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巻き込まれ少女、出会う。2,初めてのお使い3

「マオさん、黒猫っぽいのにね?」

 連れの二人に理解されず、星は残念そうに、ラビに話しかけている。

「自分の考えは押しつけないんだろ?」

 そんな星に呆れた顔をしながら、シウォーグは遠慮なく星の額を小突く。

「そう、だけど、私の世界のとある国では、猫をマオって呼ぶから、バッチリだと思ったのに」

 むぅ、と不服そうに唇を尖らせる星は、シウォーグにすっかり慣れて、敬語が抜けている。

「……可愛く、ない」

「そこなのか!? 自分が可愛くないから、嫌なのか!」

「大丈夫、マオさん、意外と可愛いよ?」

「そのフォローも何か違うだろ……」

 天然な星とマオに振り回され、見た目に反して真面目なシウォーグは、すっかり突っ込みに回っている。



 そんなこんなで、意外と会話の弾んだ三人は、目立たない道を歩いている事もあり、和気藹々と目的地を目指していた。

 時々、兵士に見咎められても、全員シウォーグを見た瞬間、ビシッと敬礼するので、星は、シウォーグさんって偉いんだね、と呟く。

 一瞬、マオとシウォーグは綺麗に固まったが、すぐに何事も無かったように歩き出した。


 目的地まで、あと少し――。

「ノウルの研究室はここだ」

 辿り着いたのは、城の奥まった所にある、いかにもな扉の前。

 若干腰が退けている星の前で、シウォーグが扉を開けようとする、が――。

「止めるなっ! 俺はセイを迎えに……」

 その鼻先を掠めるように勢い良く扉が開き、叫び声と一緒に銀髪のイケメンが現れる。

「シウォーグさん、鼻、大丈夫?」

 現れたのが見慣れた人物だったせいか、星はとりあえずの優先順位を、扉に鼻先を掠められたシウォーグに変え、爪先立ってその顔を覗き込む。

「あー……大丈夫だ、ちょっとヒリヒリするがな」

 口付けでもねだるような仕草に、シウォーグは赤くなった鼻先を押さえながら、苦笑して星の額を軽く小突く。

「……セイさん」

 そのまま、シウォーグに髪をワシワシと掻き乱されている星に、マオは何かを訴えるよう繋いだままの手を引く。

「マオさん?」

「……あれ」

 振り返った星に、マオは言葉少なに指を指し、示す。

 その示された先には、ズーンという効果音を背負って項垂れている、銀髪のイケメンの姿。

 その傍らには、ラビを乗せたまま、狼が寄り添って、何やら慰めている。

「ノウル?」

 不思議そうに小首を傾げた星は、マオと手を繋いだまま、パタパタと軽い足音をさせてノウルに駆け寄る。

「はい! 忘れ物、届けに来たよ」

 無事に初めてのお使いをやり遂げた安堵から、ふわ、と笑った星は、マオと繋いでいた手を離し、ポケットの中から、小さく畳まれた紙を取り出して差し出す。片手は相変わらず昼食の荷物で埋まったままだ。

