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巻き込まれ少女、出会う。4,パレードが始まる3

 場所を変えた四人と二匹は、人気のない中庭の奥まで来ていた。

 辿り着くまでに、星にちょっかいを出そうとするキースを、

「キース、セイさんは、ノウル様の大切にしている方なんだ。生半可な気持ちで手を出さない方が良い」

と、アランが止める一幕があったが、それ以外は波乱もなく、無事に辿り着いた。

「しかし、ノウル様は、ああいうタイプが好みだったとはねぇ」

 全く懲りてないらしく、キースはニヤニヤとしながら、アランと話している星を頭から爪先まで眺めている。

 ピアは、キースに近寄りたくもないのか、星の傍で星だけを見つめているので、キースの失礼な視線にはまだ気付いていない。

 そんな中、いつの間にか星の腕から、水晶ウサギのラビの姿が消えていた。

 姿を消したラビがいたのは、星へ不埒な視線を向けているキースの足元。

「って!?」

 不穏な空気を感じ、キースが足元に視線を落とした瞬間、脛を鋭い蹴りが襲う。思わず上がった声に、三者三様の視線がキースに向けられる。

 アランからは、どうした? と言わんばかりの純粋な心配を含んだ視線。

 星からは、何処かおずおずと窺うような、でも少し心配そうな色を滲ませた視線。

 ピアからは、完全に変質者を見るような絶対零度な視線が送られている。

「あはは、悪い、何でもないよ。俺は用事を思い出したから行くな」

 足元から殺気を感じ、引きつった笑みを浮かべて言うキースは、足を少しだけ引き摺りながら、立ち去ろうとする。

「キースさん! これどうぞ!」

 そんなキースに、星は幾分か声を張り上げて、パタパタと駆け寄る。手には、クッキーの包み。

「え?」

 驚きのあまり、思わず素の表情で、小柄な星を見下ろすキース。そこに、あの飄々とした青年はいなかった。

「何で、俺に?」

 すぐに鼻で笑い、薄い笑顔と共に問いかけてくるキースに、星は小首を傾げて返す。

「まずはアラン君のお友達だから。――あとは、キースさん、最初は普通に私達を心配して声をかけてくれたから」

 茶化してたけど、と小声で付け加えられた星の言葉に、キースの目が限界まで見張られ、その表情は柔らかい苦笑に彩られる。

「よく、見てたねえ」

 困ったように呟くキースに、あのチャラかった雰囲気は微塵もない。星の背後では、アランとピアも程度に差はあるが、驚いた顔をしている。

「私、人見知りだから、つい観察しちゃってた」

 シパシパと瞬いて見せた星は、黒目がちな自らの瞳を指差して言う。

「侮れないな。まあ、でも、だいたいは本音だから」

 フッと軽薄な笑みを浮かべ直して告げるキースに、心得てます、とばかりに頷いた星は、もう一度、クッキーの包みを差し出す。

「心配してくれて、ありがと、キースさん」

「……どういたしまして」

 真っ直ぐ感謝を告げる無邪気な星の瞳に、負けたよ、と小さく肩を竦めたキースは、包みを受け取りながら、ポフポフと星の頭を撫でて返す。

 去り際に星の耳元に、爆弾を残して――。



『第二王子との事は秘密にしとくよ』



「あ、あの時の……」

 星の記憶の中にあったチャラい騎士の声と、キースの声が重なる。

「何でバレたのかな?」

 理解出来ずに首を捻る星の艶のある黒髪の上で、特徴的なピンクの花飾りが揺れる。

 女好きを公言するキースの目は、あの時、しっかりとシウォーグの相手の特徴を捉えていたらしい。

「……まあ、シウォーグさんに恋人がいないなら、問題ない話だよね?」

 近寄って来たラビを抱き上げ、問い掛けた星は、ピアとアランの元へと小走りで戻る。

「アラン君、キースさんは、ちょっと良い人だね」

 戻って開口一番にそう言った星に、アランはニコッと快活で人懐こい笑顔を浮かべて頷いて見せる。

「はい! あいつは軽薄な言葉で誤解されますが、良い奴です。おれが、騎士団で浮きそうになった時、あいつが助けてくれたんです」

 素直な方法じゃないですが、と付け足しながらも、アランの表情は柔らかい。友人の良さを気付いてもらえ、喜びを全身で表している。

「屑から、カスぐらいにしてあげるべきかしら?」

 不意にずっと無言だったピアが呟いた台詞に、星とアランは、揃ってピアを窺う。そこに、冗談の気配はない。

「そう、ですね。屑よりは、名前に近いような気もしますから……」

 力無く相槌を打ち、アランは視線を泳がせながら、引きつった笑みを浮かべている。心中では、全力でキースに向けて、何言ったんだよ、と叫んでいた。

「ピア、名前で呼んであげようよ」

「嫌」

 取りなすような星の言葉に、短く拒否をしたピアは、わざとらしく視線を横に向ける。

「――えぇと、後回しになっちゃったけど、今日はアラン君にお礼に来たの」

 ピアの説得を諦め、星はアランへ向き直り、改まった様子で口を開く。

「お礼、ですか?」

 アランもピアから視線を外し、星と目線を合わせ、首を傾げる。動きに合わせ、鮮やかな赤が揺れる。

