巻き込まれ少女、活動中。3,雨降らし 1
雨降らし編スタートです。誤字脱字ありましたら、こっそり教えてください。感想、評価をいただけると嬉しいです。
3,雨降らし
街を出てから半日、馬車は無事に目的地である村へ辿り着いていた。
ユナフォードが手配した馬車の御者だけあって、度重なる襲撃にも動じず、ただただ職務を全うした御者は、影の功労者と言えるだろう。
「御者さん、馬さん、ありがとう」
それを分かっているので、星はノウルの膝から下りると、馬を休ませている御者の傍へ歩み寄り、そう話しかける。……ただし、アランの影から、だが。
「いえ、これが私の仕事ですので……」
穏やかに微笑んで答え、御者は二頭いる愛馬の鼻面を優しく撫でる。
「馬にも感謝してくださった方は初めてです」
御者の感心したような呟きに反応したのか、馬達も、小さく嘶く。心なしか、それは嬉しそうな声に聞こえ、星もつられたように、ふわふわと微笑む。
「馬さん、触っても良いですか?」
「気難しい子達なんですが……あなたでしたら、大丈夫そうですね」
小首を傾げて問う星に、御者は少しだけ悩む様子を見せるが、明らかに星に好意的な様子の馬達を見ると、笑い声混じりで星を招く。
「ありがとう、ございます」
嬉しそうに、ふにゃ、と笑い崩れた顔で礼を口にする星に、アランを始め、周囲の人間も笑顔を浮かべる。
伝染したかのように、迎えに来た村人までも、疲れた様子ながらも笑顔を浮かべて星を見守っている。
「馬さん、馬さん、触らせてね?」
歌うように節をつけて、栗毛の馬と黒毛の馬へと話しかけ、星はゆっくりと小さな手で馬達の鼻面を撫でていく。
気持ち良さそうに星の手に鼻面を押しつけ、馬達は小さく嘶いて、何かを喋り合っている。
そこへ、茶色い、馬に比べると小さな影が歩み寄り、くふくふ、と会話に参加し始める。
「ラビ、馬さんと話したかったの?」
無邪気にラビへ問いかける星だったが、星以外から見たラビの姿は……。
「あれは、どう見ても牽制してます〜」
「セイさんは、自分のだっておっしゃってますよね、あれは」
レイチェルとアランは苦笑しながら、馬達に何かを言い聞かせているラビと、それを優しく見守る星を、さらに優しい眼差しで見守っている。
「……あのー、あなた方は『世界の愛し子』様のご一行で?」
レイチェルとアランが、星を見守りながら荷物を下ろしていると、おずおずと話しかけてきたのは、うっかり星のほのぼのモードに巻き込まれていた年配の村人だ。
「いえ、違います。おれ達は、筆頭魔術師であるノウル様の部下と、その手伝いの騎士です。おれは、騎士のアランと申します」
如才ない社交性を披露したのはアランで、快活な笑顔と挨拶で、村人の顔から不安を払拭してしまう。
「これはご丁寧に。私は、村の長をしております、ドルクと申します。あなた方も、雨乞いの為に?」
「違います〜。わたくし達は、魔術的な視点から、雨が降らない原因を確認に、参りました〜。ちなみに、わたくしはノウル様の部下の、レイチェルです〜」
ドルクと名乗った村長に、レイチェルはうふふ、と柔らかい笑顔で告げ、優雅に一礼して見せる。
「雨乞いは、愛し子に頼め。俺達は、魔術的な要因が無ければ、すぐに帰らせてもらう」
無愛想な超絶イケメンの言葉に、ドルクがオロオロとしていると、超絶イケメンの背後から、ひょこっと少女が顔を覗かせる。
「あ、あの、ノウルが言いたいのは、魔術的な要因が無ければ、自分達に出来る事はないので、しお……愛し子様の邪魔をしない内に帰ります、って意味、です」
徐々に勢いを無くし、語尾は消え入りそうだったが、少女――星はそれだけ言うと、ノウルの背中に再び隠れる。
「あ、ああ、そういう意味でございましたか。あなた方の来訪も、ユナフォード殿下から連絡をいただいております。内容までは聞いてはおりませんでしたので、少々混乱してしまい、申し訳ございません。とりあえず、お泊まりになっていただく場所へと案内いたします」
