表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/186

巻き込まれ少女、出会う。8,巻き込まれ、奮闘す 1

星の戦い開始です。誤字脱字等ありましたら、そっと教えてください。感想も大歓迎です。

8,巻き込まれ、奮闘す




――謁見の間。

 水を打ったような静寂の中、きちんとドレスを身に纏った星が、背筋を伸ばして、衆人環視の中、視線を一心に浴びて立つ。

「私が、今代の巻き込まれで、ございます。どうか、私の言葉を、お聞き届けください」

 真っ直ぐに見つめる先にいるのは、玉座に腰かけた、この国の最高権力者である、国王。その隣には、ユナフォードの母である王妃。一段下には、二人の王子が控えている。

 両脇には、こちらも椅子に腰かけた大臣や貴族の面々が並ぶ。そして、騎士の正装を身に纏ったイケメン寄りの強面な壮年の男性。もちろん、ノウルの姿も混じっている。

 立っているのは、部屋の中心で視線を集めている星と、護衛の兵士だけだ。



「私の名前は、星・柊――」



 激しく降り出した雨と共に、巻き込まれ少女の、戦いが始まる。

 時間は前日まで遡り、アランとキースにより、内通者の名前と、『世界の愛し子』専属の護衛騎士だという肩書きが判明した後、星とシオンはノウルの研究室へと戻っていた。

 アランとキースは、団長へ報告する為に、城に入ってから別行動をしていた。

「セイ、何で留守番をしていなかった!? 倒れたんだぞ!?」

 シオンとまったりしていた星は、戻って来たノウルの剣幕に、シパシパと瞬きをして動きを止める。そのノウルの背後には、ポリポリと頬を掻いているケビンがいる。「たいちょー、セイちゃんびっくりして固まってるっす。可哀想っす」

「あ、すまない! セイを怯えさせるつもりは無いぞ?」

 一緒に入って来たケビンの緩い突っ込みに、ノウルは慌てて言い訳をすると、椅子に腰かけていた星を覆い被さるように抱き締め、あやすように背中を撫でる。

「ちょっとびっくりしただけ。ノウルは心配してくれたのに、怯える訳ないよ?」

 逆にあやすようにノウルの背中を撫でて落ち着かせながら、星はゆっくりと首を振って、柔らかい声音で伝える。

「セ……」

「セイ! 戻って来てるか?」

 感極まった様子でノウルが星の名前を呼ぼうとするが、それを邪魔するように勢い良く部屋の扉が開き、同じく勢い良くシウォーグが声を荒げて飛び込んでくる。

「…………えーと、うん、戻って来てマス」

 何とも言えない空気が部屋に流れる中、ノウルに抱き締められたままの星が、おずおずと挙手をして答える。

「その、色々と、大丈夫なのか?」

 星を奪われるとでも思っているのか、睨みつけてくる銀髪のイケメンをスルーし、シウォーグは心配そうな表情で顔だけしか見えていない星を見つめて話しかける。

「うん、体調は平気だよ。頑張ってくれたのは、シオン君だし。でも、心配してくれて、ありがと」

 シウォーグの表情に、星は黒目がちの瞳を柔らかく蕩かせ、うっすらと微笑んで、頭だけペコリと下げて返す。横着した訳ではなく、ノウルの拘束で、頭しか動かせなかったのだ。

「用がそれだけなら、さっさと帰れ」

「な、ちょっと待てよ! 内通者が分かったんだろ? おれにも教えろ!」

「はっ? 何で第二王子様に教える必要が?」

「普通に考えて、あるだろ!?」

「俺にはない」

「こっちには、あるんだよ!」

 いい年をしたイケメン二人による、大人げない口喧嘩に、星とシオン、ケビンからすらも、三対の呆れたような視線が送られている。

 この顔面偏差値の高い無駄な争いは、ユナフォードと、ユナフォードが連れて来た騎士団長が来るまで終わりを見なかった。




「大人げなさ過ぎだね、ノウルもシウォーグも」

 椅子に座り、二人に呆れた視線と言葉を送るユナフォードの膝の上には、何故か星が横向きでちょこんと乗せられている。

 ラビは追い払われたらしく、不機嫌そうに部屋の隅でダンダンと床を踏み鳴らし、ケビンを怯えさせていた。

「……セイを返せ」

 憮然とした表情のノウルの訴えを無言で却下し、美しく微笑んだユナフォードは、シオンが念写した紙をテーブルの上へと滑らす。その先には、固い表情の騎士団長がいた。騎士団長は、シウォーグより上背があり、厚みもある。髪は濃茶で、瞳は優しい緑色をしている。顔はイケメン寄りの強面だ。

