表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/186

巻き込まれ少女、活動中。4,雨の竜 1

雨の竜編スタートです。誤字脱字ありましたら、そっと教えてください。

感想、評価等いただけると、嬉しいです。

4,雨の竜




 日照りが続いているナバ村へやって来た星一行は、雨が降らない原因は魔術的な要因ではないという事を突き止めた。

 当初の予定では、そこで帰る筈だったが、村長を始め、村人の人柄の良さに、何もせずに帰る事が申し訳なくなり、魔物退治や周囲の賊退治に精を出していた。

 その中で、雨乞いの儀式当日に、魔物の襲撃があり、ノウル、レイチェル、アラン、キースの四人は迎撃へ向かい、見事に撃退する。

 そして、別任務があったキース以外は、星の待つ宿泊場所へと帰り、無事を喜びあってから、眠りに就いていた。




『あれ……』

 ノウルの腕の中で眠っていた筈の星は、いつの間にか森の中に一人で佇んでいた。いつもの夢とは違い、そこは泉の畔ではない。

『また、水の匂い……』

 星は、ポツリと呟き、森の中を導かれるよう進んでいく。

 木々の間に見えてきたのは、光を反射している、深い深い蒼色。

『綺麗な蒼……』

『おや、お客様かな』

 聞こえてくるのは、深みのある青年の声。

 そこで初めて、星は蒼色の正体が、伏せた大きな生き物の鱗の色だと気付く。

『貴方は……』

『残念だが、時間切れみたいだ。綺麗な歌声だったよ、ありがとう』

 深い叡知を秘めて、蜂蜜を思わせる色をした瞳が、驚く星を映し込んでいる。


『……僕を見つけて、愛しい子』



 その声を最後に、星の意識は浮上していく。

 目覚めた星の目に飛び込んできたのは、銀髪の麗人の寝顔でなく、もふもふした茶色い顔のアップだ。

「……らび?」

 寝起きらしく、あどけなく星が呼ぶと、ラビの丸い目は嬉しそうに細められ、チュッと可愛らしいキスが降ってくる。

「……おはよ。何か、変な夢見ちゃった」

 動じる事無く挨拶を返し、星はラビへ話しかけながら、ベッドから抜け出す。

 ラビによって、ノウルとの隙間が出来ていた為、星はすんなりとベッドから抜け出せていた。

 星が着替えを済ませ、顔を洗っていると、玄関の開く音が聞こえ、星は瞳を輝かせる。

 洗面所から、ヒョコッと顔を出すと、入ってきた相手へ、微かな笑みを向ける。

「あ、お帰り、キースさん……ご飯にする? お風呂にする?」

 疲れた顔をして入ってきたキースは、星を認めた瞬間、蕩けるような笑みを浮かべて見せる。

「ただいま。……あと、セイちゃんで」

 口説くような甘い声音で囁くと、キースはゆっくりと星に近寄ろうとし……ラビから、鋭い飛び蹴りを喰らう羽目になる。

「うわ、ラビ、何してるの? キースさん、大丈夫?」

 避けきれず膝をついたキースへ、星は慌てて駆け寄り、心配そうにとりあえず背中を擦る。

「あ、ああ、大丈夫だよ。驚いただけだから」

「もう、ラビは悪戯好きなんだから」

 相変わらず、ラビ可愛いフィルターのある星は、めっ、と優しくラビを叱ると、苦笑気味に呟く。

「……うん、そうだね」

 目を反らしながら相槌を打つキースの視界では、ラビが冷えた眼差しで彼を見ながら、くふくふ、と笑っていた。

 すっかり慣れた五人での朝食を終えると、キースは入浴を済ませて、就寝。ノウルとレイチェルは、ドルクへ魔物の討伐へ向かう事を提案する為に外出していき、残されたのは年少組である星とアラン。それに、茶と銀の、もふもふ二匹だ。

