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巻き込まれ少女、出会う。7,巻き込まれ、奔走中 2

「うぅ、ん……?」

 一時間程経ち、小さく呻いて意識を取り戻した星は、見覚えのない天井に、瞬きを繰り返し、辺りを見回す。

 星が目を開けた事に気付いたのか、星と共にベッドに寝転んでいたラビが、心配そうに顔を寄せてくる。

 その頭を撫でてやりながら、星はゆっくりと体を起こす。

「気付いたの?」

 そう言って歩み寄って来たのは、星を仮眠室に運んだノウルではなく、シオンだった。

「シオン君、ここ何処? 何で私、ここにいるの? 似顔絵、どうなった?」

 矢継ぎ早に質問してくる星に、シオンは口の端を上げて、皮肉げな笑みを浮かべ、

「ここは、仮眠室。セイは、念写し過ぎて倒れたんだ。似顔絵は、ここにあるよ」

と、一つ一つ答え、一枚の紙を星に手渡す。その紙の中では、昏い目をした男がこちらを睨み付けていた。

「あれ? 一枚しかない?」

「他のは、隊長やキオ達、騎士団の人間も持って、聞き込みに行ったよ」

 不思議そうに紙をひっくり返し、呟きながら首を捻る星。シオンは肩を竦めると、外を指差して、相変わらず皮肉げな笑顔を浮かべて答える。

「騎士団からも?」

「あー、赤毛の犬っぽいのと、それの付き添いにチャラいのが一人来たよ」

「それ、きっと、アラン君とキースさんだ!」

 シオンの失礼な表現ですぐに相手を思い付くという、若干さらに失礼な気がする発言をした星は、嬉しそうに黒目がちの瞳を輝かせる。

「……て、あれ? これは余り?」

 さっき倒れたのが嘘のように身軽な動きでベッドから立ち上がった星は、思い出したように自らの手の中にある紙を見下ろして訝しげな言葉を洩らす。

「何寝惚けた事言ってるの? 僕達の分に決まってるよね?」

 そんな星を小馬鹿にしたように鼻で笑ったシオンは、そう言いながら、ひょいと星の手から紙を奪い、扉へと向かう。

「え? 僕、たち? シオン君も、手伝ってくれるの?」

 ラビを拾い上げ、パタパタとシオンの後を追った星は、小首を傾げて、シオンの背中へ向けて訊ねる。

「乗り掛かった舟だからね」

 顔だけで振り返ったシオンは、小さく肩を竦めると、言い訳するように苦笑混じりに呟き、早くしなよ、と星を急かす。

「ありがと!」

 言葉と共に、小さく跳ねて嬉しさを表した星は、呆れたような表情で待つシオンの元へ駆け寄り、差し出された左手をしっかりと掴むと、そのまま並んで歩き出した。




「僕らの担当は、セイが初めて馬車の暴走に巻き込まれた辺りだよ」

「似顔絵見せて、この人見た事ありますか? 誰かと一緒じゃなかったですか? って訊くんだよね」

 街中に出てきた星とシオンは、会話をしながら仲良く手を繋いで通りを歩いていた。

 ラビは人混みで蹴られそうだった為、星が空いた手で抱えて、似顔絵の紙はシオンが懐に入れている。

「そうそう、良く出来ました」

 シオンは喉奥で笑うと、幼子を誉めるように、星を誉めると、自分より少し低い位置にある星の頭を軽く撫でる。

「私だって、やる時はやるんだよ」

 からかったつもりだったシオンは、心底嬉しそうな星を見ると、複雑そうな表情で視線を外してポリポリと頬を掻く。

「あ、シオン君、馬車が止まったのは、この辺だよ」

 シオンの様子を気にする事なく、辺りを見回して足を止めた星は、繋いでいた手を軽く引いて、シオンを呼び止める。

