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『異世界ポポロ村の家庭科無双!〜読書家の高校生がエプロン一つと身近な格言で、借金女神も魔王も救う人生お役立ち物語〜』  作者: 月神世一


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13/13

EP 13

悪徳徴税官の襲来!催眠植物と大地の交渉テーブル

 ドカァァァン!!

 静かな朝のポポロ村長邸の木製フェンスが、乱暴な蹴りによって蝶番(ちょうつがい)ごと吹き飛ばされた。

 乾いた赤土を巻き上げながら庭へと踏み込んできたのは、革鎧の上に国境守備隊の外套を羽織った、目つきの凶悪な十数名の武装集団だった。腰には幅広の軍刀、手には威嚇用の鉄槍を握り、およそ公務員とは思えない殺気を放っている。

「おいおい、田舎のネズミども! 朝の挨拶にしては出迎えがねぇじゃねえか!」

 先頭に立つ筋骨逞しい男――近隣の砦からやってきた悪徳徴税官バルトスが、手にした羊皮紙をバサリと広げて唾を吐き捨てた。

「村長を出せ! 前村長のタヌキ野郎が滞納した『国境警備特別税』、および今回の『軍靴損耗補填税』、合わせて【金貨三百枚】を一括で耳を揃えて納めてもらおうか! 払えねぇなら、村の備蓄穀物とシープピッグを根こそぎ差し押さえる! 逆らう奴は全員、反逆罪で帝都の地下牢送りだぁ!!」

「き、金貨三百枚……!? そんな無茶苦茶な!」

 庭へ飛び出してきたキャルルが、長い白兎の耳を怒りでピンと逆立てて叫んだ。

「前村長の横領は村の被害でもあるのよ! それに『軍靴損耗補填税』なんて法令、帝国法にも王国協定にも存在しないわ! 完全に言いがかりの恐喝じゃない!」

「あぁん!? ガキの村長が生意気な口利いてんじゃねぇぞ!」

 バルトスがギラリと軍刀の柄に手をかけ、大股でキャルルへと間合いを詰める。

「法を作ってんのは武器を持ったオレたちなんだよ! 文句があるなら力で示してみせ――」

「あらあら……皆様、朝からとても賑やかでいらっしゃいますわね♡」

 張り詰めた殺気を木っ端微塵にする、おっとりとした鈴を転がすような美声が響いた。

 玄関の引き戸から優雅に姿を現したのは、プラチナブロンドの髪をそよ風になびかせたハイエルフの令嬢、ルナ・シンフォニアだった。

 ルナはバルトスたちの凶暴な軍刀を一瞥すると、聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、胸元からドス黒い紫色の胞子嚢(ほうしのう)を取り出した。

「キャルル様、もうご安心なさって♡ この方々が暴力を振るうのは、心が満たされていないからですわ。わたくしの世界樹秘伝の禁断催眠植物『ハッピー・ドリーム』の胞子を今すぐ散布して差し上げます♡ 吸い込んだ瞬間、皆様一生幸福な夢を見たまま精神が完全に崩壊して、二度と目覚めることなく安らかにポポロ村の畑の有機肥料になってくれますわよ♡」

「ヒイイイイッ!? ルナ、絶対にダメぇぇぇ!!」

 キャルルが顔面を蒼白にして絶叫した。

「それ吸ったら風に乗って村人全員がハッピー廃人になっちゃう! バイオハザード起こしてこの世から消滅させる気なの!? しまって! 今すぐその毒キノコをポッケにしまってぇぇぇ!!」

「な、なんだこのイカれたエルフは……!? てめぇら、まとめて叩き斬って――」

 狂気の善意に戦慄した徴税兵たちが、恐怖から一斉に抜刀しようとした、その時だった。

「ルナさん、ストップです! その胞子は絶対に開けちゃいけません!」

 凛とした少年の声が、庭の空気をピシッと引き締めた。

 割って入った赤木大地が、ルナの手をそっと包み込んで胞子嚢をしまわせると、抜刀しかけたバルトスたちの前に静かに歩み出た。

「大地様……? どうして止められますの? あのような乱暴者、畑の土にしてしまえば万事解決ですのに……」

 不思議そうに首を傾げるルナに対し、大地は穏やかに語りかけた。

「ルナさん、暴力や劇薬で相手をねじ伏せても、本当の解決にはならないんです。もしここで彼らを倒してしまったら、砦から正規の軍隊が押し寄せて、ポポロ村は本当に戦争に巻き込まれてしまいますよ」

