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巻き込まれ少女、暗躍す。8,とりあえずの収束?

誤字の指摘をいただき、修正しました。

ご指摘ありがとうございます!

8,とりあえずの収束?




 放蕩息子の権力舐めないで、と自虐的な言葉を吐いたジュラルドの権力は、本人が舐めるなと言うだけあり……。

 一時間後には、犯人であるドルフィ・シギンの居場所は特定され、逃げ場を残さないよう囲まれていた。

 受付の男性を眠らせたのは、ドルフィの協力者の魔術師だという事も判明し、身柄は兵士によって確保され、受付の男性も無事に目覚めていた。

 彼によると、ドルフィを迎えた瞬間に魔術をかけられ、そのまま眠り続けていたらしい。

 夕闇の時間を過ぎ、夜の闇が迫る中、ジュラルドはドルフィの隠れ家……というよりは別荘だが、その前に立っていた。

 傍らには、娼婦達を代表して、ラビを抱えたアウラが佇んでいる。

 その背後には、四人の兵士が控え、険しい眼差しで建物を睨み付けている。

 実はジュラルドの呼び掛けに集まった形をとっていたが、集まった兵士達は全員星を知っており、殺る気満々でここに立っていた。

『俺達の妹分に何かしてみろ。ぶち殺してやる』

 殺気だった四人の兵士達の心中は、一分の乱れもなく綺麗に重なっていた。

 そんな背後の兵士達の気持ちを知る由もないジュラルドだったが、その眼差しも鋭く、内心は背後の集団とそう変わらないのかもしれない。

 そんな目立つ集団の近くでは、濃さを増した闇が、そこここで、ゆら、ゆら、と頼り無く揺れている。まるで、何も出来ない事を悔しがり、無力を嘆くように……。

「じゃあ、権力を笠に、正面突破といこうか? まどろっこしいのは嫌いなんだ」

 あはは、と朗らかに笑いながら、芝居がかった動作で腕を広げたジュラルドは、有言実行とばかりに、行動に移る。

「あー、面倒臭いな。悪人が鍵なんか掛けないで欲しいな」

 玄関のドアに鍵がかかっている事を確認したジュラルドは、拗ねたような表情を浮かべ、理不尽な呟きを洩らし、手頃なサイズの庭石を手にし、躊躇う事なくガラス窓に向けて全力で投げつける。

 ガシャンッ!

 盛大な音を立て、透明な窓ガラスは砕け散り、入り口が出来上がる。

「私達が先に中に入り、玄関を開けます」

 早速中へと入ろうとするジュラルドを制し、二人の兵士が前へ出て、手際良く窓から屋内へと入り、玄関のドアを内側から開けて、ジュラルド達を招き入れる。

「警備はかなり手薄なようです」

「今のところ、警備が出て来る様子もありません」

 ビシッと背筋を正した二人は、報告をしながら、油断なく屋敷の奥を窺っている。

「そう。――馬鹿にしてるよね」

 誰もあの子を取り返しに来ないとでも?

 無表情で冷ややかに、誰にともなく吐き捨て、ジュラルドは真っ直ぐに屋敷の奥へと進んでいく。

 その後ろには、先に入った兵士が二人、慌てて続く。さらに、その後ろをアウラが続き、殿を残りの兵士が何の打ち合わせもなく自然と務めている。

 しかし、警戒は無意味だったらしく、いたのはガラスの割れる音に怯えきったメイドが数人だけ。

 それを一室に閉じ込め、主であるドルフィの部屋を聞き出す。

「二階の……一番……奥……っ!」

 聞き出した部屋の場所をボソボソと口に出しながら、ジュラルドは無駄な装飾だらけの階段を駆け上がり、そのままの勢いで廊下を駆ける。

 兵士達はともかく、アウラは、ジュラルドの足についていけず、少しだけ遅れをとるが、それほど間を空けず、男性陣の元へ辿り着く。

「い、いるの、かしら?」

 はぁはぁ、と肩で息をしながら、アウラは一足早く部屋の前に辿り着いていたジュラルドへ問いかける。

「うん、気配はするし、嫌な臭いもするね。……未遂な事を『世界』へ祈っときなよ」

 冗談めかせて言いながらも、そう言うジュラルドの表情は、泣く寸前を思わせる表情で強張っていた。

 ノブへ伸ばされたジュラルドの手も、小さく震えているが、部屋の中から、何かが倒れるような音がし、微かに悲鳴のような声と、その後に肉を打つような乾いた音が聞こえてくる。

