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異世界巻き込まれてみた。番外編〜アランと、キースと〜

番外編、アラン君とキースさん編です。それぞれの視点のお話となります。相変わらず本編が進まなくて……。

とりあえず、詩織さんの扱いが若干酷いです。

番外編〜アランと〜




 おれの幼い頃からの夢は、いつか『世界の愛し子』が現れたら、その忠実な騎士となって仕える事。

 幼い頃、親から読み聞かされた絵本で、おれはきっと『世界の愛し子』に思慕の念を抱いていた。

 『世界の愛し子』の騎士となれるよう、必死に腕を磨き、同年代の中で、頂点を争う位置に気付いたらいた。

 そして、ついに――。

「アラン・ポーリー、『世界の愛し子』を迎える任を命ずる」

 騎士団長から、そう言われた瞬間、まさに天にも昇るような心持ちだった。

 ずっと切磋琢磨してきたクロトも選ばれ、おれ達は無言で喜びを分かち合った。

 親友であるキースも、さすがというか選ばれていて、おれは自分の事のように嬉しかった。

 愛馬に跨がり、馬車を護衛しながら、儀式が行われる泉へと向かい、おれは運命と出会った――。




 召喚された『世界の愛し子』は、美しい少女だった。

 肌の露出の多さが気になったが、それは異世界の方だから仕方がない、おれは場違いにも、そんな事を考えていた。

 きっと、目が合ったら心を奪われてしまい、絵本の騎士のように『世界の愛し子』の忠実な騎士となる、そう思いながら、『世界の愛し子』を見つめ……。

 ついに目が合い、愛し子様は驚いたように目を見張ってから、微笑みを浮かべたが、おれの心は凪いだように静かだった。

 周囲を警戒するフリをして視線を外し、愛し子様の隣で動かない、巻き込まれてしまった人物へと視線を向ける。

 愛し子様が、知らない、と言われた為、俯いている人物を気にしているのはおれだけ。

 声を掛けようとするが、貴族であるヨード様から止められてしまい、帰り支度の輪に加わる。

 おれとキースは、しんがりで馬車の背後を守る役目を担う為、少し遅れてその場を去ろうとしていた。

 その時だった。

 俯いていた人物が顔を上げ、澄んだ黒目がちの瞳と目が合う。

 その瞬間、おれは守るべき相手を理解し、あとは、坂道を転がるように、その人物――セイさんに惹かれていった。

 名前を知れたのは、二度目の出会いの時。

 あの時は、本当に間に合って良かったと、思う。

 もし、を考えたら、おれは恐怖のあまり、動けなくなってしまっていた。

 とりあえず、あの時の自分を心から誉めてやりたい。




 そんな、おれは今――。

「アラン君、早く……」

「ちょっと待ってください。焦らないで……」

「や、はやく、して……っ」

「は、はい、セイさん……」

「――紛らわしい会話は止めて欲しいんだけど」

 切羽詰まったおれ達の会話に、冷静な突っ込みを入れてくるのは、親友であるキースだ。

 そんな、おれ逹がいるのは城の中庭で。

 おれ逹は、セイさんが持ってきてくださったお菓子で、お茶をしていたのだが、セイさんの背中に大きな毛虫が張りつき、先程の会話となった。

 セイさんは、そこまで虫が嫌いな訳ではないが、手の届かない位置に毒のある虫、という恐怖感は耐えられないらしい。

「今、取りますから」

 キースに支えられ、弱々しく震えるセイさんに、おれは優しく声を掛け、毛虫を刺激しないよう、そっと払い落とす。

「もう、大丈夫ですよ?」

 おれはニッとセイさんへ笑いかけ、差し伸べられた手を柔らかく握る。

「びっくり、した……」

 それだけを口にし、セイさんはおれの手をしっかりと握り返す。おれが惹かれて止まない黒目がちの瞳は、水分が溜まり、ゆらゆらと揺れている。

「っ、そうですね。でも、もう大丈夫ですよ」

「ごめん、ちょっと休ませて……」

 思わず息を呑んだおれを知ってか知らずか、セイさんの小さな体から力が抜け、寄りかかるようにおれへ体重を預けてくる。

「大丈夫かな、セイちゃん」

 セイさんは、おれを信頼して体を預けてくれているのだが、正直ドギマギしてしまい、不審な動きになってしまったおれを見かねたのか、キースも脇から声を掛け、セイさんを支えている。

 女性に慣れているキースは、さすがというか支える腕に躊躇いはないが、セイさんを支える手が優しいのは気のせいではないだろう。

「うん、ありがとう。アラン君、キースさん」

 おれ逹二人を信頼しきった眼差しで見上げ、セイさんは潤んだ瞳を瞬かせ、耳馴染みの良い声で感謝を口にする。セイさんの声は、少女らしく、柔らかい響きで、少し高め。おれは一日中聞いていても飽きない自信がある。

