巻き込まれ少女の異世界生活 5
やっと終わりが見えてきました。一応、第一部の終了という形で、一区切りを付けたいです。ここまで見てくださり、ありがとうございます。評価をくださった方、とても嬉しかったです。ありがとうございます。
もう少し、続きますので、お付き合いください。拙い拙作をお読みいただき、感謝いたします。
5,異世界生活本格始動
朝の光がベッドの上に降り注ぎ、星の瞼が震え、黒目がちの瞳が現れる。
腕の中に水晶ウサギの姿を見つけ、星は安堵のため息を吐く。
「……夢じゃなかった」
異世界で出来た、帰る場所、大切な人達と、大切な小さな友人。どれも、夢ではなかったという気持ちから、思わず星は呟く。心からの安堵で。
すぴすぴ、と鼻を鳴らして眠っている小さな友人、ラビの頭を軽く撫でてから、星は時計を確認して立ち上がる。
「体内時計はバッチリだね」
目覚ましは用意してなかったが、常と同じ時間に目覚めた自分を誉め、星は小さく笑い声を洩らすと、早速着替え始める。
今日は荷物片付けないとなぁ、と放置したままだった鞄にチラリと視線を向けて、今度は良く眠っているラビをチラリ。しばし悩んだ星は、起こさない事に決め、朝日を受けて輝いている、水晶ウサギの特徴である水晶にキスをして、一人洗面所に向かう。ポケットの中には、鞄から取り出した、ある物を仕込んで。
同居人であるノウルはまだ寝ているのか、星以外の気配はない。
星は洗面所で顔を洗い、櫛で寝癖を直した後、アウラのくれた髪飾りを着ける。
「……ちょっと、曲がった」
まあいっか、とすぐに直す事を諦めた星は、ポケットの中を確認してから、キッチンへ向かう。
「お米研いどけば良かったなぁ」
朝から乾パンはちょっと、と顎を擦る星。味は悪くないのに、あれだけ堅焼きになるのは、異世界独自の製法なのかと、真剣に思考を巡らす。
「そうだ、パンケーキ焼こう」
材料的にも可能で、すぐに出来て、トッピングで味の好みにも対応可能。ラビのご飯にもバッチリ。
自分の考えに、満足げに頷いた星は、パタパタと軽い足音をさせて、キッチンに飛び込む。
「スープは、カボチャで、ポタージュっぽくして」
星は、小さく歌いながら、保存庫を開けると、カボチャを取り出し、ついでに卵。保冷庫から、牛乳を取り出し、他の材料も用意して、パンケーキ作りスタートする。
昨日、ノウルの使い魔が用意してくれた時計で時間を確認した星は、作業を一回中断する。
「そろそろ、ノウル起こさなきゃ……」
身支度して、朝ごはんを食べる時間から逆算すると、そろそろ起きないと不味いと判断し、星は一度スープの火を止めてから、パタパタと小走りでノウルの自室に向かう。
屋敷の奥まった所にあるノウルの自室は、この時間でも、まだ朝日が届いていないらしく薄暗い。
コンコン、とノックをしてから、部屋の扉を開けた星が中へ踏み込んでも、部屋の主は起きる気配はない。時おり、スースーと静かな寝息だけが聞こえている。
「おはよう、ノウル、起きて? 朝ごはん、もうすぐ出来るよ?」
そう星が声をかけても、ノウルは、うぅ、と小さく呻くだけで、目を開けようとしない。
「ノウル、寝汚いタイプかぁ……」
うん、予想外。心中で頷いた星は、手を伸ばして、ノウルの肩に触れ、軽く揺する。
「ノ〜ウ〜ル〜? ごはん、食べよ〜?」
ゆさゆさ、と揺すられ、さすがに目が覚めたのか、ノウルの瞼が震え、うっすらと開いた下から、紫色が覗く。
「あ〜……、せい、か?」
「はい、星ですよ。起きて、もうすぐごはん出来るから」
起動すると動きは素早いのか、ノウルはガシガシと銀糸のような髪を掻き乱しながら、上体を起こす。眠そうにトロンとした紫の瞳は、夜の気配を纏い、無駄な色気を撒き散らしている。
ノウルは流し目で、部屋の中をパタパタと走り回っている星を見つめ、首を傾げる。サラサラ過ぎて寝癖もつかないらしい銀色が、ノウルの素肌を滑る。
「なまたまご、か?」
ノウルは寝起きの掠れた声で囁きながら、走り回っている星の手を捕える。
「欲しいのなら、用意するよ?」
急に手を掴まれ、勢いでカクン、となりながら、星は小首を傾げてノウルを窺う。
「ちがう、のか?」
「違うよ? あ、朝ごはんは、甘いのと、しょっぱいの、どっちが好き?」
寝起きでぼんやりと問いかけて来るノウルに僅かに笑んで返した星は、ついでに訊きたかった朝ごはんのメニューも確認する。
「ん? 出来れば、甘くない方が良い」