「セイ……、何で、第二王子と一緒なんだ?」

 差し出された紙を無視し、ノウルは暗い眼差しで星を見つめて問い掛ける。

「……第二王子? 二番目の王子様? マオさんが?」

「予想通りか! 悪かったな、兄上と違って王子様な見た目じゃなくて」

 ノウルが反応するより早く、本人から全力で突っ込みが入る。マオは、無言で首を横に振っている。

「シウォーグさんって、王子様だったんだね。偉いよね、確かに王子様なら……って、え?」

 納得とばかりに頷く星だったが、何度か頷いた後、やっと事の重大さに気付いたらしい。目を見張り、ノウルとシウォーグを交互に見つめている。

「知らなかったのか。そいつは、この国の第二王子だ」

 あわあわしている星を見て溜飲を下げたのか、ノウルは星を手に持つ紙ごと腕の中に収める。

「えーと、シウォーグ様、色々と不敬で、申し訳ないです」

 ノウルに抱き締められたまま、星はシウォーグに顔を向けて、ペコリと頭を下げる。

「兄上も咎めてないんだ、さっきまでと、同じ様に話せ。おれが許可する」

 傲岸な物言いだが、シウォーグが星に向ける目は、柔らかい光を浮かべている。

 シウォーグには、ノウルが溺愛しているという前情報があるので、抱き締められているぐらいでは、驚かないらしく、態度に変化はない。

「良いの? じゃあ、シウォーグさんで。ここまで案内してくれて、ありがとう」

「いや、おれも直接会って、謝罪したかったからな。こちらこそ、感謝する」

 大人げないノウルからの冷たい視線を気にせず、ニヤリと笑って返したシウォーグは、じゃあな、と立ち去ろうとする。

「シウォーグさん、これ、私が焼いたの! 良かったらどうぞ」

 星は、ノウルの腕の中で荷物をガサゴソと漁り、ユナフォードに渡したのと同じ紙袋を二つ取り出し、おずおずと一つをシウォーグに差し出す。

「有り難く頂こう」

 ポフポフと星の頭を叩き、シウォーグは差し出された紙袋を受け取って、今度こそ立ち去る。

「……では」

 シウォーグを見送り、静かに立ち去ろうとしたマオに向け、星は無言でもう一つの紙袋を差し出す。

「……感謝を」

 彼らしい短い言葉を告げると、マオは琥珀色の瞳を若干細めて紙袋を受け取り、現れた時と同じ様に溶け込むよう姿を消す。

「私こそ、ありがとう、マオさん」

 またね、とマオが消えた辺りに手を振って感謝を口にした星を、背後から回された腕が、しっかりと抱き締める。

「どうして、あの二人と一緒だったんだ?」

「最初は、デンカさんと一緒だったんだけど、用事が出来てマオさんに替わって、途中、詩織さんに見つかりそうになった所を、シウォーグさんが助けてくれたの」

 ノウルの問いに、星は首を傾げながら、記憶を辿って答えていく。

「――とりあえず、中で話そう」

 星の予想以上な吸引体質に、ノウルは頭痛を堪えるように額を押さえると、星の肩を抱いて、自らが勢い良く開けて出て来た扉を、今度はゆっくりと開ける。

 中にいたのは、不思議そうにこちらを見つめている、五人の男女だった。

 バッチリと目が合い、星は素早く届け物と荷物をノウルに押し付け、その背中に身を隠す。

「たいちょー、それは、どなたで?」

 代表するように声をかけてきたのは、ふわふわとした藁色の髪に、榛色の瞳の、人懐っこそうな青年だ。

 他の四人も、同じ事を訊きたいのか、揃ってコクコクと頷いている。

 ノウルは、ちっ、と舌打ちをすると、星から預けられた荷物を手近な机に置き、届け物の方は自らのポケットに仕舞い込む。

「セイ、大丈夫だから、落ち着け」

 素早く体を反転させたノウルは、背中に貼りついていた星を腕の中に収め直す。

「……あれは、俺の部隊の隊員だ。前に、亜竜を倒した話をしただろう? 一緒に倒したのが、こいつらだ」

「……ノウルの味方、だよね?」

 星は、シパと一つ瞬きすると、確認するよう問い掛け、ノウルと背後の五人へ交互に視線を送る。

「味方というか、部下だ」

 星の髪を優しく撫でながら、ノウルは背後の五人を視線で促す。

「そーっすよ。俺たちは、たいちょーの部下っす。俺は、ケビンっす」

 すぐに反応したのは最初の藁色の髪に、榛色の瞳の青年だ。

「わたくしは、レイチェルと申します〜。治療系の魔術師です〜」

 語尾を伸ばし、おっとりと笑って名乗るのは、水色の長い髪に、垂れた薄茶の瞳を持つ女性だ。

「あたしは、リッテ。得意なのは、電撃系魔術と、鞭だよ」

 ニッと男らしく笑ったのは、赤毛に吊り上がった瞳と、そばかすが特徴的な女性だ。体型はスレンダーで、星に親近感を抱かせる。

「僕はシオン。闇系と精神系が得意分野。あと、最初の馬鹿っぽい奴が得意なのは炎だよ」

 そう昏い目で名乗るのは、五人の中で一番年若く見える、金色の髪に、青い瞳の美少年だ。小馬鹿にしたような笑みをケビンに向け、ムキー、という子供じみた威嚇をされている。

