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巻き込まれ少女、活動中。1,誰が為の料理? 1

修正しました。アル様の名前、間違えてました。

1,誰が為の料理?




「セイのお菓子は、本当に美味しいです!」

「お口にあって、良かったです、ヴィア様」

「この、サンドイッチ? も、美味しいよ」

「ありがとうございます、へーか」

「おや、私もヴィアのように愛称で呼んでくれないのか?」

「えーと……アル様?」

「ずるいです、アルファン! セイ、もう一回、わたくしを呼んでください」

「はい、ヴィア様」

「セイ、私も」

「はい、アル様」

「まあ、アルファン、ずるいです」




「……誰が止めるんだ、あれ」

 疲れたように呟くノウルの視線の先では、まだ先程までと同じやり取りが繰り返されている。

 ここは、王族と王族に招かれた者しか入れないテラスだ。そこに置かれたテーブルを囲むのは、星と、このマナーシュ最高権力者である国王アルファン、その妻である王妃シルヴィーアの三人。

 ノウルは護衛も兼ねている為、傍らで置物よろしく姿勢良く佇んでいた。

 三人が囲むテーブルの上には、星が作ったお菓子とパンが所狭しと並んでいる。

 王妃付きの侍女達も、別のテーブルでお裾分けのお菓子を口にし、感嘆の声を洩らしている。護衛の兵士も、お裾分けを受け取っている為、全員、巻き込まれである星を見守る目は温かい。

 なので、ノウルが呆れたあの不毛なやり取りも、誰にも止められる事はなく、温かく見守られていた。

 本来なら――。

 本来なら、きっとここにいて、温かく見守られているべきなのは『世界の愛し子』である詩織だろう。しかし、何の因果か、今ここにいるのは、巻き込まれである星だけ。

 誰もその事に疑問を抱く事はなく、お茶会は続いていく。

「あー、ところでセイ。愛し子と知り合いと言うのは本当か?」

 やっと気が済んだのか、名前を呼ばせるだけの会話から、通常の会話へと移行し、アルファンはカップを手に星へ重々しく問いかける。隣では、シルヴィーアもマフィンを片手に頷いている。