 大地はデイパックから紺色の木綿エプロンを取り出すと、腰の後ろでキュッと固く紐を結んだ。

【ユニークスキル:家庭科 が起動しました】

【心理動態分析・自律神経測定・交渉環境最適化プロトコルが接続されます】

 大地の視界に、バルトスたちの血中アドレナリン濃度、脱水症状、極度の空腹による血糖値の低下、そして「ノルマに追われる焦燥感」が、赤い警告色となって可視化された。

 大地は背後のリバロンとニャングルへ素早く視線を送った。

(リバロンさん、帝国と王国の最新の国境税法条約の書類を。ニャングルさん、村長邸の正確な過去の納税証明帳簿をお願いします)

(……承知いたしました)

(ケッ、合点や。一泡吹かせたろやないか)

 二人が音もなく屋敷の中へと走る。

 大地は向き直り、怒気で肩を怒らせるバルトスを真っ直ぐに見据えた。

「バルトスさん。僕の故郷には、昔からこんな言葉があるんです」

「『柔(じゅう)よく剛(ごう)を制す』」

「じゅうよく……ごうをせいす……?」

 バルトスが眉根を寄せた。

「はい。力任せにぶつかってくる相手に対し、こちらも同じように力で対抗すれば、激突して大きな破壊と禍根しか残りません。柳の枝が激しい嵐の風をしなやかに受け流すように、相手の勢いを優しく包み込み、受け止めることこそが、最も強い力を抑え込む最大の知恵だという意味です」

 大地は両手を広げ、威圧感など微塵もない、温かい笑みを浮かべた。

「バルトスさん、砦からこの国境の村まで、砂埃の舞う街道を半日以上も歩いて来られたのでしょう? 重い鎧を着て、部下の皆さんも喉がカラカラで、お腹もペコペコのはずです。お金のお話は逃げませんから、まずは広間のテーブルで、温かいお茶とお昼ご飯を召し上がっていきませんか?」

「……はぁぁぁ!? 飯ぃ!?」

 バルトスは毒気を抜かれたように目を白黒させた。

「ふざけんじゃねぇ! オレたちは金を取り立てに来たんだ! お茶会をしに来たんじゃねぇぞ! 毒でも盛る気か!」

「毒なんて入れませんよ。キャルル村長も一緒に同じものを食べますから。お腹が空いたままでは、冷静な話し合いもできませんからね」

 大地の淀みのない言葉に、兵士たちのお腹が一斉に「グゥゥ〜」と情けない音を鳴らした。

 バルトスは苦々しい顔をしながらも、「……チッ、毒が入ってたら村ごと焼き払うからな!」と捨て台詞を吐き、部下たちを引き連れて村長邸の広間へと上がり込んだ。

 大地は厨房へ駆け込むと、猛烈なスピードで調理を開始した。

 今大地が仕掛けるのは、興奮した相手のトゲを抜き、交渉の主導権を握るための【心理・生理学的アプローチ交渉膳】だ!

(人間は、空腹と脱水状態で血糖値が下がると、脳内でアドレナリンとコルチゾールが分泌されて攻撃的になり、怒りのブレーキが利かなくなる。逆に、温かい水分と適度な糖分、そして自律神経を整えるビタミン・ミネラルが胃に入ると、副交感神経が優位になって血管が広がり、脳の前頭葉――冷静な判断力が蘇るんだ!)

 まず大地が用意したのは、キンと冷えた大きなガラスピッチャー。

 中に入っているのは、沸騰させて冷ましたポポロ村の清らかな湧き水に、レモンに似た柑橘の果汁とほんの少しの天然塩、そして蜂蜜を溶かした『特製アイソトニック冷水』だ。

 喉が渇ききった兵士たちの前にグラスを配ると、彼らは奪い合うように一気に飲み干した。

「ぷはぁっ……! な、なんだこれ、ただの水じゃねぇぞ!? 身体にスッと吸い込まれるように渇きが消える……!」

 急速な水分と塩分の補給により、兵士たちの顔から血走った殺気がスッと引いていく。

 そしてメインディッシュ。

 大鍋で沸かしたお湯で、薄切りのシープピッグ肉と、たっぷりの豆もやし、肉椎茸をサッと茹で上げる。余分な脂を湯の中に落とし、しっとりと柔らかく火を通す。

 皿に盛り付けたら、その上に村特産の「月見大根」の鬼おろしをこんもりと乗せ、刻んだ大葉(青紫蘇)とネギを散らす。

 そこへ回しかけるのは、柑橘の絞り汁、醤油草のタレ、昆布出汁、そして米酢を合わせた『大地の自家製ポン酢ダレ』だ!