 おずおずとセイさんの艶やかな黒髪を撫でると、気持ち良いのか、変化が薄く勘違いされやすいというセイさんの表情が、ふにゃ、とした笑顔へ変わる。

 その大好きな笑顔を見つめながら、おれは改めて決意する。



 おれは国に仕える騎士だが、セイさんを守る為なら国を捨てよう。

 セイさんを守る為に邪魔になるなら、家を捨てよう。

 騎士失格かもしれない。でも、おれはもう見つけてしまった。

 守りたい、唯一無二を――。



 そんないつかは来て欲しくないが、セイさんをいらないと言うなら、『世界』さえ敵に回してやる。

 そんな決意を胸に秘め、おれはセイさんの温かな体をギュッと抱き締めた。離すものかと。


番外編〜キースも〜




 俺はキース。ほぼ家から追い出された為、いつも家名は名乗らない。

 聞いてくる煩い女もいるが、俺が微笑んで適当に甘く囁けば、あっという間に忘れてくれる。

 女は、柔らかくて気持ち良く、いい匂いがするから嫌いじゃない。いつも、男臭い騎士団にいる為、その差が身に染みる。

 だから、俺は『世界の愛し子』護衛任務が嫌いではなかった。好き嫌いは別として、良い女は愛でるものだ。

「キース様! よろしければ、今日は、あたしの部屋へ……」

 そんな愛し子様護衛任務の最中、空気の読めない侍女が、俺へ話しかけてくる。隣にいる愛し子様の事は見えていないらしい。

「ごめんね、今日は先約があるんだ」

 内心呆れつつ、殊勝に謝るが、明らかに不服そうな表情をする侍女が面倒臭くなり、チラリと愛し子様を視線で示す。

 効果は覿面で。愛し子様を確認した侍女は、真っ青になるとモゴモゴと何事か謝罪めいた事を口にする。

「あの、私、気にしませんから」

 そう口にしながらも、愛し子様は居心地悪そうな表情を隠さない。

 真っ青になって動けない侍女に、一応優しく声を掛け、立ち去らせる。

「申し訳ありません、お見苦しい所を……」

 侍女が見えなくなってから、俺は愛し子様に向けて謝罪し、深々と頭を下げてから、止めてしまった足を前へと運ぶ。

「あ、あの、キースさん!」

 が、愛し子様の意を決したような声が背後からし、正直面倒臭いなぁと思いながら、微笑んで振り返る。

「はい、何でしょうか?」

「あの人、恋人ですか?」

 ああ、やっぱり面倒臭い、と思いながらも、俺は微笑んだまま、違います、とだけ口にして歩き出そうとする。

「なら、そうゆう事は止めた方が良いと思います。キースさんも、相手の方も寂しくなるだけですよ?」

 そこへ、愛し子様の口から出た言葉。いかにも、私は正しいです、という内容に、俺は曖昧に笑う。

「力不足かも知れませんが、寂しいなら、私が……」

「へぇ、愛し子様がお相手とは、光栄ですね」

 あからさまに軽薄に。愛し子様が見ているだろう『俺』の言葉を返す。

「え、あの、そういう意味ではなく……っ」

 ほら、愛し子様は動揺しながらも、満更でもない顔で頬を染めている。

「では、どういう意味で?」

 俺は殊更、色気を意識した声を出し、愛し子様の瞳を覗き込む。

 ノウル様やユナフォード殿下程の美形ではない事は、自分が一番理解している。その分、俺は見た目に気を配り、表情や仕草で補っている。

 逆に、ノウル様やユナフォード殿下では高嶺の花過ぎて手が届かないが、俺ぐらいなら、と考える相手は多く、一夜の相手には事欠かない。

 しかし、愛し子様は良い女だとは思うが、それだけで。抱き締めたい、とか俺は思わない。

「冗談です。お気持ちだけいただきます」

「私、心配なんです、キースさんが!」

 はぐらかして歩き出そうとした俺の腕に、愛し子様の腕が絡んでくる。押しつけられる柔らかい温もり。

 計算高いなぁ、と思いながら、俺はやんわりと愛し子様の腕を解き、ありがとうございます、とだけ返して再度歩き出す。

 軽薄で、誰にも本気にもなれない悲しい男。多分、愛し子様の中での『俺』は、そういう男だ。

 実際、少し前まではそうだった。だが、あるきっかけを得て、俺は変われた。だから、一夜の相手は、今切っている最中だ。あの侍女は、後回しにした為に、今回みたいな事になってしまった。