完全に覚醒したノウルは、欠伸混じりで要望を出すと、綺麗に割れた腹筋を空いた手で掻きながら、ベッドから降りる。星の手を掴んだままで。
「って、ノウル、裸!?」
「今更だな。あと、下は履いてるぞ?」
起こした後は周囲をバタバタしていた星は今まで気付かなかったが、ノウルは上半身裸で寝るタイプだったらしい。
思わず叫んだ星に、ノウルは悪戯っぽく笑って、自らの下肢を示すが、まだ、星の手は離さない。
その間に、鍛え抜かれた芸術品のような美しさを持つ体を直視してしまった星は、真っ赤になって、ノウルの手を振りほどく。
「ノウルの馬鹿……」
からかわれていると気付き、星は小さく唇を尖らせて可愛らしい罵倒をし、ノウルを放置して、部屋を出て行く。が、扉が閉まる直前に振り返り、
「……早くしないと遅刻しちゃうよ?」
と、ノウルを心配する言葉を残して、今度こそ扉の向こうへ消える。
残されたノウルは、朝から蕩けきった笑みを浮かべながら、用意しておいた着替えを手に取り、手早く身に着けていく。
「夢じゃなかったな」
偶然にも、朝一番に星が呟いた台詞と全く同じ内容を洩らし、ノウルは自らの手を見つめる。
そこに残る温もりは、さっきまでここにいた少女が、幻覚ではなかったという証拠で。
柔らかく微笑んで、温もりの残る指先に唇を寄せてから、ノウルはタオルを片手に洗面所に向かう。と、その途中、とぼとぼ歩いている珍しい相手と遭遇し、思わず、声をかけていた。
「……一人なのか?」
正確には、一匹、だろうが、それは星に置いてきぼりにされた水晶ウサギで、今はかなり不機嫌そうだ。ノウルの問いかける声が、若干引き気味になる程。
「置いていかれたか、水晶ウサギ」
この水晶ウサギには、星から貰った『ラビ』という名があるのだが、ノウルに知る由は無く、昨日蹴られまくった意趣返しで、つい口調にからかいが滲む。
途端に、星が可愛らしいとべた褒めしている水晶ウサギの丸い目に、殺意に近い敵意が過った。
「っ?!」
無意識に半歩身を退いて、防御の構えをとったノウル。が、一瞬遅かった。
お馴染みとなった鋭い蹴りが、ノウルの脛を襲う。一応、昨日とは逆の足なのは、気を使ったのかも知れない。
「お、前……っ、この水晶ウサギが……」
無様にしゃがみ込む事はなかったが、蹴られた脛を押さえ、ノウルは恨めしげに水晶ウサギを睨み付ける。
水晶ウサギも、負けじと睨み返す。不意にその口元がモゴモゴとし、
「らび」
と、ハッキリとした言葉を紡ぐ。少し高めの、少年のような声。
「は?」
有り得ない事態に、気の抜けた声を洩らしたノウルは、溢れ落ちんばかりに目を見張って、水晶ウサギを見下ろす。
ラビと名乗った水晶ウサギは、心なしか自慢気に胸を張ってノウルを見上げている。そして、もう一度、口元がモゴモゴと動く。
「おれは、らび」
「そ、そうか、ラビは、お前の事か」
再び聞こえた同じ声。どう考えても、水晶ウサギが喋っている。軽く現実逃避をしつつ、ノウルは引きつった表情で大きく頷いて見せる。
ノウルが、ヤバい俺は寝惚けてるのか、と真顔で悩んでいると、パタパタと軽い足音がして、星が姿を現す。
「おはよ、ノウル? 朝ごはん出来たよ?」
「ああ、おはよう……なぁ、これは、ラビか?」
小首を傾げて見上げてくる星の瞳を覗き込み、ノウルは縋るような気持ちで問いかける。
出来れば否定してくれ、そう語りかけてくる紫の瞳に気付く事はなく、星はシパシパと瞬いてノウルの足下に視線を移す。
「え? どうして知ってるの? 私、教えたっけ?」
星の答えを聞いた瞬間、顔色を青くしたノウルは、額を押さえながら、顔洗ってくる、とだけ言い残し、洗面所へ消えていった。
駆け寄って来た水晶ウサギ、ラビを抱き上げ、星は不思議そうに首を傾げながらも、甘えてくるラビの頭を撫で、キッチンへと戻っていく。
「おはよ、ラビ。ノウルに、名前教えたの?」
無邪気な星の言葉に、ラビはドヤ顔をして大きく頷いて見せる。
「へぇ、偉いね」
どうやったんだろう、などと全く疑問を抱く事無く、星は良い子良い子、とラビを誉めながらキッチンの床に降ろす。
ラビは、床に降りてからも、えっへん、と胸を反らして、偉いだろアピールを続行中だ。
「偉いラビさん、味見してみて?」
微笑ましげにそんなラビを横目で見ながら、星は冷ましたパンケーキを、半分にしてラビに差し出す。
