巻き込まれ少女、活動中。2,初めての異世界旅行 1
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2,初めての異世界旅行
「ほぁ、何かおっきな鳥がいたよ?」
「あぁ、あれはエデンバードだ。かなり珍しいな、こんな所にいるとは」
「本当です〜、ちょー山奥にしかいない珍しい鳥なんですよ〜?」
「あ、挨拶してくれたよ?」
「人嫌いな鳥なんだが……」
「さすが、セイちゃんですね〜」
そんな観光気分な会話をしながら、馬車に揺られているのは、星とノウル、それにノウルの部下の一人であるレイチェルだ。もちろん、ラビも使い魔と一緒に馬車へ乗り込んでいる。
ちなみに、簡易な旅装姿の星は、馬車の揺れでお尻が痛くならないようにと、ノウルの膝上に乗せられている。
三人がこうして旅路についた理由は、数日前へと遡る――。
●
見事に『世界の愛し子』の食欲不振は快方へと向かい、クビになる筈だった料理人は無事に仕事を続けられる事となった。
その一発逆転の要を担った星は、今日もエルノに料理を教える為に城へと訪れていた。傍らには、ラビを乗せた銀色の獅子が付き従う。
あとは、躾の出来た犬のように星の隣をピッタリと付いて歩き、見えない尻尾を振る赤毛の騎士――アランがいた。
「セイさん、セイさん、今日は何を作るんですか?」
「今日は、オムライスだよ。ケチャップ作って、オムレツ乗っけて、パカッて割るんだよ」
「うわぁ、美味しそうですね」
仲良く手を繋いで歩きながら、ほのぼのとした会話をする星とアランには、逐一詩織の動向が影や兵士、はたまた侍女から伝えられ、ニアミスすらなく厨房へと辿り着く。
「おはようございます、セイちゃん、アラン」
「おはよう、エルノさん」
「おはようございます! エルノ」
和やかな挨拶を交わした三人だったが、星はそこで自分達以外の人間を見つけ、ビクッと肩を揺らし、アランの背後に隠れる。
「だ、だれ?」
「あ、この方は……」
「俺は、リチャード。この城の料理長だ」
人見知りを発揮して怯える星に、エルノは慌てて紹介しようとするが、その前に本人の口から自己紹介の言葉が出てくる。
真っ青な髪に、アイスブルーの瞳の美しく冴えた美貌。シウォーグ並みの長身。なおかつ、星以上の無表情なリチャードに、星はアランの影に隠れたまま、小さく頭を下げて返す。
「巻き込まれの、星・柊です」
いじめないで、と副音声が聞こえそうな程プルプルしながら、星はアランの影から簡潔な自己紹介をする。
「あの、今日は料理長も、一緒に料理を教えていただけたら、と思いまして……」
「急で悪いが、頼めるか?」
恐縮しているエルノと、頼みながらも、睨みつけて来るリチャードに、
「えぇと、素人の料理で良ければ。……あと、あんまり睨まないで、欲しいです」
と、星は消え入りそうな声で返す。
「すまないな、睨んでいる訳ではない。この顔は、生まれつきだ」
「……なら、しょうがないですよね。失礼なこと言ってごめんなさい」
「いや、なるべく気をつけるが、怖がらせてすまない」
「私こそ、慣れるように頑張ります」
アランの手を握りながらだが、リチャードの視線に大分慣れた星は、アランの影から出ると、もう一度頭を下げた。
「よろしくお願いします、料理長さん」
「こちらこそ、よろしく頼む。それと、リチャードで構わない。料理長と呼ばれるには、俺は若輩だ」
「はい、リチャードさん」
ふにゃ、と笑って頷く星に、リチャードも釣られたのか、無表情だった顔に微笑を浮かべて見せる。
「リチャードさんの笑顔、初めて見ました」
「そうか?」
驚いた様子のエルノの言葉に、リチャードは首を捻りながら、エプロンを着けている。
「リチャードさんって、笑うと優しい顔です」
ほわほわとした空気を飛ばしながら呟くと、星は笑って、とばかりに、リチャードへ向けて、自らの両頬を人差し指で軽く押し上げて見せる。
「セイは笑うと可愛さが増すな」
リチャードは、そんな星の頭をぽふぽふと優しく叩いて、からかうように告げる。が、本人より早く反応した人間がいた。赤毛の忠犬もとい、騎士のアランだ。
