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巻き込まれ少女の異世界生活 幕間 『世界の愛し子』2

分割してある、後ろ部分です。

 一方、中へと戻ったユナフォードは、シウォーグに詰め寄られていた。

「兄上、なんのつもりであんな事を?」

「……じゃあ、逆に聞くが、お前は巻き込まれた子をどうするつもりだったんだい?」

 眉を吊り上げ、ユナフォードを睨んでいたシウォーグは、ユナフォードの言葉に、唇を噛んで押し黙る。

「いくら、知らない方、とか言われても、放置は悪手だ。変なヤツに拾われてたら、それこそ『世界の愛し子』を害す為に利用されてたかもしれない」

「……あんな根暗そうな男に、どんな利用法があるんだよ」

 拗ねたように弱々しく反論するシウォーグに、ユナフォードの眉間に皺が刻まれる。

「知らなくても、同郷である事は変わりないだろ? そんな相手が目の前で殺されたりしたら?」

 想像出来たのか、シウォーグの眉間にも皺が寄る。こうして見ると、二人はやはり兄弟で、その表情は何処か似ている。

「あと、シウォーグ。巻き込まれたのは、女の子だよ? 愛し子様と、同い年の、小さくて可愛らしい子らしいよ?」

 ユナフォードが殊更ゆっくりと告げた言葉を、理解できなかったらしく、シウォーグは、え? と間の抜けた声を返す。

「だから、巻き込まれた子は、根暗そうな男ではなく、小さな女の子だそうだよ?」

「は? おれは、右も左もわからないような女を、森に放置したって思ってるのか?」

「思ってるのか、と言われても、事実だからね。人伝だが、私に話してくれた相手は、本人に訊いたから間違いない」

 ユナフォードの言葉には一片の嘘も見られず、シウォーグは内心の動揺を隠すように、ガシガシと乱雑に整えられた髪を掻き乱す。

「……まあ、気に病まなくても大丈夫だ。彼女は、きちんとしたヤツに保護されて、溺愛されてるから」

 そうシウォーグを慰めるユナフォードだったが、何かを思い出したのか、遠い目になっている。

「……そうか、良かった」

「兄としても、お前が、いたいけな少女を放り出すような悪人でなくて良かったよ」

 心底安堵した表情を浮かべる弟に、ユナフォードは冗談めかせて、伸ばした手で弟の金茶の髪をガシガシと掻き回す。

「……しかし、あのタイミングで発表する必要は?」

「あれが一番良いんだよ。父上が、一言添えてくれれば、王命に近いものとなるし、集まっているのは『世界の愛し子』に興味がある人間ばかり。広まるのも早いさ」

 ユナフォードの淀みない説明に、シウォーグは乱れた髪を直しながら、あぁ、と納得したとばかりに声を洩らす。が、不意に覚えた疑問に、シウォーグは首を捻る。

「ちなみに、兄上は、誰に頼まれたんだ?」

 話を聞く限り、巻き込まれた本人に会った訳ではなく、その人物を良く知り、守りたいと思っている相手に頼まれたとしか思えない。

 直情的な癖に、推察力はあるシウォーグに、ユナフォードは苦笑して肩を竦める。

「……ノウルだ」

「あ゛ぁ゛? 何でここであいつの名前が出るんだ?」

「……ノウルが、巻き込まれを保護したんだ。これは、私とお前だけの胸に仕舞っておく」

 予想通り、ノウルの名前に反応して不機嫌さを隠せないシウォーグに、ユナフォードは静かに言い含める。

 お披露目の時に、巻き込まれの存在を発表し、『世界の愛し子』とは何の関係も無いと王族から発表する。それが、ノウルからの頼まれた事だった。

「ちっ、あいつに借りが出来たな……」

 巻き込まれを保護、という言葉は、シウォーグに劇的な変化を与え、目に見えて大人しくさせる。

「向こうは、幸運が転がってたって喜んでたよ。多分、感謝されるな」

「……そう言えば、溺愛とか言ってたか?」

 普段のノウルから、全く想像出来ない単語に、シウォーグの野性味溢れる顔が、何とも言えない表情に染まる。

「うん、あれは兵器だよ。耐性のない人間が見たら、再起不能になるかもしれない」