 さらに、昨夜の残りの出汁で仕込んだ具だくさんの熱々粕汁と、ふっくら炊き上げたサンライスの梅紫蘇おにぎりを添えた。

「お待たせしました! 大地の特製、『茹で豚とシャキシャキ野菜のさっぱりおろしポン酢定食』です!」

 広間のテーブルに並べられた料理から、湯気と共に柑橘の爽やかな香りと、食欲をそそる出汁の匂いが立ち上った。

 バルトスは唾を飲み込み、箸を握ると、山盛りの茹で豚と大根おろしを一気に口へ放り込んだ。

「……モグ…………っ!? う、うめぇぇぇぇ……っ!!」

 バルトスの強面が一瞬にして崩壊した。

「なんだこの豚肉、信じられねぇほど柔らかい! 余分な油が抜けてるのにパサつきが全くねぇ! それにこのタレ……柑橘の酸味と大根おろしの瑞々しさが合わさって、疲れた喉と胃袋に染み渡るようにサラサラ入ってくる……! スープも酒粕のコクと根菜の甘みで身体の芯が温まるじゃねぇか……!」

「うまいっす、隊長! こんな美味い飯、砦のクソ不味い乾パン以来食ったことねぇっす!」

 兵士たちも夢中になって箸を動かし、梅紫蘇おにぎりを頬張っている。

 荒々しかった彼らの呼吸はすっかり穏やかになり、広間には和やかな空気が満ち始めていた。

 大地はバルトスの向かいに腰を下ろすと、穏やかな声で語りかけた。

 ここからが、ビジネスや人間関係で最大の効果を発揮する交渉術――【イエス・バット法(肯定してから提案する話法)】の実践だ!

「バルトスさん。国境の警備、本当に毎日お疲れ様です。街道の治安を守るために、こんな遠くまで足を運んでくださって、本当に大変なお仕事ですよね」

「……あ、あぁ。まあな。上からの命令は理不尽だし、予算は削られるし、オレたちだって現場で泥水をすすってんだよ」

 バルトスがため息混じりに愚痴をこぼす。

 大地は相手の主張や苦労を一切否定せず、「そうですよね」「その通りですね」と深く頷いて受け止めた(イエス)。

 人は自分の苦労を認められ、肯定されると、相手に対する敵意と警戒心を急速に失うのだ。

 十分にバルトスの胸の内を吐き出させたところで、大地は優しく切り出した。

「おっしゃる通り(イエス)、国境を守るための税金は、国にとってもこの村にとっても絶対に欠かせない大切なものです。……ですが(バット)、もし法外な金額を強引に取り立てて村が飢餓で滅びてしまえば、来年以降、砦の皆様に納められる税金や食糧は永久にゼロになってしまいますよね?」

「う……そ、それは……」

 バルトスが言葉に詰まる。

 その絶妙なタイミングで、広間の襖がスッと開いた。

「失礼いたします。帝国法務省認可・村宰相のリバロンでございます」

 リバロンが燕尾服の裾を正し、完璧な所作で一枚の公文書をテーブルに広げた。

「直近の帝国・王国国境緩衝地帯協定第十四条第二項によりますと、前村長の横領による未納分は帝都監査院が直接管轄し、現村長への連帯請求は禁じられております。また『軍靴損耗補填税』の徴収は、査問委員会への告発対象となる重大な規律違反でございます」

「ひっ……な、なんで中央の協定条文をこんな田舎の執事が暗記してやがる……!?」

 青ざめるバルトスの前に、今度はニャングルが算盤をパチンと鳴らして帳簿を滑り込ませた。

「ゴルドスマイル銀行ポポロ村支店長のニャングルや。過去十年の納税記録、ぜーんぶ完璧に保管してあるで。ポポロ村が今月、正規の法令に基づいて納めるべき正規の税額は――【金貨五枚】ポッキリや。これ以上一銭でも多く要求するなら、ウチの商会の法務部から貴様らの上官の砦司令官へ直接親書を飛ばすが、ええんか?」

