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巻き込まれ少女、暗躍す。幕間,ラビ頑張ってます。

早く帰って来て欲しいです。

そんな話です。

誤字、脱字ありましたら、教えてください。


感想、コメント、いただけると嬉しいです。

幕間,ラビ頑張ってます。




「う、ん……っ」




 薄いカーテン越しに、大きな窓からは陽光が降り注ぐ。

 その窓は風を通す為開けられ、爽やかな風が薄いカーテンを揺らしている。

 そんな明るい部屋の中、天蓋付きのベッドには丸くなって眠る少女がいた。

 傍らには茶色い毛皮を持つ水晶ウサギが、うつ伏せで寄り添っている。

 その姿は愛らしいの一言だが、鼻をヒクつかせ、丸い尻尾をピコピコと動かす様は、明らかに不機嫌そうだ。

 ウサギらしい長い耳はピンッと立って辺りを探り、部屋のそこかしこで揺らぐ闇を怯えさせている。

 そう。こんな明るい時間帯なのに揺らぐ、不自然な闇を。

 少女が魘されて呻く度、水晶ウサギのもふもふな前足は、心配そうに少女の頬を撫で、くふ、と何事かを話しかける。傍らでは影がざわつき、水晶ウサギに睨まれ、黙り込む。

 水晶ウサギの声を聞いた少女は、再び穏やかな眠りに落ちる。

 それはまるで、水晶ウサギが少女の眠りを守っているようだった。




 そんな静かな部屋へ、ガチャリとドアを開け、遠慮なく入ってくる人物がある。

 現在、水晶ウサギが一番警戒している青年だ。

「まだ寝てる、か。……そんなに睨まなくても、意識のない相手に手を出したりはしないよ」

 ベッドへ近づいてきた青年は、水晶ウサギに睨まれ、困ったように苦笑しながら話しかけ、両手を挙げて触らないアピールをしている。

「一応、僕はその子の恩人なんだし、怪我の様子ぐらい確認したいんだけどな」

 ベッドに腰かけながら、青年は小首を傾げ、人懐こい笑みを浮かべると、生真面目に水晶ウサギへ話しかける。

 怪我の様子を確認。青年の言葉が示す通り、眠る少女の頬は、痛々しく腫れ上がり、掛け布団からはみ出した細い足には、足首に包帯が巻かれていた。その白い包帯には、血が滲んでいる。