ラビは狐色をした半円形の物体に、フンフンと鼻を動かしてから、短い前足でパンケーキを受け取る。
「美味しい?」
星の問いに、ラビはパンケーキをかじりながら、コクコクと頷く。
「なら良かった。……ノウル、出来てるから運ぶのお願い出来る? そっちのがノウルの分だよ」
ラビの頭をポンポンと叩いていた星は、キッチンの入り口に現れたノウルに気付くと、盛りつけ済みのパンケーキを指差す。
「ああ、ありがとう……生卵では」
「ないって。まだ、そのネタ引っ張るんだね」
クスクスと笑った星は、スープを盛った皿をお盆に乗せ、そこへ一緒に温かいお茶を入れたマグカップを乗せる。
「遅刻しちゃうよ。朝ごはんにしよ?」
「……そうだな、そうしよう」
星の足下にいるラビにチラリと視線を向けてから、ノウルは意味深に微笑んで、パンケーキの皿を持って星へ続いた。
ダイニングのテーブルで向かい合って座った星とノウルの前には、それぞれパンケーキの皿が置かれ、隣にはカボチャのポタージュ。マグカップには、お茶に牛乳を入れたミルクティー風の液体が並々注がれている。
「いただきます!」
「いただき、ます」
同時に手を合わせ、揃ってナイフとフォークを手に取る。
流石というか、ノウルは豪快ながらも、優雅にナイフとフォークを使って、食べ進める。
「ノウル、食べ方綺麗だよね。ちなみに、今日のメニューは、パンケーキと、スクランブルエッグ、カリカリベーコンを添えて、って感じです」
「ん、美味い。このパンケーキってのは、パンというわりには柔らかいな」
ナイフとフォークを使い慣れていない星は、何度もパンケーキを脱走させながら、最後は諦めてフォークで止めを刺して、口に運ぶ。
「この黄色のは、卵を焼いたものか?」
「ん、そうだよ。スープは、カボチャのポタージュで、お茶には牛乳足して、ミルクティー風にしてみましたが……」
膝に座らせたラビの口元へパンケーキを運びながら、星は何処か不安そうにノウルを窺う。口調も、微妙に変わっている。
ふむ、と重々しく頷いたノウルは、
「カボチャは、こういう食べ方も悪くないな。舌触りが好きだ。お茶はこうするなら、もう少し甘くても良い」
と、一つずつ指差して、事細かに感想を口にする。
「うん! 覚えとく!」
ノウルの感想を聞き、跳ねるような明るい声を上げた星は、残りのパンケーキをラビに持たせ、そのまま立ち上がる。
相変わらず、ラビは星になら何をされても平気なのか、パンケーキを持ったまま抱えられ、椅子に置かれると、腰掛けて静かにパンケーキを食べ続けている。
「セイ?」
訝しんで首を傾げるノウルの傍へ歩み寄った星は、ポケットから黒い飾り紐を取り出し、ノウルへ示す。
「紐だな」
「うん、紐だよ。ノウルの髪、結びたいなぁって思って」
星は見たままな事を呟くノウルに同意して頷き、ダメ? と困惑しているらしい紫の瞳へ訴えかける。
「……別に良いぞ。出て行きたい以外は叶えると言っただろ?」
くく、と喉奥で笑って応じると、ノウルは星が髪に触れ易いように、自ら掻き上げるようにして全てを背中へ流す。
「ありがと! 昨日から、触ってみたかったんだよね」
黒目がちの瞳を喜色で輝かせた星は、最初はおずおずと、すぐに大胆な動きでノウルの銀糸のような髪へ触れる。
「邪魔にならないように、緩く編んどくね?」
「あー、派手で無ければ、何でも良い」
ふんふん、と楽しげな鼻歌を背中で聞きながら、ノウルはゆっくりとお茶を傾けていく。
「さらさらだねぇ、絹糸みたい」
上機嫌な声と共に、小さく優しい温もりが、遠慮がちに銀色の川を梳いていくのに合わせ、ノウルの目は気持ち良さげに細められている。
時々、くいくい、と後ろに引かれる感覚はあるが、手慣れているのか、痛みを覚える事はなく、手持ち無沙汰になったノウルは、ふと目の前で椅子に座って食事をするラビを観察してみる。
星はノウルの髪に集中している為、気付いてないらしいが、パンケーキを食べ終わったラビは、普通にベーコンを食べている。
そう言えば雑食だったな、とノウルが内心納得していると、ラビはマグカップを器用にもふもふな両手で掴み、星の残したお茶を飲み始めた。
「中に人間が入っていても驚かないぞ?」
「え?」
「……いや、何でもない。一人言だ」
誤魔化すように首を横に振ったノウルは、お茶を飲み終わって顔を洗っているラビから視線を外す。
「それより、伝え忘れていたが、通いの家政婦が、九時頃来る事になっている。……いや、あの、セイの事情は伝えてあるし、性格も穏やかな女性だ。仲良くなれる、と思う」
