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巻き込まれ少女、活動中。1,誰が為の料理? 2

誤字脱字ありましたら、そっと教えていただけると助かります。感想もあれば、よろしくお願いいたします。

「……えーと、結局、私がどうしたの?」

 すっかり無害に分類され、テーブルの傍まで近寄る事を許されたキースを、星はノウルに背後から抱き締められたまま見上げて問いかける。ちなみに、ノウルは椅子に座っているので、星は膝上に乗せられた体勢になっている。

「何かセイちゃんの婚約騒ぎでエルノの存在薄れてたけど、覚えていてくれて良かったよ。……それで、セイちゃんにお願いがあるんだけど、エルノに料理を教えてもらいたいんだけど」

「私が、プロの料理人さんに?」

 苦笑から、台詞の後半で真剣な表情へと変わったキースに、星はきょとんとして訝しんで問い返す。そんな星に、キースは力強く頷いて見せる。

「うん、そうだよ。セイちゃんにしか、出来ないから。――異世界の料理を教えるなんて」

「あ、一発逆転だ」

 ウィンクと一緒に飛んできたキースの言葉に、星は納得したとばかりにポツリと呟き溢す。

「セイちゃんが力を貸してくれるなら、可能になると思わない?」

 悪戯っぽい台詞ながら、真剣な眼差しで星へと問いかけるキース。

「……卑怯な言い方だね。まあ、私で良ければ協力するよ。ここでエルノさん見捨てたら、寝覚めが悪いもん」

 小首を傾げた星は、チラリとノウルを窺い、その表情を確認してから、言葉と共に右手をキースへと差し伸べる。

「ありがとう、セイちゃん」

 感極まった様子のキースは、差し伸べられた星の手を取り、その甲へ忠誠を誓う騎士のように唇を落とす。

「あの、握手……」

 頬を染めて困惑気味に呟く星の言葉を聞いていたのは、キースの脛を蹴り上げたラビのみだろう。

 ムッとした表情のノウルは、無言で対抗するように星の旋毛へと口付け、そんな可愛らしいやり取りを見たシルヴィーアと侍女達は、クスクスと楽しそうに笑っていた。




 そんな紆余曲折を経て、星はキースに連れられて、城の厨房へと向かっていた。

 その途中、ユナフォードとシウォーグに出会い、星がエルノへ会いに行く事を説明すると、

「私も、セイの料理食べたいな」

「おれも」

という流れになり、二人も厨房に同行する事になる。

 大物二人の同行に、キースは頬を掻いて苦笑を浮かべているが、拒否出来る訳もなく、無言で星の手を握り直す。

「一応、エルノさんに、お料理教えるのが目的だからね?」

 キースの手を握り返し、並んで歩きながら、星はユナフォードとシウォーグを仰ぎ見て、そう小首を傾げて言う。

「わかってるよ。――しかし、そんな難癖をつけるのは、どうせヨードか叔父上だろう」

 肩を竦めて答えるユナフォードの口元を、一瞬冷たい笑みが過るが、怪訝そうな星の視線に気付くと、その口元はすぐに柔らかい微笑みで覆われる。

「今回はヨード様らしいです。愛し子様の食欲不振は、お前達の腕が悪いからだ、と」

