混乱
金髪の青年の涼しげな青い瞳の中で神々しく佇む白狼をレイストは見えていた。この白狼が4大貴族当主の身に宿り、王を守る聖獣であることはわかっている。結界を司りし聖獣、ゼア。
なんで見えているのか?
いや、考えるまでもない…あれのせいか。
白狼ゼアがレイストに対して待ち続けた主が帰ってきたのを喜ぶかのように御辞儀した。もう、あれに気づいた?…ああ、最近、使ったから分かったのか。
あれを使わないと決めたのに、結局使ってるもんな。
自身のミスに気づき、嘲笑ぎみに口角を上げる。
「レイスト、ゼアが見えるのか?」いきなり問われたせいか、素直に頷いてしまった。
はっと自身のミスに気づいた時にはもう遅かった。
「レイスト、本名はなんだ?エレクトは嘘だろう。4大貴族の血が流れているんじゃないか?」
一見、冷静に見えるギルバートだが、内心が混乱しているのが雰囲気で分かる。…この人、からかうと面白いリアクションするタイプなんだろうな。
現実逃避した考えが当たっているとは知らずにレイストは質問に答える。
「本当にレイスト・エレクトです。4大貴族の血は流れていません。」
エレクトは母方の姓だけどと心の中で付け足す。
クナー地方では、母方の姓で名乗るのが通常なので、嘘にならない。
そして、権力の強い者が一族の中に入ると、一族の姓がその者の姓に変わるという変な習慣があり、レイストの持つ2つの姓とも4大貴族の姓ではないため、4大貴族の血が流れている可能性はほぼ零に低い。
「だったら、なんで見え-」
バッタン。
なんともタイミングを読んだような勢いで扉が開いた。
「レイストっ!!そろそろ支度しないと訓練、遅れるぜ。こないだ、今度遅れたら皆の前でこんなことやあんなことするぞってコルビー師匠に宣言されてただろう。さっ、早くっ!!」このふざけた調子の言い方から思い浮かべられるの一人だけなので言わなくていいだろう。
「…そんな変態なことを言うのはリザルト先輩だけです。それと僕はコルビー師匠が担当する聖霊武装騎士訓練は受けていません」
いいタイミングに来てくれたな…どうせならリザルト先輩以外の人が良かったんだけどと考えていたレイストにリザルトは爆弾を投下する。「実はな、レイストをその訓練に参加登録しちゃった。えへっ」
「はいっ?」
いきなりのリザルトの爆弾発言にレイストは理解できなかった。
「今、なんで言いました?」
知らない人にあなたは死にましたと言われた人と同じような心境でおそるおそる、リザルトに聞き返した。
「だからね、レイストを聖霊武装騎士訓練に参加登録しちゃった」
「ちょっと待って。たしか、参加登録って本人が参加したい訓練を担当する師匠に直接、参加登録するんですよ。だったら、どうやって僕を登録させたんです?」
「うーん、聞きたい?」
「…なんか、聞いたらヤバそうなので辞めます。っていうか、どうしてくれるんですかっ!!登録したら辞退できないんですけどっ!!僕、まだ新人なのに、エリート組と戦うんですか?絶対、死にますって」
「大丈夫だよ。コルビー師匠に頼んでおいたから」
「何をっ!!」
「手加減しなくていいって」
「おいっ!!」
このまま、延々と続きそうな会話を止めたのは意外な人物だった。
「なっ…なんで…へ…い」
言葉を発したギルバートにリザルトとレイストは目を向けた。
「あっ、すみません。うるさー」
シュッ、バシッ
シュッのところでレイストのすぐ右横に何かが通り過ぎ、次の瞬間、ギルバートの顔に当たった。
そして、ギルバートは倒れてしまった。「えっ、へっ!!?」「あっ、ごめ~ん。手がすべちゃった」「何してるんですかっ!!それに何、女の子ぽっく舌を出してごめんポーズしてるんですかっ?ギルバート様、ギルバート様、意識がないだけか」
ギルバートが意識を失っているだけなのに安心しながらギルバートに毛布をかける。
「…やっぱり、レイストかな」
「えっ、なんか言いました?」
「なんでもない。それにしても面倒見いいね」
「ありがとうございます…じゃなーい。4大貴族の次期当主を気絶させちゃってどうするんですか?反逆罪でつかまちゃいますよ」
「うーん、まあ平気だよ。それより行くよ」
華奢な体からは考えられない握力でレイストの腕を掴み、掴んでいない方の手にはちゃっかりとレイストの戦闘着と武器を持っていた。
そのまま、レイストを引きずりリザルトは部屋を出た。
「僕の拒否権は?人権は?」
「ない」
「ひどっ!!即答で答えやがった。」
ぎゃあぎゃあと口喧嘩する2人を他の騎士候補生が避けているのに気づかないまま、訓練所に向かうのだった。