緊張からか、一気に喋りきったドルクは、額の汗を拭いながら、こちらです、と四人の前に立って歩き出す。
星達四人は、その背を追って歩き出す。手荷物は、ほぼアランが一人で抱え、残りはノウルの手にある。
御者の方には別の村人が近寄り、二言三言言葉を交わすと、馬達を連れて、星達とは別方向へと歩いて行く。
「馬さん……」
チラチラと振り返りながら、残念そうに呟く星に、獅子の背中に乗ったラビが、必死で自分の存在をアピールしている。
「セイちゃん、ほら、ラビちゃんが寂しがってますよ〜?」
あまりの必死さに、レイチェルはそう言いながら、ちょいちょい、と星の頬をつついてから、ラビを視線で示す。
「あ! ごめんね、ラビ。おいで?」
ハッとした星は、ゆっくりと黒目がちの瞳を瞬かせ、柔らかい笑みを浮かべると、ラビに向けて両手を広げて見せる。
ラビはパァッと表情を明るくすると、獅子の背を蹴って、勢い良く星の胸へと飛び込む。
「あっ!」
結果、小柄な星ではラビを受け止めきれず、よろけてラビごと後ろ向きに倒れてしまう。
「セイ!」
ノウルがそんな星の危機を見逃す筈もなく、名前を呼ぶと同時に伸ばされた逞しい腕が、しっかりと小さな体を拾い上げて、離すものかと抱え込む。
「……あ、ありがと、ノウル」
驚きからか僅かに震える声で感謝を告げ、星はノウルの首に腕を回して、しがみつく。
「このまま、行くぞ」
有無を言わせず、星を抱え上げたノウルに、レイチェルとアランは慣れたもので、ノウルが落とした荷物を拾い、それぞれ星へ優しく声をかけている。
背後を確認したドルクは、瞬きをして固まるが、年の功か、すぐに復活して、
「こちらの家をお使いください」
と、目の前にある赤い屋根の一軒家を示す。
「宿屋ではないようだが?」
「はい。ユナフォード殿下より、魔術師様のご一行には一軒家を用意し、不必要な干渉はするなとの事でしたので……」
「さすが、殿下だな。――ありがたく使わせてもらう」
ニヤリ、という擬音がする笑みを浮かべるノウルに、ドルクは引きつった笑みを浮かべ、恐縮しきっている。
「必要な物がありましたら、村人へお言いつけください。最低限の食材などは、キッチンに用意してございます。村の中は、好きに探索していただいて構わないです」
「助かります〜」
「何かあったら、声をかけさせてもらいますね」
喋っているドルクを横目に、家の中へと消えたノウルに代わり、レイチェルとアランが笑顔で答えている。
ちなみに星はノウルが抱えているので、問答無用で家の中へと連れ去られている。
「あ、『世界の愛し子』様のご一行が来たら、教えてもらえますか〜?」
「あと、おれ達の事は、愛し子様には伝えないでもらえますか? 気を悪くされたら困りますから」
呆気にとられているドルクに、レイチェルとアランは詩織対策の根回しを頼み、揃ってニコリと微笑む。
「あ、はい、承知しました。今日のところは、ゆっくりとお休みください」
レイチェルとアランの笑顔に誤魔化され、二人のお願いに疑問を抱く事なく、ドルクは力強く頷いて答える。
「はい、ありがとうございます〜」
「お世話になります」
ニコニコと微笑むレイチェルとアランに見送られ、ドルクはノウルの無愛想さを気にする事なく立ち去り、顔を見合せた二人は、揃って安堵の息を吐く。
「もー、隊長はセイちゃん優先なんですから〜」
「まあ、セイさんですから、優先したい気持ちは良く分かります!」
「……君もそっち側でしたね〜」
苦笑混じりの言葉に、予想外な台詞で力強く応じたアランに、レイチェルは裏切られたような眼差しでアランを見る。が、ふと何かに気付いた表情をし……、
「と言うか、それは、わたくしもでした〜」
ふわふわと笑いながら言うと、アランと一緒になって他人事のように頷くレイチェル。
そんな人間達の姿を、いつの間にか星の腕から抜け出していたラビが、澄んだ眼差しで見つめていた。
「おー、ログハウスだ」
