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巻き込まれ少女、出会う。2,初めてのお使い1

登場人物が多いので、わちゃわちゃします。

ユナフォード様のキャラが、気を付けないとブレます。

精進しないと……。

2,初めてのお使い



 ゴブリンの襲撃、所謂ゴブリンパニックから数日後、星は一人で街中を歩いていた。

 所々に、戦闘の形跡は残っていたが、人々の生活は、いつも通りに戻り、大通りは活気に包まれていた。

 そんな中を、星は大きな荷物を抱え、緊張した面持ちで歩いているのだが、傍らにシェーナの姿はない。

 代わりに隣を歩くのは、いつもの銀獅子ではなく、銀色の狼だ。背中には、ドヤ顔している、水晶ウサギのラビを乗せている。

 ノウルに一人歩きを禁じられている星が、一人で、しかも密書を運ぶスパイのような表情で大通りを歩く事になった原因もまた、ノウルだった。



 簡単に説明すると、出勤したノウルが忘れ物に気付く、でも取りに戻る暇はない、使い魔に届けさせるのは少し不安な物、じゃあ通いの家政婦に、いや獣人の彼女を城に来させるのは酷だ――最終的に、悩みに悩んだノウルは、星にお使いを頼んだのだ。

 ちなみに、イヤリングにしか見えない通信用魔具の使い方は、ゴブリンパニック後に、バッチリ覚えさせられていた。

 星の石は、黒曜石を思わせる艶やかな黒と、おねだりして付けてもらったノウルの瞳と同じ色のものだ。その二つが、今も並んで星の左耳で揺れている。

「向こうに着いたら、ご飯にしようね」

 シャラ、と揺れる石に触れて存在を確認すると、星は表情には出さず、楽しそうに瞳を輝かせる。

 実は、ノウルの忘れ物自体は、星のポケットに収まる小さな物で、抱えている荷物の大半は、お弁当だったりする。

 星の言葉を聞き、ラビは嬉しそうに口元を動かし、狼はブンブンと尻尾を振っている。

 いかにも人混みに慣れていない風な星は、すぐにでも何らかの犯罪被害や、ある種の男の琴線に触れてナンパに遭いそうだが、傍らを歩く狼と、その上で睨みをきかせているラビのお陰で、今のところ、何事もなく歩いている。

