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巻き込まれ少女、活動中。幕間,こちらも旅支度? 1

少しだけ、シリアスな雰囲気を混ぜつつ、やっぱりご都合主義です。誤字脱字ありましたら、そっとご指摘お願いします。

幕間,こちらも旅支度?




「まあ、素敵ですわ」

「はい、本当です! 女神様みたいです!」

 きゃぴきゃぴと手を取り合って跳ねているのは、詩織の侍女であるレベッカとティナだ。

 控えめながらも、当然といった表情で、その侍女達の称賛を一心に受けるのは、美しいドレスを身に纏った『世界の愛し子』である詩織だ。

 サマンサは、そんな三人を横目で見ながら、眉ひとつ動かさず、詩織の旅支度を進めている。

「邪魔するぜ?」

 ノックと同時にそう言って入って来たのは、シウォーグだ。その手にあるのは、綺麗に包装された小さな紙箱。

「シウォーグ様」

 詩織が声をかけるより早く、サマンサが作業の手を止め、シウォーグの名前を呼んで頭を下げる。

「そのままで構わない。ほら、ヨードの野郎から、愛し子様へ贈り物だ」

「ヨード様から?」

 愛らしい仕草で小首を傾げた詩織は、訝しみながらシウォーグの手から紙箱を受け取る。

「まあ、お父様からですの? 何かしら?」

「愛し子様、開けてみましょう?」

 レベッカとティナは、ワクワクとした様子で詩織の手元を覗き込み、交互に詩織へと話しかける。

「ええ、開けてみますね」

 侍女達の無邪気な様子に、慈愛に満ちた柔らかな笑みで頷いた詩織は、ゆっくりと包装を解いていき、紙箱の蓋を開ける。

 中から出て来たのは――。

「綺麗なペンダント……」

 詩織が箱から取り出したのは、澄んだ青い石があしらわれたペンダント。

 その美しさに、サマンサ以外の侍女達の視線も釘付けになる。

「守りの魔術が組み込まれた魔具らしいから、肌身離さず着けとけ」

 ぞんざいにそう言い放つと、シウォーグはさっさと退室しようとする。

「あ、あの、私、頑張りますから、雨乞い」

 呼び止められ、だから? と言わんばかりの表情で振り返るシウォーグ。

「あー、まあ、気を付けろ」

 それでも、詩織を案じる言葉を選ぶのは、シウォーグの元々の人の良さのせいだろう。

「じゃあな」

 また呼び止められない内にと、シウォーグは足早に詩織の部屋を出て行く。

「ペンダント、着けてみましょう?」

「きっと、お似合いですわ!」

 目に見えて落ち込んでしまった詩織に対し、レベッカとティナは、慌てた様子でペンダントを示す。

「そうですね。せっかくのヨード様からの贈り物ですから」

 侍女達の気遣いに、詩織は柔らかく微笑んで頷くと、よろしく、と言いながら、白い首筋を晒す。

 詩織の態度は、すっかり他人に傅かれ、何かをしてもらう事が当然、そう物語っていた。

 『世界の愛し子』である詩織に仕えている侍女のレベッカとティナが、その態度に疑問を抱く訳もなく――。

「まあ、素敵ですわ! 我が父ながら、良い趣味ですわ!」

「愛し子様のキラキラが増してます!」

「そう、ですか? ありがとうございます。レベッカ、ヨード様へお礼を申し上げたいんですが……」

 ここにユナフォードがいたら、見抜いていただろう。侍女達の誉め言葉に小首を傾げて照れながら、ヨードへの感謝を伝えようとする詩織の顔を過った、一瞬の表情を。私に似合うなんて当然でしょ? と、覗かせた自信家の顔を。

