巻き込まれ少女、活動中。幕間,人探し(裏側)
詩織のターンの筈でしたが、気付いたらティナのターンです。ボクっ娘、大好きです。
もう、あくまでも詩織側の話を挟んでるという事で……。
誤字脱字ありましたら、そっと教えてください。感想、評価、大歓迎です。よろしくお願いいたします。
幕間,人探し(裏側)
「今日の雨乞いは中止、ですか?」
「はい」
詩織の問いに、サマンサは表情を崩す事なく頷き、詩織の前へお茶を差し出す。
「どうしてですか? まだ雨はほとんど降っていないのに……」
「昨夜、儀式の最中に、村外れで魔物が出たようで。今日は、念のため、儀式を休んで警戒したいそうです」
それでは、と深々と頭を下げ、サマンサは詩織を置いて退室する。
「騎士の皆様は、ほとんど後片付けに出てらっしゃるので、今日はお散歩行けないですね」
そう残念そうに呟き、ティナは三角の耳をパタンと倒している。
「じゃあ、今日は騎士の皆さんの為に、お料理しましょう? きっと、皆さんお腹を空かせて帰ってきますから」
パンッと両手を組み合わせた詩織は、良い事思い付いた、とばかりに弾んだ声を出す。
「それは素晴らしいです! 皆様、きっと喜ばれます!」
詩織の提案に、ティナはブンブンと尻尾を振り回しながら、ピョンピョンとその場で跳ねて言葉と共に全身で喜色を表す。
「ティナも手伝ってくれますか?」
「はい、もちろんです!」
こうして、宿泊先から出られない詩織の一日が始まる。
「えーと、人参とじゃがいもと……」
ブツブツと呟きながら、村の中を歩いていくのは、メイド服姿の犬の獣人――ティナだ。
詩織を手伝っていたティナだったが、詩織の危なっかしい手つきにより、足りなくなってしまった食材を、買い物篭を片手に一人で買い出しに来ていた。
ティナが店を探して人混みを歩いていると――。
「おい! 獣人! 人を探してる、見なかったか?」
肩で息をして駆け込んできたフィリップが、ティナを見つけ、そのままの勢いで詰め寄ってくる。
「あの、人だけだと、答えようがないですけど……」
フィリップの勢いに、ティナは若干引きつつも、フィリップの真剣な様子に、おずおずと当然な突っ込み返す。
「あ、ああ、そうだったな。探しているのは、愛し子様と同年代の少女だ。薄い青色のワンピースに、黒髪黒目で小柄。獅子と水晶ウサギを連れているらしい」
ティナのもっともな言葉に、フィリップは息を整えながら、指折り数え、探している相手の特徴を口にする。
「ボクは見かけてないです。そんな特徴的な女の子なら、見たら覚えてますし」
「そ、そうか」
首を振りながら答えたティナに、フィリップは地面へ視線を落とし、目に見えて落胆しながらも、すぐに顔を上げてティナを真っ直ぐ見つめ、言葉を繋げる。
「もしも、もしもだ! ――もしも見かけたら、アランが探していたと伝えて欲しい」
「はい、わかりました!」
フィリップの勢いに釣られ、ティナも元気良く頷くと、詩織に頼まれた買い物と、フィリップの探す少女の特徴を頭に叩き込む。
「よし、頼んだぞ!」
ティナの返事を聞き、力強く応えると、フィリップは現れた時と同様に、勢い良く駆け出していった。
――買い物を終え、フィリップの探している相手と出会う事もなく、ティナは詩織の元へと帰って来ていた。
「うん、出来ました」
「美味しそうです!」
料理を手伝っていたティナは、目をキラキラと輝かせ、詩織の手元を覗き込む。
「早く騎士様達、帰って来て欲しいです!」
待ちきれないとばかりに身悶えするティナの様子に、詩織は優しい表情を浮かべて微笑んでいる。
「……あ」
そこで、ティナは唐突に、人を探していたフィリップの事を思い出す。
「ティナ? どうかしましたか?」
「え、いえ、あの、少し出てきますね!」
訝しむ詩織に、ティナは言い淀んでから、意を決したようにグッと拳を握ると、詩織の答えも聞かず、キッチンから飛び出していく。