「っ!? まさか!」

 それを聞いた瞬間、声を荒げたジュラルドは、ぶち破らんばかりの……実際、ドアをぶち破り、部屋へと飛び込む。

 ドアをぶち破ったのは、ジュラルドだけの力ではなく、アウラの腕から飛び降りたラビが、弾丸のような勢いでドアへ頭突きをかましたおかげだ。

「私達も行くぞ!」

 兵士達も、間髪置かず部屋へと飛び込み、部屋の中の状況に、言葉を失う。

 部屋の中にいたのは、この屋敷の主であるドルフィと、そのドルフィにベッドに縫い付けられた小柄な少女。

 アウラは口元を手で覆って小さく息を呑むが、まだ未遂らしい星の様子に安堵のため息を洩らした。

「気絶してる、だけよね」

 ピクリとも動かない星に、アウラは不安を隠せず思わず洩らすと、当たり前だろ、と言わんばかりに、ラビが床を踏み鳴らす。

「お、お前達は、何だ! 私を誰だと……」

 星を押し倒した体勢のまま、喚き散らすドルフィへ、ジュラルドはニコニコと笑いながら歩み寄り、何の前置きもなく、豪快に蹴り飛ばす。

「ぎゃっ!?」

 見事な悲鳴を上げ、ドルフィの体は星の上から消え、ベッドの脇に落ちる。

「知ってるよ? ドルフィ・シギン。年齢は四十一歳、で趣味は女遊び――」

 無邪気な仕草で小首を傾げたジュラルドは、情けない格好のドルフィを見下ろし、その罪をどんどん暴いていく。

 それでも、ジュラルドの正体を知らないドルフィは、敵意に満ちた眼差しでジュラルドを睨んでいる。

 そんな視線を全く気にせず、ジュラルドはベッドに横たわる星を抱き起こし、労るように頬を撫でる。

 あの乾いた音は平手打ちされた音だったらしく、星の頬は痛々しく腫れ、唇の端に血が滲んでいる。かなり強い力で打たれたのか、鼻からも血が伝い、意識を失った小さな顔を痛々しく彩っている。

「……有り得ない。女を殴るなんて、男として有り得ないだろ」

 蔑むような眼差しをドルフィへ向けたジュラルドは、星を抱え上げたまま、険しい表情をしている兵士達へ目配せする。

 やっと出た許可に、心得たと、飛びかかるようにドルフィへ殺到した兵士達は、手荒にドルフィを拘束する。

「は、離せ! 私は貴族だぞ! こんな事をして許される訳ない! 殴ったのは、その子が反抗するから悪いんだ! 私は当然の事をしただけ――そう、しつけだ。しつけだよ!」