自分の発言により、背後の星が小さく震え出した事に気付いたノウルは、しどろもどろになりながら、必死に言葉を探すが、語尾が徐々に小さくなる。
「人妻で、猫の獣人で、あー、姉御肌というか、俺より年上だぞ?」
心の中で、それがどうした? と自分に突っ込みを入れつつ、必死に星を宥めようとする。
「……人妻で、猫の獣人?」
「あ、ああ、そうだぞ? セイの世界には獣人はいないんだろう? 彼女は人妻で愛らしいぞ?」
そこか、そこに食いつくか!? 人妻好きか? と、もうノウルの頭の中は、混乱の極みだ。思わず、家政婦の見た目を誉めていた。
「ねこ……」
顔の見えない背後からの呟きに、ノウルは星が何に食いついたかを悟り、邪魔をしないよう気を配りながら頷く。
「そうだ、猫だ。虎でも、犬でも、熊でもないぞ? 猫なんだ」
よかった、人妻の方じゃない。と、小さく安堵の声を洩らしたノウルは、髪から手が離れたのを切っ掛けに振り返る。
「まあ、アウラと仲良くなれたんだ、大丈夫。彼女は、アウラより優しいぞ」
「ありがと、出来たよ。緩く三編みにしちゃった。あと、アウラさん、十分優しかったよ?」
セイにはな、と言う言葉を苦笑で飲み込み、ノウルはおもむろに立ち上がる。
「さて、俺は仕事へ出るが、一人では出掛けないでくれよ?」
ポンポンと星の頭を叩き、ついでにずれていた髪飾りを直してやったノウルは、身を屈め目線を合わせ、言い聞かせる。
「家政婦と出掛けるなら、護衛として、俺の使い魔を連れていけ」
「うん、わかった。でも、使い魔置いていったら、ノウル困らない?」
星の中での使い魔のイメージは、魔女が連れている黒猫や、魔法使いの梟だった。どちらも、いつも一緒にいるものだと認識していたので、離れたら不味いのでは、と思ったのだ。
「ああ、問題ない」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
迷い無く即答され、星はペコリと頭を下げると、ふわ、と笑いながら、顔を上げる。
「好きに使ってやってくれ」
「うん。あ、お見送りさせて」
そのまま、玄関に向かうノウルに、星は椅子に座らせたままだったラビを抱えて、慌ててノウルの背中を追う。
ノウルは、玄関の扉の開けたまま、そうだ、と呟いて振り返ると、
「防犯装置は、登録されている人間には反応しない。セイも、家政婦も登録済みだ。外出する時は、戸締まりも気にしなくて良いぞ。買い物は、俺にツケておけ」
星が目を丸くするのも構わず、言いたい事を言い切ったノウルは、緩んでいた表情を引き締め、決め顔を作る。
「では、いってくるぞ」
「……えーと、いってらっしゃいませ、ご主人様?」
ノウルのキャラに合わせたのか、疑問系になりながら、秋葉原なメイドさんのような挨拶をして頭を下げる星。
幸いにも、星は頭を下げていたので、動揺しまくって歩くイケメンが、門扉に顔面をぶつける、という衝撃映像を見る事はなかった。
見ていたのは、星の足下で顔を洗っていたラビのみで。
ラビは笑いを堪えるように、もふもふな前足で口を押さえ、頭を下げたままの星に代わって、玄関の扉を閉ざし、衝撃映像を外へと追いやった。
●
ノウルが出掛けてから一時間ほど経過し、朝食の片付けを終えた星は、落ち着き無く玄関近くでウロウロしていた。その姿は、まるで動物園の熊のようだ。星のサイズなら、例えは熊は熊でも、アライグマになりそうだが。
星がこんな挙動不審な状態なのは、そろそう件の家政婦――人妻で猫の獣人な女性がやって来る筈だからだ。
ラビも、星の足下で、一緒になって右往左往している。こちらは、星の真似をして遊んでいるだけらしく、鬼気迫る表情の星とは違い、楽しそうだ。
「そ、そろそろ、かな」
リビングから微かに聞こえて来た時計の音に、ゴクリと唾を飲む星。
そこへ、ガンガン、というノッカーの音が響く。
ビクリと肩を揺らした星が、扉を開けようとするのを、ラビが足にしがみついて止める。
理解出来ず小首を傾げたラビを見下ろす星、星を見上げ、首を傾げ返すラビ。
「……あ、もしかして、確認して、自分で開けてもらえって言いたいの?」
そうすれば防犯装置が作動し、不審者だった場合、そこで排除される。星の推察通りらしく、ラビはコクコクと頷いて、右前足で玄関を示す。
星は緊張した面持ちで、玄関へと向き直ると、ラビを抱き上げて、ゆっくりと息を吸い込む。