「……あー、あの、別に隠してた訳ではなく」

「誤魔化さないで、はいかいいえで答えなさい」

 言い訳をしようとした星をピシャリと遮り、アルファンは先程までのほのぼのさが嘘のような鋭い眼差しを星へ向ける。

「はい、か、いいえなら、はい、です。でも、詩織さんに関係はなくて、私が彼女との関係性を隠してくださいと頼んだんです!」

 膝に乗り上げてきたラビを抱き締めてプルプルしながらも、星ははっきりと言い切り、涙目でアルファンを見つめ返す。

「別に庇わなくても、愛し子の立場は、セイを見捨てたぐらいでは揺らがないですよ?」

 そう優しい声音で囁きながら、シルヴィーアが星の頭を撫でる。だが、星は嫌々をするように首を振り、艶やかな黒髪を散らす。

「……いや、あの、私達がいじめているみたいな雰囲気になってきたが、私達は、息子達から話を聞いているぞ?」

「そうですよ? セイが隠しても、愛し子の嘘はバレてるんですから」

 佇んでいるノウルと、星の膝上にいるラビから愛玩動物とは思えない鋭い眼差しを向けられ、国王夫妻はわたわたと揃って手をバタつかせながら、言葉を重ねる。

「……え? ユナ様、バラしちゃったの?」

 星はキョトンとした表情で涙に濡れた瞳を見開き、あどけない言葉を洩らす。

「そうなんだよ、ユナフォードから聞いたんだ」

「そうそう、ユナフォードから聞いたんですよ?」

 ここにいない息子へ罪を擦り付け、ここぞとばかりに頷く国王夫妻に、侍女達と兵士は、空気を読んで視線を外している。

「なら、隠しても仕方無いですね。えーと、それで、私と詩織さんが知り合いだと、何か問題がありますか?」

「とりあえず、愛し子に関して絡んでくる貴族には、知己だと知られないようにした方がお互いの為だろう」

 息子へ罪を擦り付けていたとは思えない真剣な顔で告げるアルファンに、星は素直にコクリと首肯する。

「確実に利用されてしまいますからね」

 こちらも真剣な顔で、夫の言葉に追従するシルヴィーア。星も、再度コクリと首肯する。

「はい、気をつけます。――あれ? キースさん?」

と、頷いていた星は、視界の端に見覚えのある騎士を見つけ、小首を傾げて確認するように相手の名前を呼ぶ。

 星に呼ばれ、キースは一瞬だけ表情を緩めるが、すぐに真顔に戻り、テラスの入り口で直立不動だ。

「騎士が、何用だ?」

 先程までほのぼのしていた兵士が、星と国王夫妻を守るよう立ち位置を変え、油断なくキースを睨み付け、恫喝する。

 侍女達も立ち上がり、兵士の後ろに控え、キースと王妃の間へ立ち塞がる。王妃自身は、星を抱き寄せて自らの腕の中へ閉じ込めて守る。

「無礼ですわ」

「控えなさい」

「ここを何処だと思っているんですか?」

 三人いる侍女は、怯えた様子もなく、それぞれ凛とした口調で告げると、キースを睨んでいる。

 どう見ても歓迎されていないキースに、星は王妃の腕の中から心配そうな視線を送っている。

「……処罰は覚悟の上です。どうか、わたくしの話を」

「黙れ、陛下の御前で何を語る気だ!」

 キースの言葉を遮り、再び兵士が恫喝する。その声の鋭さに、星はビクリと肩を揺らし、シルヴィーアを心配させる。

「……あの、アル様、お願いです。キースさんの言葉を、聞いてあげてください。彼は、見た目はチャラいですけど、ちゃんとした騎士なんです」

 心配そうなシルヴィーアの視線をあえて無視し、星は身を乗り出して、成り行きを見守っていたアルファンへ訴える。

「本当は特別扱いは出来ないが、今回はセイに免じて話を聞こう」

 星の訴えと、黒目がちの瞳でヒタと見つめられ、苦笑混じりながら、鷹楊に告げるアルファン。シルヴィーアも、優しく微笑んで、星の艶やかな黒髪を撫でている。

「ありがとうございます! セイちゃんも、ありがとう。……実は、私の友人から、仕事を奪わないで欲しく、私はこうして、陛下の御前へと、無礼を承知で参りました」

 安堵で顔を輝かせたキースは、深々と頭を下げてから、早速とばかりに性急な訴えを口にして、アルファンの顔を頭を下げたまま、チラリと窺う。

 星も一緒になり、アルファンをチラチラと窺っているが、アルファンの顔に浮かぶのは困惑だ。

「……いや、そう言われても、私には話が見えないのだが。お前の友人は、騎士か?」

「いえ、あいつ――エルノは、料理人です。愛し子様の料理を担当している一人だったのですが、このところの愛し子様の食欲不振で、責任をとらされる事になり……」

「そのエルノさんが、選ばれちゃったんだね」

 シルヴィーアの腕の中で、ラビを抱き締めた星が、キースの言葉に反応し、我が事のように悲しそうに呟く。