「あの野郎、相変わらずろくでもない事を……っ」

 肩を竦めたキースの苦笑混じりの台詞に、シウォーグは歯軋りと共に憎々しげに吐き捨てる。

「ヨード様って、裁判の時にいた、脂ぎった貴族さんだよね?」

 一人会話に加われず、無言でいた星は、聞き覚えのある名前が出ると、キースの手を引いて耳元に顔を寄せ、小声で確認する。

「……うん、そうだよ。セイちゃんを馬鹿にしてた、あの脂ぎった貴族様だ」

「あー、あの時は、彼の舌を引っこ抜こうか、切り裂こうか悩んだよ」

 星の問いに答えるキースの台詞が聞こえたのか、ふふ、と美しく微笑んだユナフォードが物騒な事を呟きながら、星の頭を撫で回す。

 頭を撫でられた星は、歩きながらユナフォードを仰ぎ見て、小首を傾げて口を開いた。

「するか、しないか、じゃないんだ」

「何故セイを傷つけようとする相手を気遣う必要が? あげるのは、方法の選択肢だけで十分だよ」

 シルヴィーアに良く似た美しい面に、慈悲深い優しげな微笑みを浮かべて、ユナフォードは迷いなく言い切る。

「……頑張って、ヨードさん」

 自分が原因ながら、ヨードが可哀想になったのか、星は小声でヨードにエールを送る。

 そんな星の様子に、ラビを含め、全員から柔らかい眼差しが向けられる。

「セイちゃん」

「困った子だね」

「あの野郎は、殺しても死なねぇよ」

「あのぶたやろう」

 サラッと混じった暴言に、三人の男性の視線が星へと集中するが、星は不思議そうに小首を傾げている。星には聞こえなかったらしい。

 聞こえた声は、少年らしいアルト。明らかに、星の声ではなかった。

 次に三人の目が向けられたのは、星の足元をてぽてぽ歩いている愛らしいふわふわな水晶ウサギ。

 視線に気付いたのか、件のラビは可愛らしく小首を傾げ、何か? と言わんばかりの表情を浮かべている。

 その上では、星が同じように可愛らしく小首を傾げていて、顔を見合せた三人は、肩を竦めて思考を放棄した。




「初めまして、僕がエルノです。今回は、キースの我儘を聞いていただき、ありがとうございます」

「初めまして、エルノさん。私は巻き込まれの星・柊です。えーと、そんなにかしこまらないで良いですよ?」

「あー、アランと違って、こいつはこれが普通なんだ。だから、気にしなくて大丈夫だよ」

 自己紹介をし合う二人の脇で、キースがそうフォローをし、星の頭を優しい表情で撫でる。

「……キースがそんな優しい表情出来るとは、驚きました」

「エルノ、余計な事、セイちゃんに言わないでくれる?」

「でも、本当の事ですし……」

「それが余計なんだって!」

 アランといる時とは違い、逆に振り回されているキースの姿に、星は黒目がちの瞳を驚きで瞬かせている。

 そんなキースを振り回しているエルノは、赤みがかった金髪に、緑色の瞳、頬にはそばかす、丸い目で愛嬌がある青年だ。垂れ目でチャライケメンな見た目のキースとは、気が合いそうもないが、やり取りを見る限り、意外と仲が良さそうだ。