「ぐ……ぐぬぬぬぬ……!!」

 完璧な法的根拠と会計記録を突きつけられ、バルトスは反論の余地を完全に失った。

 だが、ここで大地は相手を追い詰めて恥をかかせるような真似はしなかった。

 大地は満面の笑みで、竹籠いっぱいに詰められた荷物をバルトスの前に差し出したのだ。

「バルトスさん。正規の金貨五枚は、今すぐ村長からお納めします。そしてこれは、日々国境を守ってくださっている部隊の皆様へ、ポポロ村からのささやかな感謝の印です。日持ちする『肉椎茸とおからの特製保存佃煮』と、帰り道で食べられる『梅紫蘇おにぎり弁当』を全員分ご用意しました。どうか、道中のお供に持って行ってください」

「……な、何から何まで……」

 バルトスは震える手で竹籠を受け取った。

 理不尽な要求は退けられたが、面子を潰されることもなく、美味い飯で腹を満たされ、心のこもった土産まで持たされたのだ。彼の中にあった怒りや後ろ暗さは、すっかり消え去っていた。

「……悪かったな、兄ちゃん。オレたちも、上の無茶なノルマに焦って周りが見えなくなってたんだ。正規の金貨五枚、確かに受領した。……壊したフェンスの修理代、オレのポケットマネーから置いていくぜ」

 バルトスはテーブルに銀貨数枚をコトリと置くと、部下たちと共に深々と頭を下げ、晴れやかな顔で村を去っていった。

 その時、机の上で起動していたキュララの魔導端末が、ピコピコと狂ったような通知音を鳴らし始めた!

『うおおおお! 「柔よく剛を制す」ってこういうことか! 神対応すぎる!』

『クレーマー相手にまず肯定して話を聞く「イエス・バット法」、営業研修の教科書にしてくれ!』

『相手の面子を潰さずにお弁当持たせて円満解決するの、人間関係の極意じゃん……!』

『豚しゃぶおろしポン酢定食、今夜の晩飯に決定! 疲れた胃に絶対いいわ!』

『エプロン少年、国家間の外務大臣に就任しろぉぉぉ!!』

 天界のこたつ部屋では、小豆色ジャージの女神ルチアナが、マグカップを握りしめながら感涙していた。

「ちょっとぉぉぉ! 私の同人誌の原稿落とした時の編集長への言い訳、まさにこの『イエス・バット法』を使えば怒られずに済んだじゃないのよぉぉぉ! 『おっしゃる通り締切は大事です!ですが……!』ってね! あーもう、その豚しゃぶおろしポン酢、私のこたつにもウーバーしなさぁぁぁい!!」

 静けさを取り戻した村長邸の庭で、ルナが感嘆の溜息を漏らし、大地を見つめていた。

「大地様……力や毒で排除するのではなく、お食事と対話で相手の心をほどく……。これが、真の『柔よく剛を制す』ですのね。わたくし、大変勉強になりましたわ♡」

「ふふ、分かってもらえて良かったです。さあ皆さん、僕たちのお昼ご飯も温め直して食べましょう!」

 爽やかな秋風の中、ポポロ村の食卓には、また一つ、温かい知恵の勝利が刻まれていた。

【今日の大地のエプロン手帖】

今日のことわざ・格言

『柔よく剛を制す(力任せにぶつかってくる相手に対し、力で対抗せずしなやかに受け止めることで、強大な力を無理なく抑え込むことができる)』

今日からできる生活の知恵

①【怒っている相手を鎮める「イエス・バット法」】:クレームや人間関係の衝突では、いきなり反論せず「おっしゃる通りですね(イエス)」と相手の言い分や苦労を一度受け止めてから、「ですが(バット)」とこちらの事実や代案を伝えると、相手を怒らせずにスムーズに納得してもらえます。

②【怒りとイライラを鎮める「空腹ケア」】:人は空腹と脱水で血糖値が下がると攻撃的になります。話し合いの前に「温かい飲み物や軽食」を挟むだけで、副交感神経が働き、驚くほど冷静な話し合いができます。

③【疲労回復の黄金コンビ「豚肉×クエン酸(ポン酢・柑橘)」】:豚肉に含まれるビタミンB1は糖質をエネルギーに変え、ポン酢のクエン酸は乳酸を分解して疲労回復を劇的に早めます。おろし大根を添えれば消化吸収も完璧です。

読んでいただきありがとうございます。

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