「まだ、手伝えるかも……」
バサバサと尻尾を揺らし、ティナが外へ向かおうとすると、そこで、良く知っている筈の相手の初めての表情を目撃する。
それは、何をするでもなく廊下へ佇み、窓ガラス越しの外を見つめているサマンサの姿。そのいつも冷静な筈の表情は、焦燥を隠しきれていなかった。
「サマンサさん?」
「……ティナ」
ティナの呼び掛けに、サマンサは驚いた様子もなく、ゆっくりと振り返る。その瞳には、隠しきれない不安のような色が浮かんでいる。
「どうしたんです?」
「いえ、あの子が…………なんでもありません」
ティナの問いに、思わず何かを言いかけたサマンサは、表情を消していつも通りの無表情へ戻り、緩く首を振る。
「あ、もしかして、サマンサさんも、フィリップ様に頼まれたんですか?」
「私は、別の方からで……」
ティナが状況を知っていると察したのか、サマンサは濁した言葉を返し、再び窓の外を見つめる。
その横顔を見て、ティナは先程の決意をさらに固め、
「ボク、フィリップさんを手伝いに行ってきます!」と、宣言し、サマンサの答えも聞かずに、外へと飛び出す。
その足取りに迷いはなく、ここぞとばかりに、犬の獣人である自身の特性を生かし、ティナはフィリップの臭いを探す。
「人が多くてわからないです……」
「おや、獣人のメイドさんなんて珍しいね」
人混みの中でティナが困っていると、そう朗らかに声をかけて来る女性が一人。どうやら、近くの雑貨屋の女主人のようだ。
「あ、こんにちは。あの……人を探してるんです。若い騎士か、黒髪黒目の小柄な少女なんですが、見ませんでしたか?」
もともと人懐こいティナは、相手がお喋り好きそうだと判断すると、笑顔で情報収集を試みる。
しかし、お喋り好きに見えた女主人は、ティナの言葉を理解した瞬間、明らかに表情を強張らせる。
「まさか、追っ手が、ここまで……?」
女主人が口内で何事か呟くのは分かったが、ティナの鋭い聴覚でも聞き取る事は出来ず、首を傾げる。
「もしかして、知ってるんですか?」
「……え、あ、すまないね。見た覚えはないよ。ここ最近、外の人が多いからね。見覚えのない顔ばかりで、個人は覚えてられないんだよ」
あはは、と誤魔化すように豪快に笑い飛ばす女主人に、ティナは不信感を抱くが、追及する術も持たない為、小さく、そうですか、と力無く答える。
その時、不意に晴れていた空が暗くなっていき、ザァッと雨が降り始める。
「おやまあ、雨乞いの効果は絶大だねえ。ほら、こっちへおいで」
昨日の比ではない降り方に、女主人はティナを自らの店の屋根の下へと引き込む。
「あ、ありがとうございます」
「雨が弱まるまで、ここにいて構わないよ」
「すみません……」
女主人の申し出に、ティナは三角の耳をペタリと倒し、ペコリと頭を下げる。
「まあ、すぐ止むだろうからね」
そう明るく告げた女主人は、ティナの為にお茶を用意し、店の奥へと引っ込んでいった。
女主人の予想は外れ、雨足は弱まること無く、一時間程降り続け、ティナが焦れて濡れ帰ろうかと悩み始める頃、降り出した時と同様、不意に雨が止む。
「やっと、止みました。……雨宿り、ありがとうございました! お茶もごちそうさまでした!」
店先から女主人へ声をかけ、ティナは急ぎ足で歩き出す。ティナの服装は走るのには向いていない。
一応、もう少しだけ。そう思いながら、ティナは早足で村の中を歩いていく。少し怖かったが、昨日魔物に襲撃された牧場の方まで、足を伸ばす。
そこでティナは、ここにいる筈のない、だが見覚えのある人物を目撃してしまう。
「……筆頭魔術師の、ノウル様?」
森の中から出て来た、銀髪に紫の瞳を持つ、すこぶる美しい最強の魔術師。魔術師の最強部隊を率い、ユナフォード殿下の片腕でもある。
現実逃避のように相手の情報を思い出していたティナは、ノウルが外套に包まれた何かを愛しげに抱えている事に気付く。