「魔物が出た事ですし、今日は、このまま読書でもして過ごしますか?」

 リビングの床上、もふもふ二匹に挟まれている星の前で、膝をついて視線を合わせたアランは、柔らかく微笑みながら提案する。

「えーと、あの、危ないのは分かってるけど、ちょっとだけ、牧場見に行きたいの」

 自分を心配するアランの視線を感じながら、星は恐る恐る言葉を紡ぐ。星の予想通り、アランの顔には怒りにも似た表情が浮かぶ。

「駄目です。あそこに魔物が出たんですよ?」

 だが、その声には怒りの色はなく。アランの真摯な声は、ただただ星を心配する色に満ちている。

 いつもなら、星はここで引いただろうが、今回は引けない理由があった。

「本当に、少しで良いの! 近寄らなくても良いの、ただ、昨日の子馬さんが、心配で、それだけ確認したら帰るから……」

 星は子馬を思い出したのか、心配から瞳を潤ませると、アランの目を見つめて、懇願する。

 そんな星の潤んだ上目遣いにアランが勝てる訳もなく……。

「はぁ、分かりました。絶対に俺から離れないでくださいね?」

「うん! アラン君の手、離さないよ。アラン君も、離さないでね?」

 渋々といったアランの言葉に、星は黒目がちの瞳を輝かせ、コクコクと頷きながら、アランの手を握り締める。

「じゃあ、お昼は昨日教えてもらった場所で食べよう?」

「確か、牧場とは反対側にある、見晴らしのいい丘でしたっけ」

「そう。そこなら、安全だよね?」

「そうですね」

 結局、お昼も外で食べる事にした星とアランは、ふわふわとした雰囲気で仲良くお弁当を作り、外出の準備をする。

 キースの分のお弁当も作り、テーブルの上に手紙と共に置くと、星とアランは仲良く手を繋いで、外へと歩き出す。

 そんな二人の後ろには、何も言わずとも、獅子に跨がったラビが続いていた。




「……魔物の死体とか無いんだね」

 牧場へと向かう道すがら、星は恐る恐る辺りを見回して、小声でアランへ話しかける。

 星が小声になったのは、被害状況を調べる為か、複数の騎士と自警団の人間が彷徨いているせいだ。

「ノウル様が焼かれましたから、死体は残っていませんよ」

 星を安心させようと繋いだ手に力を込め、アランは柔らかい声音で囁く。

「そうなんだ……あ、見えてきたけど、予想以上に酷いね」

 牧場の柵が見えてくると、星は一瞬だけ安堵したように表情をするが、すぐに顔を歪め、横を歩くアランを窺う。

「かなり数が多かったですからね。……ですが、昨日、戦ってる時に、魔物以外の死体は見てないです」

「皆、無事なら良いけど……」

「はい、そうですね。早く確認しましょう」

 不安から泣き出しそうな星に、アランは慌て気味に相槌を打ち、牧場へと向かいかけるが、唐突に歩みを止める。

「アラン君?」

 足を止めたアランに、星はきょとんとして、問いかける。

「ちょっと面倒臭くなりそうなので、ラビさんと待っていてください」

 固い表情でそう告げたアランは、星をラビと獅子に預け、一人で歩き出す。

 真っ直ぐ前へと向けられたアランの視線の先にいるのは、詩織の専属護衛騎士であるフィリップだった。



「アラン? やはり、アランか! 貴様、何故ここにいる!?」

 星に気付いていないらしいフィリップに、アランは内心胸を撫で下ろしながらも、眉をひそめる。フィリップの声が煩かったようだ。

「聞いているのか、アラン!」

「聞いてるよ。おれは別任務でここにいる。内容は、守秘義務があるから話せないんだ」

 アランが落ち着いて正当な理由を口にすれば、元々真面目なフィリップは、得心したと、大きく頷く。

「そうか。それは失礼した。もしや、昨日の助太刀も……」

「ああ、おれも参加させてもらった。ちょうどいい、被害状況を教えてもらえるか?」

「被害状況は見ての通りだ。牧場の柵が壊れたのと、自警団に怪我人が出たくらいで済んだ。助太刀のおかげだ」

 フィリップはそう言いながら、壊れた柵を示し、朗らかな笑顔で肩を竦めて見せる。

「牧場にいた動物は無事なのか?」

 アランは、僅かに緊張で声を上擦らせながら、牧場の方へ視線を向ける。

「ああ、動物か。なら、問題ない。小屋の中にいて、全て無事だったらしい」

 若干アランの問いに不思議そうな反応をしつつも、フィリップは淀みなく答え、丈夫そうな小屋を感心したように見つめている。

「良かった……」

 フィリップの視線を辿り、小屋を確認したアランは、思わずといった風な呟きを洩らし、星を隠した辺りへ視線を向ける。

 一刻でも早く星に教えよう、そう思ってのアランの行動だったが、そこで待っていたのは、全身の血の気が引くような光景だった。

 待っていてください。そう告げた筈の相手は何処にも見当たらず、あれだけ目立つ銀獅子の姿もない。

「っ……!」

「アラン?」

