巻き込まれ少女、出会う。幕間,その頃『世界の愛し子』側
ゴブリンパニック、『世界の愛し子』側の話です。ちょっと修正。短いです。
幕間,その頃『世界の愛し子』側
街がゴブリンパニックに襲われる少し前、『世界の愛し子』である詩織は、第二王子――シウォーグに回収され、自室へと戻されていた。
「愛し子、お前の軽率な行動で、下手すれば、ここいる全員の首が飛んでいたぞ?」
不服そうな詩織に向け、見た目ワイルド、中身苦労性な青年なシウォーグは、面倒臭そうに告げる。
シウォーグの指す全員とは、詩織付きの侍女四人と、本日の護衛騎士であるクロトという名の騎士だ。
「そ、そんな、私が勝手に抜け出したんです。皆さんは、悪くないです。どうか、辞めさせたりしないで……」
瞳を潤ませ、自分が悪いんだと訴え、詩織はソファに座ったまま、シウォーグの服に弱々しく縋りつく。
「抜け出したのが、お前の意思だろうが関係ない。あと、勘違いしているようだが、首が飛ぶのは――物理的にだ」
ふん、と鼻を鳴らして詩織の手を払ったシウォーグは、顔色をなくしている侍女達と騎士に一瞥をくれ、自らの首を、手で横に掻き切る真似をして見せる。
「え?」
「自分の立場を、よく考えろ」
固まってしまった詩織を気にする事なく、シウォーグは用事は終わったとばかりに、部屋を後にする。
「ごめんなさい、私、知らなくて……」
静寂を破ったのは、ハラハラと涙を溢しながらの、弱々しい詩織の声。
「愛し子様は、悪くございません。ですが、次からは誰か供をお付けください」 冷静な声音と、静かな微笑みで答えるのは、侍女の中で一番の年長の、藍色の髪を持つサマンサ。
「たまにはお一人になりたいお気持ち、わかりますわ!」
血の気を失った顔に、必死で明るい笑顔を貼りつけ、詩織を励まそうとするのは、金髪巻き毛の侍女、レベッカ。
「そうですよ! 愛し子様は一つも悪くないです!」
耳と尻尾を忙しなく動かして、必死な様子で告げるのは、犬の獣人で侍女なティナ。
四人目の侍女であるプラチナブロンドの美少女、ピアだけは無言だが、別に怯えている訳ではなく、無口なのだ。
「――貴女様が部屋にいないと知った時、心臓が止まってしまうかと思いました」
詩織の傍らに跪き、真摯に告げるのは、詩織専属の護衛騎士のクロトだ。
嘘偽りなく、真っ直ぐに自分を見つめ、忠誠を捧げてくる姿に、詩織は頬を染めて微笑み、
「皆さん、ありがとうございます。次からは、気をつけますから」
と、告げて、頭を下げる。
「勿体無いお言葉です」
五人を代表するように、そうサマンサが返すと、揃った動きで全員が深々と頭を下げる。
その様子を見つめ、詩織はどこかうっとりとした表情で、微笑んでいた。
●
詩織の部屋を後にし、荒々しく足音を立てて歩いていたシウォーグは、ふと窓から見えた街並みに違和感を覚え、足を止めた。
「火事か?」
視線の先には、遠くで細くたなびいて天へと伸びる黒煙。心なしか、城門辺りも騒がしくなってきている。
シウォーグが険しい顔で窓の外を睨んでいると、ガチャガチャと金属音をさせ、一人の騎士が駆けてくる。
「シウォーグ様! こちらでしたか!」
「どうした。何があった」
肩で息をしている騎士は、シウォーグの問いに必死な様子で息を整え、窓の外を指差した。
「今、伝令が来ました! ゴブリンの集団に、外門を突破されました! 警備隊が、対処に走っていますが、街中に侵入を許してしまった模様です!」
「ちっ、次から次へと!」
苛立ち紛れに舌打ちをし、シウォーグは、ガシガシと髪を掻き乱す。が、すぐに冷静さを取り戻し、騎士を真っ直ぐに睨む。
