巻き込まれ少女、活動中。4,雨の竜 1
雨の竜編スタートです。誤字脱字ありましたら、そっと教えてください。
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4,雨の竜
日照りが続いているナバ村へやって来た星一行は、雨が降らない原因は魔術的な要因ではないという事を突き止めた。
当初の予定では、そこで帰る筈だったが、村長を始め、村人の人柄の良さに、何もせずに帰る事が申し訳なくなり、魔物退治や周囲の賊退治に精を出していた。
その中で、雨乞いの儀式当日に、魔物の襲撃があり、ノウル、レイチェル、アラン、キースの四人は迎撃へ向かい、見事に撃退する。
そして、別任務があったキース以外は、星の待つ宿泊場所へと帰り、無事を喜びあってから、眠りに就いていた。
『あれ……』
ノウルの腕の中で眠っていた筈の星は、いつの間にか森の中に一人で佇んでいた。いつもの夢とは違い、そこは泉の畔ではない。
『また、水の匂い……』
星は、ポツリと呟き、森の中を導かれるよう進んでいく。
木々の間に見えてきたのは、光を反射している、深い深い蒼色。
『綺麗な蒼……』
『おや、お客様かな』
聞こえてくるのは、深みのある青年の声。
そこで初めて、星は蒼色の正体が、伏せた大きな生き物の鱗の色だと気付く。
『貴方は……』
『残念だが、時間切れみたいだ。綺麗な歌声だったよ、ありがとう』
深い叡知を秘めて、蜂蜜を思わせる色をした瞳が、驚く星を映し込んでいる。
『……僕を見つけて、愛しい子』
その声を最後に、星の意識は浮上していく。
目覚めた星の目に飛び込んできたのは、銀髪の麗人の寝顔でなく、もふもふした茶色い顔のアップだ。
「……らび?」
寝起きらしく、あどけなく星が呼ぶと、ラビの丸い目は嬉しそうに細められ、チュッと可愛らしいキスが降ってくる。
「……おはよ。何か、変な夢見ちゃった」
動じる事無く挨拶を返し、星はラビへ話しかけながら、ベッドから抜け出す。
ラビによって、ノウルとの隙間が出来ていた為、星はすんなりとベッドから抜け出せていた。
星が着替えを済ませ、顔を洗っていると、玄関の開く音が聞こえ、星は瞳を輝かせる。
洗面所から、ヒョコッと顔を出すと、入ってきた相手へ、微かな笑みを向ける。
「あ、お帰り、キースさん……ご飯にする? お風呂にする?」
疲れた顔をして入ってきたキースは、星を認めた瞬間、蕩けるような笑みを浮かべて見せる。
「ただいま。……あと、セイちゃんで」
口説くような甘い声音で囁くと、キースはゆっくりと星に近寄ろうとし……ラビから、鋭い飛び蹴りを喰らう羽目になる。
「うわ、ラビ、何してるの? キースさん、大丈夫?」
避けきれず膝をついたキースへ、星は慌てて駆け寄り、心配そうにとりあえず背中を擦る。
「あ、ああ、大丈夫だよ。驚いただけだから」
「もう、ラビは悪戯好きなんだから」
相変わらず、ラビ可愛いフィルターのある星は、めっ、と優しくラビを叱ると、苦笑気味に呟く。
「……うん、そうだね」
目を反らしながら相槌を打つキースの視界では、ラビが冷えた眼差しで彼を見ながら、くふくふ、と笑っていた。
●
すっかり慣れた五人での朝食を終えると、キースは入浴を済ませて、就寝。ノウルとレイチェルは、ドルクへ魔物の討伐へ向かう事を提案する為に外出していき、残されたのは年少組である星とアラン。それに、茶と銀の、もふもふ二匹だ。
「魔物が出た事ですし、今日は、このまま読書でもして過ごしますか?」
リビングの床上、もふもふ二匹に挟まれている星の前で、膝をついて視線を合わせたアランは、柔らかく微笑みながら提案する。
「えーと、あの、危ないのは分かってるけど、ちょっとだけ、牧場見に行きたいの」
自分を心配するアランの視線を感じながら、星は恐る恐る言葉を紡ぐ。星の予想通り、アランの顔には怒りにも似た表情が浮かぶ。
「駄目です。あそこに魔物が出たんですよ?」
だが、その声には怒りの色はなく。アランの真摯な声は、ただただ星を心配する色に満ちている。
いつもなら、星はここで引いただろうが、今回は引けない理由があった。
「本当に、少しで良いの! 近寄らなくても良いの、ただ、昨日の子馬さんが、心配で、それだけ確認したら帰るから……」
