる。

「わたくしは、レノーラが嫌悪されるから、止めて欲しいですが、王妃としては止められないのがもどかしいです」

「私も、義兄としては、止めて欲しいが、王としては止められないのは辛いね」

「止める必要はないのです。陛下、姉様。わたしは、誇りをもって、この仕事を選んだのです。大切な方を守る為に」

 義兄と姉からの心配を含んだ言葉を、レノーラは力強い笑顔で流し、自らの胸へ手を宛ててから、星へと視線を戻す。

「どうして、レノーラ様は呪術を?」

「愚問です。敵を知る為です」

 星の質問を聞いたレノーラは、あら、とばかりに瞳を細め、星を軽く睨むよう見つめる。その表情は、考えなさいと、言わんばかりだ。

「敵を、知る……あ、そっか。禁止して、誰も研究しなかったら、実際に呪術が行使された時、対策出来る人がいないって事になっちゃうから……ですか?」

「正解です。頭は考える為にあるのです。しっかりと考えなさい」

 良く出来ました、と微笑んだレノーラは、星の頭を優しく撫でてから、数枚の紙を星の目前へ差し出す。描かれているのは、それぞれ複雑な紋様だ。

「さあ、セイ。この中に、見覚えのある物はありますか? 雨の竜の体にあった筈です」

「体に……」

 レノーラに促され、星は視線を中空へ泳がせてから、紙へと視線を戻す事を数度繰り返す。やがて、恐る恐る一枚を指差し、レノーラを見やる。

「これ、です。これが、雨の竜さんの、腕に絡みつくように、描かれてました」

 星の指差した紙に、レノーラは難しい表情で頷いて見せると、再び口を開いた。

「これですか。拘束と、力の制限を主としたものですね。雨の竜は、他に何か口にされましたか?」

「え? ちょっと、待って……。あ、私も拘束されちゃうから、触るな、と。あと、お腹が空いていて、捕まってしまった、とも、言ってました」

 参考になりますか、と不安げな星に、レノーラは力強く頷いて返した。

「ええ、とても。竜ほどの力ある生き物が、どうして呪術に、と思っていましたが、隙を突かれてしまった訳ですね。それで、雨の竜は、どうやって呪術を破ったのですか?」

 眼鏡の奥で好奇心に満ちた瞳を輝かせ、レノーラは、さあ、さあ、と星を急き立てる。

「あ、あの、ご飯を……」

「まずは、空腹を解消した訳ですね。それで、自力で脱出を?」

「え、いえ、それでも、模様は薄くなっただけで、消えなくて……」

「確かに、このタイプはかなり強力ですからね。しかし、消えていないなら、脱出は叶わない筈ですが……」

「あ、はい。それで、雨の竜さんから、名前をつけて欲しい、と言われて……」

 星のこの発言に、周りで聞いていた四人から息を呑む気配がするが、すっかり教師と生徒のようになった二人は気付く事なく会話を続ける。

「つまり、相手は雨の竜の名前を知り、それを用いて呪術を行使した訳ですか。それを、セイから新たな名前を貰い、力業で打ち破った訳ですね。……参考にはなりましたが、普通の人間には難しいかもしれません」

「そう、なんですか」

「はい。まあ、相手がかなり腕の立つ呪術師だと分かっただけで、かなりの僥倖です。ご協力、ありがとうございました」

「あ、あの、少しでも、力になれて嬉しい、です」

 笑顔で感謝を述べるレノーラに、星はわたわたとしながら、ペコッと頭を下げて返した。




「レノーラと会わせたのは、正解だったね」

「セイは年上の女性には怯えないのは、分かってましたから、レノーラが適任だと思ったんです」

「……ノウルも、レノーラには敵わないからね。ノウルは、セイを硝子細工か何かと勘違いしてるんじゃないか、と思うぐらい、すぐ甘やかすからね」

「あらあら、すっかり拗ねてますね。ずいぶんと、人間臭くなって」

「昔は、ユナフォードと並んで、お人形みたいだったね」

「そうですね」

「……帰った後、セイは離してもらえるかな」

「……大丈夫です。たぶん」




 ひっそりと交わされる国王夫妻の慈しみに満ちた会話を聞いていたのは、星の腕の中で、ピンッと耳を立てているラビだけだった。

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