 頬の傷は抵抗した際に叩かれ、足首の傷は逃げ出そうとした時に足枷で、それぞれ出来たものだ。今は見えないが、腹部にも殴られ、青痣が出来ている。

 少女の顔と、人畜無害そうに見せている青年の顔を交互に見やり、水晶ウサギは仕方無いとばかりに頷く。が、その愛らしい丸顔は、かなり不服そうだ。

「大丈夫だよ。僕は触らないから。――入っていいよ」

 青年の呼び掛けに入ってくるのは、藍色の髪をした侍女だ。

「紹介するよ。こちらはサマンサ。本当は『世界の愛し子』の侍女なんだけど、無理を言って借りてきたんだ」

 そう青年は侍女を紹介するが、ベッドの主の少女は眠っている為、水晶ウサギに話しかけているようにしか見えないが、青年も侍女も気にならないらしい。

「……あなた様にも、側付きの侍女がいるのでは?」

 侍女は表情を崩さず、今さらだろう問いを口にする。その様子を見る限り、かなり急に連れて来られたらしい。

「僕の侍女を使ったら、父上に筒抜けだからね。――この子を拾ったのは、内緒なんだ」

 悪戯っぽく笑い、そう説明しながら、青年は少女の髪を優しく撫でる。

「……私は愛し子様の侍女ですので、犯罪的な事のお手伝いはご遠慮させていただきます」

「犯罪じゃないよ? 変態親父に捕まったこの子を助け出して、保護してるんだから」

 引き返そうとする侍女に、青年は真摯な言葉を重ね、もう一度少女を示す。

「……酷い奴でね、この子を殴ったり、足枷で繋いだりしてたんだよ。だから、男に触られるのは嫌だろうから、女性の手を借りたいんだ」

 嘘偽りを感じられない言葉に、青年の悪評から躊躇いを見せていた侍女の気持ちが動いた。

「そういう事でしたら」

 渋々と頷くと、侍女は治療の道具が入った鞄を片手に、ゆっくりとベッドへ歩み寄る。

「失礼、します……?」

 眠る少女を見た瞬間、上げかけた声を、持ち前の鉄面皮の下へ押し隠した侍女は、少女を見るフリをしながら、チラと青年を窺う。

 幸いにも、水晶ウサギと大人げなく睨み合う青年は、侍女の動揺には気付いていない。

「まずは、顔から失礼を……」

 一つ深呼吸をし、落ち着きを取り戻した侍女は、テキパキと少女の怪我の様子を確認していく。

 あれだけ蠢いていた闇は、青年の出現と同時に、まるで掻き消されるよう姿をくらませていた。




 侍女により怪我の治療をされ、かつ、体を清めてもらった少女は、先程よりも何処と無く気持ち良さそうな表情で眠っている。

「起きる気配は無かった?」

 少女の体を清めている間、部屋から追い出されていた青年は、頃合いをみて戻って来ると、治療道具を片付けている侍女へ問いかける。

「はい。傷のせいではなく、精神的な疲れからではないかと思いますが……」

「そっか。早く話してみたいのにな。……もう心配しなくて良いんだよ?」

 言い淀む侍女の言葉に相槌を打ち、青年は眠る少女の頭を撫でる。そこには色めいた雰囲気はなく、保護した小動物を撫でているようにしか見えない。

 水晶ウサギも、警戒するような半目で青年を見上げているが、触る事はとりあえず許容しているのか、今のところ手や足や額は出していない。

「……とりあえず、滞在は一週間の予定で良いでしょうか。それ以上ですと、代わりの者を用意しないといけないので」

 青年の態度に動揺の欠片も無く、ベッドの傍らに真っ直ぐ立ち、事務的に話を進める侍女。

「うん、頼めるかな。その頃には、この子も起きてくれるだろうし。……娼婦達に訊いても、返せ、の一点張りで、名前も教えてくれないんだよ?」

 酷いよねぇ、と無邪気に聞き捨てならない事を口にし、青年は少女の黒髪に、じゃれるように戯れている。

 水晶ウサギの尻尾が、その度に不機嫌そうにピコピコと動いているので、もう少ししたら青年は何らかの攻撃を受けるだろう。

「……必要な物を、買いに出てもよろしいですか?」

「いいけど、距離があるよ? 馬車もないし……」

 水晶ウサギにゲシゲシと蹴られながら、青年はきょとんとした表情で首を傾げて、侍女へと返す。

「帰りは馬車を拾いますので大丈夫です。それでは、失礼いたします」

 そう答えると侍女は、お手本のような礼をして、一瞬だけ少女へと視線を投げてから、部屋を後にする。

「……今さらな反抗期に巻き込まれただけのようですが」

 ポツリと落とされた侍女の呟きに、賛同するように闇が揺れているが、侍女は気付く事もなく、足早に人気のない屋敷を出ると、真っ直ぐ何処かへ向かい、歩き出した。

 一時間程後、藍色の髪をした侍女――サマンサがいたのは、不似合いな場所だった。

 そこは所謂娼館が並ぶ、昼間でも夜の匂いがする通りで、侍女服姿のサマンサには、好奇に満ちた眼差しが向けられている。

 そんな視線を全く気にせず、サマンサが向かうのは、一際大きな建物だ。

 躊躇い無く、その建物へ入ったサマンサは、驚きを隠せない受付の男性に、

「アウラ様とお会いしたいのですが」

と、職業的な微笑みを浮かべて話しかける。

「失礼ですが、お約束はございますか?」

「いいえ。……あの子の事でお話があると、伝えていただけますか?」

「っ、かしこまりました、すぐに!」

 サマンサの言葉に大きく息を呑んだ受付男性は、いつもの落ち着きを何処かに忘れ去り、と言うか、かなぐり捨て、奥へと駆け出して行く。

 何度か転んだり、誰かとぶつかったのか、遠くから何度か悲鳴が聞こえて来る。

 数分後、ボロボロになった受付男性が現れ、

「あ、アウラ様が、お会いになるそうです」

と、息も切れ切れに言い、娼館の奥を指し示す。

「……ご案内させていただきます」

 息を整え、何とか平静を取り戻した受付男性は、サマンサの前を歩き、真っ直ぐ奥へと向かう。

「こちらで、お待ちです」

 慇懃に頭を下げた受付男性は、一歩退いてサマンサへ場所を譲る。そこは、アウラの自室前だ。