「……間違いなく、クロト・ハイエンだ。まさか、クロトが内通をするとは! あいつは、アランと同じほど真面目で、『世界の愛し子』に仕えられる事を心から誇りに思っているようなやつだ。それが、何でだ……!」

 初対面の星に、騎士団長はゴードンと名乗り、強面な顔には似合わない丁寧な挨拶をしてくれたのだが、今、その顔は苦悩で歪み、血を吐くような叫び声を上げている。

「団長さん……」

 ユナフォードの膝上から、星は心配そうにゴードンを見つめている。かなりシュールな絵面だが、気にしているのは、部屋の隅で休憩しているシオンぐらいだろう。

「本人に訊くしかないだろうな」

 そう疲れたように言うのは、何故か床に正座させられているシウォーグだ。こちらもシュールだか、以下同文という感じだ。

「本人が素直に吐いたとしても、愛し子派はごねそうだね。今も、すぐに侍女の処刑を執行しろとせっつかれたよ」

 苦笑混じりでそう言ったユナフォードに、膝上の星から、無言で訴えかけるような視線が向けられている。

「心配しなくても、陛下もしっかりと罪が確定しなければ、処刑の許可は出さないさ」

 ノウルは、蕩けるような笑みを向けながら言うと、安心させようと星の頭を優しく撫でている。

「……じゃあ、罪が確定すれば、クロトさんは」

 だが、星は逆に表情を暗くして一人言のように呟き、思わずユナフォードの金髪へと頬を寄せる。

「高確率で処刑されるだろうね」

 何の気負いもなく告げられたユナフォードの言葉に、星は唇を色が変わるほど噛み締め、すがるように金色を掴んでいる。星以外がやったら、マオ辺りに即排除されるだろう、かなりの無礼だ。

「……あー、そのセイお嬢さんは、ユナフォード殿下の恋人さんで?」

 クロト内通者の衝撃からやっと復活したゴードンが、今度は別の衝撃的な光景を目にし、大きな体を縮こめて、恐る恐るといった風に問いかける。確かに、膝上に乗せ、好き勝手に触らせている所を見てしまえば、溺愛している恋人に見えるだろう。

「違う」

 そう即答して、不機嫌そうに鼻を鳴らしたのは、ユナフォードではなく、ノウルだ。

 ゴードンは、人の良さそうな顔を困惑に染め上げ、ユナフォードとノウルを交互に見つめ、最後は床に正座しているシウォーグと、部屋の隅でラビを宥めているケビンに視線を送る。

「――そうだよね。でも、私は薄情者だから。ピアを選ぶの」

「薄情……? どちらかと言えば、セイお嬢さんは、情が厚いと。ご友人の為に、奔走していたのでは?」

 スルーでゴードンの疑問をぶった切り、口を開いた星は、ユナフォードの艶やかな髪を手慰みに弄びながら、ゆっくりと黒目がちの瞳を瞬かせ、淡い色の唇を綻ばせる。そして、今度はゴードンの疑問を拾い上げた。