 きっと愛し子様は、私ならあなたを変えられます、とでもお思いなんだろうが……。



「残念。俺は、もう本気なんだ」



 え? と明け透けな期待が見える驚き顔の愛し子様を、振り返った視界の端に映し、俺は柔らかく微笑む。愛しい人へ向けるように。

「キースさん……」

「――あ、すみません」

 うっとりと名前を呼んでくる愛し子様に、俺は乱れた口調を謝りながら、顔を前方へと向ける。

「つい、興奮してしまい、失礼しました。ですが、わたくしには、もう本気になった相手がおりますので……」

 ここで、まだ勘違いをしているらしい愛し子様に、チラリと顔半分で振り返る。そちらこそ、本命がいるのに、俺なんか相手にしてて良いんでしょうか、と思いつつ。

「愛し子様には、心配していただかなくて、大丈夫です。わたくしのような一騎士を、気にかけていただき……」

 お優しいことで、とからかうような口調で付け加え、俺は口の端を上げてから歩き出す。

「えっ、キースさん? 誰なんですか?」

 私でしょう? と言いたげな空気を醸し出して隣を歩き出す愛し子様に、俺は前方を見つめながら、微笑む。

「恥ずかしいので言えません」

「えー、気になりますよ。ヒントください!」

 食い下がってくる愛し子様に、仕方がない人だ、とばかりに柔らかく苦笑して見せた俺は、わざとらしく顎へ手を宛てて悩むフリをした。

「そうですねぇ……。まずは小動物みたいで」

 愛し子様の顔が、きょとんとするのは見えたが無視をし。

「目が大きくて、あー、髪が滅多に見ないような綺麗な黒髪です。あとは、日だまりみたいな匂いがして、料理が得意な子ですよ」

 可愛いんです、と全身で表して見せれば、愛し子様の顔を一瞬落胆が過り、すぐに恋愛話に喜ぶ少女の顔へと変わる。

「……へぇ、本当にキースさん、その人が好きなんですね」

 微妙に引きつりながらも、聖女のような微笑を浮かべて見せた愛し子様に、少し感心しつつ、俺は自分でも嘘臭い、しかし心からの思いを込めて笑う。

「ええ。誰が相手だろうと、諦めませんよ」

 大きく頷きながら答え、愛し子様を守るためにと、一歩前へ出て歩き出す。



「俺の本気を甘く見ないで欲しいな」



 呟く言葉は、我が親友も含め、好敵手達への宣戦布告だ。

 刹那の恋に生きるのも楽しかったが、本物を見つけてしまった今は、味気無さしか感じない。

 黙ってしまった愛し子様を連れ、俺は愛し子様護衛任務を続行する。が、脳裏を占めていたのは、一人の少女の笑顔だった。




「キースさん?」

 愛し子様と同じ呼び方をする少女の声に、考え事をしていた俺は、ゆっくりと顔をそちらに向ける。そこには、水晶ウサギを連れた、小動物系な少女の姿。

「セイちゃん、どうしたの?」

「今日はお料理教室の日だよ。キースさんは?」

「非番だからね、散歩だよ」

 中庭へと視線を向けて俺がそう言うと、セイちゃんはゆっくりと黒目がちの瞳を瞬かせる。

 睫毛長いなぁと思ってその様を眺めていると、セイちゃんの目が俺を見ていた。セイちゃんは、顔に表情が出にくい分、キラキラとした目で色々と訴えてくる。

「何かな?」

「んー、気のせい、とは思うんだけど、疲れてない?」

「……まいったな」

 実際、愛し子様との会話を思い出し、精神的な疲れを感じていたが、表面に出てるとは思わなかった。

「……良く分かったね」

「それぐらい分かるよ?」

 当然だよ、という風なセイちゃんに、俺は衝動のまま腕を伸ばし、抱き締めようとする。が、寸でのところで手を止め、艶のある黒髪を優しく撫でる。

「キースさん?」

「ん? セイちゃんが気付いてくれたから、疲れが飛んでじゃったからね。ありがとう」

 不思議そうなセイちゃんに、そう告げると、表情の変化が乏しい顔が、ふにゃり、と柔らかく破顔する。

 相変わらず破壊力のある笑顔に固まった俺を他所に、必死な様子で背伸びをしたセイちゃんから伸ばされた手が、俺の頭を撫で返してくれる。

「良い子良い子。でも、頑張り過ぎは良くないよ? 何を頑張ってるかは知らないけど……」

 知らないのに誉めてくれる無邪気なセイちゃんに癒され、俺は気付けば声を上げて笑っていた。

 ちなみに、疲れていた理由は、愛し子様のせいもあるが、遊んでいた相手を切るのに手こずっていたせいもある。

 大体は、俺が本気で落としたい相手が出来た、と伝えると、軽くつねったり、姉のような頬へのキスで送り出してくれた。相談にも乗るわ、と言ってくれた剛気な女もいる。

 だが、日頃の行いの悪さか、何人かはごねていて、説得するのに苦労した。

 全ての相手と話がついたのが昨日で、愛し子様との疲れるやり取りもあり、中庭をボーッと眺めていて、セイちゃんに声をかけられる事になった。



「セイちゃん、俺、負けないからね」



 唐突な俺の言葉に、きょとんとするセイちゃんの頭を撫でながら、俺は気負いなく笑う。

 とりあえずの目標は、呼び捨てにしてもらう事、から始めようと思う。



 あとは、射殺しそうな目で睨んでくる水晶ウサギに、認めてもらえるよう頑張ろう。

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