巻き込まれ少女、暗躍す。10,今度こそ終息。
長くなりそうので、一回ここでバツッと切ります。
誤字脱字ありましたら、よろしくお願いいたします。
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10,今度こそ終息
「何か、こっちは空気が悪いね」
洞窟内を歩きながら、リッテは傍らを歩くキオだけに聞こえるよう呟く。
「まあ、こっちは実戦経験の無い騎士様ばかりだからな」
ポリポリと傷痕のある頬を掻きながら、キオは苦笑混じりに答える。こちらも小声で、何処か皮肉げだ。
それでも、キオがシウォーグへ向ける眼差しは、弟へ向けるような柔らかいものだ。
事実、キオはシウォーグより一回り近く年上なのだ。つい、兄気分になるのだろう。
そんな生暖かい眼差しを向けられてるとは知らないシウォーグは、騎士に守られながら、先頭を進んでいる。
その後ろを、キオとリッテは連れ立って進み、さらにその背後に、怯えの隠せない騎士様集団が続いている。
シウォーグを守っているのは、貴族出身ではない騎士で、そこにはアランとキースも混じっている。
キオが騎士様と皮肉ったのは、自分達より後ろを陣取る、貴族出身な騎士達だ。
確かに殿も、重要な役目だろうが、前へ前へと進んでいる現在、あまり殿の必要性は感じられない。
唯一の出入口には、ユナフォードと、それを守る鉄壁の守護陣――騎士団長ゴードン、ノウルの使い魔である銀獅子と銀狼の二匹、それとユナフォードの忠実な影が控えているのだ。背後から敵が来る可能性は、かなり低いだろう。
向こうの分かれ道には、最強の魔術師であるノウルがいる。そちらからの魔物の可能性も低い。
殿の騎士達は、怯えを隠せず、緊張しまくっているようだが……。
「リッテ、気付いてるか? こちらの道に入ってから、魔物が明らかに少なくなった事に」
「あぁ、確かにね。こっちは外れなのかも知れないね」
「それならそれで良いんだが、妙な胸騒ぎがしてな」
「止めてくれる? あんたのそういう予感は、結構当たるんだからさ」
「すまない。そうだな、俺の気にしすぎだろう。年はとりたくないな」
心底嫌そうな顔をするリッテに、白い歯を覗かせて笑いながら謝罪したキオは、通路の先を見つめ、気のせいだな、と意識せず自分に言い聞かせるよう呟いていたが……。
三十分も経たない内に、キオは自分の予感が嫌というほど当たっていた事を、実感する羽目に陥っていた。
「リッテ、生きてるか?」
「あぁ、なんとかね。そっちも、生きてたみたいで、何よりだわ」
大混乱の中、再会したキオとリッテは、軽口を叩いて無事を喜びあう。
二人共に服は汚れているが、大きな怪我をしている様子はない。
そんなキオとリッテの視線の先にいるのは、ドラゴンだ。向こうのドラゴンより小柄だが、その分素早く、何より……。
「っ、また来るぞ! 避けろ!」
シウォーグの叫び声を聞きながら、キオとリッテは、ドラゴンの吐き出す凶悪な吐息の範囲から逃れる。
何より……このブレスの回数だ。
すでに遭遇してから何度も吐かれたブレスに、キオはため息を吐いて、集中を始める。
「相性は最悪だな」
「それでも、やるしかないわよ」
ゴキゴキと肩を鳴らし、年寄り染みた動きをするキオに、リッテは猫のように笑って告げると、自らの武器である鞭を構えるのだった。
混乱の原因は、簡単に言えば、統率が取れていなかったから。
ノウル達と同じ様に、広い行き止まりの空間へ辿り着いた際、殿にいた筈の貴族出身な騎士達が、手柄を焦り、安全を確認する事もなく突っ込んだのだ。
その結果、こちらも、岩に擬態していたドラゴンから奇襲を受け、まず騎士達の半数が重傷を負う。
「ドラゴンだ! まとまるな!」
「ブレスに気をつけるんだ!」
シウォーグとキオが叫ぶが、恐慌状態になった貴族出身な騎士達は、ドラゴンへ背を向けて逃げ出す者、ハンカチを握り締めて壊れたように祈り続ける者、一応抜剣して構えるがプルプルしている者、それぞれだ。
その上、背を向けて逃げ出そうとした者は、ブレスの直撃を受けて倒れ、動かなくなる。
「死にたくなければ、呆けるんじゃないよ!」
ひぃ、と叫んで、さらなる恐慌状態に襲われる騎士達に向け、遠慮無く叱咤したリッテは、鞭を構えてドラゴンの死角から振るう。
「キオ!」
「おう、わかってる!」
騎士からの手助けを期待せず、リッテとキオは連携してドラゴンへと攻撃を開始する。
ドラゴンがリッテの鞭に気を取られたら、そこへ強化魔術を自らに施したキオが飛びかかり、二三発食らわしてから、離れる。