 だが、今この部屋にいるのは、愛し子様大好きな侍女二人と、黙々と旅支度を進めている侍女だけ。

 先の二人は、愛し子様は控えめでお優しい方だと信じきり、残る一人は視界に入れていない。どちらも、気付いていなかった。

 そう誰も気付いていない。

 普通の高校生だった少女が、皆に傅かれ、跪かれ、徐々に歪んでいっている事に。

 『世界』に愛された少女の歪みが、『世界』をどう変えるのか。

 それは『世界』ですら、分からないのかもしれなかった――。




 ヨードへペンダントの礼と、出立の挨拶をする為に、詩織はサマンサを伴い、庭を望める廊下を歩いていた。

 暖かな日差しが降り注ぐ庭を横目で見ながら歩いていた詩織は、咲き誇る薔薇の傍に見覚えのある人影を見つけ、思わず足を止める。

「ユナフォード様? あ、ユナフォード様にも出立の挨拶をしないといけませんよね?」

「愛し子様のお心のままに」

 否定も肯定もしないサマンサの態度に、詩織は困ったように微笑みながらも、迷いなく進路を変えて、ユナフォードの方へと向かって歩き出す。

「……シウォーグ様もご一緒ですね」

 廊下からは角度が悪く見えていなかったが、近付くとユナフォードが一人ではない事に気付き、詩織は誰にともなく呟く。

「……うん、私だよ。ああ、大丈夫。贈り物は届いたかな? どういたしまして。ちなみに、シウォーグと一緒に選んだんだよ? 今隣にいるから聞こえてるよ」

 近寄るにつれ、ユナフォードの弾むような声も聞こえてくるが、明らかにシウォーグと交わしている訳ではない会話に、詩織は首を捻ると無言でサマンサを見やる。

「……通信用の魔具でお話をされているのでは?」

 表情を変えず、そう答えたサマンサは、自らの耳に触れて、藍色の石が揺れる耳飾りを示す。

「通信用の魔具?」

「決まった方とだけですが、遠く離れた方とでも、会話が出来る物でございます」

 詩織とサマンサは、声を潜めて会話をしながら、ユナフォードの表情が見える位置で足を止める。

「――それより、道中気を付けて行くんだよ? あと、ノウルの暴走にも気を付けて……駄目、男はケダモノだからね。いってらっしゃい、シウォーグも、そう言ってるよ」

「ああ、気を付けて、行ってこい」

 詩織が近付く間にも、ユナフォードとシウォーグは、通信用の魔具の向こうの相手と話し続け……。

 二人の表情の柔らかさに、詩織は目を見張ったまま固まり、サマンサは何かを察したらしく、視線を外していく。

 やがて通話を終えたらしい異母兄弟は、傍にいた詩織に気付くと、兄は完璧な仮面のような笑みを浮かべ、弟は眉間に皺を寄せる。

「何か用かな?」

「旅支度は終わったのかよ」

 先程までの柔らかさが嘘のような硬質な声音、特にユナフォードの変化はあからさまで、詩織の面を傷ついた色が過る。

「あ、あの、出立の挨拶を……」

「お話し中、お邪魔して申し訳ございません」

 ユナフォードの冷えきった眼差しで、どもってしまった詩織を横目に、サマンサが主人に代わりに、深々と頭を下げて謝罪する。

「構わないよ。『世界の愛し子』が盗み聞きなんてする訳ないだろうし」

 当てこすりのようなユナフォードの言葉に、詩織の頬が羞恥と怒りで染まる。

「当たり前です!」

 反射的に勢い良く答えた詩織は、

「私、明日から雨乞いへ行って参りますので」

と、言葉を続けると、優雅な貴婦人の礼を披露し、ユナフォードとシウォーグの反応を見る事なく早足で去って行く。

「……セイ様とのお話は、自室でお願いいたします」

 全てを察したサマンサは、柔らかい苦笑を口元に漂わせて忠告すると、去って行く主人を追って姿を消す。

「おや、どうしてバレたんだろうね?」

 不思議そうに呟き、ゆっくりと瞬きをしたユナフォードに、シウォーグも理解不能とばかりに肩を竦めて見せる。

「さあ? 固有名詞は出して無かったよな?」

「そのつもりだけど……まあ、愛し子が気付いた訳ではないから、問題はないね」

「そうだな」

 首を傾げ合いながら会話する異母兄弟は気付いていない。傍から見た自分達が、どれだけ柔らかい表情を浮かべていたかを。まるで、愛しい者を送り出す、そんな声を出していた事を。