「まずは城の守りを固めろ。その後、魔術師部隊と、騎士を出せるだけ出して、ゴブリンの掃討に回せ」
シウォーグの指示に、騎士は、はっ! と短く答え、現れた時と同じようにガチャガチャと駆け出す。
「非番の者も使って、突破された外門の確認もしろ! 怪我人の保護も忘れるな!」
その背に向け、シウォーグが怒鳴ると、騎士は生真面目に振り返り、はい! と返事をしてから、再度走り出す。
その背中を見送ってから、シウォーグは数瞬悩んでから、行く先を変更して歩き出す。
「……『世界の愛し子』の護衛も増やした方が良いか?」
今さらな呟きに答える者が、人影もない廊下にいる訳もなく。シウォーグは、くく、と自嘲するように笑った。
それから、しばらくして、シウォーグは兄である第一王子ユナフォードの部屋にいた。
遠慮なくどっかりとソファに座ったシウォーグの前には、部屋の主であるユナフォードが優雅に座っている。
似てない兄弟の間にあるテーブルには、お茶の入ったティーカップと、少し歪な丸い形をした焼き菓子が置かれている。
「……これ何処のだ?」
サクサクとした食感の焼き菓子に、シウォーグは目を見張り、感心した表情を浮かべる。手には、すでに新たな一枚を掴み。
「手作りだよ。お土産にって、くれたんだ。この世界にはない食感だよね」
「……まさか、愛し子の手作りか?」
自慢気に告げたユナフォードの、この世界にはないという単語に、シウォーグはギョッとした表情で腕を伸ばし、持っていた焼き菓子から距離をとる。本人がいないとはいえ、かなり失礼な反応だ。
「あの子がキッチンに入ったって話、聞いてるか? 本当なら、そろそろ聖獣達の為に、何か作ってもらいたいんだけどね」
「……まだ、良くならないのか」
「んー、召喚が成功したからか、親は元気になってきたけど。チビが、ね」
焼き菓子――クッキーを食べながら、ユナフォードは重々しくため息を吐く。
「――ゴブリンに侵入されたらしいね」
「ああ。被害は最小限で済んだが……で、この焼き菓子は、結局?」
サクサク、と。会話の隙間で、クッキーの噛み砕かれる小気味良い音が響く。
「運良く、魔術師部隊隊長が居合わせたらしいよ? 焼き菓子は、その隊長が保護してる、巻き込まれの、可愛らしい子の手作り」
「……どうりで、早々終わった訳だ。で、巻き込まれは、巻き込まれたりしなかったのか? 一緒にいたんだろ?」
重々しい内容と、焼き菓子を並べた会話を続けながら、シウォーグは、どちらかと言えば強面に分類される顔に、隠さず心配の色を浮かべて、目の前の兄を窺う。
魔術師部隊隊長であるノウルを毛嫌いしているシウォーグには、巻き込まれの安否の確認方法は、ユナフォードに訊くしかなかった。
それを知っているユナフォードは、くすくす、と笑い声を洩らし、恨みがましい視線を向けられる。
「悪い悪い。あの子は大丈夫だって。ちょうど、シウォーグが向かわせた騎士のうちの一人に助けられたらしいよ」
良かったね、と微笑ましげな視線を向けられ、シウォーグはバツが悪そうに視線を泳がせ、豪快に数枚ののクッキーを口へと放り込む。
ザクザク、と優しい食感の焼き菓子を口内に詰め込みながら、シウォーグは、巻き込まれた少女を思い出そうとする。
だが、シウォーグに思い出せるのは、小さく綺麗な形をした黒い後頭部だけで――。
無言で舌打ちをしたシウォーグに、ユナフォードは温かな、兄らしい眼差しを向けていた。
次は、星のターンです。
この兄弟は仲良しです。




