雨章,通り雨
かなり短いですが、ちょうどいいので、ここで区切ってしまいました。
思いついた時に、思いついたものを書き進めてるので、進捗に差が出て申し訳ありませんm(_ _)m
「……しぐれ?」
もとよりほぼ素だった星が、きょとんとした様子で黒目がちの瞳を瞬かせて呟くと、時雨の金の瞳がスッと細められる。
そのまま羽ばたきの音もなくバルコニーの側へと降りて来た時雨は、空中に浮いたまま大きな体を器用に畳んで、寄り添い合う星と詩織へ鼻先を伸ばす。
【なんだい? 愛しい子達。どうして泣くんだい? 君らが悲しむと、空も泣いてしまうよ?】
響いた声はいつもの竜言語ながらも、まだあまり竜言語に慣れていない詩織を気づかったのか、同時翻訳された声がその場にいる全員へと届けられる。
ざわざわとする民衆達を前に、さすがというかすぐに落ち着きを取り戻したアルファンは、時雨へ向けて深々と頭を下げる。
「尊いお方、話しかけることをお許しいただけますか」
【構わないよ。君は、今の王かな。言葉は聞こえてるかい?】
「お心遣いありがとうございます。差し出がましいかもしれませんが、王である私から愛し子らの泣いている理由を説明させていただきたい」
【ああ、問題ないよ】
鷹揚に頷いて見せた時雨は、竜の姿のまま体のサイズを一回り小さくしてバルコニーへ着地すると、星と詩織を守るように懐へと入れて体を丸めてしまう。
「星、喚んだのかしら?」
「ううん、喚んでないよ? ここで時雨来たら、脅迫みたいになるかな、って思ったから止めたんだけど……」
竜の懐という安全地帯で、寄り添い合う少女達が小声で交わす会話を聞きながら、時雨はフンと小さく鼻を鳴らして王族達を見つめている。
星達の思惑など知る由もない時雨は、愛しい子が泣いてる気配を感じて、矢も盾もたまらず飛んできたのだ。
アルファンの返答によっては、時雨は少女達を抱えて飛び去るつもりだった。
「全ては私達の心得ちがいから起きたことなのです。そのせいで一人の高潔な騎士が罪を犯してしまい『愛し子』達はそれを自らのせいだと嘆き悲しんでいるのです」
それを察してしまってるのか、アルファンが必死に重々しく訴える中、報連相って大事だな、と思う影がいたとかいなかったとか。
とりあえず、突然の予想外の大物の来訪に、誰にも見えていないが裏方は大慌てだ。
【そうなのかい? 僕の愛しい子達】
甘えるように鼻先を星と詩織へ寄せ、優しい声音で問いかける時雨。
慣れきっている星は、コクリと頷いて時雨の鼻先を撫でるが、詩織には遠慮というか怯えが少し滲んでいる。
優しげな声音の時雨だが、見た目は完全に竜だ。口元には鋭い歯が並び、一口で星や詩織なんて丸呑み出来るだろう。
時雨も詩織が少し怯えているのをわかっているので、なるべく星側へと顔を寄せているが、大きさが大きさなのであまり効果は無さそうだ。
それはさておき、
「そうです、雨の竜様。許されるなら、私達が共に罪を負ってでも、騎士様の罪を軽くして差し上げたくてワガママ言ってしまいました」
時雨に欠片の恐怖もない星は、潤んだ黒目がちの瞳をゆっくりと瞬かせ、自嘲するようにぎこちなく笑って見せる。
「私の騎士のためにそこまで……」
感極まったようにそれだけを口にして、泣き笑いのような表情を浮かべた詩織がギュッと星を抱き締めると 、民衆から小さく声が上がり始める。
「『愛し子』様たちがあそこまで言われるなんて、相当素晴らしい騎士だったのではないか」
「あんなに悲しんでらっしゃるのだ、犯した罪の大きさにもよるが、赦しがあっても良いのではないか」
「確か、王弟に騙されていたらしい」
「心から『愛し子』のシオリ様を愛していたそうだ」
「言い訳一つせず罰を受け入れた高潔な騎士の中の騎士」
たまに上がる否定的な声は、何故かあっという間に掻き消えていき、ほとんどが肯定的な声となり、その空気感は広場へ伝染していく。
まるで見えない誰かが扇動していくような雰囲気で、今や広場へ集まった民衆達の心は一つ。
「「「「『世界の愛し子』様の騎士へ許しをお願いいたします!」」」」
【おや、では、僕からもお願いしよう。僕の可愛い愛しい子達の『ワガママ』を聞いてやってくれないか、人の王よ】
広場から響く声を聞き、楽しげに金の目を細めた時雨が紡ぐのは、お願いという名の絶対的強者から『命令』だった。
「善処いたします、雨の竜」
思いがけないところから着地したな、という会話を隣に立つ王妃と目で交わしたアルファンは、まさに通り雨のように降って湧いた相手へそう微笑んで返すのだった。
いつも温かいお言葉ありがとうございますm(_ _)m
何とか生きております。
最近はBLな方ばかり更新しててすみません!基本的に性差なくラブラブが好きなもので……。