「はい! セイさんは笑うと、より可愛いんです!」 星が照れる間もなく元気良く答えるアランに、リチャードは納得したとばかりに大きく頷いて返し、その後、アランと固い握手を交わす。ちなみに、足元ではラビが、当然だよ、と言わんばかりのドヤ顔だ。
「……えーと、とりあえず、オムライスを作ります。エルノさん、ご飯炊けてる?」
アランとリチャードからの空気に耐えられなくなり、視線を泳がせた星は、わざとらしく話題転換に走る。
「はい、なかなか上手に炊けたと思います」
空気の読めるエルノは、すかさず話題転換に乗っかり、艶やかに炊き上がった白米を星へと示す。
「じゃあ、早速オムライスを作ります。今日は、二種類作ってみたいと思います」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
アランと握手を交わしていたリチャードも戻り、星の異世界料理教室が始まる。
さすが、料理長の肩書きを持つだけあって、リチャードはあっという間に二種類のオムライスをマスターする。
「リチャードさん、美味しいよ」
リチャードが作ったオムライスを食べながら、星は頬を押さえて、感嘆の声を洩らし、リチャードを見やる。
そのリチャードはというと、星が作ったオムライスを食べて、言葉を無くしている。だが、心配そうな星の視線にも気付かず、ガツガツと食べ始めたところを見ると、不味い訳ではないらしい。
「セイさん、美味しいです! おかわりください!」
パァッと輝く笑顔と共にアランから差し出された空の皿に、星は安堵の息を吐くと、フライパンを火にかける。
「あ、うん。じゃあ、今度は、薄焼き卵で包んだオムライスを作るね」
「俺ももらえるか?」
「僕もお願いします」
「……うん!」
リチャードとエルノからも空の皿が差し出され、元気良く頷いた星は、明らかに先程より張り切って、フライパンを振り始めた。
「――何故だろうな。材料も手順も同じはずだが、セイのオムライスの方が断然美味い」
「はい。リチャードさんのも、十分美味しいですが、やはりセイちゃんの方が……」
少し離れた場所でラビにオムライスをあげている星を横目で窺いながら、リチャードとエルノは、真剣な表情で語り合う。しかし、その間にもオムライスは一定の速度で二人の口へと吸い込まれ、皿は白の面積を増やしている。
「やはり、あの歌か?」
「あー、セイちゃんの鼻歌って、何か聞いてると安心しますし、特殊な力でもあるんでしょうか」
空になった皿の前で、顔を付き合わせて真剣に話し合うリチャードとエルノ。そんな二人の傍らでは、星が作ったおかわり分のオムライスを、アランが一心不乱に食べている。
「駄目だよ、ラビ。これは、ノウルの所に持っていく分だから。食べ足りないなら、クッキーで我慢してね?」
岡持ちに似た携帯型の保存箱に入れようとしていたオムライスに、もふもふな前足が伸びて来た事に気付き、星は優しくラビを止めながら、その口元へクッキーを宛がう。
くふ、と不服げに鼻を鳴らしたラビだったが、クッキーを貰うと、すぐに機嫌を直し、上機嫌な様子でクッキーをかじり始める。
その姿に興味を覚えたのか、エルノと話していたリチャードは、ゆっくりと近寄って来ると、クッキーを食べているラビを無言無表情でガン見する。
「あのー……リチャードさんも食べますか?」
「……ああ、ありがとう」
あまりのガン見っぷりに、若干星を怯えさせつつ、リチャードは差し出されたクッキーを、礼を言いながら恐る恐る両手で受け取る。
「これは? 焼き菓子か?」
「うん、クッキーっていいます。私は、バターたくさん入れるのが好きです」
星は、アランとエルノ、ついでにまた影から引きずり出されたマオにクッキーを渡しつつ、不思議そうにクッキーを眺めているリチャードへ説明する。
「……簡単に噛み砕けるな、これは」
「バターの良い匂いですね。甘さもちょうど良いです」
「相変わらず、美味しいです」
揃ってメイドイン星のクッキーをかじりながら、三人はそれぞれ感想を口にする。
そんな好意的な感想を聞き、星は僅かに頬を緩ませながら、自らもクッキーを口に運ぶ。
「セイ、今度は、これの作り方を教えて欲しい」
「良いですよ」