「っ、すみません! 家政婦さんでしたらご自分で開けて入ってきてください!」
息継ぎ無しで言い切った星は、ギュッとラビを抱き締めて、反応を待つ。どう見ても、逃げ出す気満々だ。
扉の向こうで、中の状況を知る事が出来る訳もなく、
「はーい、じゃあ、お邪魔しますねぇ」
と、外から、のんびりとした女性の声がしたと思うと、躊躇い無く扉が開かれる。
一瞬身構えた星だったが、防犯装置は作動する事なく、扉の向こうには、優しく微笑む女性が立っていた。
星と同じようなシンプルな型の濃紺のワンピースに、エプロンを着けた彼女は一見普通の人間と変わりなく見える。だが、ノウルが説明した通り、彼女には隠そうとしても隠せない特徴が、外見に現れていた。
「ねこ、みみ……」
ジッと見つめた上、思わず口に出してしまい、慌てて口元を手で覆った星は、バツが悪そうに彼女を窺う。
「うふふ、尻尾もありますよ。それで、旦那様からお話は聞いてらっしゃると思いますが、わたしは猫の獣人です」
そんな態度には慣れているのか、彼女は傷ついた様子もなく、ゆらりと尻尾を揺らして小さく笑った後、頭を下げて言葉を続ける。
「気味が悪いようでしたら、おっしゃってください。目につかないよう、作業を……」
「あの! 気味悪く、なんて、ないです……、ジロジロ見て、ごめんなさい」
彼女の言葉を遮った星だったが、徐々に勢いを無くし、最終的には囁きに近い謝罪をし、驚いて顔を上げた彼女へ頭を下げる。
まさか、謝罪をされるとは思わなかった彼女は、何度か瞬きを繰り返し、うふふ、とまた柔らかな笑い声を洩らす。
「わたしも、早とちりして、ごめんなさい。セイ様が少々人見知りな方だと、忘れてました」
どうか頭を上げてください、と身を屈め、星の耳元で優しく囁いた彼女は、ゆらりと尻尾を揺らし、反射的に顔を上げた星に、悪戯っぽく笑って見せた。
●
とりあえず、作業開始の前にお茶でも、という話になり、星と猫の獣人で家政婦な彼女は、リビングで並んでお茶を飲んでいた。
恐縮する彼女を、星が無理矢理というか、頑張って説得して座らせたのだ。
彼女――名前は、シェーナ。見ての通り、猫の獣人で、茶色の髪に、緑の瞳の持ち主で、髪と同じ色の体毛に覆われた三角の耳と、長い尻尾がある。
猫の獣人だから猫舌という事はなく、シェーナは普通に熱いお茶を啜っている。
「セイちゃん、本当に手伝わなくても良いんですよ? これが、私のお仕事なんですし」
話し合った結果、星の呼び方は『セイ様』から『セイちゃん』に落ち着いていた。
「えーと、手伝う代わりというか、後でお買い物に付き合ってもらいたいなぁ、なんて……」
ちなみに、同じく話し合いで星の口調は、いつも通りにするという事に決定していた。
「ええ、もちろん、喜んで。じゃあ、洗濯から始めましょう」
そう言ってニッコリと微笑んだシェーナは、カップをテーブルに置いて立ち上がる。
「うん、やり方教えて? ……シェーナお姉ちゃん」
自らの呼び方を変える際に、交換条件で出された呼び方をした星は、一瞬、目を伏せてから、すぐに何事もなかったように立ち上がる。
ノウルが言っていた通り、人見知りな星と、穏やかなシェーナの相性は良かったらしく、先程のやり取りを見てもわかるが、二人はすっかり打ち解けていた。
●
「二層式洗濯機……」
洗濯から、とシェーナに案内された先で見つけた予想外の物体に、星はそれだけ呟いて固まる。
「あの、これは洗濯用魔具ですよ? 使い方は……」
固まったまま、シェーナから洗濯用魔具なる物の使い方の説明を受けた星は、
「洗濯板じゃなくて良かったと思うべきか……」
と、開き直った呟きを洩らし、シェーナから心配そうな目で見られる。
「セイちゃんの下着は、セイちゃんの部屋に干すので良いかしら?」
結局使い方も、二層式洗濯機とほぼ同じだった洗濯用魔具に、集めた洗濯物を入れながら、シェーナは顔だけで星を振り返る。
「……ん〜、見られても困らないような色気のない下着だよ? あ、景観的にアウト?」
星のズレた返答に、シェーナは、あらあら、と呟いて、困った子ねとばかりに微笑み、ラビは後ろ足で立ち、駄目だと訴えるように前足を振っている。
「とりあえず、部屋に干す事にしましょうね」
有無を言わせぬ笑顔で反論を許さず押し切ると、シェーナは洗濯用魔具の蓋を閉じ、パンパンと手を払って、洗剤の粉を落とす。星は諦めたのか、無言で小さく頷いた。