 マオも不在の為、影からの突っ込みも入る事なく、二人はサマンサの忠告に従い、ユナフォードの部屋と向かい歩きながら、話を続けていく。

「……しかし、本当にセイは大丈夫なのか?」

「レイチェルもいるから、間違いは起きないだろうけど……」

「間違い……って、まさか、ノウルの野郎が、セイに何かするって思ってるのかよ?」

「まあ、既成事実を作って、セイが自分から離れていかないようにする、とかかな?」

「ば、な、あ……っ!」

「何を言いたいかは大体分かるけど、落ち着け」

「な、そんな……っ」

「私とノウルは、似ているからね」

 言外に色々と含ませ、ユナフォードは妖しく色気を滲ませた笑みを浮かべ、慌てまくって噎せているシウォーグの背中を撫でる。



「だから、本当は一緒に行かせたくなかったんだよ?」



 悪戯っぽく、冗談めかせてユナフォードが紡いだ台詞を、噎せているシウォーグが聞かなかったのは、果たして幸いなのか……。

「兄上、今なんて……?」

「いや、何でもないよ? セイが色々と巻き込まれないと良いな、と思ってね」

「ああ、確かに」

 良くも悪く単純なシウォーグは、兄の言葉に納得したのか、大きく頷いて、くく、と笑い声を洩らしていた。




「どうかした?」

 旅支度を終えて早めの入浴後、こちらも同じく入浴後なノウルの膝上にいた星は、ノウルが身震いしたのを感じ、きょとんとした表情で振り返る。ちなみに、二人がいるのは星のベッドの上で、星の膝上にはラビが寛いでいる。

