任務
たった今、兵士団の敵わなかった魔龍を一撃に伏せたその少年は、クレイ・ヴァージェス。
兵団長らしき初老の兵がクレイに近づいた。
「久しいな。鮮血の悪鬼クレイ・ヴァージェス」
「それは捨てた名です。カロス兵団長」
「ハハ、すまない。しかしいつ見ても見事な剣技。また私の兵士団に稽古をつけて貰いたいな」
カロスと呼ばれた男は屈託なく笑い、右手を差し出す。
クレイは渋い顔で握手をすると、魔龍の処理を終えて城に送る手配をしている兵士達を見回した。
全員が作業をしながら尊敬の眼差しでクレイを盗み見ている。
(そんな御大層なもんじゃないんだがな…)
クレイは苦笑する。
領地のおよそ3分の2が荒野で、その中心部に王城を構えるここユリアス王国。
クレイはこの国で活動する傭兵である。
三年前の任務以来、国中を点々としていたのだが、三日前に国王から便りを受け王城に向かっている途中で、
"古代の魔龍"を前に壊滅寸前だった王国兵団を見かけ、助けに入ったのだった。
この世界には七つの国があり、それぞれの勢力下に十の街がある。
七国は結束している訳ではなく、それぞれの独断で傘下の街を統制しているのだが、各国間で闘争が起きたりする事も滅多に無い。
というのも、その七国を更に統制している機関があるからだ。それは、
"傭兵派遣機関"。
通称"傭兵機関"と呼ばれる機関である。
その名の通り各国に傭兵を派遣することで政権を握っており、つまりこの世界において傭兵がとても重要な役割を担っているということである。
「そろそろ王城に着く。到着したらすぐに国王に面会してもらうが、その後はゆっくりしてくれ。宿はこちらで手配させてもらった」
王国兵団長、カロスが丁寧に説明をしてくれる。
「今度はどんな依頼なんでしょう?」
「私も聞いていないんだ…なんでも、極秘任務らしくてな。今回は君一人だけが依頼される」
一人ということは、戦争などではないだろう。
では、それこそどんな仕事なのか…
怪訝な思いを抱えたまま、一行は王城の城下町に到着した。
「クレイ様はこちらへ」
二人の兵士に連れられて城門をくぐり、正面の階段を登る。その先は玉間になっており、国王が座っていた。
歳は40代後半だろうか。厳かな雰囲気が漂っている。
正面に立つと、国王が口を開いた。
「クレイ!ひっさしぶりだなぁー!」
…ごめん、嘘。厳かでもなんでもねーわ。
「よく来てくれたよ、本当」
「…国王の招集とあらば、どこへなりとも」
なんかイラっとしたからからかってみる。国王を。
「うーん、君はいつになったら私をディーンと呼んでくれる?」
ディーン・グリード。それが国王の名だ。
「いえいえ、俺には恐れ多くてとても…」
「思ってないよな」
「バレてましたか」
「いや、このやり取りもはや恒例だよね?」
なんて他愛の無い恒例の礼は脇に置いて。
「で?仕ごt…」
「ディーンと呼んでくれ」
…本題に入る気はなさそうだなこのオッサンは。見た目はしっかりしてるのに。
ディーンは今、宝石がバランスよく配置された宮廷衣装の上に緋色のマントを羽織っている。
本人曰く、マントがないと「服がキラキラして眩しい」のだそうだ。
凛々しい顔立ちの偉丈夫で、威厳に満ちている。頼もしい国王なのだ。が…
「ディーンと呼んでくれ。後生だから」
まだ言ってる。しかも国王が後生って…
「いいから本題に入れ。依頼、受けませんよ?」
「あ、そうだった」
おいコラ。
ディーンが口を開く。
「今回君に頼みたいのは、護衛の仕事だ」