新たなクッキーを片手に、詰め寄って来たリチャードに、星は若干引き気味ながもコクリと頷いて快諾する。
「あ、僕もお願いします」
そこへ、のんびりと挙手をしたエルノが乗っかり、次回の料理教室の予定が決定した。
「アラン君、ずっと付き合ってもらってるけど、大丈夫?」
ノウルの所へと向かう途中、オムライスを入れた携帯型保存箱を持たされ、隣を歩いているアランを、星は今更ながら心配そうに問いかける。
「え? あ、はい、大丈夫ですよ。団長には事情を話してありますから。逆に、ここでセイさんを一人にしたら怒られます」
星の問いに、一瞬キョトンとしたアランは、すぐに緑の瞳をきらきらと輝かせて応じ、親愛に満ち溢れた無邪気な笑顔を一心に星へと向ける。
「そうなんだ、ありがと、アラン君。あと、ゴードンさんにも、よろしく伝えてね」
「はい! ――っ、セイさん、おれの後ろへ。ラビを抱えて、喋らないで……」
星はふわ、とした笑顔を微かに浮かべ、小さく頭を下げながら返し、アランは更に嬉しそうな笑顔と共に返事をする。が、不意に前方へ鋭い視線を向け、表情を引き締めると、星を自らの背後へと隠し、近寄って来る相手に聞こえないよう囁き声で指示を出す。
星は無言で頷くと、指示通りラビを抱え上げ、アランの服を掴んで、その背後で息を潜める。
その間にも、相手は歩みを止めず、カツカツと石の床を叩く革靴の音が近づき、星は小さく体を震わせる。
「大丈夫ですから、悪い奴ではないです」
星を安心させようと小声で話しかけてから、アランは腕の距離程しか離れてない相手へ視線を移す。
「おれに何か用か、フィリップ」
星へと向けた声とは違い、硬質な響きの声音でアランは目の前の相手――フィリップに問う。
「どうして愛し子様の護衛を辞退した!? 僕を哀れんだのか!?」
フィリップの怒鳴り声に、星は小さく肩を震わせ、アランの背中へ顔を埋める。
「違う。とりあえず、この方が怯えるから、怒鳴らないでくれ」
背中越しに伝わる温もりと震え。星の怯えを感じ取ったアランは、首を大きく横に振りながら、落ち着いた口調でフィリップを諌める。
「――これは、申し訳ありません。少し、アランをお借りしても構いませんか?」
流石貴族の肩書きを持つ騎士だけあり、フィリップはドレスを纏った星に気付くと、優雅な微笑み浮かべて謝罪をし、許可を求める。
星はフィリップの紳士な態度に安堵の息を吐くと、コクリと頷いて、アランから手を離そうとするが、それに気付いたアランは、離れようとした星の手を後ろ手で捕える。
「おれには、その事に関してお前と話すつもりはない」
星の前での無邪気な大型犬な姿が嘘のように、アランは固い表情でフィリップを拒絶する。
「何故だ? 『世界の愛し子』の騎士になるのは、貴様の夢でもあったはずだ。その為に、お互い切磋琢磨を……」
「確かに! 確かに、それはおれの幼い頃からの夢だった」
背後で星が肩を跳ねさせたのを感じたが、アランは声を荒げ、フィリップの言葉を遮る。
「では、何故、辞退したんだ! クロトの次は、貴様が選ばれていた筈だ!」
「初めて……初めて会った時に、分かったんだ。おれが守りたいのは『世界の愛し子』ではないと」
そこで、アランは先程までの激情が嘘のように、穏やかな光を湛えた緑の瞳をフィリップへ向け、力強く言い切る。
「……そうか、なら仕方がないのかもしれない。だが、今度の任務には付き合ってもらいたい。貴様程信頼出来る騎士を、僕は知らないからな」
アランの真っ直ぐな眼差しに、フィリップは苦笑して肩を竦めると、それだけ言うと、星へ謝罪をしてから、現れた時と同じように颯爽と去っていく。
残された星とアランは、視線を交わし合い、小首を傾げる。
「アラン君、任務って?」
「さあ? あとで団長に確認します。あの……フィリップは、良くも悪くも、愛し子様が大好きで、真っ直ぐな男なんです。悪く思わないでください」
友人をフォローするアランに、星は小さく頬を緩まて頷くと、ラビを小脇に抱えて、空いた手でアランの手を握り直す。
「行こ?」
「はい、そうですね」
愛しげに目を細めてアランは笑い、守りたい、と心から思う少女の手を握り直した。