「洗濯物は、これで大丈夫、次は屋敷の中を掃除して、洗濯物干したら、お買い物に行きましょうね」
「うん!」
表情には出さず、嬉しそうに頷いた星は、尻尾を揺らして歩くシェーナの背中を追って、パタパタと駆け出した。
●
「掃除は、魔具使わないんだね」
使い終わった掃除道具を片付けながら、星は納得のいかない表情で首を傾げる。
「どうしてなんでしょうね? わたしも不思議に思ったことありますよ。でも、お掃除好きなので、あまり困らないですから」
汚れた雑巾を洗って絞り、うふふ、と笑って星を見やったシェーナは、片付けの終わった星を促して、次の作業へと移る。
先程、回していた洗濯用魔具の元へと戻り、二人で洗濯物干しを始める。
「今日は、良い天気で良かったですねぇ」
「昨日も、ずっと晴れてたよ?」
パンパンッ。
「それが、昨日の夕方頃なんですが、急に空がゴロゴロ言い始めたんですよ?」
「夕立かな?」
パンパンッ。
「わたしも、そう思ったんですけど、そのまま雨は降らなくて、結局、夜に霧雨がパラパラと……」
「私、わかんなかったなぁ」
「朝には乾いてましたからねぇ……もう良いですよ、干しちゃいましょう」
星とシェーナが先程から何をしていかと言うと、真っ白く洗い上がった大きなシーツを、両端を持って二人がかりで皺を伸ばしていたのだった。パンパンッ、という小気味良い音は、シーツが勢い良く伸ばされ時に響く音だ。
シーツをシェーナに任せ、星は洗い終わった物を籐の籠へ引っ張り出す。
二層式洗濯機のような洗濯用魔具は、実は全自動で、中で洗濯物が勝手に脱水に移動するらしい。
引っ張り出した洗濯物の中には、昨日星が着ていたパーカーとズボンも混じっていた。
「それも、セイちゃんの部屋に干しましょう」
「目立つよね、確かに……」
上下合わせて五千円の、元の世界では良く見る服でも、異世界では悪目立ちする。シェーナによって運ばれ、下着と一緒に、日当たりの良い星の自室で、人目につかないよう干される事になった。
星の洗濯物を干し終え、戻ってきたシェーナは、やり遂げた顔で腰に手を宛て、軽く胸を反らしてみせる。
「セイちゃんが、悪い人に狙われたら困りますからね」
「私が何で……あー、『世界の愛し子』様にたいする脅しとか?」
巻き込まれは星が初めてではない、と言うことは、今までも危険な事があったのかも知れない、と洗濯物を干しながら、星は一人納得して頷く。
「セイちゃんは、なかなか頭が良いですね。巻き込まれの方を利用して、『世界の愛し子』に近づこうとする人間は多いんです。セイちゃんも、気をつけましょうね?」
慈愛に満ちた眼差しで星を見つめ、シェーナは優しく星の頭を撫でる。
「だから、ノウルも一人で出掛けるなって言ったんだね」
「ふふ、旦那様は、セイちゃんが心配だっただけですよ、きっと。……セイちゃんが手伝ってくださったので、いつもより早く終わっちゃいましたね」
綺麗に並んで干され、風になびいている洗濯物を見つめ、シェーナは眩しげに目を細める。籐の籠は、とっくに空になっていた。
「いつもより少し早いですが、買い物に行きましょう。セイちゃん、欲しい物があるんでしょう?」
「あ、うん。何処で手に入るか、わからない物もあるんだけど……と言うか、存在するか、わからない物?」
「一応、わたしが聞いて、わかる物なら、ラシードさんに頼みましょう。あの方でしたら、食材以外でも、顔が利きますから」
「ラシードさん、そんなにすごい人だったんだ」
洗濯物を干すのに使った道具を仕舞いながら、行き先を決めた二人は、仲の良い姉妹のように和気藹々と屋敷を出る。
そんな二人を護衛するのは、昨日からすっかりお馴染みになった銀色の獅子だ。その背中には、水晶ウサギのラビが悠々と跨がっている。
人通りのない道なので、特に声を潜める事もせず、星とシェーナは楽しげに会話をして、歩いていた。
「密封出来る広い口のガラス瓶と、強力粉は、多分すぐ手に入りますね。計量カップと、計量スプーンは、ちょっと時間がかかるかも知れません」
星が欲しい物を聞いたシェーナは、頬に手を宛てて、小首を傾げながら答える。
「でも、手に入るんだし、良かった」
欲しかった物がほぼあると聞いた星は、上機嫌な様子で足取り軽く獅子に寄り添って歩いている。と、何かを思い付いたのか、期待に満ちた眼差しを、半歩後ろを歩くシェーナへ向ける。
