宴の後で…
「さあウーリ。こちらへ」
うっ!
いつもの部屋のいつものベッド。
なのになんだか違って見えるのは…
なんとなく部屋中からいい香りが漂い、ベッドの上に花びらが散らしてあるからだろう。
「な、なにこれ…」
「ああ。新しく宮廷にあがったメイドたちが飾り付けた。初夜とはそういうものだ」
「…」
絶句!
癒しの神子の世話とは聖職者が行う。
この場合僕は男だから、本来なら修道士の役目だね。
けど今も昔もそのお役目はエミルのもの。
とはいえ…
流石に初夜前のお清めだけは「て、…手伝おうか?」って言われたけど謹んで辞退した。
ほんといいからそういう気遣い!
クン…「ウーリ、いい匂いがする」
「湯船にハーブのオイルが入ってた…」
ウル様ったら、いつの間にかこれだけ入れてったらしい…
「さあ。恥ずかしがるのはここまでだ。おいでウーリ」
「う…」
いつになく雄くさいオズヴァルト。それに気がつくだけですでにいたたまれない。
「ど、どうすればいいかなんてわかんないんだからね!」
「任せておけ」
「い、痛くしたら承知しないんだから!」
「心得た」
少しも動じない夜の王様になす術もない。
僕も覚悟を決めるときがきたようだ…
「ウーリ…」
「ん……」
慣れたはずの口づけ。だけどこれは違う。こんなの僕の知ってる口づけじゃない。
「ん…ん…は…」
長い長い口づけ。これほんとに初心者?信じられないよ!
「オ、オジー、ホントに初めてなの…?こ、こういうこと…」
「初めてに決まっているだろう。私は社交を閉ざされた王子だった。愛ある行為はこれが初めてだ」
ホッ「良かった…」
……って、待て!
愛ある行為は?じゃあ愛のない行為は!うっかり聞き流すとこだったじゃないか!
「あるに決まっているだろう。ブリッタ様は私に王子が受けるであろう教育は全て施して下さった。当然閨の教育も含まれている」
げっ!
なんでもオズヴァルトはブリッタ様選りすぐりの未亡人から実地で教育を受けていたとか。
「は、はあぁ?」
プイッ!
彼も僕と同じで初めてだと思ったのに…
ちゃっかり未亡人とあんなことやこんなことを…
オズヴァルトは僕のものなのに…
「怒ったのか?馬鹿だなウーリは…」
「だって…」
「あれは手順を教えられながら行う味気ないものだ。妬くに値しない。だがそのおかげでウーリを良くしてやれる。ブリッタ様と未亡人にはむしろ感謝しなければな」
そうか、良いんだ…
「だが…」
「なに?」
「気分の良いものだな。妬かれるというのは」
「ばか!」
けどそれ以上もうなにも言えなかった。
だってガウンを脱いだオズヴァルトってばいきなりのし掛かってきたんだから…
初めて会ったあの時、まだほんの少し少年の名残があった彼の体躯は、ここへ来てから一段と鍛えられすっかり男の身体だ。
かたや神子として上げ前据え膳の僕ときたら、あれから三年たつというのにそれほど変わらない。
「貧弱で恥ずかしい…」
「この華奢な身体のどこにあれ程の胆力が詰まっているのだろうね」
もう一度口づけを交わすと、彼はゆっくり僕の身体を確認していく。
初めての行為はいろんな感情がせめぎ合って自分でもわけがわからない。
僕から視線を外さない彼の瞳は怪しく揺れていて…
その目で見つめられると恥ずかしいだけじゃない、期待にも似た感情が沸き上がる。
「辛い目に合わせない」その宣言はどこへやら、躊躇したのは最初だけで、遠慮なく僕を翻弄する神殿都市の暴君。
オズヴァルトは荒い息の下、それでも一言、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「ウーリ。どうかこれが君の救いであるように…」
とその瞬間。
「こ、これは…」
肌を合わせる快感とは全く別の快感。甘い甘い、蕩けるように甘い感覚。なのに胸が締め付けられる。これはいったい…
ふと見ればオズヴァルトと僕は淡い靄のような光に包まれていた。
「こ、これ…戴冠式でオジーを包んでた光…」
この感覚はオズヴァルトも共有しているらしい。彼は切なそうに眉を寄せると僕を力の限り抱きしめる。
「甘く温かい、そして苦く切ない、何とも表現出来ないマーブル色の何か。これは…君から受けた〝癒し”の感覚に近い、だがあれよりももっと…」
言われて見れば。
再生の力が身体から抜ける時、一瞬感じるあの気持ち良さとは、この感覚に近いものだ。
「この光が戴冠式で私を包んでいた…、ではこれこそが神の答え。神はウーリを救うよう私に力をお貸しくださったのだろう」
「…じ、じゃあ本当にオジーの生命力が僕に吸収されたんだ…」
「感じるか?」
「うん。間違いない」
「ああウーリ!」
今日一番の強い抱擁。全ての憂いが晴れる記念すべき夜。
僕たちは神子への救済をようやく見つけたのだ。
……とんでもない形でだけど。