「うん。二回も助けてもらったから。これ、私が焼いたクッキーなんだけど」

「クッキー?」

「甘い焼き菓子だよ。いつもありがと、アラン君。これからも、よろしくね」

 はにかんだ笑みと共に告げられた言葉に、アランもつられて笑顔になると、大きく頷く。

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします。甘い物、好きなので嬉しいです」

「そうなんだ、良かった。今度は、お礼関係なくお菓子作って来るね」

「はい! 楽しみにしてます!」

 ほのぼのとした空気を醸し出す星とアランに、ピアの空気も何処か柔らかくなる。

「良いわ」

 花が飛びそうな星とアランを見つめながら、ポツリと呟くピアに、同意するようにラビと獅子も頷いていた。

「次は?」

「えぇと、シウォーグさんかユナ様か、マオさんに会いたいんだけど……」

 アランと別れた星とピアは、中庭を抜けて、人目のない通路へとやって来ていた。

 先の星の台詞に、ピアは無表情のまま足を止め、中空を睨みつける。

「パレードがあるから」

 何処か憎しみすら感じられるピアの呟きに、星は納得とばかりに頷いた。

「あ、そっか。お二人は王子様だもんね。忙しいか……」

 どうしようかな、と悩む星の頭を、ピアは無表情のまま、ポンポンと撫でている。

「マオさんに頼めば、二人の分も届けてくれるかな……?」

「……はい」

「ありがと、助かるよ……って、マオさん?」

 独り言に返事をされ、普通に会話をしてから星は、ハッとした表情で、声の方へ顔を向ける。

 そこには予想通り、影から抜け出してくる、黒髪に琥珀の目を持つ、細身の青年の姿があった。

「……はい」

 マオは、驚いている星に、小さく頷いて返す。

「もしかして、ユナ様が護衛につけてくれてた?」

「………………通りがかりました」

 明らかに嘘です、という間を空け、無表情で返すと、マオは視線を伏せる。

「ピアは、マオさん知ってる?」

「ええ」

 短く答えるピアの顔には嫌悪の色が全く無く、星は安堵から黒目がちの瞳を和らげる。

「じゃあ、マオさん、これをユナ様とシウォーグさんに。こっちは、マオさんの分だから」

「……ありがとう、ございます。確かに、お預かりしました」

 星の差し出した包みを受け取り、小さく頭を下げたマオは、再び影に溶け込むように姿を消す。

「マオさん、時々たくさん喋るね」

 姿を消したマオを気にせず、ズレた感想を呟く星の頭を、ピアは無言で撫で回している。

「あとは、ノウルのとこに寄れば終わりだから、よろしくね、ピア」

 撫で回され、擽ったそうに目を細めた星は、無表情で見つめてくるピアに、ペコリと頭を下げて言う。

「ええ。愛し子様に会わない内に行きましょう」

「うん、私もまだ詩織さんには会いたくない」

 力強く目配せをした星とピアは、手を繋ぎ直して歩き出す。

 ラビは疲れたのか、星の胸元に顔を埋めて、すやすやと眠っている。

 ノシノシと星達の後ろを歩いている獅子は、チラチラと何も無い所へ視線を投げている。どうやら、マオの位置が分かるらしい。

 誰も見ていない物陰で、居心地悪そうに、影が揺らめいていた。




「あー、セイちゃん! 昨日ぶりっす」

 星とピアがノウルの研究室へと向かっていると、人懐こい声と共にノウル直属の部下の一人、ケビンが姿を現す。

「あらあら、ピアちゃんも一緒なのね〜」

 ケビンと一緒にいたのは、同じくノウル直属の部下の一人、レイチェルだ。相変わらず、ゆったりとした口調で話しかけてくる。

「こんにちは、ケビンさん、レイチェルさん」

 五人いる直属の部下の中でも、人当たりの良い二人に、星も自然と微笑んで挨拶を返す。

 ピアは無表情のまま、無言で頭を下げている。

「たいちょーなら、研究室にはいないっすよ? 今は訓練所で、訓練つけてるっす」

「そうなの? そこは、私が見に行っても大丈夫?」

 ラビを抱え直しながら、星は小首を傾げて問い掛ける。

「セイちゃんなら、問題ないっすよ」

「隊長が、張り切っちゃいますね〜」

 ゆるゆると、だが、ハッキリと頷くケビンとレイチェル。

「……相手の人、死んじゃわないかな?」

 張り切ったノウルを想像した星は、そう言って、心配そうにケビンとレイチェルを見やる。

「あー、レイチェルがいるから、大丈夫っす」

「わたくしなら、斬れた腕ぐらい、くっつけちゃいますよ〜」

 ノウルがやり過ぎない、という想定は、誰もしないつもりらしい。

「とりあえず、行くわ」

 今まで無言だったピアは、そうポツリと呟き、何処か呆れたような表情で、星の手を引いて歩き出す。

「うん、そうだね」

「行くっす」

「あんまり遅くなると怒られますからね〜」

 方向性は違うが、揃ってマイペースな三人に、ピアは珍しく、小さなため息を洩らしていた。


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