 そんな感想を星が抱いていると、厨房に椅子を持ち込んで座り込んだユナフォードから、

「早く始めた方が良いんじゃないかな?」

と、のんびりとした突っ込みが入る。その隣では、椅子を持ってきた当人であるシウォーグが、姿勢良く立っている。

「あ、そうだね。とりあえず、今日の詩織さんの夕飯作ってみてくれますか?」

「シオリさん、とは、どなたですか?」

「あー、愛し子様、です」

「愛し子様は、シオリ様とおっしゃるんですね。初めて知りました。……それはおいといて、今日のメニューは、カレーです。早速、作りますから」

 おっとりと話すエルノと波長が合ったのか、星は人見知りを発揮する事もなく、ほのぼのとした空気を漂わせて、並んで料理を始める。

 正確には、エルノが料理する姿を、星はラビを抱えて、ジッと見つめている。

 キースが手際が良いと評価するだけあって、エルノの作業に迷いはなく、あっという間に、コトコトとカレーを煮込む作業に入っていく。

「……ちなみに、カレーだと、パンですか? ナンですか? 米ですか?」

 真剣な顔で鍋を見つめているエルノの横顔に、星は小首を傾げて問いかける。

「合わせるのはパンです。セイちゃん様と一緒の国の方ですし、やはり米が良いのでしょうか?」

 火加減を見ながら、エルノは困ったような表情で、星を窺う。

「うん、日本人なら、カレーなら、カレーライスが定番だよ……じゃなくて、定番です」

「あ、セイちゃん様。キースと話すみたいに話してください。僕は気にならないんで……。しかし、愛し子様は、米がお好きなんですね」

「じゃあ、お言葉に甘えて。……で、お米無いの?」

「いえ、ありますが、あまりこの国では人気がないもので……。セイちゃん様も、米がお好きで?」

「うん、好きだよ。今ではノウルもお米好きだよ。特にオムライスがお気に入り」

「ノウル様もですか?」

「――と言うか、セイちゃん、変な呼ばれ方直さないと、本当にずっとそう呼ばれるよ?」

 並んで鍋を覗き込みながら、のんびりとした会話を続ける二人に、ついに我慢しきれなくなったのか、キースからの指摘が入る。

 離れた位置にいる王子二人は、星から貰ったお茶会のお菓子の残りを食べて、ほっこりしている。

「え? キースさんと一緒だよね、呼び方」

 キョトンとした表情で首を傾げて言い、さらに小動物めいた姿を晒した星に、キースは脱力して、大きく首を振る。

「エルノは、『セイちゃん様』って呼んでるんだけど?」

「……え?」

「出来ましたよ、セイちゃん様!」

「……本当だ。エルノさん、様つけるの止めてください。キースさんも、そう呼んでくれるので」

 タイミング良く名前を呼ばれ、星は軽く目を見張ってから、エルノの服を軽く引いてお願いをする。

「わかりました、セイちゃん」

「ありがと、エルノさん」

 ふわふわとした笑顔を交わし合う星とエルノを横目に、キースは苦笑しながら、湯気の立つ鍋を指差した。

「出来たんじゃなかった?」

「「あっ」」

 顔を見合せ、同時に小さく声を上げると、星とエルノは、苦笑いしながら、揃って小皿を持ち、エルノ作のカレーをよそって味見をする。

 いつも通りの味だったのか、エルノは納得したように小さく頷いている。その隣で、星は何とも言えない表情をすると、首を捻りながら、もう一度、エルノ作のカレーを小皿によそい、抱えていたラビの口元へ寄せる。

「ラビ、味見してみて?」

「セイちゃん、そこは俺じゃないの?」

 キースの情けない突っ込みはスルーされ、気にした風もないラビは、フンフンと小さく鼻を動かして、カレーの匂いを嗅ぐが、すぐにふいっと顔を背けてしまう。

「……ん、私の舌がおかしい訳じゃない、と」

「えーと、不味かったですか?」

 ラビの態度に納得したように頷く星。逆に不安そうな表情をするエルノ。

 そんなエルノに、星は相変わらず何とも言えない表情を向け、ゆるゆると首を振った。

「不味くはない、と思うけど、私は正直好きじゃないかな。たぶん、詩織さんも苦手だと思う」

 そう言葉を選びながら発言した星は、ラビを足元に置いてから、食材へと手を伸ばす。

「ちょっとした違いが、たぶん、ズレみたいな事になって、ほんの少しだけ美味しくないんだと思うけど……」

 エルノ程ではないが、手際良く作業をしながらフォローするように呟く星には、知る由もなかったが――。

 エルノが作ったカレーは、この世界のレベルでは、最高に近い、完璧な仕上がりだという事を……。

 現に近寄って来て勝手に味見をしているシウォーグは、こんなもんだろ、と呟くと、小皿にカレーをよそい、優雅に座って待つ兄の元へと運ぶ。

「いつも通りの味だね」

「だよな」

 王子二人の会話を聞き、エルノはひっそりと安堵の息を吐きながら、楽しそうに料理を作っている星を見つめている。

 エルノより少し時間をかけ、煮込む行程に移った星は、何かを思いついたらしく、傍らで真剣な表情をしているエルノへ顔を向けた。

「あ、エルノさん、お米の炊き方わかる?」

「炊き方、ですか? 米とは、そのまま食べる物では?」

「まあ、それが好きなら良いけど、詩織さんは炊いた米の方が好きだと思うよ。だから、覚えといて損はないよ?」

 キースが運んで来てくれた米を受け取りながら、星はそう言って、ふんわり、と微笑み、エルノへ説明しつつ、早速米をとぎ始める。

「水の分量と、火加減に気をつけて、あと――」

 星の説明を、エルノは頷いてメモをとりながら、一言も聞き洩らすものか、と言わんばかりの表情で聞いている。

 そんなエルノの姿を、ラビを抱えさせられたキースが、苦笑しながら見つめていた。


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