表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/186

巻き込まれ少女の異世界生活 2ー1

分割作業続行中。なかなか進まない。抜けた所を見つけたら、教えて頂けると助かります。

2,渡る世間に鬼はなし



「ん……、ここ、何処?」

 目が覚めた瞬間、自分のいる場所がわからず、星は体を起こしながら、周囲を見渡す。

 星が眠っていたのは、豪華な内装の部屋の、ふかふかした天蓋付きベッドの上だった。

「なんか、異世界とか、とんでもない夢見てた?」

半身を起こしたまま、首を傾げ、星は軽く現実逃避気味に呟いた。

 本当に夢なら良かったかもしれないが、今現在いる部屋は、星には全く見覚えがなかった。

「泣いて、寝落ちとか……」

 記憶を辿った星が、眠る寸前の事を思い出し、恥ずかしさに身悶えしていると、ベッドの足元で茶色い物体がモゾモゾ動き出す。

 それに気付き、驚いて固まった星の目の前で、茶色い塊から、ヒョコッと長い耳が生え、特徴的な水晶が現れる。

 物体の正体を悟り、硬直から復活した星は、目を見張ってもう一度固まる。

「……水晶ウサギさん? 着いてきちゃったの?」

 復活した星の問い掛けに、水晶ウサギはコクコクと頷いて、星の胸へと勢いよく飛び込む。

「うわ……っ」

バンッ!

「どうした!? セイ!」

 水晶ウサギの勢いに、星が驚愕の声を上げてベッドに倒れた直後、ドアをぶち破りそうな勢いで飛び込んで来たのは、鬼気迫る顔をした銀髪イケメン。

「……いつものあんたは何処に置いてきたの?」 その後ろから、艶やかな声と共に呆れた表情で現れたのは、赤いドレスを纏い、焦げ茶色の髪を美しく巻いた妖艶な美女だ。

「綺麗……、女神様みたい」

 銀髪イケメン―ノウルに助け起こされながらも、星の目は美女に釘付けになり、うっとりと感嘆の声を洩らす。

「ふふ、素直な子は好きよ?」

 艶然と微笑まれ、自然と星の頬がほんのりと染まる。

「誘惑するな。……セイ、具合は大丈夫なのか?」

「え? あぁ、うん、疲れてただけだよ」

 こっちを見ろとばかりに肩を揺すられ、星はシパシパと瞬きをして、ノウルへ視線を戻す。

「心配かけて、ごめんなさい」

 心配そうな紫の瞳に気付き、星は申し訳なさそうな表情を浮かべ、ペコッと頭を下げる。

「いや、大丈夫なら良い」

 ノウルは、優しく微笑むと、慈しむよう星の黒髪をそっと撫でる。

「……いい加減、あたしに自己紹介させてくれるかしら?」

「あぁ、いたのか」

「この男、ぶん殴りたいわねぇ」

 わなわなと赤い唇を震わせると、美女は拳を握り、有言実行に移ろうとする。 が、ジーッと見つめてくる星の瞳に気付くと、にっこり笑って、拳を解く。

「冗談よ。……あたしは、アウラ。この娼館の主人よ。ここはあたしの部屋だから安心していいわ」

「セイ・ヒイラギです。よろしくお願いします……私、売られるの?」 布地の上からでもわかる豊かな膨らみに手を宛て、自己紹介した美女――アウラに対し、星はノウルの手から逃れ、小さく頭を下げるが、娼館という言葉に、キョトンとした表情で、ノウルとアウラを交互に仰ぐ。