「ちょっと前の話だけど、隊長は目立つから、覚えている人もいる筈だよ。その前後辺りの話を片っ端から……って、何で僕の後ろに隠れてる訳?」

「だって、人がたくさん……」

「まさかの、ここで人見知り? 友人を助けるんじゃなかったの?」

「……っ、そうだよ。助けるの。私、頑張るから!」

 シオンに発破をかけられ、息を飲んだ星はグッと繋いだ手に力を込め、声を張り上げ気味で宣言する。

「そうそう、その意気だよ……?」

 そう言うと、良く出来ましたとばかりに、ポフポフと星の頭を軽く叩いていたシオンだったが、不意に辺りを見回して首を傾げる。

「どうしたの、シオン君?」

「……普通に、周りが怖いんだけど?」

 シパシパと瞬きをして、星はシオンの様子を訝しむが、そんな星に、シオンは若干引きつった笑みを浮かべて返す。

「周り? ……何か、私たち、注目されてる?」

 シオンの言葉に、小首を傾げた星は、おずおずと辺りを窺い、怯えからか掠れた声でシオンへ問いを返す。

「そうだね。良く分かんないけど、拍手までされてるよ」

「何か、生暖かい目で見られてるね」

「まあ、とりあえず、聞き込みしやすくて良いんじゃない?」

 開き直ってそう言うと、肩を竦めたシオンは、星と手を繋いだまま、何故か自分達を見つめている集団へと近寄っていく。

「まあまあ、本当に微笑ましいカップルだこと」

「可愛らしいわねぇ」

「初々しいねえ」

「俺とかみさんにもあんな時があったなあ」

 諸々。近寄るにつれて洩れ聞こえてきた会話に、星とシオンは、繋いだままだった手を同時に見やり、あぁ、と小さく、だが納得とばかりに声を発する。

「……シオン君、彼女とか、好きな人とかいる?」

「そっちこそ。ちなみに、僕はいないから、問題ないよ」

「私も、そういう意味の好きな人はいないから、問題ないよ」

 小声で囁き合った二人は、僅かに微笑みを浮かべると、手を繋いだまま、出歯亀よろしく自分達を見つめている集団へと、意を決して向かっていった。




「……とりあえず、少しだけ前進したかな、シオン君」

「まあ、対象が男なのと、何となく背格好は分かったからね」

 相変わらず周囲の生暖かい視線に見守られながら、小首を傾げて話し合う星とシオンは、道の端に行儀悪く並んで座り込み、話を聞いた相手から貰ったジュースを飲んでいた。ちなみに、味は林檎の果汁だ。

「昼間からフードなんか被るから、目立ってたみたいだね」

「……と言うか、わざとじゃない?」

「あー、内通者の方を、目立たせない為に?」

「そういう事。実際、僕らに話してくれた人達も、襲撃者の印象は強く在ったけど、一緒にいた相手の事は、せいぜい性別や背格好ぐらいしか覚えてないし」

「確かに、そうだね」

 重々しく頷きながら呟くと、星は残り半分程入ったコップを、ラビの口元に寄せる。器用にコップを持ったラビは、星の飲みかけのジュースを、一気に飲み干して、けふ、と小さく息を吐く。

 その様子を眺めながら、シオンは自らもジュースを飲み干してコップを空にすると、おもむろに立ち上がる。

「さあ、他の所に合流しようか。もしかしたら、違う情報が入ってるかもしれないよ」

「うん!」

 ラビから空になったコップを受け取り、星は元気良く返事をして立ち上がるが、左手はラビ、右手はコップで塞がってしまい、差し出されていたシオンの手を取れず、困ったように眉尻を下げる。