 時々、擦れ違い様に、艶やかな女性達に声を掛けられるが、彼女達はノウルのお気に入りとされている娼婦――アウラという名の美女が主人をしている娼館の娼婦達だ。

 アウラに会う為に顔を出す内に、星は彼女達に気に入られ、妹のように可愛がられていた。

 彼女達や、大通りで一番の店構えの食材店の店主であるラシードの影の努力もあり、星は何事もなく城の正門前に辿り着いていた。

 しかし、ここで問題が一つ。

「ちょっと、怖いね……」

 二人いる門番が強面で声を掛けられず、星は狼と並んでしゃがみ、少し離れた場所から門を眺めていた。

 馬車は何回か出入りしているが、歩いて来ているのは星ぐらいで、余計に星の足を鈍らせていた。

「そうだ、呼べば良いんだ」

 そのまま、数分悩んだ後、通信用魔具の存在を思い出し、星は表情を明るくすると、耳に触れ、ノウルを呼び出そうとする。が――。

「セイだろ? 何してるんだ?」

 不意に背後から声をかけられ、ビクッと肩を跳ねさせる。

 恐る恐る振り向いた先にいた予想通りの人物に、星はゆっくりと瞬きをし、安堵から、ふにゃ、と柔らかく笑う。

「デンカさん、こんにちは。今日は、ノウルにお届け物」

 星の笑顔に、一瞬虚をつかれた表情をしたデンカさんこと、ユナフォードは、すぐに困ったような笑顔になる。

「あんまり無防備に笑うな。……で、ノウルに届け物するのに、ここで待ってるのか?」

 ユナフォードの言葉を理解出来ず、首を捻っていると、痛い所を突く質問をされ、星は地面を見つめながら、傍らの狼の首にしがみついた。

「……もしかして、門番が怖くて、入れなかった、とか?」

 図星まで突かれ、星はもふもふな狼の毛皮に顔を埋めながら、恨めしげな視線をユナフォードに向ける。

「悪い、悪い。私が話をつけてくるから、一緒に入ろう」

 恨めしげな星に、ユナフォードは快活な笑い声を上げ、宥めるように星の頭を撫でる。

「……本当に?」

 現金なもので、嬉しそうに黒目がちの瞳を輝かせた星は、荷物を抱え上げ立ち上がる。傍らの狼の上では、何故か目を据わらせているラビが、ユナフォードを睨んでいる。

「本当。じゃあ、ここで大人しく待ってて」

 もう一度、星の頭をぽふぽふと撫でてから、ユナフォードは颯爽とした足取りで正門へと向かっていく。

 少し離れた場所には、ユナフォードが乗っていたらしい馬車が、所在無さげに停まっている。どうやら、ユナフォードは、わざわざ馬車から降りて、星の元へと来たらしい。

 星が心配そうに見守る中、ユナフォードは門番に近寄り、何事か話しかける。

 すると、強面の門番の顔が一気に紅潮し、棒を飲み込んだように、姿勢が良くなる。

「……デンカさん、美人だから?」

 未だにデンカさんの正体を知らない星だけが首を傾げる中、門番と話をつけたユナフォードが戻ってくる。

「さあ、行こうか、セイ」

「うん、デンカさん。お願いします」

 ペコリと頭を下げた星は、ユナフォードが腰に回そうと出した手を、それと気付かず空いた手で握り、僅かにはにかんだ笑みを浮かべる。

 繋がれた手に、ユナフォードは一瞬キョトンと素の表情を浮かべ、すぐに、ふ、と綺麗に微笑んだ。

「……ノウルがハマる理由がわかるな」

 いけないお兄さんになりそうだ、と悪戯っぽく呟いたユナフォードは、ラビの鋭い蹴りの洗礼を受ける事となった。




 時間は、ほんの少しだけ遡り――。

「やあ、ご苦労様」 にこやかに微笑んで近寄ってくる、輝くような美貌の青年に、二人いる門番は、揃って口を開いて固まる。

「確認だけど、今『世界の愛し子』は、謁見の間か?」

 コトリと首を傾げて問い掛けてくる雲の上の人物に、門番は二人揃って真っ赤になり、コクコクと頷いている。

「なら良かった。――これから、私が誰かと通るけど、君たちは誰も見ていない、そうだな?」

 言外に色々と含ませ、ニッコリと笑いかけられた門番は、再度揃って、

「「はい! 勿論です!」」

と、綺麗な返事を披露する。

「じゃあ、頼むな?」

 老若男女問わず、骨抜きに出来そうな美しい笑みを浮かべ去っていく青年に、門番二人は、しばらくポーッとした後、ハッとしたように自らの職務へと戻る。

その間に、先の青年は、少女と手を繋いで、門番の間を通り過ぎていた。

「門番さん達、デンカさんに見惚れてた?」

「そうだな。せっかく綺麗に産んでもらったんだから、利用しないと損だろ?」

 何故か人目がない道を選んで歩くユナフォードに連れられ、星は今現在、庭の茂みの間を歩いていた。緊張感の欠片もない会話をしながら。

 庭といっても、城の庭なので、四阿があったり、小さな噴水があったり、薔薇のアーチもあり、結構な広さがある。

 ラビを乗せた狼も、若干体勢を低くしながら、ブンブンと尻尾を振って続いている。

「この時間なら、ノウルは研究室か」

「デンカさんは、お城の事、詳しいんだね」

「あはは、まあ、ね」

 尊敬にキラキラと輝く星の黒目がちの瞳に見つめられ、ユナフォードは満更でもない表情で、繋いだ手を軽く振り回す。

 と、不意にユナフォードは表情を引き締め、足を止める。

「マオか」

 え? と星が驚いて目を見張っていると、前方の茂みの陰から溶け出すように、艶のない黒髪に、琥珀色の瞳をした細身の青年が姿を現す。整った顔立ちながら、表情が少ないと言われる星より、さらに表情が無い。