 アランの鬼気迫る表情に、フィリップは恐る恐る彼の名を呼ぶ。長い付き合いのフィリップでも見た事のないアランの表情に、フィリップは恐怖に似た感情を覚えていた。

 そんなフィリップに気付く事なく、アランはきつく唇を噛み締める。歯が唇に食い込み、血が流れ出しても、アランは気にした様子はない。

「おれは、どうして手を離したんだ。離さないで、とセイさんは言っていたのに……!」

 手が傷つくのも気にせず、アランは激情のまま声を荒げ、手近にあった壊れた柵を殴り付ける。

「……っ、まだ遠くには行ってない筈だ」

 痛みで冷静さを取り戻したのか、アランは星のいた辺りを睨み付け、自分へ言い聞かせるように言うと、剣の柄をしっかりと握って駆け出す。

「おい、アラン! 人探しなら手伝うぞ!」

 そこへ、フィリップから掛けられる声。フィリップは、愛し子至上主義で暑苦しいが、元々根っからの騎士体質なのだ。裏表のない性格で、困っている相手は放っておけない。

 アランもフィリップの性格は分かっているので、逡巡したのは一瞬だけ。

「黒髪に黒目の、小柄で、とても可愛らしい女性だ。年齢は愛し子様と同じぐらい。今日は、薄い青色のワンピースを着てらっしゃった。水晶ウサギと、銀獅子を連れてる筈だ」

 すぐに星の特徴をフィリップに伝えるアラン。その際に、とても、に力がこもっている辺りが、アランらしい。

「なかなか特徴的だな。見つけたら、僕は貴様の知り合いだと伝えて保護しよう」

「頼む! あと、すまないが、大事にはしたくないんだ」

「ああ、任務に関わりがあるんだろう? 僕はあちらを探す、貴様は森の方を探せ!」

 アランの言葉から何かを察したのか、フィリップは大きく頷いて答えると、アランの返事を待つ事なく、村の方向へと駆け出していく。

「頼んだぞ! ……待っててください、セイさん」

 アランはフィリップの背中へ向けて叫んでから、自らに言い聞かせるように呟くと、森の方へと走り出す。

「……すみません! 緊急事態です! セイさんを見失いました!」

 走りながら、通信用魔具でレイチェルと連絡を取り、アランは勢いのまま森の中の獣道へ飛び込む。

 鋭い枝葉が、露出した肌を傷つけるが、全く意に介せず、アランは森の奥へと走り続ける。

 焦燥に染まった瞳は、ただひたすら真っ直ぐ前だけを見つめ続けていた。




「はい〜? はい! 了解です〜! わたくし達も向かいます!」

 アランからの連絡を受け、レイチェルのおっとりとした顔は緊張に染まり、語尾から伸びた音が消える。

「どうした?」

 レイチェルのただならぬ様子に、隣を歩いていたノウルは、不審そうに紫の瞳を眇め、問いかける。

「セイちゃんが、牧場の近くで姿を消したそうです。今、ワンコ君が森の中を探してます」

「っ! 獅子がついていた筈だ!」

 努めて冷静に言葉を紡ぐレイチェルに対し、ノウルは感情を爆発させる。魔力が洩れるのか、ノウルの怒りなのか、周囲の空気が変わる。

「一緒に消えたようです。ラビちゃんも一緒みたいですし、浚われた可能性は低いです。落ち着いて、探しましょう」

「落ち着いていられるか!」

 ノウルの怒気に圧され、レイチェルはふらりと体を揺らすが、すぐにおっとりとした顔に似合わない、激情を浮かべてノウルを睨む。

「わたくしだって、心配なんです! ですが、ここでわたくし達が焦っても、セイちゃんは見つけられません!」

 レイチェルの一喝に、ノウルは驚いたように瞬きし、しばらくするとバツが悪そうにガシガシと髪を掻き乱す。

「……すまない」

「落ち着いて、まずは森へ向かうべきです〜」

「そうだな」

「通信用魔具は、ワンコ君が試して、駄目だったそうです〜」

「妨害か、元々魔力がある土地なのか……」

 無理矢理焦る心を押さえつけているせいか、喋る間もノウルの手はキツく握られ、指の隙間から赤い鮮血が垂れている。

「大丈夫です〜。ラビちゃんは、強いですから〜。その辺の魔物なら目じゃないです〜」

 自らに言い聞かせるために、レイチェルはそう力強く呟く。

「ああ、そうだな。あの水晶ウサギは規格外だ」

 レイチェルの呟きに同意を示し、ノウルは内心でラビへ、セイを守ってくれ、と語りかけてから、森への最短距離を選んで走り出す。

「ラビちゃん、獅子君、ワンコ君、セイちゃんを守ってくださいね〜」

 さりげなくアランをもふもふ組に並べた言葉を洩らし、レイチェルはふわふわとした雰囲気をかなぐり捨てる勢いで、ノウルを追って走り出す。

 月の化身のような美青年と、水の女神のような美女が、人目も気にせず村の中を駆け抜けていく。

 現実離れした光景に、目撃した人間は、しばらく動きを止めてしまう程だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