 ユナフォードも、真剣な表情で呟き、頷き返す。ユナフォードは、実際に溺愛している状態のノウルを見ている。つい、口調も重々しくなる。

 少し離れた場所でそんな二人を窺っていた従者は、あまりの深刻な様子に、緊張で倒れそうになっていた。

 そんな事を思われてるとは露知らず、ノウルは相変わらずバルコニーの隅で、真っ直ぐに立っていた。ちゃっかり、広場からは死角になる場所に移動して。

 お披露目もそろそろ終わり、ノウルの仕事は、後は『世界の愛し子』を部屋に送り届ける事だ。

「面倒臭いな……」

 不敬な呟きを聞く者は幸いにもおらず、ノウルの瞳は物思いに耽るように中空をさ迷っている。

「あの、ノウル様……」

 そんなノウルに、おずおずと声をかけてきたのは、『世界の愛し子』――詩織。

 頬は赤く染まり、瞳を潤ませた姿は、まさに恋する少女だが、ノウルの顔に一瞬浮かんだのは、明らかな嫌悪。

「部屋まで護衛させてもらう」

「え、あの、私……」

 言葉を詰まらせながら、胸の前で手を組み、上目遣いでノウルを見つめる詩織。

 今まで、これで心を動かされない男はおらず、内心、詩織は自信満々だった。

 しかも、この世界で詩織は『世界の愛し子』という、世界に愛された稀有な存在。好意を持たれない筈がない、という打算が詩織の中にあった。

「ついてこい」

 が、そう素っ気なく告げるノウルには、好意の欠片は一つも無かった。

 それどころか、相手にされていない。視界にも、入れていない。

「ノウルは、君の取り巻きにはならないよ? 迂闊に声をかければ、火傷じゃすまないからね」

 呆然と立ち尽くす詩織に、悪戯っぽく声をかけて来たのは、ユナフォードだ。

「わ、私、そんなつもりじゃ……」

 震える声と庇護欲を誘う潤んだ瞳で、ユナフォードを見つめる詩織に、見つめられた本人より、弟であるシウォーグが顕著な反応をする。

「置いてかれるぞ、さっさと行け」

 クイッと顎で示した先には、面倒臭そうに詩織を待っているノウルの姿がある。

「……はい」

 一瞬、俯いて唇を噛むが、すぐに顔を上げて柔らかく微笑んだ詩織は、見苦しくならない程度の早足でノウルの後を追う。

 追いついた詩織に、何か適当に声をかけたらしいノウルは、また面倒臭そうに歩き出した。

 その背中を追って歩く詩織を、兄弟は生暖かい視線で見送った。




「惚れちゃったみたいだね」

「見た目は最高だからな、ノウルは」

 従者もいない為、兄弟は明け透けな会話を続ける。

「うん、私やノウルみたいな綺麗系が好みなのかな?」

「あー、おれにも一応、あんな感じだったが、あそこまであからさまでは、なかったな」

「シウォーグは、野性的だから?」

「ノウルの野郎も、野性味あんだろ」

「んー、でも、綺麗だよ、ノウルは」

「そんなんだから、兄上とあの野郎付き合ってるとか噂が立つんだよ」

 天然なのかと疑いたくなるユナフォードの賛美に、シウォーグは呆れたように半眼で睨みつける。

「心外だよ。私もノウルも、女好きだ。……懐に入れたら、ドロドロに甘やかして、出したくないなぁって思うくらいに」

 美しく輝く青の瞳を悪戯っぽく輝かせたユナフォードに、シウォーグは慣れたもので、苦笑して問いかけた。

「……それは、あの野郎か、それとも兄上か?」

「二人共、だよ。だから、私達は気が合うんだろう」


 行き場の無かった感情を向ける相手を見つけた友を思い、ユナフォードは美しく微笑んだ。


「巻き込まれ……えぇと、頑張れ?」


 そんな兄を見ながら、意外とお人好しで苦労性なシウォーグは、力無く、名前も顔も知らない少女へ、届かないエールを送った。


 顔の良さと、愛の重さは比例すんのか? と内心で呟く彼が、実は一番常識人なのかもしれない。


あの方の、暴走が。

別に病んでる訳ではないです。愛が重いんです。

次は主人公のターン。一段落つけたいです。

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