真夜中の攻防
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
エマニエルとアルトゥールによるウルリッヒの扱いは日々ぞんざいになっていく。
わかってたけどね。
奴らは僕を病気にしようと必死だ。
例えば神子には毎日の禊が義務付けられているのだが…
神殿内部には小さな泉があり、神子は毎朝そこで身を清める。
が!…どうも最近水が冷たい気がする。はっ!これは…
…溶け残った氷…そういうことかエマニエルめ…
「エマニエルー!」
「なんでしょうウルリッヒ様」
「ちょっと腕引き上げてくれる?」
「いいですけど…ち、ちょっと!ああっ!」
バッシャーン
「つ、冷たい!」
「気持ちいいでしょー?一緒に泳ごうよ!」
「や、やめ」
「ほらほら!」グイィ!
「は、離して」
「もっと遊ぼうよ!」
…エマニエルの唇が真っ青になるまで水遊びに興じたのだが…彼は熱を出してその後二日間寝込んだとか。
バカめ、僕は慣れてんだよ!
それに食事。僕の食事は基本、王宮のシェフにも引けを取らない、厨房担当の修道士が最高級の材料で用意するのだが…
「ウルリッヒ様。どうぞ召し上がれ」
クンクン…具材の見えない煮込み料理…怪しさ満点…
「…うーん、今日この気分じゃない」
「きちんと召し上がらないと大きくなれませんよ」
「シェフー!」
「なんでしょうウルリッヒ様」
「今日は目の前で焼いて欲しい。派手にフランベとかして」
「畏まりました」
「…どうなさるんです。この料理の数々は…」
「エマニエルにあげる。さあ食べて」
「え?」
「ほら食べて。目の前で」
「あ、いえ、そんな恐れ多い…」
「いいからほら!食べさせてあげる、口開けて!」ズボ!
「!」
一口くちに含んで涙目で中座するエマニエル。バカめ、僕は鼻がきくんだよ!
とまあ、こんな感じで開けても暮れても攻防は続く。
やりたい放題で楽し、…大変申し訳ないが、奴らには僕を二度と顔もみたくないほど嫌ってもらい、ここから追い出して病の巣窟、西の神殿へ放り込んでやる!そう思わせないといけないからね。
そんなある日のことだ。夜になり、いつになく厳重に鍵をかけてまわる修道士。
バタバタガチャン…
「どうしたの今日?」
「ウルリッヒ様にお聞かせするようなことではございません…」
「気になるじゃん」
「その…墓所内に不審者が入り込んだと小耳にしまして…」
ドキ!
エマニエルの入れ知恵はないと思ってたのに…運命は踏襲されてしまったのか!
「男は森に逃げ込んだと聞いております。ウルリッヒ様も今夜はご警戒を」
《《森に逃げ込んだ》》!つまり…運命は変わった?
こうしちゃいられない!
「きゃぁぁぁ!」
「うるさいなあエマニエル。何の騒ぎ?」
「ぼ、僕のベッドにカエルが!それもこんなに!」
ゲコゲコゲコゲコ
「ああそれ?僕からのプレゼント。それだけ捕まえるの大変だったんだから」
全部で三十匹。いやー、苦労したよ。
「全部捨ててください!どこかにやって!」
「せっかくのプレゼントなのにぃ…」
「ううぅ…今夜は本宮に泊めていただきます!いいですか!それらを全部始末するまでここには来ませんからね!」
ふーん…暗に「自分は本宮に寝泊まり出来るほど王家と近しいんですよ」って言いたいわけね。
「こんなふざけた真似をして…もう許しません!」
バン!
「おーこわ」
この私室部分は神殿の奥、北側になる。寝室の窓から小動物の居る裏庭はすぐだ。
そして犬猫を嫌がった神官や修道士たちはロバ舎を挟んだ東側にある居住棟で寝泊まりするから…
エマニエルさえ居なくなれば、今夜僕は自由!