「お前ら、喧嘩すんなって。最後に、俺が、副隊長をやらせてもらってるキオだ。得意なのは、肉体強化。つまり、自分でぶん殴るのが一番好きだ」

 ニカッと快活に笑って喧嘩を止めながらそう名乗るのは、灰色の短い髪をツンツンと立たせ、青灰色の瞳を人懐こく輝かせた青年だ。人好きのする笑みの似合う顔の右頬には、何かの爪痕らしい痛々しい三本の傷が斜めに走っている。

「これが、俺の自慢の部下だ」

 怖くないだろ? とばかりに紫の瞳に柔らかい眼差しで見つめられ、星はコクリと頷き、五人の前に出ると、大きく深呼吸をしてから、ぎこちなく微笑む。

「えーと、あの、ノウルと住んでます、星、です。得意なのは、読書と料理です。魔術は使えませんが、興味はあります」

 そのまま、よろしくお願いします、と勢い良くペコリと頭を下げた星に、ノウルの五人の部下も、揃って、よろしくと頭を下げ返す。

「あと、この子は、水晶ウサギのラビです」

 自分の足元に来ていたラビに気付くと、星はラビを抱き上げて、もふもふな前足を五人に向けて振らせる。

「うわ、マジだったんすね。水晶ウサギが、懐いてるっす」

「可愛いです〜」

「かなりデカイ個体だね」「研究してみたいね」

「確かに、知能は高そうだな」

 ケビン、レイチェル、リッテ、シオン、キオの順に喋りながら、五対の瞳は、興味津々で星の抱くラビを見つめている。

 あまりのガン見に、星はラビをしっかりと抱き込み、ぷるぷるとしながら、五人を睨む。

「ラビを、いじめにゃいで……っ」

 緊張のあまり噛んだ星に、ノウルは何かを堪えるように、顔を手で押さえながら、空いた腕で星を抱き寄せる。

「見て分かるだろうが、セイはかわ……人見知りだ。あまり、威圧感を与えないようにしろ。これから、時々城に呼ぶ事があるかもしれないが、もし、セイが困っていたり、第二王子に絡まれていたら、何を置いても助けろ。良いな?」

 色々と本音が駄々漏れたノウルの言葉に、五人は一瞬、え? という表情をするが、星を抱き寄せているノウルの冷えた瞳に、慌てて全員がコクコクと頷いた。

「あの、ラビのことも……」

 窺うように見つめて訴える星に対し、

「いじめないっす!」

と、五人を代表してケビンが答え、人懐こく笑い返す。他の四人も、頷いて微笑んでいる。

「ありがと」

 安堵して、ふにゃ、と笑った星は、頑張ってここまで抱えてきた荷物を示した。

「良かったら、多めに作ってきたので、一緒にお昼食べませんか?」

 星の誘いに、五人は顔を見合わせ、チラリと上司を窺うと、そこに柔らかな苦笑を確認してから頷いた。



「うまっ! たいちょー、いつも自慢するから、食べてみたかったんすよ」

 両手にお握りを掴み、興奮しきりのケビン。

「これが、あの米なんて不思議です〜」

 一口お握りをかじり、その食感に驚くレイチェル。

「ちょっ、この鶏肉揚げたの、ちょー美味いよ」

 豪快に唐揚げを頬張りながら、油で濡れた唇を舐めるリッテ。

「卵って、火を通しても美味いね」

 卵焼きを気に入ったらしく、食べながら感心したように呟くシオン。

「あー、酒が欲しいぜ」

 手で唐揚げを摘まみながら、コップを傾ける真似をするキオ。

「いつも通り美味いな、セイ」

「ありがと。皆さんの口に合って良かったよ」

 蕩けるような笑みを浮かべるノウルと、はにかむ星。その膝の上には、唐揚げを食べているラビ。

 傍らでは、狼もお裾分けをもらっていた。



「しかし、本当に第二王子には気を付けろ?」

「シウォーグさん良い人だったよ?」


 真剣に忠告するノウルに、首を傾げて答える星。生暖かい視線を向けてくる部下達。鼻で笑う水晶ウサギ。


 ランチタイムは、まだまだ終わりそうも無く――。


 星の初めてのお使いの品は、しばらく出番は無さそうだ。



 そして、何処かでシウォーグのくしゃみが聞こえた気がした。

初めてのお使いで書ききれなかった分は、この次の幕間にて。

詩織は本当に書きやすい。

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