 喚き散らすドルフィに、拘束する兵士達の手にさらに力が入り、そのままドルフィを床へと押しつける。

「黙れっ!」

「ぐっ、貴族の私に黙れだと? 覚えていろ、すぐに……」

 兵士の言葉と態度に、床に押しつけられたまま、ドルフィはギラギラとした眼差しで周囲を睨み付け、勝ち誇って何かを言おうとするが……。

「すぐに? 大丈夫、ゆっくりと牢で過ごしなよ」

 ジュラルドは、そう不思議なくらい優しい声音で囁くと、星をアウラへ預け、拘束されたドルフィへと歩み寄り、屈んで耳元に唇を寄せる。

「君を『すぐ』助けてくれる奴らは、みーんな――始末したから」

「な……っ」

 そこで初めて、ドルフィはマジマジとジュラルドの顔を見つめる。

「ま、さか、あなたは……」

「そのまさか、だよ。でも残念。気付くのが遅かったね。……あぁ、違うか」

 ドルフィの髪を掴んで頭を無理矢理上げさせながら、ジュラルドは無邪気に告げ、

「あの子に目をつけた時点で、全てが手遅れだったんだ」

と、楽しげに言葉を続け、そのまま手を離し、ドルフィの頭を床に落とす。

 ガンッと鈍い音がするが、ドルフィは痛みを感じていないのか、青ざめた顔でガチガチと歯を鳴らしている。

「拘束して、連れてって。馬車は屋敷の前に用意させてるから」

「「はっ!」」

 ジュラルドは、興味を無くしたのか、背を向けて兵士達へ指示を出し、自らはアウラに介抱されている星の元へ戻る。

「どう? 目は覚めた?」

「いいえ。……それにしても、胸糞悪い臭いがするわ」

「そうだね。催淫作用のある香を焚いてあるあたり、ゲスさがわかるよ」

「本当に、間に合って良かったわ」

 ベッドの上で星を挟みながら、ジュラルドとアウラは、安堵を隠さず会話をしながら、それぞれ星の髪を撫でている。

 二人の会話にあった催淫作用のある香は、兵士達によって全開にされた窓とドアにより換気され、その効果を散らしていた。

 開かれたドアからは、ドルフィのものらしい悲鳴が時々聞こえてくるが、ジュラルドもアウラも気にも留めていない。

 ラビはというと、星が殴られた場所がわかるのか、必死にお腹の辺りを、ふかふかの前足で撫で擦っている。

 香の臭いが完全に消え、とりあえず場所を変えようと、ジュラルドがラビごと星を抱き上げた時だった。

 固く閉じられていた星の瞼が震え、潤んだ黒目がちの瞳が現れる。

「良かった! 気がついたのね」

「あ、うら、さん……」

 いち早く気付いたアウラは、優しく声をかけ、星の頬を撫でる。

「全く、駄目だよ、知らない人についていっては」

 ジュラルドも、柔らかい苦笑を浮かべ、抱き上げている星の顔を覗き込んで、からかうような言葉をかける。

 アウラから、緩慢な動きでジュラルドへと視線を移した星は、ぼんやりと声をかけて来た相手を見上げる。

 香の影響なのか、殴られたショックなのか、焦点の合わない眼差しでジュラルドを見つめた星は、二・三度瞬きをしてから、ふにゃ、と安心しきった笑みを浮かべる。

 ほぼ無表情な顔しか見ていなかったジュラルドが、軽く目を見張る中、星は子猫を思わせる仕草で、すり、とジュラルドの胸元へ額を擦り付ける。

 そして――、

「ありがと、ユナ、さま……」

と、新たな波乱を呼ぶであろう一言を口にしてしまう。

 咄嗟にアウラは、いけない子、とばかりに星の額をコツンとつつき、

「ふふ、寝惚けてるのかしら? この方はアンナでは、無いわ」

 ユナではなく、アンナと呼んだのだと、強引な誤魔化しをし、うふふ、と笑って見せる。

 一瞬、訝しむ様子を見せたジュラルドだったが、ユナ=ユナフォードになる事はなかったらしく、アウラの誤魔化しに一応の納得をしたようで、

「まあ、僕も金髪だからね」

 ジュラルドは、そう一人呟き、再び目を閉じてしまった星をしっかりと抱え直し、今度こそ歩き出す。

 アウラは、ジュラルドが少し離れてから、聞こえないよう安堵のため息を吐き、その背中を追って歩き出す。

 まさか、そんな少しの距離が、後悔を招くとは知らずに……。

 星を抱いたジュラルドが玄関のドアの向こうへ消え、少し遅れてアウラも外へと出る。