再び、移動したリッテが、死角から鞭を振るい、その後にキオの殴打。
これをリッテとキオが、ドラゴンのブレスをかわしながら繰り返していると、やっと動き出せた騎士も参戦する。だが正直、使い物にならず、邪魔になってしまっていた。
リッテの鞭の軌道を塞ぎ、近距離戦を仕掛けるキオを妨害するように、剣で斬りかかる。
「っ、邪魔よ!」
リッテの毒づく声を掻き消すように、ドラゴンが暴れ出す。
へっぴり腰な騎士達の剣はほぼ効いておらず、ただただ怒りを買っただけらしい。
「散れ!」
叫ぶのは、キオかシウォーグか。
無茶苦茶に振るわれる尻尾と、吐き出されるブレスで、洞窟内は土ぼこりで満たされ、一気に視界が悪くなる。
その中で、リッテとキオは引き離されて、やっと再会し、先程の会話となっていた。
「セイちゃんのお守りに助けられたわ」
「リッテもか。俺もだ」
「キオも? あたしは、セイちゃんのお守りが落ちたから、拾ってたら、ギリギリでブレスをかわせてたわ」
「俺は、お守りが何処かに引っ掛かってな。そうしたら、行こうとした辺りを尻尾が抉ってたな」
お互いの体験を聞き、顔を見合わせたキオとリッテは、それぞれお守りを握り締めて、大きく頷き合う。
「……必ず、無事に帰るわよ」
「ああ、もちろんだ。……その為にも、あいつをぶち倒すぞ」
気合を入れ直す二人の脳裏に浮かんだのは、お守りをくれた少女の笑顔だろう。
「しかし、アシッドブレスとは、タチが悪いな」
「即、溶けちゃうぐらいの強酸じゃないのが、せめてもの幸いよね」
「騎士様達の自慢の鎧も溶け始めてるか」
「あたし達の制服は、隊長の魔術がかけられてるから、今のところは平気だけど……」
「さすがに、直撃を受ければ無傷ではいられないだろうな」
「あたしの美しい肌に、火傷でも残ったら、どうしてくれるのかしら」
そんな会話を笑顔でかわしながら、キオとリッテは、暴れ回っているドラゴンと距離を詰めていく。
まさに死地な戦いの中、笑っている二人に、戦意喪失して逃げ出そうとしている騎士達から、ギョッとした眼差しが向けられる。
「戦う気がない者は去れ!」
そう叫ぶのは、ドラゴンの爪を剣で受けているシウォーグだ。
シウォーグの両脇には、鎧を溶かされかけながらも、怯む事無く、共に剣を振るう数人の騎士がある。
その中には、目立つ赤毛と、チャラい金髪も混じっている。
「逃げるなら、動けない怪我人を連れていってくれる? 騎士を名乗るなら、それぐらいなさい!」
シウォーグの言葉を聞いて逃げ出そうとする騎士達に、リッテから厳しい声が飛ぶ。何なら、鞭の一撃まで飛びそうだ。
「「は、はいぃ!」」
間の抜けた返事があちこちから応え、それぞれが、それぞれ動けない仲間へ肩を貸し、ドラゴンのブレスが届かない位置まで戦略的撤退をしていく。
「リッテさん、格好良いです!」
赤毛のワンコからは、素直な称賛が飛び、シウォーグからは、申し訳なさそうな表情で、チラリと視線が向けられる。
「ほら、ワンコくん! 気を抜くんじゃないよ?」
「はいっ!」
「第二の飼い主現る、か……」
息の合ったやり取りに、思わずポツリと洩らすキース。
「おれの飼い主は、セイさんだけだ!」
「……そこは揺るがないんだ、っと!」
ぶれないアランに、キースは脱力気味に突っ込みつつ飛び退さって、噛み砕こうとして来る凶悪な鼻面を躱す。そのまま、何も無い空間を噛み、ガチリと音を立てて閉じた鼻面へ、全体重をかけて剣を突き立てる。
柄まで突き刺さった剣で口を縫いつけられ、ブレスを吐く事を封じられたドラゴンは、痛みから叫び声を上げて、さらにデタラメに暴れ出す。
「っち、逆効果だったか?」
ドラゴンの攻撃を避けながら、キースは毒づいて、誰かが投げ捨てたらしい剣を拾い、構える。
シウォーグを始め、他の騎士達も、ドラゴンの死に物狂いな攻撃のせいで近寄れず、距離をとって攻撃を避け続けている。
中距離から攻撃が可能なリッテだけは、鞭を振るっているが致命傷は与えられない。
血走った目で恨めしげに周囲を睨んだドラゴンは、開かない口から、唸り声を洩らし続けている。
「シウォーグ殿下、おれ達が引き付けます! その間に止めを!」
埒があかない状況に、アランは疲れを感じさせない動きで名乗りを上げ、キースを巻き込んでドラゴンの前へと飛び出す。
「え、ちょ、おい……っ」
アランに引っ張られる形で、言葉を詰まらせながらキースはドラゴンの前へと立つ羽目になる。
口はキースが塞いだ為、ドラゴンは爪と尻尾で、ノコノコと目の前にやって来た獲物へと襲いかかる。