 マオと言う名らしい青年は、そのまま、そこに跪く。

「……陛下が火急の用だと」

「あー、わかったよ」

 一瞬、繋いだ温もりに引かれるように、チラ、と星に視線をやったユナフォードは、真剣な眼差しで常なら絶対に口にしない命令を口にする。

「――すまないが、マオ。この子を、ノウルの所まで案内してくれ」

「…………了解」

 マオも戸惑ったのか、かなりの間を空けて、諾と返事をし、星の前へと立つ。

「無愛想だが、悪いヤツではないから。最後まで案内出来なくて悪いな?」

 不安からキュッと力の込められた星の手を、名残惜しそうに離し、ユナフォードは身を屈めて、星と目線を合わせる。

「……ううん、忙しいのに、ありがと。これ、良かったらおやつにどうぞ」

 ふるふると首を振った星は、持っていた荷物から、小さめな紙袋を取り出し、どうぞ、とユナフォードに差し出す。

「ん、ありがとな。本当に、慌ただしくて、すまない」

「気にしないで。デンカさんいなかったら、まだ門の前だったよ?」

「確かに、そうだよな」

 納得されてしまい、微妙な色を浮かべた星の瞳に、ユナフォードは、くく、と喉奥で笑うと、輪郭に幼さの残る星の頬に口付ける。

「またな? セイ」

 真っ赤になって固まった星に、悪戯っぽく笑って別れの挨拶をし、ユナフォードは颯爽と茂みの向こうへと消えていった。



 残された二人の間に、微妙な空気が漂う。先に動き出したのは、マオと言う名の青年だ。

「……こちらへ」

「あ、はい」

 短く告げると、マオは律儀にユナフォードを真似て、荷物を抱え直した星の手を引いて歩き出す。

 ユナフォードとは違い、マオは無口らしく、何も喋らない。星も、自分から初対面の相手に話を振るタイプではない。

 つまり、二人の間に全く会話はない。

 二人の後ろを歩く二匹も、喋る事はないので、先程とは違い、かなり静かな道程だ。

「……ユナフォード様とは、どのような?」

 しばらく、無言が続いたが、唐突にマオが声を発する。

「っはい? ユナフォード様って、デンカさんですよね。どのようなって言われても、ノウルのお友達だとしか知らない、デス」

 マオさんの手ひんやりしてるなぁ、とか現実逃避していた星は、わたわたとしながら、言い訳じみた言葉を返す。

「……そうですか」

 特に何も思いません、とでも言いたげな返事をしたマオは、自分で振っておきながら、それ以上喋る気はないらしい。

「あの、じゃあ、マオさんは、デンカさんと、どのような?」

 先程のマオを真似て問いかけ、星は、どうだ、とばかりに黒目がちの瞳でマオを窺う。

「……私は、あの方の影」

「影……あー、影武者さん、な訳じゃないよね。似てなさすぎるし。隠密みたいなものかな、陰からこっそり、サクッてやったり、情報集めたりする感じの」

 マオに手を引かれるまま、簡潔な答えから導き出される想像を呟きながら歩く星。脳裏を過っているのは、諸国を漫遊したという元気なお爺様の話の、あまり忍んでない忍の方々だ。

 そして、無表情で会話のラリーが始まる。

「……貴女は、嫌では?」

「えぇと、そういう存在が嫌か、って事なら、別に、って答えるよ?」

「……何故?」

「えぇと、血生臭い事とか、後ろ暗いしてるから、嫌だとかは、特には……」

「……何故?」

「えーと、上手く説明出来ないですが、マオさんは、別に私利私欲の為にしてるんじゃないから?」

「……なぜ、です?」

「あ、語数増えた。……ん〜、マオさんが、そういう事するのは、デンカさんの為で、デンカさんは、悪い事の為にマオさんに命じたりはしなそうだから?」

「……狙われたら」

「それは、死にたくないから抵抗するよ? でも、嫌う訳ではない、よね?」

「……何故、です?」

「もし、私が狙われたなら、それなりの理由があるんだろうし、仕方がない部分も、あるかも知れない。でも、やっぱり死にたくはないかな」

「……なぜ?」

「死にたくない理由は、まず本読めなくなるから。あとは、好きな人たちを泣かせたくないから?」

 自意識過剰かな、と照れ臭そうに呟き、会話中初めて星は表情を動かす。

「……不思議」

「そっかなぁ。私は、緩いだけだと思うけど。正直、綺麗なだけのものなんて、逆に歪だと思うし」

 そこで、二人の会話は途切れ、唐突に始まった会話は、唐突に終わりを告げ、星とマオは、再び無言で歩き出す。

 最初と同じ、無言な道程だが、最初と違い、その空間に重苦しさは消え、何処か親和を感じさせる空気が漂い始めていた。


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