飛章,まぜるな危険
コメントありがとうございます。
地震の恐怖を紛らすために、ポチポチとこちらを久しぶりに更新しました。
長らくおまたせしてすみませんm(_ _)m
「そっか『世界』は人の心は変えられないんだったよね」
無事に第一関門といえるイベントを終わらせた星と詩織は、詩織の部屋へと移動していた
お披露目直後のこのタイミングでのノウル宅へと引っ越しはどう考えても無謀なので、まだ城で生活することになったが、詩織は星とすぐ会えるので喜んでいた。
一緒にお風呂へ入り、色違いのお揃いパジャマ姿となった二人は、ベッドの上で寛ぎながら今後の話をしていて、先程の星の発言もベッドの上で発せられたものだ。
「それを勘違いして家出した可愛い子がいたわねぇ」
星の発言を受けて呟く詩織の目は、何を思い出してるのか目の前にいる星ではなく遠くを見つめている。
「……えぇと、それはごめ」
「謝らないの。星は何一つ悪くないのよ。謝るとしたら私でしょう? ラノベの俺つええーなんて馬鹿にしてたけど、実際自分がその状況に置かれると馬鹿になっちゃうのわかるわ」
謝りかけた星の言葉を遮った詩織は過去の自分の痛々しさを思い出しているのか、その儚い美少女顔はかなりの渋面になっている。
「そう、なの?」
今現在ラノベでいう俺つええーな立場にいるはずの星はというと、あまり動かない表情筋を使ってきょとんとしている。
「……普通は、あれだけのイケメン達にチヤホヤされれば、少しは図に乗ったり調子に乗ったりすると思うんだけど」
「え? ……ごめん?」
ジト目で見つめてくる詩織に、星は少し困ったように瞬きをしながら首を傾げて謝罪をする。
「前の私、これをあざとい演技だと思ってたのよね。どれだけ目が曇ってたのかしら」
さらに困惑したように首を傾げる角度を深くした星の頬を突きながら、詩織は自嘲気味にくすくすと笑う。
そのまま、星を巻き込むようにして、寄り添ってベッドへ倒れ込む詩織。
「今日は疲れたわね。とりあえず、無事に終わって良かったわ」
「私、ちゃんとやれてた?」
「出来てたわ、可愛かったわよ? で、私はどうだったかしら?」
「詩織は格好良かったよ!」
ベッドの上で仲良く寄り添い合いながらお互いを誉めて、楽しそうに言葉を交わす少女二人を、見た目だけは愛らしい水晶ウサギがベッドの傍らからじっと見つめている。
黒い獅子は獣の姿でベッドの横たわり、少女二人のクッションの役を嬉々としてしてるのだが、あまりに溶け込み過ぎて本物のクッションのようだ。
こんな幸せでのどかな──ほんの少し前にはあり得なかった光景には、『何者か』の作為すら感じられる。
「これぐらいならゆるしてやる」
突然聞こえたアルトの声に詩織だけが眉の動きで僅かな反応を見せたが、もう慣れたことなのかスルーしてしまう辺り、詩織もかなり強かで図太いといえる。
ベッドの上で密やかに楽しそうにお喋りをする少女達を、最凶守護者な水晶ウサギはじっと見つめ続けていた。
●
「駄目ね。また断りの手紙よ」
そう言って詩織が星に手渡したのは、送り主の几帳面さが滲み出たようなきっちりとした文字の並ぶ封筒だ。
「……優しくて本当に真面目な人、だったから」
数度会っただけの星からもそんな感想の出てしまう手紙の送り主は、先日の星と詩織の、『世界』には人の心は変えられない、という話題の元になった人物だ。
「そうね。とんでもなく真面目でお人好し……それで、誰よりも私のことを心配してくれていた人」
「私達がもっと早く和解出来てれば……」
「それを言われると、私も自己嫌悪で悶えそうだからね、星」
表情に出さず悲しそうな雰囲気になってしまった星を、詩織が苦笑いしながら抱き寄せる。
思い込みによる小さな勘違いが無くなった二人は、まるで昔からの親友のような仲の良さだ。
この世界に二人しかいない同郷だというのもあるだろうが、相性も良かったのだろう。
すげなく断られた手紙を二人でじっくりと読んでから、二人で返事を考えていく。
そんな仲睦まじい二人の姿を、双方の専属メイド達とそこここで揺れる影達は微笑ましく見守っていた。
●
「しかし、一番の問題が民からの抗議ではなく、本人の意志とは。真面目な騎士だと聞いていたが、相当な堅物なようだね」
「他の罪人達からも文句は出てないぜ。何だったら送り出そうとしてるぐらいだが、本人が頑として、自分は許されない罪を犯した、と恩赦を拒否してるそうだ」
母違いながら仲の良いユナフォードとシウォーグは、良く似た表情で苦笑いを浮かべて、根塊も拒否されましたという報告の書類を眺めて次の手を考えていたのだが、そんな二人の度肝を抜く報告がもたらされるまであと少し──。
「ユナフォード殿下! 愛し子様達が雨の竜様に乗られて、何処かへ飛び去られました!」
飛び込んで来た騎士の報告に、二人は顔を見合わせ、良く似た色の瞳を瞬かせる。
「あの子達は……混ぜたら危険度が増すのか?」
ため息を吐く兄にシウォーグはガシガシと頭を掻いて騎士を振り返る。
「そんなこと感心してる場合じゃないだろ! ノウルは!?」
急くような問いに騎士はビシッと姿勢を正して間髪入れず答えを返す。
「使い魔に乗られて、追われているようです!」
その答えを聞いたユナフォードは、騎士の姿を見て何かを思い出した様子で首を傾げる。
「シオリの方の騎士はともかく、セイについていた忠犬みたいな騎士は?」
ユナフォードが口にしたのは自他共に認める星の忠犬な某騎士のことだ。
「走って追いかけているところを、同僚騎士に止められたそうです!」
答える騎士の方も忠犬みたいな騎士という言い方で誰かわかっているのか、答えるまで全くの間がなく答えも揺るぎない。
「……まぁ、飛んでる相手に、肉体だけで追おうとしてたら、そうなるよな」
常識人なシウォーグは苦笑いしてそんな反応をしたのだが、報告に来た騎士は少しだけ困ったような表情を浮かべて、
「いえ、その……それを振り解いてまた走って追いかけているそうです」
と、報告を付け足した。
「…………追いつけるといいね」
言葉に詰まったシウォーグに代わり、ユナフォードは何処か投げやりに微笑んでそんな言葉を返して忠犬騎士の話題は終わる。
「乗っているのが雨の竜で、ノウルが追いかけているならそこまで心配はないだろうけど、念の為兵士を向かわせよう」
何ともいえない空気となった中、ユナフォードが微笑んで指示を出すと、不安そうだったシウォーグの表情に隠しきれない驚きが浮かぶ。
「行き先がわかってるのか!?」
「まぁ、ね」
シウォーグの問いを軽く流したユナフォードは、困った子達だ、と口内で小さく呟いて目線だけでそこここに揺れる影へ指示を出すのだった。
いつもありがとうございます(*>_<*)
活動報告にも書きましたが、まだまだ余震で揺れていて落ち着かないので、またしばらく全作品更新停止いたします。
申し訳ありませんm(_ _)m
皆様ご無事でありますように。