「……ちなみに、箸とイーストは、聞いたことある? 箸は食事をする道具で、木とかで出来た、二本の棒。イーストは、料理に使うものなんだけど」
「ハシとイースト、ですか? わたしは聞いた事ないです。お役に立てなくて、ごめんなさい」
星から期待に満ちた目を向けられたシェーナは、申し訳なさそうに三角の耳を倒して首を横に振る。
「あ、大丈夫! あったら良いな、ぐらいだったし、自分で作れるから。……ついでに、カレー粉とかも、ないよね?」
シェーナの様子に、星はわたわたと手を前に突き出しながら、大丈夫とアピールを繰り返し、不安げなシェーナに何回も頷いてみせ、言葉通り、本当についでな感じの、期待していない声音の質問をする。
「カレー粉、というのが、カレーに使う粉、でしたら、ありますけど……、わたし、正直、カレーは苦手です」
「なんか複雑な気分。あって嬉しいんだけど、また米みたいな反応が……」
キョトンとした顔のシェーナの言葉を聞き、星は一瞬嬉しそうに目を輝かせ、すぐに微妙な表情を浮かべて肩を落とすが、米、という単語にノウルとのやり取りを思い出す。
米は『世界の愛し子』が見つけ、食し方が一般に普及せず、あまり好まれていない穀物。
もしかしたら、カレーも? と思った星は、獅子から離れ、シェーナの隣を歩き出した。そろそろ、大通りに近くなり、人通りも増えて来たので、警戒する意味もある。
「あの、カレーって、どんな料理か教えて?」
「あ、はい。わたしの知ってるカレーは、少々言い方が汚くなりますが、ビチャビチャの茶色いソースに、野菜と肉が泳いでいる感じで。味は、辛いだけですよ」
予想通りのシェーナの声を潜めた小声な説明に、星は顎に手を宛てて頷く。
「……つまり、シャバシャバしてて不味いって事か」
星は何処と無く嬉しそうに、身も蓋もない感想を呟く。それを聞き咎め、シェーナは顔色を悪くして、辺りを見回す。
「駄目ですよ? カレーは何代か前の愛し子様の好物なんで、あまり大っぴらに味の批評は出来ないんですよ」
歯に衣着せぬ星の言葉を、辺りを憚りながら小声でたしなめるシェーナの瞳は、心配そうに星を見つめている。
「ごめん、シェーナお姉ちゃん」
あ、と手で口を隠した星は、恐る恐る辺りを見回すが、幸いにも星達を気にしている人間はいなかった。皆、何かに気を取られ、そちらを見つめている。
「……今日、何かあるの? 昨日より、人出があるよ」
「そうですねぇ……」
人波に流されそうになり、星とシェーナは離されないようしっかりと手を繋いで、揃って首を傾げる。
「おー、セイちゃんとシェーナさん、二人で買い物か? それとも、あれを見に来たのか?」
そこへ、のんびりと声をかけてきたのは、二人の目的地だったラシードだ。
いつの間にか人混みに押され、ラシードの店の前まで進んでいたらしい。一応、獅子を警戒し、一定の距離は空いているのだが、星とシェーナが少しでも獅子から離れると、容赦なく流されてしまい、結果がこれだ。
「ラシードさん、こんにちは」
「ラシード、今日、何かお祭りかしら?」
人混みから弾き出されるようラシードの店に辿り着いた二人は、それぞれラシードに声をかける。
星はペコリと頭を下げ、シェーナは小首を傾げて問いかける。
「おう、こんにちは。しかし、知らずに来てたのか。今日は、『世界の愛し子』様のお披露目だよ」
呆れ混じりで答えるラシードに、シェーナはボッと尻尾を膨らませ、思わず星を抱き寄せる。
「……忘れてました、ごめんなさい、セイちゃん」
それとなく、ノウルにも言われていたのを思い出し、シェーナは守るように豊かな胸で星を包み込む。
「シェ、シェーナお姉ちゃん、私なら、もう大丈夫だよ? 昨日、ノウルにも、まあ色々とあったから……」
昨日の夜のやり取りを思い出し、ほんのりと頬を赤く染めた星は、落ち着かせようとシェーナを抱き締め返し、背中を叩く。
「セイちゃん……良い子過ぎますよ」
落ち着かせるつもりが、さらにシェーナのスイッチを押してしまったのか、回された腕の力が増し、星は軽く呼吸困難に陥る。
「おーい、シェーナさん。そのままだと、セイちゃんがあんたの巨乳で死ぬぞ〜?」
「え……、セイちゃん? セイちゃん! しっかり……」
ラシードの気の抜けた助け船に、ハッとした表情で、シェーナは星を自らの胸から解放し、ゆさゆさと肩を前後に揺する。
「ふ、ぉ、なんか、花畑が見えた……」
「セイちゃん、それ行っちゃいけないからなぁ〜?」