前世のあの日、ウルリッヒ様の幸せを願って神に祈りを捧げた人気のない小さな滝。
墓所から逃げてくるなら間違いなくこの辺りに出るはず。
事を秘密裏に処理したい王妃の私兵は、間違っても神殿に「怪しい者を見かけなかったか?」とは訪ねて来ないはずだ。
だってこれは、不審者がオズヴァルトとは気付かなかった、という前提のもとに成り立つ強引な蛮行なのだから。
王妹不在の間におこった不幸な事故。
「城内で起こった不始末はわたくしが処理しましょう。よろしいわねあなた」
多分そんな感じで王を説き伏せ、全ては王妃の差配のもと迅速に処理されるのだ。
そして王妹が戻ってくる頃には、オズヴァルトの亡骸はすでに埋葬され、王の子に手をかけた兵はすでに処分(建前)した後ってなわけだ。
まだか…まだか…
何やってるオズヴァルト!僕は味方だ!来い!
ガサ
「!」
目の前に現れたのは王宮で見たことのある衛兵。王妃の私兵だ!
「王妃の兵がこんな所に何の用!ここが神殿の森だって知らないの!」
「ウ、ウルリッヒ様!こんな時間に何をしておられるのか…」
「神殿の敷地内で僕がいつ何をしようが関係ないでしょうが!」
ゲコゲコゲコゲコ
「か、蛙…」
「なんか文句ある?」
手には袋に入った大量のカエル。いやね、見つかった時の言い訳にね。でも転ばぬ先の杖はうまく機能したようだ。
その背後からはさらにもう一人の兵。この焦った様子を見るにどうやらオズヴァルトはこの近くまで来ているのだろう。
ここで大事なのはオズヴァルトを助けることであって、私兵を怒鳴りつける事ではない。騒ぎを知られるのは僕にとっても得策じゃない。
「とにかくさっさと出てって。清らかな神殿の敷地にあなたたちは血なまぐさい」
はっ!…そうだ!彼らはひどく血なまぐさい!ってことは…オズヴァルトは手負いか!
「只今すぐに。ですがウルリッヒ様、不審な人物がこの辺りに入り込んだようでございます」
「危険ですのでどうか神殿内にお戻りください」
「いいでしょう。ですが言っときます。この森には僕が放した小動物がいっぱいいます。もし彼らに傷一つででも付けたら…何があろうとただじゃおきませんよ」
「こ、心得ました。けっして動物は傷つけないと誓いましょう」
彼らの姿を見送ると、僕は例の黒いシーツをマント代わりに道なき場所から森へと侵入する。
オズヴァルト…彼はこの辺りのどこかに隠れているはず。あと少しで神殿というところで奴らに阻まれ身動きできないまま。
ガサガサガサ
「奴か!」
「違う!この軽い音は小動物だ!いいか!動物に傷一つ付けるなよ!今代の神子はとかく気難しい!」
そうそう。ピュアな動物の命は汚い人間より尊いからね!と、その時!
キラリ
月の光を浴びて一瞬輝いた光。僕は見逃さない!
そして鍛え上げられた兵たちもやっぱりそれを見逃さない!
「そこか!」
声をあげた正面の兵に向かって剣を構えるオズヴァルト。何度も剣を受けたのだろう。その身体は真っ赤に染まってふらりふらりと揺れている。
ヤバイ、後ろにも居る!だめだ間に合わない!
行けカエル軍団!
ゲコゲコゲコゲコ
「うわっ!なんだ!」ドサッ
カエルを踏みつけ体勢を崩す背後の衛兵。カエルさんゴメン…骨は拾ってやる…
「うわっ!こっちくんな!」
「ゲッ!気持ち悪い!」
「いいからさっさととどめをさせ!」
ジリ…「悪く思うなよ…」
ジャリ…「次は平凡な庶民にでも生まれるんだな」
徐々に距離をつめ剣を振りかぶる兵、その切っ先は赤黒い血で鈍く光っている…
毎日更新を目指しています。
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