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巻き込まれ少女、出会う。幕間 使い魔達

要約するなら、使い魔達は星が好き。そう言うお話です。

詩織は書きやすい子です。

相変わらず、ユナフォード殿下は暴走します。

幕間,使い魔達



 朝から、見知らぬ相手とビックリな対面を終え、星は疲れた様子で、いつもより、ノロノロと朝食の片付けを終える。

「……大丈夫か?」

 泊まり番の次の日は休みの為、朝食の片付けを手伝っていたノウルは、心配そうに星の頭を撫でて、そう優しく問いかけた。



 朝からの嵐の原因――ユナフォードは、星の朝食に大満足だった。が、帰り際、ノウルを真似て星を撫でようとし、怯えられた挙げ句、ノウルの陰に逃げ込まれてしまい、肩を落としてトボトボと帰って行った。

 一人で帰す訳にはいかないので、ユナフォードの傍らには、ノウルの使い魔の一匹である銀の毛並みの狼の姿があったが、心なしかユナフォードに向ける視線は冷たい。その理由は、星だ。

 一週間の間に、星はすっかりノウルの使い魔達に懐かれていたので、ユナフォードがしでかした事を、使い魔全員が知っており、正直怒っていた。

 だが、被害者である星が許し、本人も反省していて、何より主人の上役にあたる人物なので、冷たい視線を向けるだけに抑えていた。

 もちろん、今襲撃があれば、この狼はユナフォードを守るため、命がけで戦うだろう。そう造られた生き物なのだ。




 だから、本来なら、獅子が見せた殺意は有り得ないのだ。

 ユナフォードからそれを聞いた瞬間、ノウルが即座に否定する程、有り得ない事だった。

 主人であるノウルは、ユナフォードが屋敷を訪れる事が多い事も加味し、全ての使い魔に、自分がいなくても彼を守るよう、『命じて』ある。薄暗くて、分からなかった、などという言い訳は、普通の生き物ではない使い魔には、通用しない。

 ユナフォードは、忘れられた、と思っていたが、それも、やはり有り得ない。

 いくら、生物のカタチを模していても、ノウルの使い魔は、全てノウルの造った生き物だ。ノウルが死なない限り、使い魔達に命令の忘却はない。

 途中、殺意が消えたらしいが、声を聞いて思い出した訳ではなく、どちらかと言えば、それは、向かい合ったユナフォードに殺意が無いと理解し、迎撃の度合いを下げただけのように思えた。

 暴走。それも、考えられたが、今現在、星を背中に乗せて、嬉しそうに目を細めている獅子に、その気配は微塵もない。

「……まさか、勝手に優先順位を変えたのか?」

 自らの呟きに、それこそ有り得ないか、と小さく鼻を鳴らしたノウルは、巡らせていた思考を強制的に終わらせ、音なく現れた、使い魔の大蛇を撫でる。

 優先順位は、ノウルが使い魔に命じてある、守るべき命令の順番だ。

・自分が傍にいれば、自分に付き従え、命がけで共に戦え。

・自分が傍にいなければ、優先的に王族を守れ。害する者を全て排除し、主人だと思い従え。

 最近は、そこに三番目として自然と星が加わり、使い魔達は、すっかり星に馴染んでいた。主人であるノウルをそっちのけで、懐いていた。

 特に初対面から仲良くしていた獅子は、食餌を貰うようになり、巨大な猫のようになっていた。

 なっていたのだが、まさか、守るべき命令の順位を変え、ユナフォードに殺意を向けてまで、星を守ろうとするとは思ってもみなかったノウルは、しっかり言い聞かせるべきか、と獅子を見やり、結局、まあ良いか、と今度こそ思考を放棄した。