肩で息をしながら星が言った縁起でもない言葉に、苦笑したラシードは、間延びした突っ込みを入れる。
「うん、大丈夫、死因巨乳は、ちょっと嫌……」
「男の夢ではあるけどな……」
呼吸を整えた星は、苦笑しながらチラリとシェーナの胸元に視線をやる。つられたのか、くく、と笑ったラシードは、男の夢、と口にし、顎の髭を撫でながら、シェーナの胸を不躾に見つめた後、星の胸元へと目を移す。
ラシードの明け透けな視線が気に障ったのは、本人達ではなく、護衛の二匹だった。特に、ラビの瞳には、愛らしい外見に似合わない殺意が宿っている。
「冗談だからな! 俺は何も思ってない!」
これで気付けなければ、相当な鈍感だろう。どちらかと言えば空気の読めるラシードは、冷や汗を掻きながらブンブンと首を横に振り、
「ほら、お二人さん、買い物に来たんじゃないのか?」
と、必死に話を変え、ラビの殺意も逸らそうとする。
「ええ。蓋で密封出来る広口のガラス瓶と、強力粉。それと計量カップと計量スプーン、お願い出来ますか?」
「あー、強力粉ね。あの、パスタとかパン作る方か。いつも通り、届けるので良いか? ガラス瓶はともかく、計量カップとスプーンは、俺の方から頼んでおくが、少し時間かかるぞ?」
仕事人の顔になり、真剣な表情で、テキパキと答えるラシード。先程のセクハラ行動が嘘のようだ。
とりあえず、ラビの殺意も逸れたらしいが、警戒は解かないつもりらしく、ふわもこな体は、星の腕の中に移動して、不埒な視線から守っている。
「ラシードさん、カレー粉もください。あと、訊きたい事が……」
ふわもこなラビを抱き締めながら、星は若干シェーナの後ろからラシードに声をかける。まだ少し怖いらしい。
「おう、カレー粉だな。で、セイちゃん、訊きたい事ってなんだ?」
「あの、箸とイーストって、知ってる? 箸は食事をする道具で、イーストはまあ、食品かな」
「ハシは知ってるな。確か、先代の『世界の愛し子』が、ハシが欲しいとおっしゃられたらしい。で、作られたが、一般には、あまり知られてないんだ」
「まあ、そうなんですか? 『世界の愛し子』様がハシをお使いに……」
星がラシードの説明に内心で、もしかして日本人? とドキドキしている間に、こちらも初耳だったシェーナは、驚きの声を上げていた。
「で、ハシは手に入れられるが、すまない、イーストは俺でもわからんな」
ラシードは申し訳無さそうに頭を掻きながら、緩く首を横に振る。
シェーナのエプロンを掴みながら、星は僅かに微笑んで、気にするなというように、首を横に振って返す。
「大丈夫、多分ないのはわかってたし。じゃあ、甘い果物を何種類か見繕って、小麦粉とかと一緒に届けて欲しいんだけど……」
「了解した。ガラス瓶も一緒に届くよう手配しておこう。……ハシは計量カップとスプーンと一緒で構わないか?」
「うん、それでお願いします。で、支払いは、ノウルにツケで」
ラシードの確認に、星はペコリと頭を下げてから、不安そうにツケをお願いする。
「ああ、じゃあそのように。お買い上げ、ありがとうございます」
そんな星の不安を吹き飛ばすように、ラシードは人懐こく快活な笑みを浮かべている。
「ほら、オマケの焼き菓子だ」 そう言いながらラシードは、小さな紙袋を星とシェーナに手渡す。その際、星の頭を撫でようとしたが、ラビからの一睨みを受けて断念していた。
すっかりラビの中で、こいつは危険人物と認識されてしまったらしい。
「あはは、嫌われちまったようだな」
それを豪快に笑い飛ばせる辺り、ラシードは大物かもしれない。それぐらいの胆力が無ければ、この若さでこんな大きな店の主人はやってられないのかもしれない。
「……お菓子、ありがとう。今度は魚買いに来ます」
「おう、活きの良いマグロ仕入れとくからな」
ニッという人懐こい笑顔を向けられ、星ははにかんだ笑顔になると、小さく頷いた。
「次、セイちゃんにイヤらしい目を向けたら、ラビ君に蹴ってもらいますからね」
星の笑顔に和んでいたラシードは、去り際に釘を刺していったシェーナに、苦笑を浮かべてポリポリと頬を掻く。
「バレてたか……」
冷めきった緑の瞳を思い出し、ラシードは小さく身震いすると、星からの注文に応えるべく、真剣な表情でメモを取り出した。
半端な終わりで申し訳ないですが、長くなりそうなので、ここで切ります。次は、ノウルのターンか、詩織さんのターンで開始予定です。