 その時には、ジュラルドは星を抱えたまま、二台並んだ馬車の一台に乗り込み、そのままアウラを待たずに出発する。

「えっ!?」

 思わず声を上げ、固まったアウラだったが、すぐにドレスの裾も気にせず、もう一台の馬車へと乗り込む。

「あの馬車を追って!」

 残されていた馬車は、娼館の馬車だった為、星とも顔見知りの御者は、力強く頷き、精一杯の速度で前を行く馬車を追って走り出した。




 しばらく、街中で追跡劇を繰り広げ、二台の馬車が辿り着いたのは、見覚えのある建物の前。

 アウラが主人をしている娼館の前だった。

「……早とちりだったらしいわね」

 肩透かしを食らった表情で、そう呟くと、アウラは馬車から降り、前に停まっている馬車へと近寄る。

 もちろん、星を受け取る為だ。

 だが、いつまで経っても馬車の扉は開かれず、アウラは首を捻りながら、外から扉を開く。

 鍵はかけられておらず、抵抗なく扉は開かれたが……。

 そこには、誰もいなかった。

 まさにもぬけの殻な車内に、アウラは数秒固まるが、すぐにキッと眼差しを鋭くし、馬車の傍に立っていた御者へと詰め寄る。

「乗っていた客は何処に行ったの!?」

「え、あ、あの、途中で、降りられて、後は適当に走って、ここへ来い、とだけ……。お金は、前払いで、通常の三倍はいただいたので……」

 人の良さそうな小太りの御者は、しどろもどろになりながら、そう説明すると、脱兎の如く馬車へと戻り、さっさと走り去ってしまう。

「……どうしたら」

 呆然と呟くアウラ。

 連れていかれたのは、ジュラルドの屋敷だろうが、相手は腐っても王族に連なるのだ。こちらから、正面突破は不可能。

 ノウルさえいれば、何とかなるだろうが、頼みの綱であるノウルは、遠征中で山の中。

 娼館の客には貴族が多いが、ジュラルドに対抗出来る肩書きの客はいない。

 八方塞がりな現状に、アウラは苛立ちを隠せず、爪先でダンッと地面を踏み鳴らす。

「……っ、とりあえず、ラビはついてるわ」

 自らがした動作で、頼りになる存在の事を思い出し、アウラは冷静さを取り戻す。

 心配そうな娼館の御者を帰らせ、娼館の中へと入る。

 駆け寄ってくる娼婦達に、とりあえず星の無事を告げてから、アウラは一人自室へ向かう。

 その足取りに迷いはなく……。

「それで、どうして、誰もセイちゃんを助けなかったの?」

 自室へ入り、明かりを点けると同時に、アウラは尖った声音で、問いかける。まるで、誰かがいる事を確信しているように。

 しばしの静寂の後、ゆら、と闇が揺れ、黒髪の女性が姿を現す。

「……それが、隊長からの指示、ですわ」

 そう絞り出すように答え、現れた時と同様に、唐突に女性は姿を消してしまう。

「セイちゃんを、切り捨てたの?」

 宵闇に沈む部屋。

 とりあえずの収束から巻き起こった更なる波乱に、アウラはピンクの花の付いた髪飾りを握り締める。

「『世界』なんて信じていないけれど、お願い、あの子を守って……」

 呟くアウラの心中を映すように、朝は晴れていた空は、今にも泣き出しそうなどんよりとした雲に覆われ、月の光を隠してしまっていた。




 その部屋には大きなガラス窓があった。

 晴れていたなら、きっと月光が部屋へと降り注いでいた筈だ。

 しかし、空には重々しい黒い雲が広がり……。

 室内は外と同じ宵闇へ染まっている。

 その部屋の真ん中には、目立ちまくっている天蓋付きの大きなベッドがある。

 そんな大きなベッドの中心に、小さな膨らみがあり、夜目の利く人間なら、白いシーツに艶やかな黒髪が散っているのが見えただろう。

 しかし、今この部屋には、ベッドの上で膨らみを作る人物しか――否、その膨らみの隣には、茶色い毛皮が丸くなって膨らみに寄り添い、膨らみの穏やかな呼吸に合わせて毛並みを揺らしていた。




 ――そんな平和な光景の傍らで、意思を持つ筈のない闇が、部屋のそこここで揺れている。

 その様は、ベッドの上の人物を、見守っているようだった。


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