春隣 ⑩(完)
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
春の足音がすぐそこまで届いているような、ぽかぽかと暖かい陽気の日。
芝田、桐通、瓜生、そして浩一の4人は、姫路城下の三の丸広場へと出かけていた。
視界いっぱいに広がる青々とした芝生と、春の澄み渡る青空。その中に堂々と佇む真っ白な天守閣を真正面に仰ぎながら、瓜生が大きく深呼吸をして声を漏らした。
「あ〜……めちゃくちゃ気持ちええなぁ〜!」
「それにしても、男4人でお城っていうのも味気ないなぁ。芝田、今日は何か企みはないんか?」
浩一がニヤニヤしながら振ると、芝田がすかさず言い返してきた。
「川野、お前! この前は俺の企みにまんまと引っかかって悔しがってたやんけ!」
「そりゃそうやけど……もう1回くらい、引っかかったフリしてあげてもええかなと思って」
「フリって……フリも何も、お前あのとき完全に本気で悔しがってたやんけ!」
「うるさいわ!」
顔を見合わせてガハハと笑い合う。いつものように賑やかで、笑顔の絶えない4人だった。
しばらく芝生の上に転がり、姫路城を見上げていた瓜生がふと言った。
「ところで、みんな姫路城の天守閣って登ったことあるん?」
「あるで。小学生のときの遠足で」
「あ、俺も俺も!」
浩一の答えに、芝田と桐通も相槌を打つ。
「なんや、やっぱり遠足の定番なんか。神戸の小学校からもわざわざ来たん?」
「電車一本ですぐやんか」
「あ、そっか。そう言われたらそうやな」
「天守閣の階段、めちゃめちゃ急勾配やったの覚えてるわ」
「そうそう! 木の階段が細くて登るのも怖かったけど、降りるときの方が滑りそうでめちゃくちゃ怖かったよな」
昔の思い出話で盛り上がっていると、桐通がぽつりと呟いた。
「城主は……この天守閣の上で、一体何を考えてたんやろな」
「そんなん、本人にしか分からへんって!」
芝田がつっこむと、桐通は青空を見上げたまま微笑んだ。
「……そやなぁ。でも、何か高いところを目指すっていうのは、ええことやな」
そこから「お前は何を目指すねん」「俺は〇〇や!」「絶対無理やろ!」と、それぞれが自分の目指すものについてワイワイと語り合い始めた。
結局、話は脱線に脱線を重ねて最後は何の話をしていたのか誰も分からなくなってしまったけれど——。
(こういう時間を、ずっと大切にしたいな……)
遠くに見える天守閣を見つめながら、浩一は胸の奥で静かにそう思ったのだった。
ご覧いただきありがとうございました!
春の青空に映える姫路城と、広大な三の丸広場。
一人で抱え込みがちだった浩一が、仲間たちの前で心から笑い、他愛もない会話に心を解きほぐしていく姿がとても印象的でした。
城主の気持ちに思いを馳せ、他愛もない夢を語り合う時間。「何の話か分からなくなった」と笑うこの空間こそが、これから新しい世界へ飛び込んでいく浩一の大きな心の栄養になっていくのだと感じます。
別れまでのカウントダウンが進む中、彼らはどんな春休みの思い出を重ねていくのか。
次回の展開もどうぞお楽しみに!