それは、ちょうど小柄な人間程の大きさで。
ティナが、まさか、と思いながら、物陰に身を隠し、様子を窺っていると、ノウルの抱えていた外套がモゾモゾと動き出す。
「雨は止んだぞ」
その柔らかな声音に、話しかけられた訳でもないティナの頬が、朱に染まる。それ程の破壊力のある声だ。
ノウルは外套に包まれた荷物を抱え直し、少し寛げて外套の中から何かを出そうとする。
「んぅ?」
それは、眠そうな声と共に、隠れていたティナの目にもしっかりと映る。
「黒髪、黒目、小柄な少女? 獅子と、水晶ウサギを、連れている……」
呆然と。フィリップから聞いた特徴を口にしながら、ティナはノウルの背後へ視線をやる。そこには、巨大な銀獅子。水晶ウサギは、少女の胸元辺りから、ヒョコリと顔を覗かせ、少女へ甘えていた。
どう見ても。誰が見たとしても、ノウルが抱えているのは、フィリップの探していた少女にしか見えなくて。ティナは、混乱する頭で考える。
もしかして、ノウル様があの子を拐った? まさか、そんな、でも。ティナは、混乱するあまり、背後に近づいていた気配へ気付けなかった。
「何をしてるんですか?」
人懐こい明るい声。聞き覚えのある声に、一瞬固まったティナは、すぐに安堵しながら振り返る。
「良かった……アラン、様?」
だが、その安堵の表情は、瞬時に固まり、ティナは困惑したように相手の名を呼ぶ。
そこにいたのは、ティナも良く知っている歳の近い騎士であるアランの筈だった。そう、確かにアランのなのだが、浮かべている表情は、ティナが初めて見る表情で。
獣人嫌いの貴族が、ティナへ侮蔑を含んだ冷たい眼差しを向けて来る事はあったが、アランの澄んだ瞳は、それよりも冷たくティナを射っている。
「ティナ? 答えは?」
いつも通り、ニコニコと笑いながら、アランが問い掛けてくる。その瞳は、キラキラと、ティナを映している。まるで、殺意のような光を帯びて。
無言でいるティナをどう思ったのか、アランはチラリとノウルの方を見やり、悩む仕草を見せる。
「ティナは友達だから、殺したくはないです。だから、早く答えて? ここにいたのは、愛し子様の指示ですか?」
夕食のメニューで悩むような軽い口調。吐かれた内容とのギャップに、ティナはぐるぐると回る思考に振り回されながらも、必死に首を横に振る。
「そうでしたか。では、どうして、こんな所へ?」
とりあえず、殺意のような光は消え、いつも通りの人懐こい笑顔を浮かべたアランは、無邪気な仕草で首を傾げる。
「フィリップ、様が、人を探していて、手伝いに……」
「ああ、それで! 驚かせて、すみません!」
途切れ途切れに話すティナから恐怖を感じとり、アランは申し訳なさそうな表情で、ペコリと頭を下げる。
「フィリップに人探しを頼んだのは、おれなんです。あの方は、事情があって、愛し子様に知られる訳にはいかなくて……」
「ああ、そうなんですか。……愛し子様の侍女であるボクがいたから、愛し子様の指示かと思っちゃったんですね」
事情が分かれば、ティナの中から恐怖は完全に消え、アランへ無邪気な笑顔を返す。
「無事に見つかって良かったです。……えぇと、つまり、愛し子様には話さない方が良いんですよね」
「はい、お願いします! フィリップには、これからおれが説明に行きますから」
犬の獣人の少女と、ワンコと例えられる少年は、揃って無邪気に笑い合い、少女は愛し子の元へ、少年はフィリップの元へと向かう為、別れる。
「結局、あの方は誰なんでしょう?」
愛し子の元へと戻り、夕食の手伝いをしながら、ポツリと呟くティナ。
「……時期が来たら、教えます」
一人言のつもりだった言葉に答えがあり、ティナが弾かれたように声の方を見ると、そこには静かに微笑むサマンサがいた。
誰を思っているのか、その柔らかな表情が、いつまでもティナの脳裏から離れなかった。
愛し子である詩織の前では、一度も見せた事がない表情が……。