星は子馬を思い出したのか、心配から瞳を潤ませると、アランの目を見つめて、懇願する。
そんな星の潤んだ上目遣いにアランが勝てる訳もなく……。
「はぁ、分かりました。絶対に俺から離れないでくださいね?」
「うん! アラン君の手、離さないよ。アラン君も、離さないでね?」
渋々といったアランの言葉に、星は黒目がちの瞳を輝かせ、コクコクと頷きながら、アランの手を握り締める。
「じゃあ、お昼は昨日教えてもらった場所で食べよう?」
「確か、牧場とは反対側にある、見晴らしのいい丘でしたっけ」
「そう。そこなら、安全だよね?」
「そうですね」
結局、お昼も外で食べる事にした星とアランは、ふわふわとした雰囲気で仲良くお弁当を作り、外出の準備をする。
キースの分のお弁当も作り、テーブルの上に手紙と共に置くと、星とアランは仲良く手を繋いで、外へと歩き出す。
そんな二人の後ろには、何も言わずとも、獅子に跨がったラビが続いていた。
「……魔物の死体とか無いんだね」
牧場へと向かう道すがら、星は恐る恐る辺りを見回して、小声でアランへ話しかける。
星が小声になったのは、被害状況を調べる為か、複数の騎士と自警団の人間が彷徨いているせいだ。
「ノウル様が焼かれましたから、死体は残っていませんよ」
星を安心させようと繋いだ手に力を込め、アランは柔らかい声音で囁く。
「そうなんだ……あ、見えてきたけど、予想以上に酷いね」
牧場の柵が見えてくると、星は一瞬だけ安堵したように表情をするが、すぐに顔を歪め、横を歩くアランを窺う。
「かなり数が多かったですからね。……ですが、昨日、戦ってる時に、魔物以外の死体は見てないです」
「皆、無事なら良いけど……」
「はい、そうですね。早く確認しましょう」
不安から泣き出しそうな星に、アランは慌て気味に相槌を打ち、牧場へと向かいかけるが、唐突に歩みを止める。
「アラン君?」
足を止めたアランに、星はきょとんとして、問いかける。
「ちょっと面倒臭くなりそうなので、ラビさんと待っていてください」
固い表情でそう告げたアランは、星をラビと獅子に預け、一人で歩き出す。
真っ直ぐ前へと向けられたアランの視線の先にいるのは、詩織の専属護衛騎士であるフィリップだった。
「アラン? やはり、アランか! 貴様、何故ここにいる!?」
星に気付いていないらしいフィリップに、アランは内心胸を撫で下ろしながらも、眉をひそめる。フィリップの声が煩かったようだ。
「聞いているのか、アラン!」
「聞いてるよ。おれは別任務でここにいる。内容は、守秘義務があるから話せないんだ」
アランが落ち着いて正当な理由を口にすれば、元々真面目なフィリップは、得心したと、大きく頷く。
「そうか。それは失礼した。もしや、昨日の助太刀も……」
「ああ、おれも参加させてもらった。ちょうどいい、被害状況を教えてもらえるか?」
「被害状況は見ての通りだ。牧場の柵が壊れたのと、自警団に怪我人が出たくらいで済んだ。助太刀のおかげだ」
フィリップはそう言いながら、壊れた柵を示し、朗らかな笑顔で肩を竦めて見せる。
「牧場にいた動物は無事なのか?」
アランは、僅かに緊張で声を上擦らせながら、牧場の方へ視線を向ける。
「ああ、動物か。なら、問題ない。小屋の中にいて、全て無事だったらしい」
若干アランの問いに不思議そうな反応をしつつも、フィリップは淀みなく答え、丈夫そうな小屋を感心したように見つめている。
「良かった……」
フィリップの視線を辿り、小屋を確認したアランは、思わずといった風な呟きを洩らし、星を隠した辺りへ視線を向ける。
一刻でも早く星に教えよう、そう思ってのアランの行動だったが、そこで待っていたのは、全身の血の気が引くような光景だった。
待っていてください。そう告げた筈の相手は何処にも見当たらず、あれだけ目立つ銀獅子の姿もない。
「っ……!」
「アラン?」
アランの鬼気迫る表情に、フィリップは恐る恐る彼の名を呼ぶ。長い付き合いのフィリップでも見た事のないアランの表情に、フィリップは恐怖に似た感情を覚えていた。
そんなフィリップに気付く事なく、アランはきつく唇を噛み締める。歯が唇に食い込み、血が流れ出しても、アランは気にした様子はない。
「おれは、どうして手を離したんだ。離さないで、とセイさんは言っていたのに……!」