「友人じゃないよ」

 え!? と星以外――ユナフォードですら、声には出さなかったが、驚きに満ちた表情を、膝上で寛いでいる少女へ向ける。

「でも、きっと、もっと仲良くなって、友人――ううん、それ以上になれると思ってる。だから、まだ『友人』じゃないけど、私はピアを助けたい」

「――確かに、二回しか会ってない相手を、彼女は私の親友です。助けるのは当然です、とか言い出したら、違和感ありまくるか」

 正座をしたまま、シウォーグは裏声まで駆使し、星の発言に同意を示して頷く。

「それは、愛し子が言いそうだね。彼女は博愛主義のようだし」

「と言うか、シウォーグさん、裏声上手いね」

「俺だって負けてないぞ」

「たいちょー、そこで張り合っちゃ駄目っす」

「あの、結局、セイお嬢さんは……」

「あれは、うちの隊長の可愛い子だよ」

 休憩していた筈のシオンまで参加し、会話は逸れまくった方向へと流れていった。





「……えーと、結局、この念写だけでは、少し説得力に欠けるの?」

「そういう事だね。それで、セイの肩書きが生きてくるんだけど……」

 ユナフォードの物言いに、ノウルは何かを察したのか、些か王族に向けるには問題がある鋭さの眼差しをユナフォードへ向ける。

「私の肩書きって、もしかして……」

 星も思い至ったのか、ポツリと呟き、意味が分からず首を傾げているゴードンをチラチラと見やる。

「大丈夫。ゴードンはこちら側だからね。……ゴードン、この子は今代の巻き込まれだ。今回は、反則に近いが、それを利用しようと思う」

「へえ、そういう事でしたか。そう言えば、溺愛されている、というお話しでしたね」

 体格の良い体を縮こめるようにして、うんうん、と頷きながら、ゴードンは納得とばかりに笑顔で言葉を紡ぐ。

「いや、それは私ではないよ。物凄い目で私を睨んでいる、あちらが溺愛している男だ」

 苦笑混じりのユナフォードの言葉に、ゴードンは油の切れたブリキの玩具を思わせる動きで、ゆっくりと物理的な力すら感じる視線を辿り、見なかった事にするつもりなのか、すぐに視線をユナフォードへ戻した。

「俺は反対だ。セイの肩書きを利用するという事は、公開裁判の場に、セイを出す事になる。巻き込まれ、として……」

 ゴードンの見ない振りを気にする事もなく、ノウルは星だけを見つめ、強い語調で言う。

「おれも、そいつと同意見だ。……かなり嫌だが」

 言葉通り不服そうに言うシウォーグは、足が痺れてきたのか、若干プルプルしている。

 ケビンとシオンも、部屋の隅で頷いているのは、ノウルと同意見らしい。

 ユナフォードは、反対される事を想定していたらしく、ただ静かに微笑んで、膝上の星を撫でている。それは、まるで星の答えが分かっているとでも言いたげな手つきだ。

「……何かユナ様の思う壺な気もするけど、私が証言する事で、事態が好転するなら、私頑張る。どうせ、遅かれ早かれ、私は巻き込まれとして、引きずり出されただろうから。どうせなら、自分から表舞台に出るよ?」

 横目で笑っているユナフォードを見ながら、そう言い切った星は、心配そうな面々に、ふわ、と笑いかける。

「何で、セイは時々好戦的なんだ……」

「別に好戦的なつもりはないよ? ただ、信じてるから」

 脱力感に襲われながら、疲れたように呟いているノウルを、星は真っ直ぐに見つめて、思いを伝えていく。

「倒れたら、支えてくれるでしょう?」

 心からの思いを込めて自らの気持ちを吐露した星は、ノウル、ユナフォード、シウォーグ、ケビン、シオン、ゴードン、それにラビを順繰りに見つめ、もう一度、微笑みを浮かべる。

 先ほど告げた言葉通り、信頼に満ちた光を黒目がちの瞳いっぱいに湛えて。




「あ、それで、ユナ様にお願いがあるの」

 膝上で足を揺らしながら、星は小首を傾げ、ユナフォードの顔を覗き込む。まさに、小悪魔じみたおねだり仕草だ。

「何かな? ノウルから逃げたいだと、ちょっと準備に時間がかかるけど……」

「ノウル、違うから、凹まないで。鎖と首輪も仕舞って! ……えーと、ゴードンさんから聞いたクロトさん像が本当なら、詩織さんの手を借りれば、そっちも少しは事態が好転すると思うの」

 からかうようなユナフォードの台詞に、離れた場所にいたノウルが不穏な動きを始めたのが見え、星はあたふたと両手をばたつかせ、ノウルを必死で止めてから、ゆっくりと言葉を続ける。

「もしかして――――みたいな感じかな?」

 喋っている途中、何かを察したユナフォードは、星の耳元に唇を寄せると、星にだけ聞こえるよう音量を下げて、言葉を続ける。

「さすが、ユナ様だね。で、お願い聞いてもらえますか?」

「もちろん、叶えましょう。私が、貴女の為に」

 わざとらしく丁寧な言葉で問いかけてきた星に対し、ユナフォードもわざとらしく甘い声音で返す。




 そんな仲良し二人を見つめている、不穏な二対の目。

「たいちょー、駄目っす! ラビさんも、落ち着いて欲しいっす!」

 それを必死に止めているのは、涙目になったケビンだった。

 ちなみに、シウォーグは足が痺れ、行動不能になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