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夜・コンビニ・夏休み

まったく静かな夜だった。どれくらい静かかと言うと、この世の中から一切の子供という子供がいなくなるくらい静かだった。


僕はレジに立って店の奥をぼんやり見ていた。その視線の先ではもう一人のアルバイトの彼が商品の整理や補充をしていた。客はさっきカップラーメンを買っていったサラリーマンが帰ってから30分くらいは経っている。その閒は誰も客は来ていない。平日の夜にしては暇すぎる時間が僕たちを包んでいた。


「ピピ・ピピ・ピピ...」何処かでアラーム音がする。アルバイトの彼の方からだ。彼は慌てる風でもなく左手首に巻いてある腕時計のスイッチを押しながら「あの~もう時間なんで帰っていいですかぁ?」と訊いてきた。僕も自分の腕時計を見ながら「あぁ...お疲れさん」と両手を頭上の方へ伸ばしながら答えた。


「じゃぁお先に失礼しまぁす」語尾を延ばすのが彼の癖なのだ。そして僕はその癖をあまり好いていない。むしろ嫌悪感すら感じるときがある。「やれやれ...」


彼が帰った後も僕はレジに立って店の奥をぼんやり見ていた。一人ぼっちで夜のコンビニ...


レジの左側に在る入り口の自動ドアが開いたと思う。なぜ「思う」なのか。自動ドアは閉まっていたし、誰も居なかったから。でも入り口が開いたときのように外の空気が僕を包み込み始めていたから。そう生暖かくて少し湿った空気が...


レジ正面の店の奥にはアルバイトの彼の代わりに、小学校の時に座っていた木製の椅子が置いてあって、誰かが座っているのが見えた。座っているのは白い半そでの開襟シャツに、紺色の半ズボンをはいて白い靴下に黒い革靴を履いて、強い夏の日差しを遮るような真っ白な帽子を被った少年が、きちんと両手を膝の上に置いて両足を揃えてこちらを見ていた。少年は微笑んでるようでもあり、悲しんでるようにも見えた。


「やあ...今日は遅かったね...」僕の心が話す。「うん...」僕の心に聞こえる。

「外は暑いかい?」僕が訊く。「うん...もうすぐ夏休みなんだ...」少年が答える。

「夏休みか...」僕はあまりうれしくない。「ごめんね...でも...」少年は下を向く。

「いいんだ、もう過ぎたことさ...。」僕は終わりが近いことを感じた。


瞬きすると少年は消えていた。木製の椅子も消えていた。生暖かい湿った空気はクーラーに吸い込まれて心地よい冷たい風に変わっていた。


彼が帰った後も僕はレジに立って店の奥をぼんやり見ていた。一人ぼっちの夜のコンビニ...


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