 深く考えなくとも、ユナフォードが星を襲う、または逆の事態が起こる事など、今朝のような勘違い以外は有り得ないのだから。



 有り得ない事が起こる事は、もう有り得ない。



 結論付けたノウルは、ソファに深く腰掛けながら、星の焼いたクッキーを二枚取り、一枚は自分の口に、もう一枚は大蛇の口へと放り込む。



「セイを傷つけるなら、殿下でも容赦はしないがな」


 サクサクと、クッキーを噛み砕き、ノウルは美しく冷たい微笑みを浮かべ、大蛇の体を撫でる。

 その隣で、同じようにクッキーを食べていたラビが口元を、もごもごと動かす。


「おまえもな」



 唐突に聞こえた声に、ノウルは目を見張って、勢い良くラビを見る。

 ラビはノウルの視線に小首を傾げ、僕が喋る訳ないでしょ? と言わんばかりに、くしくしと顔を洗って、クッキーの食べ滓を落とす。


「水晶ウサギが怖い」


 ノウルの呟きに、先程までノウルの思考を占めていた獅子が、コトンと首を傾げていた。

「ここまでで良いから」

 堂々と正門から城へと入ったユナフォードは、しばらく歩いてから、付き従っていた狼に、そう声をかける。

 今歩いているのは、王族や『世界の愛し子』の関係者しか通らない通路なので、安全は確保されていた。

「ノウルに……」

「ユナフォード様?」

 振り返り、ユナフォードが狼に声をかけていると、背を向けていた、通路の奥から名前を呼ばれる。

「愛し子が、一人で出歩いてはいけないよ?」

 一瞬しかめかけた顔を、ゆっくりと微笑みで隠して振り返り、ユナフォードは『世界の愛し子』――詩織を視界に入れる。

「私だって、たまには一人になりたいんです」

 非難がましい、けれど甘えを含んだ上目遣いで宣う詩織に、ユナフォードは鉄壁の微笑で返す。

「君のその我が儘で、どれだけの人が困るんだろうね」

「あら、ユナフォード様も、お一人でしょう?」

 うふふ、と悪戯っぽく瞳を煌めかせ告げる姿を、ユナフォードは相変わらず笑ったまま見下ろす。

「……私は、自分の身なら守れるし、守ってくれている友がいるからね」

 だから、ユナフォードの夜歩きは見逃されている。

 部屋の入り口を守る兵士達も、それを理解しているので、見ないフリをして、ユナフォードの外出を見送る。

「まあ、シウォーグは心配性だから、止めろと言われるけど。――で、貴女は襲われた時、どうする気なんだい?」

「え、あの、私は『世界の愛し子』ですから、襲われたりしないんじゃ……」

 そう切り返されるとは思ってはいなかった詩織は、キョトンとした後、困ったように笑い、小首を傾げてユナフォードを見つめる。

 無意識にやってるであろう星とは違い、詩織の仕草は、あからさまに計算され尽くした感がある。ユナフォードは、同い年の筈の二人の差異に、喉奥で笑う。

 笑われた意味がわからず、面食らった顔をする詩織に、ユナフォードの笑みは深まる。

「とても危険な思い違いだ。忠告しよう。『世界の愛し子』だからと言って、全ての人に愛される訳ではないよ? 重々、気を付けることだね。――すまないね、ノウルの所へお帰り」

 ユナフォードから帰還の許しが出なかった為、お座りの体勢で待ち続けていた狼は、ブンブンと尻尾を振って身を翻そうとする。

 だが、そこに白い繊手が伸ばされ、無防備な狼の尾を無遠慮に掴もうとする。

 その手を、パシッと払い落としたのは、見た目に反して男らしいユナフォードの手だ。

「痛……っ、どうして?」

 庇護欲を誘う潤んだ瞳で、キッと睨んでくる詩織に、ユナフォードはついに笑顔を消す。

「どうして? 感謝して欲しいな。他人の使い魔に無断で触るなんて、殺されても文句は言えない――」

 ユナフォードの冷えた声に、顔色を悪くしていく詩織を見下ろしながら、ユナフォードは、去るタイミングを逃し、待機している狼を見やる。

「君は、動物好きかな?」

 なんの脈絡もなく問われ、血の気の引いた顔のまま、詩織は無言で頷く。

「じゃあ、触ってみるか?」

「良いんですか?」

 手のひらを返したようなユナフォードの変わり様に、詩織は一瞬訝しむが、それより美しい銀狼に触れてみたいという気持ちが勝り、そろそろと手を伸ばす。

 しかし、詩織が狼に触れる事は叶わなかった。

 詩織の手が近づいた瞬間、狼は、グルル、と低く唸り鼻面に皺を寄せ、明らかな嫌悪を示したのだ。

「あ……」

「嫌われてしまったようだね。これで分かったろ? 『世界の愛し子』だから、全てに愛される訳ではないと」

 これに懲りたら一人で出歩いちゃ駄目だよ? と呆然としている詩織の耳元で囁くと、人好きのする笑みを浮かべたユナフォードは、立ち尽くした詩織を放置して、結局、狼を連れて自室へと向かう。

 途中、シウォーグに出会ったので、詩織の回収を頼む。かなり、嫌そうだったが。

「――そう言えば、『世界の愛し子』は動物に好かれるらしいけど、やっぱり個人差があるのかな」

 嫌われてたね、と美しい顔で無邪気に笑いながら言うユナフォードに、後ろを歩く狼は首を傾げるのみ。




 その正解を知っているのは、『世界』だけだろう。


勢いで書いたので、いつもより、さらに矛盾があるかも知れません……。

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