「いやいや、まだ死ねないからね」
思わずそんな事を言いながら、キースは真顔で剣を構え、必死に尻尾を受け流している。
「大丈夫だ! おれ達にはセイさんのお守りがあるんだ」
鋭い爪を紙一重で避けながら、アランは信頼感に溢れた台詞を叫ぶ。
戦闘中でなければ、アランは後頭部をぶん殴られていただろうが、さすがに全員そんな余裕はなく――。
「いい加減、倒れやがれ!」
キースとアランが体を張って作った隙に、シウォーグはドラゴンの懐へ飛び込み、吠えながら心臓の辺りへ剣を突き立てる。
だが、それでも致命傷になり得なかったらしい。
二本の剣を突き立てられながらも、ドラゴンは憤怒の声を上げ、自らの周囲を尻尾で薙ぎ払う。
「ぐ……っ!」
避けきれず、壁際まで弾き飛ばされるシウォーグ。かろうじて受け身はとったのか、フラフラと立ち上がろうとする。
そこへ、ドラゴンからの追撃が……。
「シウォーグ様!」
助けようと飛び掛かった騎士は、ドラゴンの尻尾ではね退けられてしまう。
絶体絶命のその時、のんびりとしてすらいる声が響いた。
「よお、第二王子、いい格好だな」
不敵な響きの声に、シウォーグは、あ゛? と表情だけで語り、声の聞こえた方向へ顔を向けて睨みつけるが……。
すでに声の主は駆け出していた。
死にかけなドラゴンの尻尾を避けて斬り落とし、その勢いのまま、ドラゴンの背中へ駆け登る。
呆然としている一同を気にせず、声の主――ノウルは躊躇無く剣をドラゴンの背中へと突き立てる。
グォォ、と断末魔の声を上げ、今度こそドラゴンは地面へ崩れ落ちる。
「悪いな、見せ場をもらって」
くく、とからかい混じりの声をかけながら、ドラゴンから飛び降りたノウルは、地面に座り込んだシウォーグへ歩み寄り、手を差し出す。
「……いや、助かった。そちらは終わったのか?」
ノウルの手を借りて立ち上がり、シウォーグは苦笑しながら礼を口にし、思い出したように問いかける。
「ああ。向こうにも、ドラゴンがいたが、始末は済んだ。こちらのは、酸のブレスを吐くタイプだったようだな」
タチが悪いな、と一人ごち、ノウルは突き立てた剣を抜く為、ドラゴンの元へと戻る。
「隊長、そちらの被害は?」
「兵士に怪我人が数名出ただけだ。それより、こちらにも召喚魔術の元になっている陣がある筈だ。探せ!」
キオの問いに簡潔な答えを返し、ノウルは辺りを見回しながら、鋭く命令を発する。
「はいっ! 行くぞ、キース!」
「……本当に、お前は元気だな」
我先にと動き出したのは、やはりというかアランで、呆れているキースを引っ張りながら、周囲の探索へ飛び出した。
「そちらも、死者は出ていないようだな」
再度ドラゴンの背に飛び乗り、その背中から剣を抜きながら、ノウルは周囲を見渡し、疲れきった様子のシウォーグへ話しかける。
「ああ、何とかな……」
ガシガシと乱雑に頭を掻きながら、シウォーグは力無く頷き、ボロボロの騎士達を見渡して答える。
「ドラゴンで、ここまで苦戦するなら、亜竜と戦うなんて、夢のまた夢だな」
誰にともなく呟き、シウォーグは動かないドラゴンをジッと見つめている。
ノウルはドラゴンの背中から飛び降りると、剣を振るって血を飛ばし、鞘に納めてから、不思議そうにシウォーグを見やった。
「亜竜と戦いたいのか?」
「いや、別に戦いたい訳じゃないが……」
「なら止めとけ。あの辺は、全滅するぞ」
口の端を上げて、好戦的な笑みで告げるノウルが見ているのは、貴族出身の騎士達だ。シウォーグは何か言い返そうと口を開くが、
「ノウル様! ありました!」
よく通る声がノウルを呼び、駆け寄ってきた赤毛の騎士の姿に、言いかけた言葉は行き場を失う。
「よし、よくやったな」
誉めて、と言わんばかりのアランの頭を軽く叩いて言うと、ノウルはアランへ先導されて歩き出す。
残されたシウォーグは、ため息を吐いて、満身創痍な騎士達を眺め、ガシガシと頭を掻く。と、そこへ、一際きらびやかな鎧を纏った騎士が近寄ってきた。
「シウォーグ様! 魔術師風情が手柄を横取りするとは……」
的外れな怒りを抱いているらしい騎士に、シウォーグは呆れた表情を浮かべるが、不意にその表情が引き締まり、まだ何事かを喚いている騎士を思い切り突き飛ばす。
驚愕で目を見張った騎士が見たのは、絶命しているように見えたドラゴンが動き出し、その鋭い爪をシウォーグへ向けて振り下ろす、まさにその瞬間だった。
やっぱり、シウォーグが貧乏クジです。
皆さんに心配してもらったのに……。
次回もまだまだ遠征組ですが、間に星の方も突っ込むか悩み中です。