手が傷つくのも気にせず、アランは激情のまま声を荒げ、手近にあった壊れた柵を殴り付ける。
「……っ、まだ遠くには行ってない筈だ」
痛みで冷静さを取り戻したのか、アランは星のいた辺りを睨み付け、自分へ言い聞かせるように言うと、剣の柄をしっかりと握って駆け出す。
「おい、アラン! 人探しなら手伝うぞ!」
そこへ、フィリップから掛けられる声。フィリップは、愛し子至上主義で暑苦しいが、元々根っからの騎士体質なのだ。裏表のない性格で、困っている相手は放っておけない。
アランもフィリップの性格は分かっているので、逡巡したのは一瞬だけ。
「黒髪に黒目の、小柄で、とても可愛らしい女性だ。年齢は愛し子様と同じぐらい。今日は、薄い青色のワンピースを着てらっしゃった。水晶ウサギと、銀獅子を連れてる筈だ」
すぐに星の特徴をフィリップに伝えるアラン。その際に、とても、に力がこもっている辺りが、アランらしい。
「なかなか特徴的だな。見つけたら、僕は貴様の知り合いだと伝えて保護しよう」
「頼む! あと、すまないが、大事にはしたくないんだ」
「ああ、任務に関わりがあるんだろう? 僕はあちらを探す、貴様は森の方を探せ!」
アランの言葉から何かを察したのか、フィリップは大きく頷いて答えると、アランの返事を待つ事なく、村の方向へと駆け出していく。
「頼んだぞ! ……待っててください、セイさん」
アランはフィリップの背中へ向けて叫んでから、自らに言い聞かせるように呟くと、森の方へと走り出す。
「……すみません! 緊急事態です! セイさんを見失いました!」
走りながら、通信用魔具でレイチェルと連絡を取り、アランは勢いのまま森の中の獣道へ飛び込む。
鋭い枝葉が、露出した肌を傷つけるが、全く意に介せず、アランは森の奥へと走り続ける。
焦燥に染まった瞳は、ただひたすら真っ直ぐ前だけを見つめ続けていた。
「はい〜? はい! 了解です〜! わたくし達も向かいます!」
アランからの連絡を受け、レイチェルのおっとりとした顔は緊張に染まり、語尾から伸びた音が消える。
「どうした?」
レイチェルのただならぬ様子に、隣を歩いていたノウルは、不審そうに紫の瞳を眇め、問いかける。
「セイちゃんが、牧場の近くで姿を消したそうです。今、ワンコ君が森の中を探してます」
「っ! 獅子がついていた筈だ!」
努めて冷静に言葉を紡ぐレイチェルに対し、ノウルは感情を爆発させる。魔力が洩れるのか、ノウルの怒りなのか、周囲の空気が変わる。
「一緒に消えたようです。ラビちゃんも一緒みたいですし、浚われた可能性は低いです。落ち着いて、探しましょう」
「落ち着いていられるか!」
ノウルの怒気に圧され、レイチェルはふらりと体を揺らすが、すぐにおっとりとした顔に似合わない、激情を浮かべてノウルを睨む。
「わたくしだって、心配なんです! ですが、ここでわたくし達が焦っても、セイちゃんは見つけられません!」
レイチェルの一喝に、ノウルは驚いたように瞬きし、しばらくするとバツが悪そうにガシガシと髪を掻き乱す。
「……すまない」
「落ち着いて、まずは森へ向かうべきです〜」
「そうだな」
「通信用魔具は、ワンコ君が試して、駄目だったそうです〜」
「妨害か、元々魔力がある土地なのか……」
無理矢理焦る心を押さえつけているせいか、喋る間もノウルの手はキツく握られ、指の隙間から赤い鮮血が垂れている。
「大丈夫です〜。ラビちゃんは、強いですから〜。その辺の魔物なら目じゃないです〜」
自らに言い聞かせるために、レイチェルはそう力強く呟く。
「ああ、そうだな。あの水晶ウサギは規格外だ」
レイチェルの呟きに同意を示し、ノウルは内心でラビへ、セイを守ってくれ、と語りかけてから、森への最短距離を選んで走り出す。
「ラビちゃん、獅子君、ワンコ君、セイちゃんを守ってくださいね〜」
さりげなくアランをもふもふ組に並べた言葉を洩らし、レイチェルはふわふわとした雰囲気をかなぐり捨てる勢いで、ノウルを追って走り出す。
月の化身のような美青年と、水の女神のような美女が、人目も気にせず村の中を駆け抜けていく。
現実離れした光景に、目撃した人間は、しばらく動きを止めてしまう程だった。
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