「ほら、空になったコップはこっちに寄越しな。彼氏の手を離すんじゃないぞ?」

 星がコップを片手に悩んでいると、先程話を聞いた集団から出て来た男性が、優しく声を掛けてきたかと思うと、シオンの分も一緒に空のコップを持ち去ってしまう。

「あ、ありがとうございます。ごちそうさまでした」

「ごちそうさま。……行くよ、セイ」

 頭を下げて感謝を告げる星を横目に、適当な言葉を返したシオンは、空いた星の手を握り、歩き出す。と――。

「あ、ちょっと待って。ラビ、しがみついててね。――はい、星です。アラン君? うん、分かった。合流するね」

 シオンへ一声かけて足を止めた星は、ラビをしがみつかせたまま、左手を耳に添えて、通信用魔具で会話を始める。

 しがみついてて、と言われたラビは、危なげ無く前足で星へとしがみついている。楽しんでいるのか、短い尻尾は、ピコピコと上下に揺れている。

「アランって、あの赤毛の犬っぽい騎士だよね? 何か分かったの?」

 何処と無く不機嫌そうにそう問うと、シオンは握っている星の手を、軽く揺する。

「うん。だから、合流しませんか? って」

 不機嫌になったシオンには気づかず、揺すられた手を握り返すと、星はコクリと頷いて、あっちだよ、と空いた手で方向を示してから、しがみついていたラビを抱え直す。

「分かった、行くよ?」

 妙な対抗心に駆られたシオンは、周囲の生暖かい声援に見送られながらそう言うと、きょとんとしている星の手を引いて歩き出す。

 そんなシオンを、星の腕の中からラビは、可愛らしい顔には似合わない表情を浮かべて見つめていた。




「あ、いたいた。アラン君!」

 星へ連絡を取ってきたアランがいたのは、馬車一台がやっと通れる狭い路地だった。

 ここは、星がラディとリリアの兄妹を助けた、あの馬車の暴走現場だ。

「セイさん!」

 アランは、星を目にした瞬間、飼い主を見つけた大型犬のような笑顔で、勢い良く駆け寄って来る。その背後では、キースが呆れたような顔で、肩を竦めていた。二人共、非番なのか、私服姿だ。

 星の元へと駆け寄り、誉めて、と言わんばかりの表情を浮かべたアランは、シオンが表現した通りの、まさに犬っぽい騎士だった。

「アラン君、キースさん、聞き込み手伝ってくれて、ありがとう」

 開口一番、名前を呼んで駆け寄ってきたアランに、星は黒目がちの瞳を喜色で染め、まずは感謝を告げる。

「気にしないでください! ピアさんとは、おれも面識がありますから! それより、お体は平気ですか?」

「そうそう、倒れたって聞いたよ? 動いて平気なの? あと、可愛い女の子の味方をするのは、男として当然だよ」

 心配そうに声を掛けてくるアランとキースに、星は抱えたラビを持ち上げて、元気アピールをする。その腕の中では、ラビが一緒になって、グッと曲げた左前足に右前足を添えて、力瘤をアピールするような体勢で、元気をアピールしていた。

「見ての通りだよ。……二人共、ありがとう。皆でピアを助けようね」

「はい! で、セイさん、そちらは?」

 星の言葉に、相変わらず犬っぽい反応をするアランだったが、星の繋がれた手と、その先にいる不機嫌そうな美少年を見やると、無邪気な表情で首を傾げて問いかける。

「ノウル直属の部下の一人で、シオン君だよ。私と一緒に聞き込みしてくれてたの」

 こちらも無邪気な表情で返し、星は繋いだ手を軽く振って見せる。

「……どうも、魔術師部隊所属のシオンだよ」

「騎士団が一人、アラン・ポーリーです!」

「同じく、キース。……と言うか、セイちゃん、何で手繋いでるのかな?」

 自己紹介しあう男達を眺めていた星は、唐突なキースの質問に、きょとんとした表情で、繋いだままの手を見つめる。

「――うん、分かったよ。特に考えてなかったね」

「キースさん、心読めるの!?」

「セイが分かりやすいだけだと思うよ」

「そこが、セイさんの良い所の一つです!」

 そんな脇道に逸れまくった会話は、アランとキースが見つけた目撃者が、おずおずと話しかけてくるまで続いた。


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