「ああ。抗議をしたが、聞き届けてはもらえず、俺はどうにかして、話を聞いていただこうと、こうしてここへ……」

「エルノさんって、料理上手いの?」

「手際は良いかな。あと、何より、愛し子様の為に料理を出来る事を、心から喜んでたよ」

「クロトさんが、料理人になった感じの人?」

「あー、まさにそうだな。愛し子様の為なら、努力を惜しまない。だから、今、絶望の縁にいるんだ」

 一国の王を間に挟み、星とキースの会話は続く。アルファンも、特に気分を害した風もなく、星達の会話を聞いている。

「どうにかして、一発逆転出来ないのかな。アル様に頼めば、確かに決定は覆るかも知れないけど、きっとしこりは残るよ」

「…………あー、そうだね。ちょっと冷静さを欠いてたな、俺も」

 シルヴィーアの腕の中、星からの指摘に、キースは顔を手で覆い、天を仰いで自嘲気味に呟く。

「私の言うべき台詞を、セイが言ってくれたな」

「ふふ、そうですね」

 和やかな会話を交わす国王夫妻に、キースはバツが悪そうな表情を浮かべ、顔を手で覆ったまま視線をさ迷わせている。

「ねぇ、詩織さんの食欲不振が治れば、エルノさんのクビも撤回されるんじゃない?」

 そんな空気の中、星は小さく左手を挙げながら、小首を傾げつつ、天を仰いでいるキースへ声をかける。

「……まあ、そうだね。でも、どうやって? 城の料理人総出で考えたメニューですら、愛し子様の食欲不振を治せない――」

 肩を竦めて、苦笑混じりで星へ問い返すキースだったが、唐突に言葉を途切れさせると、射殺さんばかりの視線を星へと向ける。と、同時に、

「セイちゃんが、いるじゃないか!」

 張り上げられた声に怯えた星が、シルヴィーアの胸に顔を埋めて出て来なくなり、キースは一同から冷たい視線を向けられる事となった。

「驚かせてごめんね、セイちゃん」

 その後、ノウルとシルヴィーアの説得により、星はやっと顔を上げ、申し訳無さげなキースの謝罪を受け入れる。

「私こそ、びっくりしちゃってごめんなさい、キースさん」

 濡れた瞳もそのままで、ふにゃ、と柔らかい笑みで謝罪を返す星に、テラスには和やかな空気で満ちていく。

 その中でもゆるゆるな雰囲気なのは、いつも通りなノウルと、星を抱き締めて構い倒しているシルヴィーアだ。

「やっぱり、女の子は良いですね。――ねぇ、セイ、ユナフォードか、シウォーグのお嫁さんになりませんか?」

 冗談めかしたシルヴィーアの台詞に、テラスの空気が、今度は凍りつく。

「ヴィア? ちょっと、気が早いんじゃないか?」

 いち早く復活したアルファンは、引きつった笑顔で妻を説得しようとする。

「あら、良いじゃないですか。王族なら、年の差のある婚約者も普通ですし、二人共、良い男に育ちました。それに、二人と結婚してくれたら、セイはわたくし達の娘になるんですよ?」

「セイが、私達の娘に……」

 シルヴィーアの力説に、あっという間に懐柔されてしまうアルファン。

「えーと、とりあえず、今はまだ考えられないです。と言うか、ユナ様とシウォーグさんなら、引く手あまたじゃ……」

 頼りにならない助けに、星は自力で、暴走シルヴィーアを説得に入る。

「そうですか……そうですよね、セイの傍にはノウルがいますし、悩むのは当然です。ですが、ユナフォードも顔なら負けてないですし、シウォーグなら剣の腕は負けてない筈です」

「あのー、ヴィア様?」

「わたくし、可愛いセイに、『お母様』と呼ばれたいです」

「なら、私は『お父様』だな」

「アル様まで……」

 一気に脱力した星は、弱々しい言葉を洩らし、助けを求めるように優秀な侍女達へ視線を向ける。

「王妃様、あまり性急過ぎますと、セイ様に嫌われてしまいますわ」

「そうですよ、セイ様は繊細な方ですから」

「気持ちは押しつけるものではありませんよ?」

 星からの視線に、顔を見合せた三人の侍女は、それぞれ柔らかい微笑みと共に、やんわりとシルヴィーアへ提言する。

「それもそうですね。セイは小動物みたいな子ですから、怯えさせてしまいますね」

 ごめんなさい、と付け足したシルヴィーアは、優しく星の頭を撫でながら、意味ありげな視線を、苦虫を噛み潰したような表情のノウルへと向ける。

「うふふ、大丈夫、盗らないですよ――今は、まだ」

 独り言のようなシルヴィーアの台詞に、星は黒目がちの瞳を瞬かせ、窺うような視線をあちこちにさ迷わせるが、答える者は誰もいなかった。


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