「……可愛い。この子、ちょうだい?」

 水晶ウサギを抱き締めながら、おずおずと自分達を上目遣いで窺う星の姿は、アウラの母性本能をバッチリ擽ったらしい。

 アウラは、呆然としているノウルを押し退け、水晶ウサギごと星を抱き締める。

「あの、私、あんまり女の子っぽい体じゃない、デスヨ?」

「大丈夫よ、見たところ、15・6歳でしょう? すぐに育つわ」

 豊かな胸に顔を押しつけられながら、星は微妙に片言で訴える。

 アウラは気にした風もなく、うふふ、と笑って、星の体を離すと、そのまま舐め回すように見つめる。

 星は、アウラの視線に若干怯え、水晶ウサギの頭に顔を埋めながら、アウラと固まったままのノウルを見やる。

 ちなみに、先程から色々されているが、水晶ウサギは無抵抗で嬉しそうに星に抱き締められている。

「手伝って、くれる?」

 星は水晶ウサギに顔を埋めたまま、僅かに首を傾げて、見やった二人に問いかける。

「もちろん、もん……ぐっ!?」

「えぇ。でも、ダメよ? こんな悪い男の前で、そんな可愛いこと言っちゃ」

 星の衝撃発言に、硬直から復活したノウルが、勢いよく何かを言いかける。が、アウラも早かった。

 アウラは、素早く肘をノウルの脇腹に叩き込むと、艶然と微笑んで、星の頭を撫でて言い含める。

 そして、痛みで悶絶しているノウルの襟首を掴み、不思議そうにしている星から離れる。

「……アウラ、何を」

「あんたはいい加減セイちゃんの誤解を解きなさい。……それとも、本当に、売るつもり?」

「そんな訳ないだろ!」

 二人は小声で言い争いながら、水晶ウサギと遊んでいる星をチラチラと横目で気にする。

 二人の視線に気付くと、星は表情を変えずに首を傾げ、抱き上げた水晶ウサギの手を柔らかく握り、二人に向けて振って見せる。

「どうしたら良い? 可愛すぎて死にそうだ」

「馬鹿じゃない? ……まぁ、同感だけど」

 台詞に似合わない真顔で手を振り返すと、二人は我先にと早足で星の元へ戻る。

「……ノウル、アウラさん。えぇと、お話終わった?」

 二人の勢いに、若干引きながら、星は傍らに立つ長身な二人を仰ぐ。

 水晶ウサギは、星を独り占め出来なくなり、不満そうに顔を洗っている。

 ノウルはベッドに膝を付くと、上体を傾けて、星との距離を詰めた。その手はゆっくりと、手触りの良い星の黒髪を撫でている。

 抱っこの荒療治で、人見知りの星も、ノウルに関しては特に身構えず、感情をよく映す瞳をゆっくりと瞬かせ、ノウルの言葉を待つ。

「まず一つ先に言っておくが、アウラはただの友人で、ここにはセイの服を選びに来ただけだ」

「……そ、そうなんだ。私、てっきり売られるのかと……」

 痛みを堪えるよう目を伏せた星に、ノウルは微笑んで腕を伸ばし、星を優しく抱き寄せる。

「勘違いさせて、すまなかった」

「私も早とちりして、ごめん」

 ノウルの腕の中、星は照れ臭そうに小さく笑うが、傍らで呆然と立ち竦むアウラに気付き、首を傾げた。

「アウラ、さん?」

「……っ、えぇと、大丈夫、ちょっと、驚いただけよ」

 星の声に、アウラは一瞬息を呑んでから、誤魔化すように微笑んで、星の頭を撫でた。

 睨んでくる狭量な男は、華麗にスルーしている。

「セイちゃんの事情は聞いてるわ。……びっくりしたわよね、急に知らない世界にいたなんて」

「はい、有り得なすぎて、逆に慌てるの忘れてました」

 ノウルとは違う優しい撫で方に、星は、ふふ、と小さく笑みを溢し、アウラへと向き直る。口調は、しっかりと余所行きになっている。

「あら、良いわよ、ノウルに話すみたいに話して。堅苦しいのは、好きじゃないの」

 星の余所行き口調に、アウラはわざとらしく顔をしかめてから、すぐにクスクスと笑って告げる。

「じゃあ、そうさせてもらうね。私も、堅苦しいの苦手」

 アウラの言葉に、星は安堵の息を吐いて表情を緩めて同意し、

「……詩織さんは、得意そうだけど」

と、ノウルの腕の中で、自嘲気味に肩を竦めて見せた。

 ノウルは、ゆっくりと星から手を離すと、難しい表情で顎に手を宛てる。

「シオリというのが『世界の愛し子』の名か」

「うん。一応、同級生……」

 ノウルの問いに答えながら、星はアウラに手を引かれ、ベッドから立ち上がる。

「……あたしの私服じゃ大きそうね。まぁ、何着か見繕わせてあるから、色々着てみましょう」

 立ち上がった星の全身を眺め、楽しそうに目を輝かせたアウラは、早速星を脱がせようとし、そこで動きを止めた。

「さっさと出て行ってくれるかしら?」

「……わかった」

 しれっとその場に混じっていたノウルは、眦を吊り上げたアウラに睨まれ、寂しげに肩を落として、去っていった。

「じゃあ、気を取り直して……」

「……はい、お願いしマス」

 小さく手を振ってノウルを見送った星は、二人きりになった途端、人見知りを遺憾無く発揮し、緊張した面持ちでアウラと向き合う。

「取って食ったりはしないから、そんなに緊張しないの」

 その様子に、アウラはクスクスと楽しげに笑いながら、手に取った服を広げて見せる。

「さぁ、ノウル様をびっくりさせましょ?」

「……おー?」

 アウラの勢いに押され、ぎこちなく笑みを浮かべた星は、小首を傾げて、とりあえず掛け声と一緒に小さく拳を突き上げていた。

 追い出されたノウルは、憂い顔でため息を吐くと、窓へと歩み寄る。

 窓枠に体重を預け、外を眺める姿は絵になるが、頭の中は、

(着替え見たかった)

なので、彼に夢見る少女達が一瞬で幻滅すること確定だろう。

 ノウルは、そのまま、何ともなしに高台にある王城を眺めているが、城の尖塔に旗が掲げられようとしている事に気付き、目を細めた。

「あぁ、騒がしくなるな」

 心底、面倒臭そうに呟くノウル。

 その不謹慎な独り言を聞く者は、幸いにもいなかった。

 特殊な紋様のあの旗が掲げられるのは、『世界の愛し子』が現れた、それを国民に示すという意味合いがある。

 現に、開かれた窓からは、風に乗って、たくさんの歓声が響いてくる。

 いつもは静かな娼館内も、女達の嬉しげなざわめきと、衣擦れの音があちこちからし始める。

「ノウル様! 見ました? 『世界の愛し子』が降臨されたんですよ!」

 パタパタと軽い足音と共に現れた雑用係の少年が、興奮しきった様子でまくし立てるのを、ヒラと片手を振って追いやったノウルは、再びため息を吐く。

「本当に、面倒臭い」

呟き、真剣な憂い顔に戻ったノウルの顔は、ゆっくりと開かれたドアと、隙間からおずおずと覗いた顔を見た瞬間、柔らかい笑みに変わった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