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巻き込まれ少女、出会う。幕間,意外性(チートと腹黒疑惑)

幕間,意外性(チートと腹黒疑惑)



 ほのぼのランチタイムを終了させたノウルは、早速星に届けて貰った紙片を手に取る。

「ねぇ、そこに書いてある妖精の秘薬って、どんな効果なの?」

 ノウルが自分の持ってきた紙を手にした事に気付くと、星は好奇心に満ちた眼差しを、ノウルと五人の部下に向ける。ちなみに、部下達に懇願されたので、敬語はすでに使っていない。

 星の発言に、全員が目を見張って、勢い良く星を振り返る。

「たいちょー、セイちゃんに内容教えたんすか?」

「いや、置いておいた場所から持って来させただけだ」

 あわあわとしたケビンが、ノウルに詰め寄るが、ノウルは即座に首を横に振る。

「じゃあ、何でセイは普通に内容を知ってるの? まだ解読も途中だよね?」

 ノウルの手元を覗き込み、今度はシオンがノウルに詰め寄る。

「ああ。まだ3分の一しか読めていないんだが……」「セイちゃん、普通に内容知ってる風ですよ〜」

 ゆったりと語尾を伸ばしながらも、レイチェルも驚きを隠せていない。

 ちょっとした阿鼻叫喚を巻き起こした張本人である星は、何故驚かれているのか分からず、ラビを抱き締めたまま、首を傾げている。

 そこへ、比較的冷静なリッテとキオが、それぞれ一冊ずつ本を手に近付いてくる。

「セイ、この本の題名、声に出して読んでみてくれる?」

 まずは、リッテが本を星に差し出す。

「え? うん、良いよ。『妖精の生態と居住地について』……妖精の生態、気になる」

 本の内容に気を取られている星は、部屋の中が静まり返っている事に気付かない。

「……セイ、次はこれの題名を読んでくれ」

 次に本を差し出したのはキオだ。

「……えーと『竜の子作りの方法』だよね」

 あからさまな内容を示す題名に、星は僅かに頬を染めると、視線を泳がせて、ボソボソと読み上げる。

「正解が分からないんだが、隊長合ってるか?」

「……ああ、合っている」

 星に何読ませてるんだ、という言葉を飲み込んだ為、微妙な間を空けて、ノウルは重々しく頷いて見せる。

 視線を交わし合う自分以外に気付く事なく、星はリッテから本を受け取り、早速読み進めている。

「……セイ、その文字が読めるのか?」

 つっかえる様子もなく、すらすらと本を読んでいく星に、ノウルは恐る恐る問い掛ける。

「うん、読めるよ? そう言えば、この本の字は、さっきの紙と一緒だね。竜のは、また変わった字だったけど……」

 ノウルに顔を向ける事なく頷いて答えた星は、ラビを抱えて、手近な椅子に腰掛け、本の世界に没頭していく。

「これは、世界からの祝福という事か?」

 思いがけずに発覚した星の能力。もともと、異世界の文字を読める事は知っていたが、それがここまで範囲を広げているとは、予想外過ぎた。

 リッテとキオが、先程星に読ませたのは、それぞれ『妖精言語』と『竜言語』と呼ばれている、とんでもなく難解な文字で書かれた本だったのだ。

 ノウルが自宅に忘れた紙にも、妖精言語で薬の調合方法が書かれており、翻訳している所なのだ。

 それを、星はチラッと眺めただけで読み取り、内容も完全に理解していた。

「本好きな星の為の能力みたいなものだな」

 特に自らがとんでもない事をしたと意識していない星は、ノウルの呟きを気に留めず、楽しそうに抱え込んだ本を読んでいる。

 その小動物めいた姿を、部屋にいる全員が、温かく見守っていた。



 『完全翻訳』と呼ばれるようになる星の能力の真髄を、この時は、まだ誰も知らない――否、知る術を持たなかった。

「美味いな、これは……」

 先程、妙な悪寒に襲われてくしゃみをしていたシウォーグは、庭の奥まった所にある四阿で、星から貰った紙袋の中身を食べて、ポツリと呟く。

 中に入っていたのは、こんがりと焼け目の付いた、シンプルなカップケーキだ。

 行儀など気にせず、豪快に二個目のカップケーキにかじりついたシウォーグだったが、チラリと窓から見えた詩織の姿に、眉間に皺を寄せる。

 先程、侍女を止める事もせず、影であるマオに見惚れていた姿を思い出したのだ。横目でだったが、バッチリ視界に入っていた。

 あれに比べれば、多少の人見知りなんて……。

 星との会話を思い出していたシウォーグは、何か引っ掛かりを覚え、首を傾げる。

「……駄目だ、分からない」

 結局、引っ掛かりの原因が分からず、シウォーグはガシガシと頭を掻く。

 視界の端で、シウォーグに気付いたらしい詩織が、窓から手を振っている。

 透けそうな薄い生地のドレスを身に纏った詩織の姿に、シウォーグは、くく、と苦笑を浮かべる。

「あれは、セイが着たら、お化けの真似をする子供……」

 詩織とは違い凹凸の少ない体型の星を思い出し、その拗ねていた顔を思い浮かべた瞬間、シウォーグは引っ掛かった理由に気付き、口元を手で覆う。

「セイは、愛し子の名前を呼んだか?」

 あの時、確かに星は、

『シオリさんと違って』

 そう口にした。シウォーグは、もちろん詩織の名前を星の前では口にしていない。

「……愛し子は、本当に、セイを知らなかったのか?」

 見た目で分かる通り、詩織は目立つタイプ。逆に星は大人しく目立たない。星が一方的に知っていた可能性はある。だが――。

 詩織は出会った人間の顔と名前を、全て一致させていた。チラッと擦れ違った相手まで、きちんと。

 同級生、だと言うのなら、同じ空間でずっと過ごしていた筈。

「それを、知らないと欺いて、森に放置させたのか? 何がいるかも分からないような、この世界の森に……」

 実際、星は放置された後、森の中で魔物に襲われた。シウォーグは、それをユナフォード経由で聞き、更なる罪悪感に苛まれたのだ。

 確証がある訳ではない。

 しかし、一度生まれた疑念は、シウォーグの中で勝手に育っていく。

「……確認すべきか」

 『世界の愛し子』である詩織の扱いは、知り合いを放置した程度で変わるものではないが、それは、あくまでも、シウォーグ以外にとっては、の話だった。




「あんな小動物に、出来る仕打ちか?」

 柔らかく微笑んでこちらを見下ろしている詩織に、シウォーグは聞こえる筈のない問いを洩らし、空になった紙袋をグシャグシャに握り潰した。


実は星もチートでした。という話です。

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