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巻き込まれ少女、出会う。序章 はじめまして 1

気持ち的には、第2話スタートです。

ここから読む方もいるかな、と思い、若干説明臭いです。

その他に、登場人物紹介、みたいな形で、間に挟むべきかな、と悩んでます。

お時間ありましたら、ご意見ください。

序章,はじめまして




 同級生の高坂詩織の異世界召喚に巻き込まれ、森に放置された結果、イケメン魔術師に拾われた柊星が、この世界で暮らし始めて、一週間が過ぎた。

 魔術師や、魔物などのファンタジーな部分を覗けば、この世界――アーキスは、不思議なぐらい地球と似ていて、逆に星は戸惑いを覚えていた。

「時計の見方とか、月日の区切り方とか、地球と一緒なんだよね」

「あら、そうなんですか?」

 不思議そうに言う星に、お茶を飲みながら、おっとりと応えるのは、通いの家政婦、人妻で猫の獣人であるシェーナだ。

「うん、四季もあるなんで、私が住んでた国そのものだよ」

「さらに不思議ですね。でも、セイちゃんにとっては、暮らしやすいって事でしょう?」

「そうだね。気温の変化も想像出来るから楽だし」

 リビングでまったりとお茶をしている二人の前には、多少形が不揃いながら、綺麗な焼き目が付いた丸いクッキーが並んでいる。それを一つ摘んで頬を押さえたシェーナは、ほぅ、とため息を吐く。

「これ、サクサクして美味しいですねぇ。甘さもちょうど良いです」

「シェーナお姉ちゃんが、オーブンの使い方教えてくれたから、早速、焼いてみたんだよ」

「ずっと使われてませんでしたから、オーブンも喜んでますよ」

 うふふ、と悪戯っぽく笑うシェーナに、星も小さく笑って頷く。

「そう言えば、今日は旦那様は、城へお泊まりになる日ですね」

 しばらく、ソファに並んで座り、お茶とクッキーで談笑していた二人だったが、シェーナの言葉に、空気が変わる。シェーナの口にした『旦那様』とは、シェーナと婚姻関係にある男性の事ではなく、この屋敷の主――ノウルを示す呼称だ。

「そう、なんだよね……」

 表情は変わらないが、黒目がちの星の瞳には、明らかなズーンと沈んだ色が浮かぶ。この世界に来て初めて、星は一人で夜を過ごす事になり、かなり不安を感じていた。イケメン魔術師なノウルは、シェーナの言葉が示す通り、本日は城に泊まる日なのだ。

 星の様子に気付き、焦ったシェーナは猫耳をピコピコと動かしながら、必死に言葉を探す。

「あ、あの、大丈夫ですよ? 旦那様の防犯装置は完璧ですし、使い魔の皆さんもいますし、いざとなれば、通信用の魔具とかありますし」

「……うん、でも、ちょっと」

 寂しい、と掠れた声で呟いた星を、堪えきれなくなったシェーナが、しっかりと抱き締める。一回、豊かな胸で窒息させてしまいそうになったので、それ以来、力加減はバッチリだ。

「わたしが泊まれれば良いんですけど……」

「それは駄目。お子さんが、シェーナお姉ちゃんいなきゃ、寂しがるよ」

 上背のあるシェーナを抱き締め返しながら、星はふるふると首を横に振ってシェーナの言葉を退けた。




「どうしても寂しかったら、言ってくださいね?」

 去り際にもそう言って、玄関先で抱き締めてきたシェーナに、星は小さく頷いてから微笑み、

「ラビがいるから、頑張れるよ」

と、足元にいたラビを示す。ラビは、水晶ウサギという種類の生き物で、額に生えた水晶が一番の特徴だ。

 星に頼りにされ、顔中をクッキー滓だらけにしたラビは、自信満々に胸を反らし、もふもふな前足で、もふもふな胸を叩いて見せる。ちなみに、ラビは、二足歩行で普通に、てぽてぽ歩いている。