「いや、何か妙な寒気がしてな」

「湯冷めしちゃったかな」

 答えながら再度身震いしたノウルに、星は心配そうな色を黒目がちの瞳に浮かべ、ノウルの髪を撫でて呟く。

「セイは温かいな」

「……私より、ラビの体温だよ」

 抱き締めてくるノウルへ、突っ込みを入れつつ、星はドヤ顔をしているラビを潰さないよう気を付けながら、小さく笑い声を洩らして、ノウルを抱き締め返す。

「かなり早いけど、明日に備えて、もう寝よっか?」

「ああ、そうだな」

 風呂上がりでポカポカしている星の体温を満喫しつつ、ノウルは星の髪に顔を埋めながら頷く。

 お休み、と柔らかい声音で挨拶を交わし合い、ノウルは逞しい胸板で、ラビごと星を受け止めながら、ベッドへと倒れ込む。

「獅子さん、お布団お願い」

 星がワキワキと手を動かしながらお願いすると、ノシノシと動き出した獅子が、器用に布団を口でくわえ、主人とその愛しい少女へと掛けていく。

「ありがと……」

 星の声の語尾は掠れ、すぐに寝息へと変わっていく。それを確認し、ノウルも星の額に愛しげに唇を落とし、目を閉じる。

 静かになった部屋の中、布団から這い出したラビと獅子が視線を交わし合い――。

「おやすみ」

 と、軽やかな少年の声が告げた事を知るのは、がう、と返した銀色の獅子のみだった。




『ここは……』

 白い霧が流れてくる泉の畔に、星は裸足で立ち尽くしていた。

『あの森の中?』

『そうだよ、セイ』

 星の問いに答える声は、その足下から聞こえ。

『セイと、はじめてあったばしょ』

『そうだね、私達が初めて会った場所』

 初めて聞く少年の声を訝しむ訳でもなく、星は迷い無く肯定を返す。

『ここはせいじゅうにとって、たいせつなばしょ』

『そうなんだ』

 相槌を打ちながら、星は足下を見るが、白い霧が視界を遮り、そこにはうっすらと茶色い影が見えるのみだ。

『あそこで、せいをまってる』

『……私を、待ってる?』

 理解出来ず首を捻りながら、星は霧を見通そうと目を細めるが――。

『あれは……』




「……誰?」

 自分の声で目を醒まし、星は不思議そうにゆっくりと辺りを見回す。

 まだ夜が明けきらず、室内は闇に沈んでいる。

 星が身動ぎをした事に反応したのか、星を拘束する腕が力を増していく。

「大丈夫だよ、ここにいるよ?」

 抱き潰さんばかりに抱き締めてくる相手に、星は柔らかい声音で囁き、ポンポンと一定のリズムで相手の背中を叩く。

 薄く開いた唇からは、優しい子守唄が紡がれ、闇に沈んだ部屋を満たしていく。

 やがて、歌声は途絶え、部屋には寝息だけが戻ってくる。

 そんな中、

「つづきは、またこんど」

 少年の声が響き、うっすらと目を開けた獅子は、何事も無かったように再び目を閉じた。




 次に目覚めた時、星は真夜中に見た夢の内容を綺麗に忘れていたが……。

 くふ、と挨拶をして来るラビを抱き上げ、ふと何かに気付いたように首を傾げる。

「何か、ラビと話した気が……」

 星の呟きに、ラビは、ぼくが話す訳ないでしょ、と言わんばかりの表情を浮かべて返す。

「そう、だよね。でも、ラビと話せたら、きっと楽しい……」

 想像して楽しくなったのか、星は黒目がちの瞳を輝かせ、ラビをギュッと抱き締める。

「その時は、たくさん話そうね」

 ふふ、と笑い声を洩らし、星はラビを抱いたまま歩き出す。

「さあ、今日から旅行だよ? 留守番組さんのご飯用意して、私達の分のお弁当も用意して――」

 意気揚々と本日の予定を口にする星の脳裏から、夢の残滓はいつの間に消えていた。

 引き止めようとする逞しい腕は、星の腕から飛び降りたラビの鋭い蹴りが引き剥がし、星は伸びをしながら歩き出す。



「……おはよう、セイ」



 そこへ、アルトの少年らしき声が聞こえた気がして、星はシパシパと瞬いて振り返る。

 そこにいるのは、ドヤ顔をしているラビを乗せた、銀色の獅子。

「おはよう、ラビ、獅子さん」

 穏やかな微笑みを浮かべて、二匹に挨拶をした星は、ラビを抱き上げて歩き出す。

「……あれで、気付いていないのか?」

 星の温もりが残るシーツに懐きながら、ノウルは寝起きで掠れた声で呟く。

 そんな主人に対し、獅子は目を細め、がう、と鳴くと、星の背中を追って歩き出す。

「セイ、何処にも行くなよ?」

 自分でも、何故そう呟いたか分からない呟きを洩らし、ノウルは星の温もりを追うようにシーツに手を這わす。

 そんなノウルが思い出すのは、真夜中に見た気がする星の表情。



『誰?』



 頼りない誰何の声、何かを探すような濡れた黒目がちの瞳。

 ここではない何処かへ、星が行ってしまう気がして、ノウルは思わず、強く星を抱き締めていた。

「何処にも行かせない」

 何処か狂気を滲ませ、宣言するように呟いたノウルの声に応じるように、

「ノウル、朝ごはん出来たよー?」

と、邪気の無い星の声が響く。

 途端に表情を緩めたノウルは、蕩けるような笑みを浮かべ、星の声に惹かれるように歩き出した。




 ――数分後、半裸のまま朝食の席に現れたノウルは、星からお説教を受ける事になる。

 その後、迎えに来たアランとレイチェルが見たのは、星から無視をされ、本気で謝り倒すノウルの姿だった。

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