ノウルの腕に抱かれたまま、星は家の中の内装に、思わず感嘆の声を洩らし、パチパチと手を叩く。
星の言葉が示す通り、家の中は、星のいた世界でログハウスと呼ばれるタイプの内装だった。
ダイニングへと入り、木の香りを胸一杯に吸い込む星。その星の首筋に顔を埋め、星の香りを堪能する、イケメン補正でも若干アウトなノウル。そんな主人を止めようと、服の端をくわえている獅子。
突っ込みが不在のため、混沌とし始めた室内に、ドルクを見送っていたレイチェルとアランが合流する。
「……隊長、アウトです〜。セイちゃん、わたくしがもらいます〜」
開口一番、ノウルの行動を確認したレイチェルは、おっとりとした口調とは裏腹に、素早い動きで星をノウルの腕から奪い取ってしまう。
「レイチェルさん?」
きょとんとして、レイチェルの腕に収まる星。
「……セイは嫌がってないぞ?」
ムッとした表情から、拗ねたような表情へと変わりながら、寂しそうに星を見つめて呟くノウル。
「そういう問題じゃ、ありません」
豊かな胸を反らすようにし、しっかりと星を抱き込み、ノウルを叱るレイチェル。いつもは伸びる語尾も、短く切られ、語調も強い。
「セイちゃんは、嫁入り前の女の子なんですから、必要以上にベタベタ触っちゃいけません」
妹を守る姉のようなキリリとした表情でビシッと言い放つと、レイチェルは星を抱えたまま、寝室の方向へと向かう。
「セイちゃんは、わたくしと一緒の部屋で寝ましょう〜? 女同士、水入らずです〜」
「じゃあ、恋ばなとかしちゃおっか?」
レイチェルの言葉に固まったノウルを他所に、星はレイチェルの腕の中で、黒目がちの瞳を期待でキラキラと輝かせている。
「私、こういうお泊まり初めて! ……あ、ノウル達はお仕事なのに、不謹慎だったね」
レイチェルの細いながら力強い腕に運ばれつつ、楽しげな声を上げていた星は、不意にハッとした様子で、反応がないノウルに気付くと、表情と声をシュンと沈ませる。
「いや、俺は気にしないぞ?」
「おれも気にしませんよ?」
「わたくしもです〜」
沈んだ様子の星に、星以外の三人からは、慌て気味の否定が返って来る。ノウルに至っては、若干食い気味だった。
あまりの勢いに、星はしばらく固まった後、シパと瞬いてから、嬉しそうにゆっくりと笑顔へ変わっていく。沈んだ表情から、あどけない、安心しきったふにゃりとした笑顔へと。
その破壊力は抜群で、星以外、ラビと獅子までもが行動不能となる。
「ノウル? レイチェルさん? アラン君?」
コテンと首を傾げて呼び掛けてくる星の声に、いち早く復活したのは、呼ばれていないラビで……。
「せいをむしするな」
呼ばれなかったのが悔しいのか、八つ当たり気味の言葉と共に、ラビの鋭い蹴りがノウルの脛を襲う。
「っ……!?」
上げかけた声を飲み込み、復活を遂げたノウルは、柔らかく微笑みながら、無言で星の頭を撫でる。
「すみません、セイさん。……寝室は三つあるようですから、セイさんはレイチェルさんと、おれとノウル様は一つずつ使わせてもらいますね。もしかしたら、キースも合流するかもしれませんし」
こちらも復活を遂げたアランは、ダラリと垂れた星の手を握りながら、人懐こい笑顔で話題の転換を行う。
「それは良い案だね。レイチェルさんも、ノウルもそれで良い?」
アランの手を握り返しながらコクリと頷いた星は、ノウルとレイチェルへ小首を傾げて問い掛ける。
「わたくしは、構いませんよ〜?」
「…………分かった」
レイチェルは星を抱え直しながら快諾し、ノウルも不承不承ながらも首肯する。
「じゃあ、荷物片付けて、ご飯にしよっか」
「賛成です〜」
「そうだな」
「はい!」
三者三様の返事ながらも、三人共に諾と返し、それぞれがキビキビと動き出す。
「あのー、私は下ろして欲しいなぁ……」
星の力無い突っ込みは、誰にも聞いてもらえず、星はレイチェルに抱えられたまま、寝室へと移動する事となった。