「そうでしたね。ラビちゃん、しっかりセイちゃんを守ってくださいね?」

 うふふ、と笑い声を洩らしたシェーナは、身を屈めて、小さく頼もしい守護者の頭を撫でる。

「……一応、使い魔を傍に置いておいてくださいね? いくらラビちゃんが強くても、限界がありますから」

 シェーナの忠告に、星が答えるより前に、頭を撫でられていたラビが、しょうがないなぁ、と言いたげな顔で頷いた。

「あらあら……」

 微笑ましい、といった表情でラビを見やり、シェーナはキョトンとしている星の頭を撫でる。

「ラビちゃんに任せとけば、大丈夫な気がしてきました。でも、十分に用心してください」

「うん。……シェーナお姉ちゃん、また明日」

 自分を心配してくれているシェーナの態度に、はにかんだ笑みを浮かべ、星はコクリと頷く。

「ええ、また明日。寝ちゃえば、あっという間に明日ですよ。……では、失礼します」

 後ろ髪引かれる様子で、何度も振り返りながら帰っていくシェーナを見送り、星はラビを抱えて屋敷の中へと戻る。

 シーン、と急に静けさが気になり、星はラビを抱く腕に力を込める。

「……大丈夫、ノウルは明日帰ってくるんだから」

 自分に言い聞かせるように呟き、星は心配そうに見上げてくるラビに、もう一度、大丈夫、と繰り返す。

「いざとなれば、ラビが守ってくれるんでしょ?」

 ラビの顔のクッキー滓を払ってあげながら、星は黒目がちの瞳で、ジッとラビの丸い目を見下ろす。

 シパシパと瞬きをしてから、ラビは、当然だ、とばかりの表情で胸を叩いて見せる。

「早く明日になるように、今日は早く寝ちゃおう」

 わざとらしく明るい声音で宣言した星は、とりあえず、シェーナの忠告に従い、使い魔を呼ぶ為、その住み処になっている部屋へと向かって歩き出した。

 宣言通り、早めの夕食、入浴を終えて、星は早々と自分の部屋のベッドに入っていた。

 もちろん、ラビはずっと一緒に過ごし、今もベッタリと星に張りついてベッドで眠っていた。

 一人と一匹の眠るベッドの傍の床では、大きな銀獅子が丸くなって眠っている。この獅子は、ノウルの使い魔の一匹だ。見た目に反して、星には穏やかで、巨大な猫のように懐いている。

 いつもは真っ暗にして眠る星だったが、本日は警戒しているのか、ベッドサイドのランプが、仄かな明かりを灯し、一人と一匹の寝顔を照らしている。

 獅子以外の使い魔は、住み処で待機している為、静まり返った広い屋敷。

 誰もおらず、朝まで誰も来る筈のない屋敷の中で、動く人影が一つ。玄関が開いた様子はなく、入ってきたとしたなら、それはノウルにしか開けられない筈の裏口。

 だが、その人影はノウルではない。月明かりだけの室内で、金色の波が光る。

 星お気に入りのノウルの髪は、それこそ月の光を紡いだような、美しい銀だ。明らかに、人影の持つ色彩とは違う。

「……珍しい、もう寝たのか?」

 侵入者とは思えぬ堂々とした様子で、室内を闊歩しながら、人影は一人言を呟いて首を傾げている。

 そのまま、屋敷内を何かを探し、歩き回る人影。全く、遠慮や警戒している様子はない。

 やがて人影が見つけたのは、真っ暗な屋敷の中で唯一、扉の隙間から、仄かな明かりが洩れている部屋だ。

 それは、家主の不在に怯えた少女が眠る、あの部屋の扉。

「……ここは、使ってない客間だよな?」

 怪訝そうに呟きながらも、人影は躊躇なく扉を開け、中へと侵入する。

 まず目に入るのはベッドと、その上にある小さな膨らみ。

 予想外の光景に、一瞬キョトンとしたらしい人影が、確認しようと一歩踏み出した瞬間、その前に銀の光が躍り出る。

「え? おい、ちょ、私だ!」

 動揺して噛みまくっている人影――というか侵入者を、射殺しそうな目で威嚇していたのは、ベッド傍の床に寝ていた銀の獅子だ。

 獅子は太い足でしっかりと床を踏み締めて立ち、グルル、と低く唸りながら、何時でも飛びかかれるように身構えている。

「しし、さん? のーる、きたの?」

 周囲の騒がしさに、さすがに星も目が覚めたのか、とろんとした声を洩らしながら、緩慢な動きで上体を起こす。そして、獅子と対峙している侵入者に気付き、無言でゆーっくりと、瞬きを繰り返した。

「あ、あの、私は、だな……」

「はちみつ、おいしそ……」

 獅子の向こうで必死に言い訳をしている侵入者をとろんとした瞳で見つめ、ポツリとそれだけ呟き、眠気に負けたのか、星は再び目を閉じてベッドへ沈み込む。

「蜂蜜? ああ、私の髪か……って、また眠ったみたいだね」

 星の謎の呟きを理解し、侵入者は納得とばかりに頷くが、警戒心なく眠りに落ちた星に、困ったように微笑む。

 その侵入者の前には、グルル、と唸り続けている獅子と、いつの間に起きたのか、水晶ウサギのラビが立ち塞がっている。

「…………あ、今日はノウルは城か」

 迂闊に動けなくなってしまい、侵入者は苦笑しながら、ポリポリと頬を掻く。呟きが示す通り、侵入者が会いに来たのは、屋敷の主であるノウルだった。

 ノウルが、今日屋敷を空けている事を、今更ながらに思い出した侵入者は、ため息を吐いて、眠っている少女を窺う。

「……起こしたら、起こしたで、大騒ぎになりそうだよな」

 ノウルから聞いている、人見知り、という情報を思い出し、侵入者は訳知り顔で頷いているが、人見知りでないとしても、寝起きに見知らぬ人間がいたら、大概の人間は騒ぐだろう。

 侵入者は、星が起きるのを待つ事にしたのか、椅子を引き寄せると、そこに座って、優雅な動作で足を組む。

「いい加減、私を思い出さないか?」

 青年らしい侵入者は、そう悪戯っぽく獅子に声をかけるが、答えは、グルル、という非友好的な唸り声のみ。

「……君は、初対面だね」

 話しかけても、愛らしい見た目に反し、殺る気満々で睨み付けてくる水晶ウサギに、侵入者はお手上げとばかりに肩を竦める。

 自分が動かなければ、二匹も襲っては来ないと察し、侵入者は組んだ足の上に肘を置き、手で顎を支えながら、星の寝姿を見つめていたが、しばらくすると、目を閉じて動かなくなった。

 どうしようか、と顔を見合わせた二匹だったが、警戒を続行する事にしたのか、星と侵入者の間の床に陣取り、眠る侵入者を油断なく睨み続けていた。


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