「ありがとうございます。――失礼します」

 受付男性に案内の礼をし、サマンサはノックをしてから部屋のドアを開ける。

「初めまして、私はサマンサと申します。『世界の愛し子』様の侍女をしております」

「前置きはいいわ。それで、あの子の事で話があるそうね。……それで、あなたのいうあの子って、誰の事かしら?」

 丁寧な自己紹介をするサマンサへ、アウラは警戒心を隠さない眼差しを向け、尖った声音で問う。

 そんなアウラだが、いつもは綺麗に巻かれている髪は乱れ、目の下にはうっすら隈が出来ている。

「『世界の愛し子』様の巻き込まれの、セイ様です」

 疑われる事は承知の上なサマンサは、動じる事無く微笑み、淀み無く答えを紡ぐ。

「っ、会ったの? 何処で!? いつ!」

 サマンサの答えを聞いた瞬間、カッと目を見開いたアウラは、サマンサへ詰め寄り、矢継ぎ早に問う。

「お会いしました。場所は、ジュラルド様の別宅で、つい一時間程前までご一緒させていただいてました」

「それで、まさか、手を出されたりは……」

 おずおずと訊ねるアウラに、サマンサは安心させようと微笑んで大きく頷いた。

「大丈夫です。意識のない方に手を出す趣味はないとおっしゃってます。それと、水晶ウサギ様が、しっかりとガードを」

「良かった、ラビ、頑張ってるのね。――で、あなたはわざわざ、それを教えに来てくれたのかしら? 愛し子様に頼まれて?」

「ここに来たのは、私の意思です。愛し子様は……セイ様がどうしていらっしゃるか、あまり気にされてはいないので」

 皮肉げな表情で問われ、サマンサは苦笑して、緩く首を振りながら答える。

「相変わらずなのね。下手に気にされて、今さら連れていかれるのも嫌だから、こちらとしては願ったり叶ったりよ」

「……それで、私がここに来たのは、セイ様を――無事に連れ戻すお手伝いを出来たら、と」

「助かるけど、あなたは大丈夫なのかしら? ジュラルド様に逆らうような事をして」

「そこは上手くやりますから。まあ、私に出来る事は、時間稼ぎぐらいでしょうけど……」



「でしたら、あと三日……いえ、二日で良いので、時間を稼いでくださいます?」



「「っ!?」」

 内容が内容だけに、自然と顔を寄せ、小声で会話をしていたアウラとサマンサは、何の前触れも無く響いた第三者の声に、弾かれたように同じ方向を見る。

 そこにいたのは、ゆら、と闇が凝るよう姿を現した黒髪の美女――ユナフォードの影であるジーンだ。

「……今さら、なによ! セイちゃんを、切り捨てたくせに!」

 激情のまま声を荒げるアウラに、ジーンは無言で痛みを堪えるような表情を浮かべる。

「セイ様を、切り捨てた? ジュラルド様に、捕まってしまったからですか……」

 理解の早いサマンサは、表情を変えずに呟くが、何かを悩むように伏せ目がちになる。

「切り捨てた訳では無いですわ。ただ隊長から、手出しを禁じられてますわ。……我らが手を出せば、ユナフォード様とセイさんの関係は明らかで、しかもかなりの弱みだと喋り歩いてるようなものですから」

 ジーンの血を吐くような告白に、あちこちで闇がざわめく気配がする。

「……じゃあ、結局、あなた達は何も出来ないじゃない。期待させないでくれるかしら」

 敵意は僅かに消えたが、それでも苛立ちを隠さず告げ、アウラは冷ややかにジーンを睨む。

「確かに、物理的には無理ですわ。だから、最強を喚ばせていただきます」

「最強?」

「最も強い方ですと……まさか陛下?」

 不思議そうに顔を見合わせるアウラとサマンサに、ジーンはニィ、と口の端を上げて笑う。

「それも良い手かもしれませんけど、今打てる最良の手がありますわ。ジュラルド様にも負けない身分で、セイさんを取り戻すのに実力行使をする事が問題にならず、本人も心からそれを望み、それをしでかしても全く違和感がない方がいらっしゃいますから」

 つらつらと述べるジーンの言葉に、アウラとサマンサの脳裏には、同時に同じ人物の顔が過る。

「でも、今……」

「だいぶ、遠くですね、あの方は……」

 一瞬、あ、という表情をしたアウラとサマンサだったが、すぐに表情を曇らせる。

「その為の、我々ですわ。――チクりに行って参ります」

 口を出すなとは言われてませんから、と悪戯っぽく笑ったジーンは、ゆら、と闇へと溶け込むよう姿を消していく。

「あの方なら、二日もあれば戻れますわ。……いいえ、戻りますから、時間を稼いでください。絶対に、間に合わせますわ」

 それで罰せられようが、あたしは……あたし達は本望ですわ。

 そんな微かな声を最後に、部屋をざわつかせていた闇は退いていく。

「……二日は、長いわ」

「……一日は何とか、誤魔化します」

「じゃあ、あと一日、あたし達がどうにかしてみせるわ」

「お願いします。そろそろ寝たフリも辛いでしょうから、戻ります」

「そうしてくれるかしら……って、寝たフリ?」

「ええ。実は……。とりあえず、今は寝たフリをしてもらっています」

「気がついたのは良かったけど……。ジュラルド様にはすぐバレそうね。早く帰ってあげて」

「はい。それでは、失礼します」

「知らせてくれて、ありがとう。二日間、乗り切るわよ?」

「はい、もちろんです」

 こうして、職業も立場も見た目も性格も違う、唯一同じのは性別ぐらいな三人は、思いがけない形で共闘となったが……。




 買い物を超早で済ませ、馬車を急かせてジュラルドの別宅へ帰り着いたサマンサは、早速寝たフリがバレてしまっていた星に、内心で頭を抱える事となった。

次は、遠征組へ。


まだまだ頑張ってね、ラビって感じです。

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